先輩を自宅に匿っていた数日はずっと背中合わせで寝ていたが、翌朝は先輩の腕の中で目を覚ました。
先輩は既に起きていて、どうやらこちらが目覚めるのを待っていてくれたらしい。
「おはよう」
「おはよう、ございます?」
「なんで疑問形だよ」
おかしそうに笑う先輩は随分と機嫌が良さそうだ。まだ寝ぼけてふわふわとしながらも、ホッとして、それから良かったと思う。けれどそう思う反面、覚醒しきっていない頭では、何が良かったのかがわからない。
なんでそう思うのだろうと、寝る前のことに思いを馳せた。そうして思い出してしまった色々に、顔が熱くなるのを自覚する。
ひどい顔をしながら、向こうとの接点が無くなったと落ち込む先輩を、向こうの自分の代わりにしていいとまで言って誘ったのは自分だ。キスをして、服を脱がされ肌を撫でられ、お尻の穴を弄られながら足の間を突かれて、いやらしい声をあげながら先輩の手の中に何度も精を吐き出した。
先輩がイッて終わった後の記憶はイマイチはっきりしないが、疲れきってぐったりと横たわる自分の体を、先輩に温かなタオルで丁寧に拭かれたことは覚えている。
恥ずかしさにそっと目を伏せたら、やはり先輩が笑う気配がした。けれどそれは柔らかで優しい気配だった。
「体、大丈夫か?」
「あ、はい」
「久々で辛かったろ? というか、やっぱ下手だったよな」
「えっ? いや、めちゃくちゃ気持ち良かったですけど」
あれなんかオカシイという既知の違和感がありながらも、開いた口からは思考より先に言葉が滑り落ちる。
「だいたい先輩より先に、俺ばっか3回もイッたじゃないすか」
「は? ってまさか……」
どうやら先輩も違和感に気付いたらしい。慌てたように体を起こすと、ベッド脇の充電スタンドに置かれた携帯に手を伸ばす。
「戻って、る……」
暫く2台の携帯を弄っていた先輩は、やがて呟くようにそう告げた。それからこちらに向けた背中が小さく震えだす。
やっぱりと思いながらも、それを素直に喜ぶことは出来なかった。胸の奥のどこかがシクシクと痛い。
まさか寝ている間に入れ替わってしまうなんて思ってもみなかった。なんでこのタイミングで戻ってしまうのだと、恨む気持ちをどこへ向けていいのかわからない。
「おかえり、なさい」
それでもどうにか、震える背中に向かって告げる。
「ああ」
「戻ってこれて、良かった」
それは自分自身を納得させるための言葉だった。
こちらの世界に馴染むための、先輩の苦労も苦悩も、一番近い場所で見てきた。元の世界へ帰れたのなら、それはきっと喜ぶべきことなのだ。
いつ自分の手の一切届かない場所へ帰ってしまうかもわからないような相手を、好きになった自分が悪い。この落胆は、それを忘れて、このままここに居続けるのだと、自分に都合よく解釈してしまった結果だろう。
「バカだな」
「え?」
携帯を戻して振り向いた先輩は、少し赤い目をしていたけれど、既に泣いては居なかった。
「この状態で目覚めてお互い最初は気付かなかったってことは、お前も向こうの俺と寝たってことだろ」
「まぁ、そうですけど」
「本心は、戻ってくるなよってとこじゃないのか?」
自虐的な笑みに、なんだかカッと怒りが湧いた。
「先輩こそ、向こうのビッチな俺とヤッて、戻ってきたくなくなってたんじゃないですか?」
「いや。戻ってこれて良かったと思ってる」
自分でもわかるほど剣のある言葉を投げつけてしまったのに、それを受けても先輩は、むしろ穏やかな声を返してくる。
「向こうのお前には、向こうの俺が必要だ。俺じゃ所詮、よく似た代わりにしかなれねぇよ」
「そんなの……」
良く似た代わりにしかなれないなんて、そんなのは自分だって同じだ。弱っている所に付け込んで、それでもいいと誘ったくせに、今こうして辛いのは、自分の覚悟が甘かっただけだ。
泣きそうになる気持ちをグッと堪えたら、伸びてきた手がわしゃわしゃと頭を撫で回した。
「悪い。お前も同じだな」
苦笑いの申し訳無さそうな顔に、確信してしまう。
きっと自分は、この人のことも好きになる。
お題提供:pic.twitter.com/W8Xk4zsnzH
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