親父のものだと思ってた6

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 もう一度キスがしたいとか、できればそれ以上のこともしてみたいとか、どう言い出すかを迷いながらタイミングを見計らっていたら、相手の方から声がかかった。
「お風呂出たら部屋来てくれる?」
 お前が気にしてることの話をしよう、なんて続いた言葉に、バレバレだったと恥じる気持ちとともに、期待と不安が混ざり合って押し寄せる。
 だって、話をしよう、という言い方が気になる。雰囲気的にも、そういうお誘いって気配がない。でも、わざわざ部屋に呼ばれるという部分で、何か進展するかもという期待をせずに居られない。
「それ、期待していいやつ?」
 こわごわ聞いた問いにはっきりした答えはなく、早くお風呂に入っておいでと急き立てられてしまった。
 期待は弾けて、嫌な予感しかない。だからといって、誘われた話し合いに応じない、なんて真似はできっこない。
 言われた通りに風呂場から直行して相手の部屋のドアを叩けば、すぐにどうぞと返ってきた。
「おじゃまします……」
 ドアを開けて一歩踏み入ってから、そういや相手の部屋を見るのは初めてだと気づく。だって家事をしに来てくれるばかりで、相手の家に行った記憶なんてない。
 彼の家に預けられたのが切っ掛けで親が離婚になったのだから、行ったことがないわけではないのだろうけれど、でも、遠い記憶すぎてまったく覚えていないし、多分その時にだって、彼の部屋に入るようなことはしていないだろう。
 思わずキョロキョロと見回してしまった部屋の中は至ってシンプルで、ベッドの他に目立つ家具はローテーブルと本棚くらいだった。
 結構立派な本棚はまだほとんど本が入っていないが、手前には幾つかのダンボールが積まれている。一足先に入居したとは言え、まだ片付けきっていない部屋は少し雑然としていた。
「こっちおいで」
「えっ……」
 ローテブルの周りに置かれたクッションを勧められるのだと思っていたから、ベッドに腰掛けた相手が、自身の隣を指して呼んだことに驚き戸惑う。
「お前が期待してる展開になるかはともかく、俺だって恋人との同棲で何もナシとか思ってないって」
 期待していいの、は俺のセリフでもあるよね。なんて言いながら笑う顔は、期待に満ちた楽しげな顔とは程遠く、どこか陰りがある。
 やっぱりあんまり楽しげな展開は待ってなさそうと思いながらも、相手に呼ばれるままベッドに向かい、相手の隣に腰掛けた。
「で、話って? 俺が何期待してるかわかってて、恋人との同棲で何もナシって思ってないのに、俺の期待には応えられない、みたいな言い方、めっちゃ気になるんだけど」
「お前さ、俺が男ってわかってるよね?」
「は? 今更?」
「そう。今更。ついでに言うなら、俺はもう30超えたおっさんなんだけど、わかってる?」
「え、それも今更っつうか、それが何か関係あんの?」
「おおありだよ。だってお前、俺のこと、抱きたいって方向で期待してるよな?」
「そりゃあ、出来ればそこまでしたいって気持ちはあるけど。あ、でも、無理させるつもりはないし、男同士の恋人関係、どっちかが突っ込むのが当たり前ってわけでもないみたいだし、一緒に気持ちよくなれるの優先ってか、キスだってさっきやっと一回出来たとこなんだから、まずは触ったり触られたり出来るようになればいいって思ってる、よ」
 父親との関係を疑っていたから、具体的なことを知りたくなくて、男同士の行為に関する知識を調べたのは最近だ。アナルセックスのやり方もそれなりに得たつもりではいるけれど、受け入れる側の負担が大きいのは明白だし、何が何でも突っ込みたいとまでは考えていない。
 まぁ許されるなら、少しずつでも慣らしていって、いつかは相手と体を繋げたい。という希望は当然あるけれど。
「ああ、じゃあ、とりあえずは抱いたり抱かれたり、までは考えなくていいのか……」
 どこか安堵の滲む声で納得気味につぶやかれたけれど、それはつまり、こちらの期待がだだ漏れすぎて、いきなり抱かれるのは無理だという釘刺しがしたかったってことだろううか。
「俺、そんなにがっついてた? 一緒に住んだらもっと恋人っぽいイチャイチャが色々出来るって期待、めっちゃしてたのは事実だけど。でもあなたに嫌われたくはないから、無理にどうこうなんてするつもり一切ないよ?」
「あーいや、そういうんじゃなくて。っていうか、俺もさ、お前と恋人になったら、俺が抱く側になるって思ってたんだけど、って話」
「……えっ?」
「だよな。お前はその可能性を全く考えてないんだろうな、って思ったから、そこ話し合っておきたかったわけ」
 でもまぁすぐに抱いたり抱かれたりまでは考えてないなら追々考えればいいかと、相手はすでにこの話を締めにきている。
 いやいやいや。え、ちょっと、なにそれ知らない聞いてない。
「とりあえず、さっきのキスのリベンジしていい?」
 想定外すぎる話に頭の中がぐちゃぐちゃで、二度目のキスはぼ呆然としているうちに終わってしまった。

続きました→

 
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