Wバツゲーム15

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 まったく想定外の情報が色々と流れ込んで来たせいで、酷く戸惑っている。律儀で、真面目で、色々気遣ってくれるこの後輩への好意は当然育っているが、でもそれはもちろん恋愛的な好きではない。相手の好意だって感じてはいたし、だからこそ甘えるような真似ができていたというのもあるが、まさか相手にそういった感情が育っているなんて、考えたこともなかった。
 戸惑って何も言えずに突っ立ったままでいれば、あっさりシャツを脱がされ、肌の上を手の平が這い回る。気持ちが悪いどころか、どこか慰撫するような優しい触れ方に、安堵や安らぎを覚えてしまうから、その手を振り払えはしなかった。
 罰ゲームじゃなく付き合ったらきっと傷つけてしまうのに、諦められると言っている今のうちにキツく突き放せないのは、結局自分優先なクズだからなんだろう。だって罰ゲームを終えた後、次に誰かが告白してくれるまでの空白期間を寂しく過ごさなくて済む。
 好きだと言われてしまった以上、罰ゲーム中とまったく同じようには行かないだろうけれど、それでも人の本質はそうそう変わるものではない。もう付き合いきれないと思われるまでは、この後輩との楽しく穏やかな時間も、充実しまくった週末の食事も堪能できるのだと思うと、どうしたって嬉しい気持ちが勝ってしまう。
 今のうちに諦めたらとはちゃんと勧めた。本気の恋人には向かないと忠告だってした。その前には、自分と付き合うことのデメリットを説明してさえいる。それでも相手から踏み込んでくるものを、言ってわからないならとキッパリ拒絶できるような優しさなんて自分にはない。
 バカだなぁと思う。色々噂を聞かされたはずだし、それを肯定するような事もあれこれ言ったはずなのに。寂しさを埋めてくれる相手なら誰でもいいと思っているような男に、好きになったから付き合いたいと言ってしまうなんて。
 アチコチ撫で擦った後、胸を両手で包まれる。決して立派とは言えない胸筋を手の平でやわやわと揉まれながら、乳首の上に乗った人差し指がそっと乳首を押しつぶした。
 ああ、これ、さっきのを真似ているのか。
 自分が彼にやった事を、ほぼ同じように辿られている事に気づいて、その意図はともかく随分と可愛らしいことをすると思った。
「ぁあっっ」
 手順がわかっているのだから、次は乳首を舐められるのだということもわかっていた。わかっていたのに、しゃぶりつかれた瞬間、思いの外大きな声を上げてしまってビックリする。相手も驚いたのか、せっかく付けた口を離して、真っ直ぐにこちらを見つめてくるからさすがに照れくさい。
「先輩は胸、感じるんすね」
 感じすぎるなら今は舐めるの止めましょうかと言われて、慌てながらもそのまま続けてと口にしてしまい、何を言っているんだと更に羞恥がつのった。顔が熱い。
 赤面するこちらへの戸惑いはあるようだったが、そこへの突っ込みはなく、相手は軽く頷いた後、素直に頭を再度胸の先に寄せていく。近づく気配だけでも、ぞわぞわとしたものが背筋を駆け上った。ちゅ、と乳首の先に触れた唇が開かれていき、ぢゅっ、と彼の開かれた口の中に吸い込まれていくのを見ながら、これはヤバイと思いつつ小さく呻く。
「んぅっ……」
 それは物理的な気持ちよさというよりも、視覚的な快感だった。ほぼ真っ平らとも言える男の胸の先に必死で吸い付く彼が、なんだか酷くイヤラシイと思ってしまったのだ。
 イヤラシクて、可愛くて、興奮する。
 たまらなくなって、そっと相手の股間に手を伸ばした。胸を舐められても感じている様子はなかったし、男のまっ平らな胸を吸って弄っても興奮はしていないかもと思ったが、布越しでも相手の昂りははっきりとわかる。良かった、萎えてない。
 脱がすよと言った時に下も一緒に脱がしてしまえば良かったと思いながら、ベルトへ手をかけたところで、胸を舐め弄っていた相手の頭が胸元から離れていった。
「先輩?」
「下、脱いで。お前の、触らせて」
「先輩は? 俺だって触りたいっす。俺も触って、いいんすか?」
「ん、いいよ。じゃあ、俺も脱ぐから」
