雷が怖いので35

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 ぐずぐずと悩んでいるうちに、日々はどんどんと走り過ぎていく。
 ぐるぐると一人で考えても答えが出るわけでもないのに、自分たちの関係についてを正面切って彼と話せる覚悟はまだなく、ここ最近浮かない顔を見せ続けてしまう理由は、早々に今は卒業研究が忙しくてと告げてあった。もちろん学業が忙しいのも嘘じゃないけれど、卒研が上手く行ってないのか? と聞かれて頷くのは、半分は嘘だからやはり心苦しい。
 そうやって予防線を張って逃げて避ける話題ではあるが、彼から今後について持ち出されたら、その時は向き合わなければならない事はわかっていた。しかし、ちょこちょこと卒研の話題にも、就職の話題にも触れるのに、彼から卒業後の話を出される事もなかった。
 話題を出されない事に安堵するくせに、何も言われないことで不安は膨らむのだから、どうしようもない悪循環に嵌っている気がする。
 寒くなってくると、今後への不安に、強い寂しさまでもが混ざり出した。抱きしめられていてさえ、人肌が恋しいと、わけのわからない感情が湧いてくる。ぎゅうと抱き返しても、人肌恋しさはあまり癒やされてくれない。寒くないのに、なんだか寒いなと思ってしまう。
 寂しいのも寒いのも、彼と過ごせる時間の残りを数えてしまうせいだとわかっていた。何も言われていないのに、何も言われないからこそ、終わることを想像せずにいられない。
 12月の三回目の土曜日の帰り際、来週泊まってみたい場所があると言ったら、さすがに随分と驚かれた。
「そういう事はもっと早く言え。来週、何があるかわかってんのか」
「えーっと、クリスマス?」
「わかってるなら、空きがなかったら諦めろよ。で、どこ?」
 言われて初めて、今年は週末が思いっきりクリスマスに被っていることを意識した。
「あ、待って。もしもう泊まるところ決まってるなら、いい」
「お前がそういう事言うの珍しいし、取り敢えず言ってみろって」
「クリスマスとか、考えてなかった。せっかく予約入れてくれてるなら、そっち行きたい」
「ふーん? まぁ、それならそれでいいけど。で、お前が泊まりたいとこってどこ? 来月でいい?」
「どこ、って………ここ、なんですけど」
「は?」
 意味がわからないと言いたげな顔をされたけれど、これはまぁ想定内。
「ここはここです。外に出かけるんじゃなくて、家で過ごすのもしてみたいなって、思って。ここに泊まるのダメ、じゃないです、よね?」
 だって泊まっていけばと言われたことはある。初めて抱かれたあの日の夜だ。
 三万円の入った封筒を受け取ったので、今日のバイトは終了なのだと思って帰ろうとしたら、随分遅くなったし疲れてそうだし泊まって行けばと言われて酷く驚いたのを覚えている。本日分の給料を払うと言い出したのは彼の方で、それはお金を受け取ってさっさと帰れという意味だと思っていたから、尚更の衝撃だった。
 雨も上がっているしたいして遠くもないからと断り帰ったけれど、断った一番の理由は別のところにあった。わかったと言いつつも三万しか支払っていないことに不満がありそうだったから、朝まで居続ける事で、時給分として上乗せしたいのかと思ったのだ。
「なぁそれ、家にシェフ呼んでディナーしたいとか、そういう話じゃねぇよな?」
「え、家にシェフ呼ぶってなんですか?」
「あー……そういうサービスもあるんだよ。家まで料理人が来てくれる」
 へぇーと素直に感心してしまったら、じゃあ来月はそれにするかと言われて、慌ててそうじゃないと否定する。
「そういう贅沢がしたいわけじゃなくて、ただ家でのんびりダラダラ過ごす遊びがしたいってだけですってば」
「家でのんびりダラダラする、遊び……?」
 何それ意味がわからないと言いたげに眉を寄せるから、思わず一緒になって眉を寄せてしまった。お家デートがしたいなんて感覚を、理解して貰えないのはきっと仕方がない。
「じゃあずっとベッドの中で裸でひっついて過ごしたい。とかでもいいです。ホテルのベッドじゃなくて、朝、あなたのベッドの中で目が覚めたい」
「ああ、そういうの。じゃあもう今日、泊まってけば? この後予定あるわけじゃないんだろ?」
「え?」
「あ、いや、やっぱ来月にするか。賃金も払わず、それに代わる何かを提供することもなく、長時間引き止めるのも悪いし、バイトの日にそのまま泊まっていけばいい」
 さらりとこういう言葉が出てくるから、自分は金銭契約された愛人なのだと思い知らされる。
 でも泊まっていいのだということはわかった。なんだか酷く寂しくて、少しでも長く彼と過ごしたいと思っているところに、そんな提案をされたら飛びついてしまう。バイト代を受け取れば、バイトの日にも泊まっていいって話になるとは思わなかった。

続きました→

 
 
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