可愛いが好きで何が悪い24

1話戻る→   目次へ→

 周りとの認識のズレに多少モヤモヤとしながらも、結局は黙って日々を過ごす。実のところ、恋人になったからと言って、それで何かが大きく変わるようなこともなかった。
 そもそもお互いがそれなりに忙しい。
 自分も彼も、学費と最低限の生活費は親持ちだが、それ以外はバイトで賄っている。
 自分は当然、夢の国通いにかなりの資金が必要だ。彼の場合は顔の広さと言うか付き合いの良さで結構浪費しているようだし、そこに女装が加わった今は、資金繰りがかなり大変そうだった。
 ほぼほぼ居候だった時と違って、彼はもうこの部屋を出て一人暮らしを始めているわけだし、一緒に過ごす時間はむしろ大幅に減っている。ついでにいうと、ちょっとした警戒心もあって、どちらかの部屋で二人きりという状況をなるべく避けたい気持ちがある。
 キスくらいならそこまで抵抗感はないのだけれど、この前のように自分だけがイカされるのは嫌だし、かといって相手に同じようなことをしてやれるかと言うと難しいし、最終的に相手は自分を抱く気で居るのだと思うと、どうしたって躊躇ってしまう。
 結果、外で一緒に食事をとる程度のデートを数回しただけに留まっていた。
 今までは大学近辺を仲良く一緒に彷徨くこと自体を避けていたのだから、これが彼と恋人になって起きた変化と言えるだろうか。
 相手がこれで満足しているのかは分からないが、不満を口にされたことはないし、一応は彼の望み通り、周りに恋人バレして「俺のだから手ぇ出さないで」を公言できるようにはなっているし、取り敢えずはこれでいいのかも知れない。
 積極的に迫られるとしたら、多分、彼の女装の腕がもっと上がってからになるんだろう。それまでに、自分も覚悟を決められたらいいんだけど。
 そう、思っていたのに。
 彼が親しくしている友人の一人から、彼を助けてやって欲しいなどと頼まれて、金曜の夜に事前の連絡をせず彼の部屋の前に立っていた。
 事情は濁されて、彼が今どういう状況に居るかも、自分に何が出来るのかもわからない。曜日と時間を指定されて、事前に連絡を入れずに行けばすぐにわかるはずだからと言われただけだ。
 自分に助けられると思ったのなら、彼自身が助けを求めてくればいい。そうしないということは、自分では助けられないと彼が判断したか、自分には知られたくないと思ったからじゃないのか。
 それを暴くのは正直気が進まないけれど、彼の身を本気で案じている、必死な様子に折れてしまった。
 チャイムを押すが、しばらく待っても何の反応もない。部屋の明かりは点いているのだから、間違いなく居留守だ。
 自分が今日ここに訪れることは知らせてないのだから、自分とわかって拒否されているわけじゃない。試しにスマホを鳴らしてみれば、あっさり相手が応答した。
『はい』
「お前、今、家にいる?」
『うん、居るよ。何かあった?』
「じゃあ鍵開けて。もう部屋の前にいるから」
『は? え、なんで?』
 急すぎでしょと慌てだすその様子に、確かに違和感がある。
「お前、今、何してる?」
『え、なに、って……』
 え、うそ、知ってるの、などとやっぱり慌てた様子で漏らされて、頼み事をしてきた男の名前を告げた。
「金曜のこの時間に連絡しないで行けばわかるって言われた。お前を助けてやってくれってさ。で、お前、俺に何隠してる?」
 通話先で黙ってしまった相手に、取り敢えず出てこいよと急かしてみれば、小さな声でわかったと返って通話が切れる。
 けれど、すぐに開くと思った扉は開かない。
 もう一度スマホを鳴らすべきか迷い出す頃、ようやくドアの内側で鍵が開く音が聞こえた。
「遅い」
 おずおずと開かれるドアをもどかしく思いながら漏らした不満に、相手がやはり小さな声でゴメンと謝る。その視線はこっちを全く見ていないどころか、項垂れていて顔そのものが見えなかった。ご丁寧に玄関内の電気も消されているから、どうやら彼は今、顔を見られたくないらしい。
「ちょっ、あぶなっ」
 助けを求めたい何かがありながらも隠されていることと、待たされた苛立ちとで、ドアノブを握る相手の手を掴んで引っ張った。
 廊下の明かりに晒された相手の顔は目元が赤くて、多分、泣いていたのだと思う。
 すぐに扉が開かなかったのも、顔を俯けていたのも、電気が消されているのも、泣いていたのを誤魔化すための悪あがきってことらしい。スマホ越しの通話では、泣いていたことなんて全くわからなかった。
「誰に泣かされた? 俺には言えないような相手ってこと?」
 共通の友人知人で、自分に知られたくないような相手なんて、姉くらいしか思い当たらない。
「もしかして、姉貴?」
「ち、違う違う。全然そういうのじゃないから。誰かのせいとかじゃなくて、ちょっと寂しかったとか、そういうやつだから」
 必死で否定を口にする相手の左耳の横には、今日も布で作られた白い花が飾られている。しかも何かを恥じるように頬がうっすらと赤らんでいる。
「あー……亡くなった母親を偲んでた的な……?」
 年齢とか性別とか亡くなってからの時間なんて関係なく、思い出に浸って涙することがあったって、別に恥じるようなことではないと思うけれど。
「え、えー……と、あー」
 しかし、肯定が返るかと思ったら困ったように言葉を濁されてしまった。どうやら違ったらしい。
「ってわけでもないのか。取り敢えず、上がっていいか?」
「う、あー、今はちょっと、困る、っていうか」
 長くなりそうだし、部屋に入れば泣いていた原因もわかるかも知れない。頼み事をしてきた彼の友人にも、行けばわかると言われているのだ。
 そう思ったのに、相手には難色を示されてしまった。

続きました→

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です