 相手のベルトに掛けていた手を離して、さっさと自分の着ていたズボンと下着を脱ぎ捨てる。夕飯後に帰宅予定の相手と違って、どうせもう家を出ることはないとラフな格好をしていたので、あっさり素っ裸だった。

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Wバツゲーム14

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 口を離して顔を上げれば、相手はやはり困惑の色合いの強い顔でこちらを見つめていた。
「気持ち悪くなかった?」
「変な感じはあるっすけど、まぁ、取り敢えず耐えられなくはないっすね。それに先輩、楽しいみたいなんで」
「何それ健気」
 思わず苦笑してしまったら、試されてる側なのでと返されて一瞬首を傾げてしまう。
「ね、それ、俺がお前を試してるみたいな言い方だけど、逆じゃない?」
 言えば相手も不思議そうに少しばかり首を傾げた。
「だってどこまで出来るか試そうって言い出したのも、告白してきたら付き合うって言ったのにまずは試させろって言ったのも、お前だよ?」
「付き合ってもすぐ振られるんじゃ、意味ないんで。俺だって、本気になってから振られたら、やっぱ人並みに傷つくんすよ」
「ん? ちょっと待って。本気になるってどういうこと?」
「これ試して先輩が満足できそうなら、告白するって言ったっすよね」
「うん。聞いたけど」
 でもそれが本気になるとか振られたら傷つくとかって話と、どう繋がるのかわからない。どういうことだと頭の中に疑問符を飛ばしてしまう中、相手も同じようにわけがわからないと言いたげな顔をしている。
「罰ゲームじゃなく本当に恋人になるって事は、本気で好きになっていいって事じゃないんすか?」
「は?」
 呆気にとられながらも、思いの外大きな声を漏らしてしまった。
「え、お前、俺を好きになる気でいるの?」
「好きでもない相手に告白して付き合って下さいとか、罰ゲームじゃなく言うと思ってんすか?」
 既に結構好きになってんすけどと拗ねた口調で言われてますます唖然とする。
「え、だって、お前、俺とバスケするの楽しくてこれ続けたいんじゃないの?」
「それが目当てで続けたいとは言ってないすよ」
「そ、だっけ?」
 先程の会話を必死で思い出す。確かに、彼女を作るより一緒にバスケするほうが楽しいと言われただけで、バスケをしたいから続けたいと言われたわけではなかった。
「あー、うん、そうだね。続けたいのは俺にたぶらかされたから、だっけ。てかそれ、俺を好きになったって意味か」
「じゃあどういう意味と思ってたんすか」
「甘ったれで万年スキンシップ不足の、一人で食事ができない可愛そうな男を見捨てられない、的な意味かと。だってお前、なんだかんだ俺の罰ゲームに付き合って毎週泊まりで飯作りにくるようなお人好しだし。真面目だし、優しいし、年下のくせに俺を甘やかすし、実際なんか心配されてたし」
 言い募れば、確かにそれもあるっすねと肯定されてしまった。やっぱりね。
「けど好きになってなきゃ、心配もしなけりゃ、続けたいとまで言わないっすよ。先輩が言うほど、そこまでお人好しでも優しくもないんで」
「そっか……あのさ、まだ本気で好きになってないなら、やっぱ引き返さない?」
 キスして胸弄り回しちゃったけど、でもまだギリギリセーフじゃないかと思う。性器触ってないし、触らせてもないし。はっきり気持ち良くなってないし。いやでも、先輩のキスすっげキモチィとか言わせるほど、頑張って感じさせちゃったか。
「それ、どうせ続かないから、結局振られて傷つくのはお前だって、言ってるんすよね?」
「う、うん、ゴメン。もっと軽い感じで考えてた、かも。罰ゲームの恋人って、俺を好きじゃない相手は楽でいいなとか、思ってたりもしたし。ホント、自分で言うのも何だけど、本気の恋人向けじゃないからさ」
「別に、俺が重くなって振るなら、いいすよ」
「どこがだよ。良くないでしょ。本気になってから振られたら傷ついちゃうって、お前が言ったんだろ」
