理解できない20

1話戻る→   目次へ→

 相手の言い分はきっと何もかも正しくて、もう抱かないという意思が固いことは確かめるまでもなくて、引き止める言葉なんて思いつかないまま、急いでないと言っていたはずの彼はあの会話の後、そう日を置かずしてあっという間にこの家を出ていってしまった。
 彼が居なくなったからと言って、この家の居心地が悪くなったわけじゃない。むしろ彼が居なくなったことで、おじさんやおばさんとの距離は縮んだ。
 おじさんもおばさんも変わらずに接してくれるどころか、彼が居なくなった穴を埋めようと張り切っているようにすら見える。あれこれ声を掛けてくれるし、気遣われることが増えた。
 それを素直にありがたいなと思える気持ちはちゃんとある。ただどうしても、彼がこの家にもう居ないという事実が、寂しくて、苦しい。そんな気持ちも時間とともに慣れるのかと思っていたけれど、そう期待していたのだけれど、どうやらそう簡単にはいきそうになかった。
 彼の残した言葉を、結局一度きりとなってしまったあの日のセックスを、何度もぐるぐると思い返す。どうすれば良かったんだろうと、考えてしまう。
 好きだと言われた時に自分も好きだと返す、なんて対応はどう考えたってあの時の自分には無理だった。事前にそうしろと教わっていたら、間違うことなくそう出来ただろうけれど、でもそれでは意味がないこともわかっている。それはつまり、万が一もう一度抱いてもらえるチャンスを得たとして、その時に好きだと返すのではダメってことだ。だってもう自分は、彼がその言葉を欲しがっていると知っているから。
 ちなみに、もう一度抱いてくれたら今度はちゃんと好きって返すよという提案は、既にした。次はないと突きつけられた直後に、諦めきれなくて縋ったからだ。そして当然ながら、そういう話じゃないしもう抱かないよと繰り返されて、辛さが増しただけに終わった。
 あの時言われた「そういう話じゃない」の意味がきっと、彼が求めているからと差し出す好きの言葉では不十分、ってことなのだろう。そこまでは、多分、当たっているはずだ。
 でもそこに辿り着いたからといって、そこから先は結局無かった。だって好きって気持ちがわからない。さすがにうんと単純な、いい人だな程度の好意は自分の中にだってあるけれど、いわゆる恋愛感情と呼ばれる想いには全く馴染みがない。というよりも、彼のことは間違いなく好きなのだけれど、それを恋愛感情と呼んでいいのかがわからなかった。というか、ダメなんだろう、という結論にしかならなかった。
 だって、いい人だなという気持ちから派生する彼への好意を隠したことなんてない。感謝を示して、体を差し出して、彼とのセックスを楽しみ喜んでも見せたのだ。欠片も好意のない相手に、仕方なく嫌々体を好きにさせるのとは大違いな対応をした。
 だから彼に対する好意がない、だなんてことは、さすがの彼も思ってはいないだろう。けれどそれじゃダメだっていうなら、その好意を恋愛感情へと変化させる方法を教えて欲しかった。体よりも恋愛感情が欲しいというなら、それを彼に差し出せるように努力するのは構わないのに。
 いっそ、高校を卒業したら抱くという約束とともに、恋愛感情を育てて欲しいとも言ってくれていれば、とも思う。それなりの時間があったのだから、あれこれ試行錯誤しつつ、彼への好意を愛だ恋だと呼べるような想いへ、受け取る彼が満足のいく想いへ、変えられたかも知れないのに。
 でももう彼はこの家を出てしまったし、なぜ学生の間にこちらの想いを変える機会をくれなかったのだとも、このどうしようもない寂しさや、彼が求める想いをどうにか育ててそれを差し出せたらいいのにと考えてしまう気持ちをどうすればいいのだとも、気軽に聞ける関係ではなさそうだ。

続きました→

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です