2章 トレーナーの川瀬くん
【ジム受付】
着替えを済ませて受付前に戻るとスタッフが一人増えている。
どうやら彼が本日の担当トレーナーらしい。
川瀬:山瀬さんですね
  :川瀬です
山瀬:山瀬です、よろしくお願いします
川瀬:はい
笑顔で話しかけたが軽く頷かれただけだった。
川瀬:今日は初日ということで
  :運動前のストレッチの後
  :マシンの使い方を一通りレクチャーします
  :そして最後にもう一度
  :今度は運動後のストレッチで終了になります
山瀬:わかりました
  :(淡々と説明されたけど)
  :(随分無愛想と言うか表情がないと言うか)
  :(こんなトレーナーさんも居るんだな)
川瀬:ではこちらへ
山瀬:はい
マットの敷かれた少し広めのスペースへ連れて行かれる。
川瀬:今から行う運動前のストレッチは
  :関節の可動域を広げ運動パフォーマンスを上げて
  :負担や怪我のリスクを減らします
山瀬:なるほど
川瀬:無理のない範囲でいいので
  :同じ動作を真似てみて下さい
山瀬:はい
簡潔に意識すべき部位を伝えらる他は黙々とストレッチが進んでいった。
山瀬:(スポーツクラブのトレーナーって)
  :(なんかもっとテンション高いイメージだったけど)
  :(川瀬さんみたいに落ち着いた人も居るんだな)
川瀬:ストレッチは以上です
  :お疲れさまでした
山瀬:あ、はい、お疲れさまでした
川瀬:では次にマシンの説明に入ります
やはりマシンの説明も要点を押さえた簡潔さで進んでいく。
山瀬:(テンション高く励まされたりするの)
  :(恥ずかしいんだろうなと思ってたから)
  :(ちょっと安心したかも)
  :(むしろ一番の問題はどう考えても)
川瀬:ラスト一回
山瀬:はぁ、はぁ、はぁ
  :(筋力も体力も持久力も)
  :(なにもかもが足りてない感じが辛いな)
川瀬:はい、お疲れさまでした
山瀬:お、お疲れ様、でした
川瀬:だいぶお疲れのようなので今日はここまでにしましょうか
  :まだ幾つか説明していないマシンもありますが
  :それは追々慣れてからということで
山瀬:ぜひ、そうして下さい
川瀬:じゃあ息が整ったら運動後のストレッチをして
  :終了にしましょう
山瀬:はい
【1週間後】
トレーニングルームの入り口をくぐれば川瀬がすぐに気づいてやって来る。
川瀬:山瀬さん!
山瀬:川瀬くん、こんばんは
川瀬:こんばんは
山瀬:今日はよろしくね
川瀬:はい、というかそれなんですが
  :本当に個人レッスンの担当
  :俺でいいんですか?
山瀬:俺でいいってどういうこと?
川瀬:いやその、俺
  :あまり個人レッスンで指名されることがないので
山瀬:そうなの?
  :初心者プログラムで何人か担当して貰ったけど
  :俺は川瀬くんが一番やりやすかったよ
川瀬:そ、ですか
山瀬:うん
  :(川瀬くんは2歳下って言ってたけど)
  :(テンション高くなくて)
  :(落ち着いた感じがいいんだよね)
  :(黙々とスパルタなとこも)
  :(なんか成果が出そうな気がするし)
  :一人だと挫けそうだし
  :効率とか効果考えたら
  :姿勢の崩れとかはすぐ指摘して欲しいし
川瀬:個人レッスンの一番の利点はそこですから
山瀬:だよね、たださ
  :一緒に頑張りましょうね!っていうテンションが苦手というか
川瀬:テンションが苦手……
山瀬:うん、でも川瀬くんはさ
  :一緒に頑張りましょうね!って感じじゃなくて
  :甘やかさず、けれど無理はさせないように見守っておく
  :みたいなとこあるでしょ
川瀬:まぁ、そうですね
山瀬:だからさ
  :そんな感じで見守ってて欲しいなと思って
川瀬:なるほど、わかりました
【1週間後】
レッグプレス3セット目で息がかなり切れている。
山瀬:はぁ、はぁ
川瀬:残り2回
山瀬:はぁ、くぅっ
川瀬:1回
山瀬:く、ぁっ
視界の端に川瀬の微笑みが映った。
山瀬:(あ、まただ)
川瀬:はい、お疲れさまでした
山瀬:はぁ、はぁ、はぁ
  :(もう無表情か)
  :(ホント最後の最後だけなんだな)
川瀬:次はチェストプレスですね
  :すぐに移動できますか?
山瀬:ん、ダイジョブ
川瀬:こちらも今日は少し負荷上げてみましょうか
山瀬:いけるかな?
川瀬:無理そうだったら戻します
  :でもレッグプレスもギリギリ行けましたよね?
山瀬:本当にギリギリだったけどね
川瀬:それが効果的なんです
山瀬:それはわかってるけど
  :なんていうか川瀬くんて
  :ギリギリ見極めるの上手いよね
川瀬:よく言われます
山瀬:そうなんだ
川瀬:はい
山瀬:だからなのかな
  :最後の最後で川瀬くんが嬉しそうにするの
川瀬:あー……
  :顔に出てました?
山瀬:うん、最後の一瞬だけだけどね
  :嬉しそうにするなぁって最近気づいてさ
  :慣れて多少は余裕が出てきたのかも
川瀬:すみません、気をつけます
山瀬:ん?なんで?
川瀬:必死になってるところ笑われたら不快じゃないですか?
山瀬:そういう笑うとは違うだろ
  :俺がちゃんと1セットやりきって
  :川瀬くんが満足げで嬉しげに笑ってるの見るの
  :頑張る張り合いがあっていいなって思ってるよ
川瀬:そ、ですか
山瀬:うん
頷けば纏う気配が緩む。
わずかにだが微笑んでもくれているようだ。
山瀬:(お、喜んでくれてるっぽいぞ)
  :(こういうの気付けるようになったのは)
  :(川瀬くんに慣れたってのも大きいのかもな)
川瀬:俺も、山瀬さんが頑張ってやりきった瞬間の
  :ホッと緩んだ顔とかかなり好きです
  :あ、もちろん必死に頑張ってる顔も好きですけど
山瀬:え、あ、あの
  :ありがとう……
トクンと心臓が跳ねてなんだか恥ずかしい。
山瀬:(好きですって直球だなぁ)
  :(まぁ純粋な好意だからこそなんだろうけど)
  :(むしろこんなのにいちいち反応して)
  :(年下の男性相手にトキメクとか)
  :(モテない自覚はあるけど)
  :(いくらなんでも耐性なさすぎ)
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■
HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