「正直言えば、俺の好きが重いとか言って振られる気は全くしてないっす。どう考えたって、俺より先輩のが甘えたがりの構って欲しがりっすもん。ただ、俺も先輩も男としたことないじゃないすか。男同士で先輩のエロ方面がどこまで満足できるのかわかんないのと、俺がどこまで出来るかわかんないから、それが合わなくて先輩が不満ためて上手くいかない可能性は高いだろうなって思うんすよね」
 だから先に試してみて、ダメそうならさすがに諦めます。との事らしい。
「諦められるなら、今のうちに諦めたほうが良くない?」
「試さずに諦めるのは嫌だ、と思う程度には、もう好きなんで。それに、俺に突っ込む気がないのも聞いたし、触られても舐められても、今のところ気持ち悪いと思ってないっすもん」
 引き寄せられて柔らかに背を抱かれながら、先輩が続けないなら次は俺がしますという言葉が、とろりと耳の中に流し込まれた。

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Wバツゲーム13

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 背を抱いていた手がスルッと背を滑り落ち、グイと腰を引き寄せる。それに慌ててしまって、ひっそりと落ち込んでなどいられなかった。
「ぁっ……」
 自分の上げた小さな声と、相手が安堵で吐き出す息が重なる。
「先輩も、勃ってる」
 身長のあまり変わらない二人が股間を押し付けあっていれば、互いの状態なんてわかりすぎるほどに伝わるのだから、噛みしめるようにしみじみと言わないで欲しい。というかそもそも、そんな確かめ方をしないで欲しい。
 相手の興奮も自分の興奮もまざまざと突きつけられて、それに煽られ益々興奮していくようだった。
「ベッド、行く?」
「はい」
 誘えば躊躇いなく頷かれて背に回っていた腕が外されたが、せっかく作ってくれた夕飯が冷めてしまう事も少しばかり気に掛かる。
「温め直せば平気っすよ。俺が、やりますから」
 運んで欲しいと言われていた皿に、チラリと視線を送ってしまったことに気付いたらしい。
「んっ。じゃあ部屋、行こっか」
「はい」
 再度頷く相手の僅かな声からも、期待と興奮とがはっきりと漏れ出ていた。
 風呂とトイレは別で、後は小さなキッチンと一応のリビングと部屋一つという構造なので、ベッドまでの距離なんて大した事はないのだけれど、そんな素直さが可愛いような愛しいような気持ちで、相手の手をしっかりと握って導くように歩きだす。単に離れがたく、相手に触れ続けていたいだけでもあった。
 ベッド脇に辿り着き、くるりと体の向きを変えて向かい合う。
「脱がして、いい?」
「はい」
 やっぱり短い肯定が返って小さく笑った。
「さっきから、はい、しか言わなくなってる」
 服に手をかけさっさと脱がしに掛かりながら、緊張してるのかと聞いてみる。
「多少は?」
 なんで語尾上げてるんだろうと思いながらも、剥き出しになった相手の肌とその下の筋肉に釘付けで、そんな疑問はすぐにどこかへ消え去った。
 この一ヶ月弱、週末はずっと泊まりだった上に、バスケをして帰った後は順番に汗を流したりも当たり前にしていたけれど、風呂上がりに半裸でうろつくようなだらしない真似をしていたのは自分だけだったので、抱っこされた時に薄い布越しに感じることはあっても、彼の胸筋や腹筋を直接見るのは初めてだ。
 バスケを始めて数ヶ月ではあっても、中学時代も運動部だったという彼の体は程よく引き締まっている。
「触るよ」
「どうぞ」
 疑問符をつけないそれはただの宣言でしかない。それでも一応相手の了承が降りるのを待って、それからその肌の上に手の平を押し当てた。
 男の体を性的な興味を持って撫で回すのも当然初めてだ。この興奮はだからこそなのだろうという自覚は頭の隅にあるものの、興奮した自分が相手の目にどう映っているかまでは思考が回らなかった。目の前の体にうっかり夢中になって、そんな自分を観察されている事に気づかなかった。
 手の平で一通り女の子にはなかった筋肉を楽しんでから、膨らみも柔らかさもない胸を両手で包むようにして揉みながら、小さすぎる乳首を指先で捏ねる。
