結局、観光予定地のファミレスで姉の友人たちが合流するのを待ち、そこで数時間ほど過ごした。予定はかなり狂ったが、昼間の観光が一番の目的ではなかったのと、やはり姉同伴で会話に聞き耳をたてられたり茶々を入れられたりレポートを書かれたりは遠慮したい。ついでに言うなら、自分は何度も訪れたことのある場所だからそこまで観光に対する熱量がない。
彼も特に観光への思い入れはないようで、むしろ姉の友人たちを交えたお茶会のほうが魅力的らしい。正直それもどうなんだと、内心若干引いた。
半ば強制的につきあわされた先日の海での1件は未だ記憶に新しく、彼女らの興味の対象が自分ではなくても、結構精神的に疲れたというのに。興味の対象ど真ん中が、自らその輪の中に入っていこうというコミュ力には脱帽する。
ただ、観光より女性とお茶する方が楽しいよね、的な安易な発想とはどうやら違ったようだ。
すっかり友人ポジションではあるが、こちらの都合で学科内ではあまり親しげにしていないというか、連れ立って行動することが殆どないせいで、他者を交えて会話をした経験がほぼない。そのせいで、姉の友人らが、王子が友達と話すプライベートに興味があるように、彼自身、2人きりでは話題にも登らないような話が出来るかもという期待だか興味だかがあったらしい。
姉とのやり取りを楽しげに見ていたのも、普段は見せない姿が面白かった、というのが大きかったようだ。
確かに、こちらの趣味を隠す必要が一切ない姉と、そんな姉から色々筒抜けだろう姉の友人たち相手なら、会話の幅は間違いなく広がるだろうけれど。でも彼に対してそういった興味が一切なかったので、正直言えば驚いた。というか、やっと出会えた初恋相手の子として、妙に意識されているらしくてビックリだ。
可愛らしいふわふわドレスやそれが似合うプリンセスが好きだろうが、初恋相手がめちゃかわのリトルプリンセスだろうが、恋愛対象としてそういう女性を求めているわけではない自分と、可能なら初恋相手の女の子とお付き合いしたかったと嘆く相手とでは、「初恋相手」に対する気持ちがどうやら大きく違うらしい。
いやまぁ、どこまで本気かはわからないけど。演技というか、そういうテイでってだけな気がしないこともない。
そして、姉が既に彼の初恋相手が誰であるかを知っていたように、姉の友人たちにもそれは周知されていた。ついでに言うなら、幼少期のドレス写真まであれこれと見られた後だった。しかも、彼に渡していないどころか見せてすらいない過去のドレス写真が、彼のスマホに増えてもいた。
犯人はもちろん姉だ。姉とその友人のスマホには、代わりに彼の写真が何枚か譲られたらしい。その中に、こちらの初恋相手のリトルプリンセスが入ってないのが解せないが、一応、その写真も見てはいるそうで、こちらの初恋相手が彼だということもどうやら既に知られている。
どうせ彼女らの目的は彼だしと、半ば他人事のように同席していたはずが、初恋相手同士のロマンスを期待するかのような会話に引きずり込まれて戸惑った。
王子がバイト先では見せないような、友人との気安いやりとりや、うっかり漏らすプライベート情報が目当てなんじゃなかったのか。とも思ったが、周りの反応を見るに、どうやらそういうネタで楽しく遊んでいるだけっぽい。
まぁ、王子の今までの女性関係を突くより、既に男だと判明している初恋相手ネタのが弄りやすいんだろうことはわかる。なんせ、下半身がだらしないと言われたのがショックだから夏のバイト中は女の子と遊ぶ気はないと、女性の誘いを断る口実にも使われているくらい、過去の女性関係になにやらありそうな匂わせがされているのだ。
ただし、なんとなく理解はできるものの、そのネタに便乗して彼女らを喜ばせてやるかは別問題だ。双方ともにドレスを着ていたせいで互いに初恋相手と認定したが、どちらもしっかり男として成長しているのに、初恋相手同士のロマンスなど発生してたまるか。
もう一度ドレスで着飾ったら、やっぱりこの子がいい。なんてことが起こるはずがない。
「てかそれもう、女装させて笑いものにしたい的なの、透けて見えてるんですけど」
「まぁ、あんたは昔があれだし、今も似合わない可能性が高いけど。でも王子の目にはちゃんと初恋の彼女が成長した姿に映るかも知れないでしょ?」
姉の目から見ても、あの写真はないらしい。主にカメラの前での決めポーズがよろしくないとのことで、その意見には賛成だ。
「あと、変なポーズ取らないで黙って座ってたら、ワンチャン可愛いもあるかも知れないわよ。王子だって、惚れた子の写真写りが残念だっただけで、変なポーズ決めてるあんたに惚れたわけじゃないんだろうし」
「ねぇわ」
その意見には賛同できないと、即座に否定を返す。というか飛び蹴りかました少女に惚れたんだから、変なポーズ決めてる子に惚れたようなものだと思うんだけど。あと、あの写真を見て躊躇いなく、勇ましいポーズ取ってるのが可愛いって言ってたぞ。
なんて指摘はもちろんしない。
「でもほら、王子は普通に似合いそうだし、うっかり惚れ直すかもしれないじゃない?」
姉の友人の一人に言われて、思わずマジマジと対面に座っている彼を見てしまったが、ニコリとわざとらしく微笑まれたので、こちらもわざとらしく眉を寄せて見せた。
「ないっすね」
「わー、もう、ほんと、連れないなぁ」
言って大げさに嘆いて見せる辺り、もう全てが胡散臭いとしか言いようがない。というかもう、こんなのは彼女らを楽しませるパフォーマンスでしかないので、下手に同意してその方向で盛り上がられる方が後々絶対に面倒くさいのだ。
今でも似合いそうなどと言ったら、本当に彼のためのドレスを用意しかねない。
そんなこんなで、あれこれおもちゃにされつつ数時間。開放された時には相当ぐったり疲れていたが、憧れの王子とバイトのついでや隙間時間じゃなくたっぷり話せて満足したらしい姉たちから、この後のデート用と言って結構な額のお小遣いを渡されたので、この数時間はバイトだったと思うことにした。
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