いつからカメラが回っていたんだろう。ちっとも気付いていなかった。
ビックリしすぎて、妙な声を上げた後は言葉も出ない。どうしていいかわからないけど、ただただカメラを見続けるのも限界でそっと顔ごと逸らしてしまえば、やっとカメラが遠ざかる。
「驚かしてごめんね?」
カメラと入れ替わるように戻ってきた相手に、そっと顎を取られて顔の向きを戻されてしまったけれど、対面した相手はなんだか笑いを堪えるような顔をしていた。
それを酷いと非難していいのかすら良くわからない。だってそもそもAVの撮影に来ているのだから、撮られていることに驚いたり怒ったりするのはオカシイだろと思ってしまう気持ちがある。
「可愛いキス待ち顔、せっかくだから残して貰おうって思って」
使って貰えたら良いなと言われながら、宥めるような軽いキスが落ちた。
さっきみたいに触れるばかりのキスが繰り返されて、さっきの続きというか、カメラと代わる前に戻ったのかとは思ったけれど、でも今度は先を促すのを躊躇ってしまう。次はきっと、カメラに譲ったりせずにちゃんと応じてくれるんだろう、とは思うのだけれど。
「ね、怒った?」
「なんで?」
「さっきより緊張してる。緊張っていうか、警戒?」
「警戒っていうか、だって……」
「もし、いつまたカメラに代わられるんだろうって警戒してるなら、もうしない」
「え、でも、そんなの君が決められるようなもんなの?」
「少なくともさっきのは、俺がカメラ呼んでわざわざ代わっただけだから」
「え、マジで?」
「マジで」
「てかどーやって?」
「どーやってって、手で?」
言いながら彼がカメラに向かって無言で手招いてみせれば、やっぱり無言のまま、さっき目の前にいたカメラが近づいてくる。
「え、そんな簡単に呼ばれちゃうものなの」
「そりゃせっかくのチャンスは逃さないでしょ」
答えたのはカメラを抱えるスタッフで、そういうもんなのかと納得するしかなかった。
「でももう場所代わるのはなしにする。から、そう警戒しないで、さっきみたいに誘って?」
「えっと、善処は、する」
「あれ? 俺がカメラと場所代わったのだけが問題じゃ、ない?」
「それは……」
さすがに、カメラが回ってると思ってなかった、なんて言えない。それはあまりにも状況を忘れすぎだという自覚はある。なのに。
「えー気になる。言えないような理由なら、こっそり俺にだけ教えてよ」
口元にグッと耳を寄せられてしまって、躊躇いながらも結局口を開いた。
こそっと小声で、彼にだけ聞こえるよう意識しながら、カメラが回ってると思ってなかったことと、今はもう、カメラが回ってることに気付いてしまったこととを告げる。
「ふぁっ、はっ、マジで」
堪えきれなかったらしい笑いが彼の口から溢れて、まぁ笑われるだろうとは思っていたので、淡々とマジでとだけ返す。
「そっかそっか。それは残念。というか、それが本当なら、カメラと代わったりしなきゃ良かったなぁ」
あのままベロチューして押し倒しちゃえば良かったと笑う顔が近づいてきて、もう何度目になるのかわからないキスをされた。でも今度は触れるだけで離れていかず、口を開けろとでも言うように唇をペロリと舐められる。
素直に口を開いて、さっきみたいに誘ってと言われた通りにこちらからも舌を差し出せば、今度は避けられることなく相手の舌と触れ合った。
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