「ぅっ……」
 初めて何かを耐えるような声が漏れて、慌てて手を外すと同時に俯いていた顔を上げた。相手は眉を寄せ、眉間にわずかなシワを刻んでいる。
 しまった。興奮に任せてやりすぎた。
「ごめん、気持ち悪かった?」
 慌てて謝れば、相手はゆるく首を振ってから大丈夫だと返してくる。
「本当に? 我慢してない?」
「してない、す」
「じゃあもう少し、続けていい?」
「はい」
「ちょっと舐めたりもするけど、気持ち悪くなったらすぐ言ってね」
 やはりはいと返ってくる声を聞きながら、相手の胸の先に頭を寄せた。
 片側をチロチロと舐めながら、もう片側は先程と同じように指の腹で擦ってやれば、声は漏れなかったが腹筋がヒクリと蠢くのを感じた。あまり強い刺激にはならないように注意しつつ、それでもしつこく続ければ、やがて小さいながらもプクリと膨らみその存在を主張してくる。
 でも刺激に対して反応しただけで、この行為を気持ちよく感じては居ないだろう事も、ちゃんとわかっている。女の子だって、胸だけ触って感じてくれる子は少なかった。

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Wバツゲーム12

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 もし恋人になったらしたいエロいことって何ですかと再度聞かれて、だから別にエロいことが出来ないから罰ゲームの延長を断ったわけじゃないんだけどなと思いながら、逆に何が出来るのと問い返す。ついでに、男相手なんて無理って思うことは何かとも付け加えておいた。
 相手が無理だと思っていたから手を出さなかっただけで、してみたい気持ちが自覚出来るレベルで興味があるのは事実だから、こんな据え膳じみた状態をみすみす逃すつもりはない。でも自分が傷つくのは嫌なヘタレな屑だから、やっぱ男相手なんて気持ち悪いですって言われるのは避けたかった。
「キスとか、手で抜くのは多分出来ます。フェラはちょっと、やってみないとわかんないっすね。後、突っ込まれるのだけは絶対無理す」
「俺、突っ込むセックスはしてないって言わなかった?」
「だってそれ、妊娠したら困るって理由だったじゃないすか」
「ああ、まぁ、確かに男は妊娠しないか」
 女の子との突っ込まないイチャイチャに慣れすぎているのか、さすがに目の前の男を抱きたいという方向で考えたことはない。そうか、男相手なら突っ込むセックスも有りか。チラリと想像した感じでは欠片も無理そうではなかったから、相手さえ望めば喜んで抱いてしまいそうだけれど、本人が絶対に無理だと言っているのだからこれは考えるだけ無駄だろう。
「それ、俺に突っ込みたいとは思ってなかったって事でいいんすよね?」
「うん。考えたことなかった」
 正直に肯定すれば相手は酷くホッとした様子を見せた。
「じゃあさ、俺に触られたり舐められたりするのはどうなの?」
 彼に対する興味はどちらかというと、その体を撫で回して気持ちよく善がる姿が見てみたいという気持ちが強かったから、触られるのなんて気持ち悪いと言われたら残念だなと思いながら聞いてみる。
「先輩が俺を触るんすか?」
「うんそう。というか、お前が考える俺のエッチって、相手に色々して貰ってるイメージのが強い?」
 自分が触られるスキンシップももちろん好きなのだけれど、相手に触れたいスキンシップ欲求も強いということを、彼はきっと知らないのだろう。だって抱っこされる時に抱き返す程度のことしかしてこなかった。
「割と。だって先輩、すっげ甘えたがりじゃないすか」
 まんまと肯定されて苦笑する。しかも凄い甘えたがりだと思われてたのか。
 慣れてしまってからは自分から抱っこをせがむ事も多かったから、そう思われていても仕方がないのかもだけど。
「それはお前だからだよ。お前が抱っこなんかして俺を甘やかすから甘えちゃうの」
「なら女の子には甘えないんすか?」
「そりゃ甘える事もあるけど。でも甘えっぱなしってことないし、甘やかすのだって好きだよ?」
