いつか、恩返し28

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 大学4年の夏前には内定を貰っていたが、親への報告はしなかった。従兄弟が大学院へ行くつもりだと知った親に、お前も行けと言われていたからだ。せっかく詳しい事情などそう簡単に伝わらない距離にいるのだから、自分から伝えて親の機嫌を損ねるなんてバカらしい。
 そんなわけで、親から電話が掛かってきたのは、従兄弟が大学院合格を自分の親へと知らせた翌日のことだった。近所に住む親戚ではあるけれど、それにしたって情報の伝達が早い。
 お前の方はどうなってるんだ、ちゃんと合格してるんだろうな、なぜ何も知らせてこないんだ、というほぼ一方的な親の言い分をとりあえず全部聞き流した後、そもそも院試など受けていないこと、内定はとっくに出ていること、就職先は当然都内であることなどを告げれば、怒り狂った親に勢いで縁切りと仕送り中断宣言をされたけれど、残り数ヶ月の大学生活を凌げる程度の蓄えはある。さすがに親子の縁を切るとまで言い出したのは驚きだったが、こちらが困ればいいという下らない理由なのは透けていたので、どちらかと言えば開放感の方が大きかった。
 親に縁を切ると言われたって、親が考えるほどには困ったりしない。こちらは後数ヶ月で社会人だし、成人済みだし、従兄弟だっているのだから。
 しかしそんなこちらの気持ちを、傍らで電話を聞いていただけの従兄弟が知る由もない。
「仕送り中断、までは読めてたんだけど、ごめん」
 随分と申し訳無さそうな顔をされてしまって、少々焦る。
「なんでお前が謝るんだよ。むしろお前には感謝しか無いのに」
 院に進む気がないことを、出来る限りギリギリまで隠して置いたほうがいいと言い出したのは従兄弟の方だけれど、その時に二人で色々と相談して、最終的に決めたのは自分だ。それにもし正直に親に伝えていたら、もっと早い時期に仕送りを切られていたかもしれない。
「でもさすがに縁を切るって、大事だろ。随分話が大きくなっちゃったなって」
「あー、いいよいいよ。ほぼ勢いで言ったっぽいし、向こうが困ればシレッとなかったことにして、連絡してきたりしそうだしさ」
「でもお前が困った時は?」
「親よりよっぽど、お前のほうが頼りになると思ってるんだけど」
「え、俺?」
 随分と驚かれたことに、こちらまで驚いた。そこまで驚くようなことを言ったつもりはないんだけど。
「なんだかんだ親に一筆貰うのが楽、って場面は多いと思うけど、保証人関連で真っ先に出てくるのって賃貸関連だし、他にパッと思い浮かぶの、入院だとか手術だとかする場合くらいなんだけど。あー後、緊急連絡先?」
「そりゃ遠くの親より近くの親戚のが頼りやすいだろうけどさ」
 呆れている、というよりはどうやら困惑が強い。困惑させるような事を言ったつもりもないんだけど。
「緊急連絡先が俺になるのは全然いいよ。病気や怪我した時に手を貸したり、入院だ手術だで同意書だの保証書だのにサインするのまでなら俺でもなんとかなるだろうし、逆ならお前がサインする場合もあると思う。今よりは離れるだろうけど、実家よりよっぽど近いとこに住むだろうしさ。でもさすがに大学院生が賃貸の保証人にはなれないだろ」
「あー、それなんだけど、」
 今よりは離れる、と当たり前に口に出されたことで、相手の中では卒業後、お互い別々に新しい生活を始める事になっているんだなと思う。就職した自分が卒業後にどこに住むつもりでいるかを言ったことはないし、そもそも勤務地だってまだはっきりしていないのだけれど、他大学の大学院に進む彼の方は、その大学近くへ越すのが決定済みなんだろう。

続きました→

 
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