雷が怖いので13

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 翌週土曜の夕方、どうしたって期待に高鳴ってしまう胸をそっと押さえて、玄関ドアの前で深呼吸を繰り返す。
「何やってんだお前」
 不意に掛かった声にビックリして、慌てて声のした方へ振り返る。
 玄関とは別にガレージに繋がる出入り口があることは、初回にそこから家に入ったので当然知ってはいた。でも今までバイトに訪れた時は必ず彼が玄関を開けてくれていたから、ガレージから彼が向かってくるなんて想定外も甚だしい。
 ガレージ前を通って玄関に向かう構造なのに、さっきは人の気配なんてなかったはずだ。いったいいつからそこに居たんだろう。
「な、なんでっ」
「あー、お前いつも時間通りに来るから、そろそろかと思って出てきたとこ。てかお前、いつもチャイム鳴らす前ってそんななの?」
「ち、ちがっ、だって今日、は」
「俺に誕生日祝われるの、楽しみ?」
「そりゃあ……」
「そ、なら良かった。じゃ、車乗って」
「えっ、車?」
「そう。せっかくだからお出かけ。いーとこ連れてってやるよ」
 戸惑うこちらなどお構いなしに連れて行かれた、彼が言うところの「いーとこ」は大きな有名ホテルだった。そこにあるということは知っていたが、もちろん泊まったことはない。それどころか、ホテルの敷地内に足を踏み入れることすら初めてだ。
 既にチェックイン済みだったのか、いきなりエレベーターに乗って向かった高層階のとある一室は、自分の経験上にあるホテルの部屋とはまったく違う、広々と綺麗な空間だった。しかもテーブルセットの真ん中に置かれた皿の上には、Happy Birthdayのプレートの乗った小さなケーキが、まるで部屋に入る直前に用意されたみたいに置かれている。
 あまりに未知の世界過ぎて、感動するとか嬉しいとかよりも、なんだか呆然としてしまう。
「驚きすぎて言葉も無い、みたいな顔だな」
 いたずらが成功したみたいな顔で笑っているから、そんなこちらの反応をどうやら楽しまれているとわかって、少しばかりホッとした。
「だって、こんなことしてくれるって、思ってなかったから」
 ただ一緒に食事をして、一緒にお酒を飲むだけだと思っていた。もちろん場所だって、あの家のリビングでだと思っていた。
「ありがとう、ございます。嬉しい」
 うん、そうだ。彼の中で自分がどんな位置づけなのかわからないけれど、金を払ってエロいことを仕込んでいく遊び相手というか、遊び相手ですらない玩具みたいなものである可能性も考えてしまう事がある身としては、たとえそれが真実だったとしても、誕生日をここまでして祝われるのは、なんだか大事にされているみたいで凄く嬉しい。
 本気で喜んで笑ったせいか、相手は少し照れたようだった。
「ばーか。喜ぶの早すぎ。今日は一緒に酒飲むのがメインだって言ったろ」
 そう言いつつも、まんざらではなさそうな顔をしている。
「本番こっから先だから。というか、お前、今日はどうする? いつもみたいにプレイっぽいこともする気、あるか?」
 ただただ黙って食事と酒に付き合うだけでも一泊したら軽く二万は超えるだろと言う言葉に、この瞬間も時給千五百円が発生していると知って驚いた。
「え、これ、バイトなんですか?」
「お前が俺と過ごす時間は全部バイトと思っていい。そういう契約をしたつもりだからな。で、どうしたい?」
「します」
「即答かよ」
 相手が苦笑した理由はわかる。迂闊だの警戒心が足りないだの散々言われて来たのに、またしてもされることの内容を一切確かめずに応じたからだ。でも今日は、ちゃんとわかってて頷いた。
「だって、誕生日祝ってもらうの、凄く、嬉しいから。何されても、しろって言われても、今日は頑張れそうな気がするから」
 相手はますます苦笑を深くして、お前は本当に迂闊だねと口にする。
「そんなこと言われたら、お前の許容量超えて無茶したくなるかもしれないだろ」
 紳士だって煽られたら暴走しないとは限らないぞなんて言うから、いつものプレイはあんなに泣かされても、やっぱりちゃんと冷静に止め時を判断されているのだなと思った。
 もしいつか彼に暴走されたら、嫌だ無理だもうこんなバイトは辞めるって、思うのだろうか?
 なんとなく、そんな彼を見てみたい気もするし、それすらちょっと嬉しく感じる可能性がありそうなんだけど。
「いい、です、よ」
「煽んなばーか。ま、無茶してせっかくの誕生祝い台無しにする気はねーから、期待していいぞ」
 お前もどうやら意欲満々だし、今日は目一杯かわいがってやるから覚悟しなと、すこしばかり意地悪く、そして楽しげに笑う顔に心臓が跳ねた。

続きました→

 
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