 甘えてくるならお前のことだってちゃんと甘やかすよと言ったら、先輩優しいっすもんねと納得顔で返されてなんだか照れくさい。
「と、とにかく、俺を好きって言ってくれる子相手に、そこまで受け身な態度取らないんだって。お前とは罰ゲームだったから積極的に手ぇ出したりしなかっただけなの」
「そういや、エロいことしちゃうよって、言ってたっすね」
「言ったね。でもお前は、俺がしたいならしてあげたいって言ったんだよな。俺がお前に何かするイメージもなかったみたいだし、俺にアレコレされるの無理ってなら、それでもいいよ」
「無理じゃない、す」
「そ、良かった。なら手始めに、今すぐここで、お前にキスしてみてもいい?」
「あ、はい。どうぞ」
 どうぞなんて言われてキスするのはなんだか調子が狂うというか、ムードもへったくれもないなと思いながら、相手の頬に片手を添えてゆっくりと顔を近づけていく。
「目、閉じて?」
 顔を寄せてもジッとこちらを見つめたままの相手に、唇に触れるギリギリのところで仕方なく声を掛けた。すぐさま無言で相手の瞼が降ろされたが、本当にムードがない。
 ムードはないけれど、むしろそれが彼らしいなとは思った。でもだからこそ、色っぽく変わる姿が見たいし、キスだけでどこまで相手の欲を引き出せるかとも考えてしまう。
 瞼が降りきったのを見届けて、まずはそっと唇を押し当てた。
 何度か角度を変えて、ゆっくりと触れ合わせるキスを繰り返しながら、少しずつ相手の唇を吸い上げ啄み甘噛んで解かせていく。そうしてからやっと舌を差し入れれば、まるで待っていたとでも言うように、相手の舌が積極的に絡んできた。されるがままのつもりかと思っていたから、少しばかり驚いた。
 こちらの驚きが伝わったのか、律儀に閉じたままだった瞼が持ち上がり、こちらの様子を窺ってくる。その瞳を超近距離で見返しながら、別に勝負でもなんでもないのに、負けたくないなと思ってしまった。
 きっと、先程中学で童貞を捨てたと聞いたのと、やはりそれなりに経験があるのだろう様子が原因だ。自分の童貞卒業が高校入学後だったなんてのは相手に全く関係がない、なんて事はもちろんちゃんとわかっている。
「んっ……」
 とうとう相手が甘く鼻を鳴らしたのを合図に、ゆっくりと顔を離していく。
 さすがに長いこと続けすぎたキスにお互い息を整えあった後、先に口を開いたのは相手だった。
「先輩のキス、すっげキモチィすね」
 興奮で目元を赤く染めたまま、余韻に浸るようにうっとりと告げられた言葉に、こういうとこでも素直なんだなと感心する。素直に、お前もかなり上手かったよと返せなかった自分の小ささに、勝手に勝ち負けを感じて躍起になって頑張ってしまった事実に、なんだか落ち込みそうだった。

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Wバツゲーム11

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 背に回っていた腕が解かれて、肩を捕まれ引き剥がされる。とは言っても大きく突き放されたわけではないから、正面から見つめ合う距離はかなり近い。
「ちょっと、試してみないっすか」
 真剣な顔に告げられた言葉の意味が良くわからなかった。
「え、何を?」
「スキンシップ、どこまで出来るか」
 先輩がされたいことを教えてくださいと、大真面目に言われてしまって大いに慌てる。
「ちょ、待って待って。少し整理させて。つまり、俺とエロいことしてもいいって思ってる。……って話だったりするの?」
「まぁ、そうかもしれないっす」
「曖昧だね」
「先輩とエロいことしたいって気持ちがあるわけじゃないんすけど、先輩がしたいならしてあげたいとは思うというか。けど、俺だって男相手とか全く経験ないんで、実際先輩が満足出来るまでやれるかわからないし、やってみたらやっぱ男気持ち悪いとか思う可能性もゼロじゃないんすよね」
 だから一回試してみませんかという話らしい。ツッコミどころ満載すぎてどうしよう。
