雷が怖いので34

1話戻る→   目次へ→

 どれだけ恋人みたいなデートを重ねたって、甘やかな時間を過ごしたって、それが決められた日の決められた時間を越えることはない。
 想いが溢れて好きだとこぼしても、好きだと返ったこともない。ただそれを申し訳なく思う気持ちはあるようで、だから自分から、好きと言ってしまった時はたくさんの優しいキスをしてと頼んであった。それは律儀に守られて、バイトとして行うプレイの最中でさえ、たくさんの優しいキスが降る瞬間がある。
 彼は、恋愛感情どころか、特定の誰かを好きだという感情さえわからないと言った。知識としては持っているが、そういった感情を強く自分の中に持ったことはないという意味で。
 生きてきた世界が違いすぎるから、きっと恋人にはなれない。その言葉は、彼と彼の過去を知るごとに、何度も思い出した。
 今は大学に通うために一人暮らしをしているけれど、それでも実家には両親と弟と妹がいて、彼らの愛を疑ったことなんて無い。自分の身に何かあれば彼らは自分を助けようとしてくれるはずだし、逆の立場なら、自分だって自分に出来ることを必死で探して彼らの力になりたがるはずだ。
 そんな自分にとっては当たり前の家族の情さえ、彼からすれば現実味のない遠い世界の話でしかない。
 彼の親はまだ未成年だった彼を、どんな扱いになるか知っていながら売ったというから、そんな相手に情も何もないのはわかる。そして、彼の体にたくさんの傷と、逆らうことを許されない所有物であることを刻み込んだ相手に、好きどころか苦しいとか辛いとかそういった感情全てを殺されたのだということもわかる。
 話を聞いてどれだけ憤って悲しくなっても、彼にとっては既に過ぎてしまったことだし、彼の親もかつて彼を所有していた人も、今はもうこの世にはいない。所有物ではあったけれど、きちんと必要以上の教育を受けさせて貰ったし、していたことの対価は遺産の中から十分に支払われたからいいのだと、彼は納得済みだった。
 そんな相手に、好きになって、なんて言えるわけがない。願うことさえ、出来そうにない。
 好きという感情がなくたって、間違いなく大事にはされていると思う。今現在、自分以外に彼がプレイを行う人間が居ないことも知っている。
 でも大学を卒業して、彼からのバイト代を必要としない生活を始めた先も、引き止めて貰える自信は欠片もなかった。
 別にあって困るものでもなし、お金を受け取って、この関係を続けたいと言えばいいのかもしれない。彼との関係が終わるくらいなら、それでもいいと思うこともある。ただそれを、彼が受け入れてくれるのかは、やっぱりわからなかった。
 彼からお金を受け取るのが辛いくらいに好きだと言ってしまった過去を、彼は間違いなく覚えている。お金が必要な自分に、つけ込んでいる部分はあると零したことが、関係を大きく変えたあの直後に一度だけあった。まだ就活を始める前だったし、バイトとしてではなく彼と過ごす時間が出来てふわふわとどこか浮かれていたから、必要なくなった時はどうするつもりかなんて聞かなかった。今はそれが、酷く知りたい。
 彼の過去に何があったかを聞くことはあっても、それを受けて、彼と自分の関係がどういうものなのかという話は全くと言っていいほどしていないのだ。バイトとしてお金を受け取らない半月分が、どういう名前の契約なのかも、実のところ聞いていない。なんだかんだ随分とお金をかけて貰っているから、結局、それも含めて愛人契約続行中なんだろうとは思っているけれど。
 出会った直後に愛人契約なんて言い出したのも、逃げようとした自分を引き止める程度の執着があるらしいのも、多分きっと彼の過去と全く関係がないはずがない。そこまでは予想がつくのに、自分が何であるかを彼の口からはっきりと知らされるのはやはり怖かった。

続きました→

 
萌えたらポチッと応援よろしくお願いします。

1話完結作品/コネタ・短編 続き物/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

  • Pocket
  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コメントを残す




Menu

HOME

TOP