可愛いが好きで何が悪い55

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 目覚めたときの部屋の中はかなり薄暗かった。すぐ隣に横たわる存在にギョッとして跳ね起きかけて、けれど体の痛みというか違和感に起き上がることは叶わず、小さく呻いて布団の中で硬直した。
 それからようやく、自分の置かれた状況を理解していく。というよりも、寝る直前までナニをしていたか思い出す。
 どうやら疲れてガッツリ眠ってしまったらしい。カーテンの隙間から入り込む明かり的に、すっかり朝というよりはそろそろ夜が明けるくらいだろうか。
 隣の熱源は当然この家の主で、まだ起きる気配はなさそうだ。
 一緒に寝ていたのはこの家に来客用の布団がないからで、体はさっぱりしているが服は下着しか付けていない。なぜか隣の彼も服は着ておらず、未確認だがきっと同じように下着だけ履いて寝たんだろう。
 しっかり後始末をする余力があって、なぜ裸? とは思ったが、もしこちらに服を着せるのを諦めたなら、自分だけ着込むのをためらったのかもしれない。まぁ、素肌をくっつけて眠りたかったとか言いそうな気もするけど。
 状況を把握したところで、今度は気を付けながら、ゆっくりと体を起こしていく。被害と言うと言葉が悪いが、昨夜のあれこれで肉体に残った影響も、早めにしっかり把握しておきたかった。
 といっても、心構えが出来ていれば、いちいち呻くような痛みや違和感はない。
 あちこち筋肉痛に似た軽い痛みがあるが、それは多分慣れない姿勢をとったせいだろう。尻の穴は特に痛みが残っている訳では無いが違和感がすごい。あと、お腹の奥がまだなんとなくジクジクとしている。
 一度意識してしまうと、そこを優しく突かれて気持ちよくなった感覚まで思い出してしまって、顔に熱が集まるようだ。
 一応事前に予習していたあれこれがあるから、そこで気持ちよくなれることも、知識としてはないわけじゃないけど。でも、一晩であれこれ駆け抜け過ぎじゃないだろうか。
 前立腺だって、慣れなきゃ違和感やら痛みやらを感じるって書かれてた気がするのに。怖い怖い言いながらでも、結局ペニスへの刺激無しで吐精までイケてしまったし、初回からこんなに簡単にあちこち気持ちよくなれる想定は欠片もなかった。
 男は抱いたことないはずなんだけど、と思いながら、相手の寝顔をマジマジと見下ろしてしまう。穏やかで満たされたとはいい難い、なんだか難しい顔で寝ているのが若干気になるものの、だからって何が出来るわけでもない。
 なのですぐに、思考は昨夜の行為へと戻っていく。
 まぁ相手だって色々調べただろうし、それどころか自分の体を使ってあれこれ実践していたわけだし、男との経験はなくても女の子とは相当経験を積んでいたはずだし。と思うと、これも当然の結果だったりするんだろうか。
 体の相性云々も否定する気はないけど、やっぱり相手のテクのおかげ、って気持ちのほうがこちらとしてはどうしたって大きい。これは、自分の体に抱かれる側の素質があった、とはあまり思いたくないって気持ちも関係してそうだけど。
 でもこれらの気持ちは、心のなかに留めて置いたほうが良さそうではある。
 過去の女性関係には色々と思うところがあるようだから、相手は間違いなく、自身のテクを自慢したりしないし、こちらの体を指して抱かれる側の素質があるとも言わないだろう。なので結局、体の相性がいいからこんなにも気持ちがいい、ってとこに落ち着くんだろう。
「ん……?」
 そろそろ相手も起きるだろうか。眉間にますますシワが寄り、次いで、もぞもぞと片手がシーツの上を這う。
 どうやら起き上がってしまったから、そこにあるはずの熱がなくなって、相手の起床を誘ったらしい。
 とっさにシーツの上を這う手を握ってしまえば、見つめる先でゆっくりと相手の瞼が上がっていく。
「あ、悪い、起こした」
「いや……って、だいじょぶ!?」
 思わず謝れば、ぼんやりとした返事があって、それから慌てた様子でガバリと起き上がる。どう考えても、起こしたことに対する「大丈夫」ではなく、こちらに対する問いかけの「大丈夫」だ。
「大丈夫って、何が?」
「なにって、体。どっか痛くない? 気分は? 悪くない? てか、疲れて眠っちゃっただけなんだよね?」
「あー……心配掛けたなら、悪い」
 特に問題はないと言えば、あからさまにホッとされた。
「声かけても体拭いても起きないから、ちょっと、心配した」
「俺、眠りは深いほうだから」
「知ってる。から、呼吸は問題無さそうだったし、とりあえず朝までは様子見しようって思って……ってか、普通に起きてくれてよかったぁ」
 心底安心したというように、大きく息を吐きだしている。
 抱き潰して救急車騒ぎとか、そんなことになったらどうしようかと。なんて呟きまで聞こえてきて、どうやら思ったより大事になりかけていた。
 後でフォローすればいいだろと、あっさり寝落ちた事をさすがに悔いる。せめて、何か一言二言告げてから、眠ればよかった。疲れて眠りたいだけだと、言っておくべきだった。

続きました→

 
 
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