 したいならしてあげたいとか、こっちは先輩なのに随分と上から目線だし。数か月前までは中学生だったくせに、まるで女となら経験あるみたいな言い方だし。やっぱ男気持ち悪いって放り出す可能性あるのにチャレンジしたいとか、気持ち悪いって言われるかもしれないこっちの身にもなれよって話だし。
「えーっと、取り敢えず一番重要そうなとこから聞くけど、それでもし色々クリアして俺とキモチイ事が出来たとして、そしたらお前どーすんの?」
「告白するつもりっすけど?」
 何を当たり前のことを聞いているんだと言いたげな様子に、そこに繋がるのかと少しばかり納得してしまった。
「あのさ、罰ゲームだから続けられないってのは、お前とエロいことが出来ないからって意味じゃなかったんだけど」
「えっ?」
 ビックリされて、やっぱそういう風に思ったんだなとわかって苦笑する。
「でも、俺が先輩とエロいことできれば、先輩的には俺が恋人でも問題ないんじゃないんすか?」
「まぁ確かに俺はそれでいいけどさ。でも俺が問題なくても、お前に問題あるでしょーよ」
「俺の問題? って何っすか?」
「だって俺はどうせ今年で卒業するし、既にあれこれあまりよろしくない噂持ちだから、とうとう男の恋人作ったって思われたって別にいいんだけど。でもお前はまだ、罰ゲームに利用された可愛そうな後輩ってだけだろ。これから彼女作ったり青春謳歌したいだろ。なのに俺の恋人だったなんて期間作ったら、確実にそれ、お前の高校生活での汚点になるからね?」
「彼女作るより先輩とバスケするほうが何倍も楽しいんで別に。汚点になるとか考えすぎじゃないっすか。だいたい、先輩と付き合うのが高校生活の汚点になるなら、なんで先輩に告白する女の子、居なくならないんすか」
 女の子とこの後輩とが同列に語れるわけがない。なのに相手は全く納得がいっていないようだった。
「ほぼ断られないのわかってるから告白しやすいんでしょ。取り敢えず彼氏が欲しいってだけの子でも、フリーだったら喜んでお付き合い始めちゃうからね。でも男のお前が俺の恋人しても対外的に何の特にもならないどころか、高校生活初っ端から男と付き合ったりしたら、女の子から相手にして貰えなくなるよ?」
「だからさっきから、彼女なんて要らないって言ってるじゃないすかっ」
 先程から少々ムッとした様子を見せてはいたが、とうとう苛立ちをぶつけるような怒気を孕む声を吐き出してくる。
「それは経験的な話で言ってんの? 中学時代にモテモテで女の子とは十分楽しんだから今度は男でもいいやって気になったってなら、お互い様だしもう何も言わないけど。でも付き合ったこともないのに、彼女いらないなんて言ってるだけなら、ホント、俺なんかと付き合おうとするの止めときな」
「中学の時には彼女いたし童貞でもないっす。これで満足っすか」
「わかった。もう止めない。お前が本当に告白してきたら、お前と付き合う。これでいい?」
「何言ってんすか」
 それでいい訳がないと呆れながらも、まずは試させて下さいと相手の言葉が続いた。

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Wバツゲーム10

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 寂しい理由は明白だ。
 この一ヶ月を恋人として過ごしたせいで、相手を好きになってしまったからだ。なんて理由だったら、もう少し簡単だっただろうか。
 確かに彼との罰ゲームをなんだかんだ楽しんだ。彼の性格も料理の腕前も、ひいては自分と同じくらいある身長や運動部らしいはっきりと筋肉のついた体だって好ましい。
 相手が無理だと思うから手を出さないだけで、自分だけの感情で言えば、キスもそれ以上もきっとさほど抵抗なく出来てしまうだろう。それどころか、してみたかったとすら思う気持ちまで、実は自覚できている。
 ただそれを、恋愛感情が湧いたからだと言えないところが、つくづく恋人向きじゃない屑な男だと自分自身に対して思う。
 恋愛感情なんてなくたって、恋人という距離感は心地よくて、イチャイチャするのが大好きで、自分の生活を守るために突っ込むことはしないけれど、性欲がないわけじゃないからキモチイイコトだって散々してきた。そんな関係に慣れすぎている。
