彼女が欲しい幼なじみと恋人ごっこ(クリスマス)

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 今日はまず、昨日渡した手作りの問題集を目の前で解いてもらう。
 前日に渡しているのだから、予習次第でそれなりの正答率にはなるだろう。けれど彼が苦手な問題を集めたこともあるし、今までの様子からも、5割正解すれば良い方だと思っていた。
「どうだった? かなり手応えあったんだけど」
 そわそわと採点を待っていた相手は、採点が終わるやいなや、自信と不安とを混ぜて聞いてくる。
「正直驚いた」
「8割いった?」
「どうかな。それくらい行ってそうな気もする」
「数えていい?」
「いや、必要ない」
「えっ?」
「いいよ。お前がちゃんと頑張ってるのは認める」
「じゃ、じゃあ、キス、しても……?」
「だからいいってば」
 それは昨日の約束だ。
 カラオケ終了間際に、意を決した様子でキスをねだられたが断った。迷う素振りすら見せずに即断したのが気に入らないのか、そもそもクリスマスプレゼントが問題集だったのもやはり引きずっているのか、共に帰る道すがら、彼はずっと不機嫌だった。
 隣で垂れ流す文句の中には、親友が上手くやっているかを気にする単語も多々散りばめられていたから、結局は親友への対抗意識なんだろう。まぁ、恋人からのプレゼントが手作り問題集では、ごっこではなく本物の彼女がその親友を想って選ぶプレゼントに遠く及ばないのはわかる。
 けれどその親友は元々彼より成績が良いし、聞いた所によれば推薦で既に大学も決っている。そんな親友相手に、恋愛絡みで対抗意識を燃やしてる場合ではないのにとため息を吐けば、不機嫌はとうとう怒りに変わったようだった。
 もっとちゃんと恋人っぽいことしてよと睨まれて、十分してると言い返したら喧嘩になってしまった。
 だいたい、やる気を見せろと言ったのに、本当に彼女が出来た時の予行演習の方に随分と気持ちが持って行かれて、大事な時期なのに妙に浮かれすぎている。それを指摘したら、ちゃんとやってるのに何も見てないと、更に火に油を注ぐ結果になった。
 互いに白熱して言い合いを続けてしまった結果、最終的に、翌日の家庭教師時間に渡した問題集を8割解けたら頑張りを認めてキスさせる、という事になっていた。
 問題集を作ったのは自分だから、絶対に無理だと思っていたのに。
「なんで怒ってんだよ」
 剣のある言い方になったのはそれなりに照れを感じているからで、けれど正直にそう伝えるのは悔しい。
「怒ってない」
「声が怒ってるだろ。そんなに俺にキスさせるの嫌なのかよ」
「嫌だなんて思ってねーよ。そもそもキスをもったいぶれるほど、お綺麗な体じゃないもんで」
「いやそれは……ゴメン」
 謝られたのは、昨夜の言い合いでそれを言ったのが彼の方だからだ。確かに彼の言うとおり、キスひとつを渋るようなウブさは持ち合わせていない。それに、恋人になってやると持ちかけたのだって自分の方からなのだし、相手が彼だから嫌だと言える立場にだってないだろう。
「別に、本当のことだし。ただ、物好きだなと思うくらいだ」
 ファーストキスが男でいいのかと続けたら、初めてじゃないしと返されて驚いた。
「は? お前、彼女いた事あったの?」
「ないけど。てか覚えてないならいいよ」
「お前のそんな話、聞いたことあったっけ?」
「それはいいって。それより、キスしていいなら目くらい閉じてよ」
「まさかテーブル越しにするのか?」
 目の前にある座卓はさして大きくないから、机越しでも不可能ではなさそうだけれど、それでもやっぱり間にそんなものがあるのは邪魔な気がする。
「ならそっち行くからな」
「いいよ。おいで」
 了承すれば、彼はあっという間に座卓を回りこんできた。
 正座という姿勢を笑いかけたが、その真剣な顔に笑いは喉の奥で消滅した。気圧されて黙ったまま見つめ返せば、やがてそっと頬に片手が伸ばされる。まさかと思うが、その手はどうやら微かに震えていた。だからきっと、こちらを睨むような表情も、怒っているのではなくて緊張しているからなのだろう。
 なるほど。これは思っていたより重症だ。童貞の実態を舐めていた。
「俺相手にそこまで緊張するなよ」
「わかってるよ。でもわかっててもどうしようもないのっ!」
 ただただ緊張しているのだと分かって、思わず苦笑を漏らせば、苦々しげに言い放たれる。
「確かに俺相手でこれじゃ、女の子との本番前に色々練習しておきたいよなぁ」
「ちょっ、そんなんじゃ」
「いいっていいって。ほら、これでいい?」
 言いながら目を閉じた。
 どれだけ緊張しているのか、暫く待たされてからようやく唇にやわらかな熱が押し当てられる。バレたら怒るかなと思いつつも、好奇心からそっと瞼を持ち上げた。
 至近距離でぼやけていてもわかる、赤くなった頬とかすかに震える睫毛に、ごっこの恋人相手にもそんな反応をしてしまう彼が、初々しくてなんだか随分と可愛らしい。
 けれどわかっている。きっとそれは気づかないほうがいい感情だ。

続きました→

 
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