一度してしまえば抵抗感は相当薄くなったのか、あれ以降、週末の夜には手で抜いてくれるようになった。未だ相手の性器には触れさせてもらえてないし、見ることすら出来てないので、自分ばかりが相手に気持ちよくされている。
はっきりと、可能な限りこちらが抱く側でと宣言済みだからか、お尻を狙われている様子はないので、ついつい安心して身を任せてしまうのだけれど、結構弄り回され観察されている上にあれこれ試されている気配もあるので、いいのかこれでと焦る気持ちはあった。
相手はなかなかに研究熱心で、見ても触っても平気とわかったら好奇心も旺盛だ。
初回の射精時に相手が何を言ったか聞き逃したけれど、聞いたらあっさりと、精液が吐き出されてくる所が見たかったのだと教えてくれたし、わざわざ見せる羽目にもなった。勃起したペニスの先端を凝視されながらイクのは、相手が時々漏らす実況がやたらと恥ずかしくて、でも、相手の視線にも声にも煽られまくってめちゃくちゃ興奮した。
どうにも、こちらの体ばかりが暴かれ、しかもなんだかんだと開発されている。気がする。
相手の手で気持ちよくなれるのはそりゃ嬉しいけれど、それをやりたいのは自分の方なのにと、歯噛みするような気持ちになってしまう。恋愛未経験の童貞と知っている相手のまっさらな体を、弄り回して性感帯を探りたいし、この手で快感を教え込んでやりたいのに。
決して、快感を教え込まれたい側ではない。それとやっぱり、相手が着々とテクニックを磨いているような気がして怖い。
「ねぇ、今は俺が気持ちよく喘がされてるの受け入れてるけど、俺が抱く側だって主張、わすれないでよ?」
何度繰り返した言葉だろう。
せめて相手が忘れないように、今もその気だとわかって貰うために、折に触れて繰り返していた。口に出して言うことで、流されてなるものかと自分自身を鼓舞する意味もあるかもしれない。
「それなんだけど、」
「えっ、ちょ、待って!」
いつもなら、「わかってる」もしくは「忘れてない」といった言葉が返るのに、想定外の言葉が返ってきたので、思わず遮ってしまった。抱かれてやる、といった言質は未だに取れていないが、こちらの主張を忘れるな、という言い方をして、肯定が返らなかったことはない。
「どうした?」
「どうしたもこうしたも、俺、絶対抱く側やるからね」
再度強めに主張すれば、相手は意味がわからないと言いたげな顔をして、知ってると言った。
「知ってるのと、実際に抱かれてくれるかは別じゃん。現状俺ばっかり気持ちよくなってて、何もさせて貰えてないんだよ? いつもみたいに、わかってる、とか、忘れてない、って返ってこなかったら、そりゃ警戒するでしょ」
「あー……なるほど。それは、ゴメン、ね?」
「悪いと思ってない。てか笑わないでよ」
こちらの態度に納得が行ったらしいのは結構だが、クスッと笑われてしまうとそれはそれでちょっと気持ちがへこむ。だって絶対、子供扱いされた。
少しばかり冷静になって考えると、相手の話も聞かずに警戒心から自分の主張だけ押し付けるやり方が、確かにガキ臭い甘えに思えてくる。
「うぅっ……」
悔しさに思わず唸ってしまう。
相手の手で抜いて貰うようになる前は、こちらからも積極的に相手の体を弄りに行っていたけれど、こちらは相手の手でイカせて貰うのに相手はイケないまま終わることを考えると、あまり興奮させてしまうと辛いのではと思って、相手の体を刺激するのは控えるようになっている。
絶対抱く側と主張しながらも、相手任せに気持ちよくして貰うばかりになって、せっかく恋人として対等になりつつあった関係が、逆戻りしてしまったかも知れない。
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