 寂しい時間を優しく埋めてくれるなら誰だって良くて、それこそ男だって、男だからという理由で嫌悪感なんか湧かない事は、今回のことではっきりしてしまった。ただ、それだけだ。
 なのに罰ゲームの終りが見えてこんなに寂しいのは、罰ゲームじゃなければ、こんな風に律儀で真面目なタイプの男が世話を焼いて甘やかしてくれるなんて機会は訪れないのだと、わかっているせいだった。
 相手も自分を恋愛的に好きではないというのが、こんなに気楽だと思わなかった。二人の間にあるのは罰ゲームを下敷きに、互いの下心をお互い出来る範囲で満たしあうというだけの、言うなればビジネスライクな関係だった。自分がクローゼットの奥に仕舞い込んだバスケットボールを引っ張り出さなければ、彼だって抱っこしてあやすなんて行為を本気でしてはこなかったと思う。ボールを見つけた彼に、やっぱり抱っこしますと迫られたのも、今では笑える思い出の一つだった。
 そしてその関係を、罰ゲームなしに続けることは出来ないのだ。
 罰ゲームでもないのに毎日相手の部活が終わるのを待って、週末には家に泊まりに来てもらう。なんて関係を続けられる訳がない。自分だけの問題なら、とうとう男でも良くなったらしいと思われようが構わないし、そもそも事実でもあるけれど、それをこの後輩に背負わせてまで、この関係を続けたいなんて言えない。
 なのに。
「あの、先輩に次の彼女出来るまで、もう少しこれ、続けないっすか」
 まさか相手側から提案されるとは思わなかった。でもきっと、これを続けることで彼が受ける被害をわかってない。
「続けないよ。罰ゲーム終わってもこんなことダラダラ続けてたら、マジホモになったって思われちゃうよ? こういうのは終わったらお互い、せいせいしたって感じにバイバイするのが正解なんだよ」
 見世物じみたゲームを楽しいまま終えるならそうするべきだ。
「せいせいしたなんて思えそうにないんすけど」
「振りだけでもそうしなって話」
「無理っす」
「そこはまぁ頑張ってよ。俺だけスッキリしてたら、罰ゲーム中に男でも構わず後輩たぶらかして終わったらポイ捨ての酷い男だって噂がたつの、目に見えてる」
 まぁ別に、今更何を言われようといいんだけれど。でも律儀で真面目なこの後輩は、こういう言い方をされるのは苦手だろう。
「それほぼ事実じゃないっすか」
 だから不貞腐れたように言い放たれて、珍しいなと思った。
「何お前、俺にたぶらかされたの?」
「たぶらかされてなかったら、続けませんかなんて言うわけないっす。今、こんなに寂しいって素振り見せてるくせに、終わったらせいせいしたってスッキリするつもりとか、騙された感凄いんすけど」
「せいせいしてスッキリするなんて言ってないだろ。人にはそういう振りを見せなきゃダメだって話をしただけで」
「じゃあやっぱ、寂しいんじゃないすか」
「そりゃ寂しいよ」
「なのになんで続けるのダメなんすか」
「そんなの、これが罰ゲームだからだろ」
「なら俺が、もう一回付き合って下さいって言えば、今度は罰ゲームじゃなく付き合ってくれるんすか」
 一体何を言い出しているんだか。
「お前さ、罰ゲームで恋人ごっこするのと、告白してお付き合いするのが同じだとでも思ってんの?」
 忠告混じりに軽く笑ってやれば、何が違うのかと聞いてくるから、やはり何もわかってないと思う。
「お前が俺に告白してきたら、お前は俺を好きなんだって、恋愛的に惚れてるんだって、そう思っちゃうぞって事だよ。俺を好きなら良いだろって、お前にエロいことしちゃうよ?」
 さすがに黙ってしまった相手に、更に追い打ちをかけていく。
「冗談でも脅しでもないからね? 男に告白されたことないから、男相手にエッチな事した経験ないけど、今回お前のお陰で男だから無理ってならないことわかったし、それなりに興味もあるし」
「それ、やっぱ抱っこだけじゃ、スキンシップ足りてないって事すよね?」
 これで続けようなんて気持ちもなくなるだろうと思っていたのに、相手の返してきた言葉はなんとも斜め上だった。

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