よほど良かったならば、またしたいだのを口にしているはずなので、二度目を望むような言葉が今日まで一切なかったというのは、思うほどには良くなかったということだと思っていた。
「確かに準備も後始末も大変だったから、土曜の夜には無理だなって思ってたけだけで、別に、懲りて二度としたくないとか思ったわけじゃ」
「土曜の夜には無理ってどういうことだ?」
「土曜は家に親がいるから準備してから来れないし、ここ来てから準備して、ってしたら眠るの結構遅い時間になったでしょ。翔さん翌朝仕事あるのわかってるし、だからまたしたいとも言えなくて。でも平日なら親は仕事で、かなり早い時間に家に俺だけになるから、準備してから来れるんだよね」
「つまり、準備してきた?」
「本当はもっと早く来たかったけど無理だったのは、親が出かけた後に準備してたからってのが大きいかな」
「俺が、朝から抱いたりしないとか、抱くとしてもゴム無しではしないって言ったら、その手間が無駄になると思わなかった?」
「今日は恋人になっての初エッチだから、ダメって言われないんじゃないかなぁ、みたいな?」
えへへと笑ってみせる顔に、確かにその通りだと思ったものの、さすがに肯定してしまうのはどうかと迷えば、相手は更に言葉を続けていく。
「翔さんはさ、なかなか恋人にしてくれなかったり、卒業するまでもう抱かないみたいな、こだわりある部分は徹底してるけど、エッチの内容については結構なんでも試させてくれるし、してくれるし、許容範囲がデカイと言うかユルユルというかで、俺ね、そういうとこ本当に大好き」
「全く褒められている気がしないんだが?」
「俺にとってはやっぱり最高の攻めって感じ。ちなみにこれ、めちゃくちゃ褒めてるよ?」
「そりゃどうも」
「今だってさ、俺が玄関でしたいとか言ったの、叶えてくれようとしてるし」
話しながら、既にコートは脱がせて廊下の隅に落としているし、シャツの前ボタンは全開でインナーシャツが見えている。手を突っ込んで肌に触れるには窮屈そうだとボタンを外しはしたが、さすがに寒いだろうし、シャツを剥ぎ取る気はなかった。
そうだなと返しながら、パンツのフロントボタンを外してファスナーを下げていけば、それにさと更に言葉を続けようとする相手が、かすかに笑ったようだった。
「俺がローション出したうえに、中出しされたいとか言ったから、このままここで突っ込んでもいいかなとか思ってくれてるでしょ?」
どうやら、ちゃんとわかってるんだからね、という意味の笑いだったらしい。
「思考を読むのを止めなさい。というか、恋人になってからの初エッチだってのに、玄関なんかでと思う気持ちだって、当然あるんだからな。そもそも、ホテルを取ろうかと言った時に、久々に抱き合う場所は俺のベッドの中がいいって言ったのは誰だ」
「俺だね」
「だから俺は今日、そういうつもりでいたんだ。なのに朝から突撃してきて、寝込みを襲うだの、玄関でしたいだの。そういや、久々なのに体に掛かる負担とか、ちゃんと考えて誘ってるんだろうな?」
「ちゃんと考えて誘ってるよ。てか翔さんって、かなり恋人甘やかしたいタイプだよね」
「それは口煩いとかって話か?」
「まさか! どこまでも理想的って話」
「でも寝室へ移動する気はないんだろう?」
「だってドロドロに甘やかしてもらうエッチは、夜にして貰えるって思ってるから。今は、やっとエッチ解禁で、我慢できなくて玄関で盛っちゃう的なのがいい」
「それはもう、半ばイメージプレイの領域じゃないのか?」
シャツを剥ぎ取る気はないが、もしかしてパンツも足に絡めたままでしたいだろうか?
などというこちらの躊躇を汲み取ったのか、下げたパンツからさっさと足を抜いていく。下着はセフレ状態だった頃に用意した換えがあるからいいものの、昼のことを考えたら、服はなるべく汚したくないという気持ちは共通しているらしい。
それくらいにはお互い冷静なのだから、もはや我慢できなくて玄関先でなどというのは、シチュエーションプレイでしかないと言えそうだ。しかし。
「いいの。俺はね、さっき翔さんが留守番しててって走りに行かないで、俺を引き寄せてくれたから、それだけで充分、そういう気分になれてるもん。ていうかあれでスイッチ入ったよね」
「そうか」
「翔さんだってさ、早く恋人抱きたいなって思ってくれてたでしょ? だから走りに行かないで、俺をギュってしてくれたんだよね?」
「まぁ、そうだな」
「俺が卒業するの、待ち遠しかった?」
「ああ、楽しみに待ってたよ」
「俺も。めちゃくちゃ楽しみに待ってた」
我慢できなくて押しかけてごめんねと、言葉だけは謝っているが、その顔は満足げで申し訳無さそうな様子は微塵もない。しかし颯真の言葉に釣られてか、いとも簡単にあの瞬間の、このまま抱いてしまいたいと思った気持ちが蘇っている。こういうところは相変わらず、その気にさせるのが本当に上手いなと思う。
「やっと、翔さんと恋人セックスできるって思ったら、どうしても早く会いたくて。無断で来たのは、押しかけたらきっとなし崩し的にして貰えるって、翔さんなら、早く抱かれたくて仕方ない俺を無視しないって、わかってたからだけど、翔さんの予定狂わせちゃったのは、本当にごめんなさい」
「もういいよ。夜は予定通り、甘やかされてくれるんだろう。ならいい」
もう黙ってという気持ちで軽く唇を塞いだ。おとなしく口を閉じて静かになった颯真の体に触れていく。
お喋りを止めた口からは、甘い声が漏れはじめるが、場所を考えてか控えめだ。気持ちよさに合わせて素直に喘いでいた子が、快感を漏らさないように声を噛むさまは、なかなかに新鮮で悪くない。
恋人という関係になる前に、何度も抱いてイカせた体だ。数ヶ月ぶりだろうと、颯真が感じる場所も触れ方もしっかりと覚えている。むしろ、久々だからか、立ったままで触れられるのが初めてだからか、場所が玄関で興奮しているのか、記憶の中の彼よりも随分と反応がいい。
しっかり準備をしてきたというのも本当らしく、背中を向かせて尻を撫で揉んだ後、そっと狭間に指を滑らせ触れたアナルは、乾いた指先でつついてもわかる柔らかさだった。颯真が自身で慣らした時に使ったのだろうローションの名残りで、するりと指が入ってしまう。
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