Wバツゲーム7

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 そういえば、こんな話を人にするのは初めてだなと思った。
 彼女に前カノとの話をするほど無神経ではないし、男友達とだって女の子との具体的な行為の話はしないようにしている。もし罰ゲームで期間限定とは言え一応恋人となった相手が、女の子だったり元からの友人なら、やっぱり話はしなかったと思う。
 目の前に居るのが、罰ゲームで告白してくるまでこちらを認知していなかった、自分に欠片も惚れてない、友人でもない後輩の男の子だった上に、これからまだ半月以上を恋人として過ごさなければならない相手だったから、つい話してしまった。話してもそれを人に広めるような事はしないだろうという、全く根拠のない信頼を、なぜかこのたった数日で相手に感じているらしいのも大きい。
 不思議だなと思いながら相手を見つめていたのが悪かったのか、相手の顔が更に赤みを増していく。さすがに悪いなと思ってそっと視線を落としたら、それを待っていたかのように相手の声が聞こえてきた。
「あの、いいんすか?」
 しかし躊躇いがちに聞かれたその言葉の意味がわからない。落としていた視線を戻してしまえば、そこには赤い顔のままの相手が言うかどうかを迷う様子でこちらを見つめていた。
「えっと、良いのかって、何が?」
「恋人として、俺がやることの話、っす。さっき、なるべく一緒にご飯食べて欲しいだけって、言ってたっすよね」
 促すように聞き返せば、やはり躊躇いがちに言葉がゆっくりと吐き出されてくる。赤くなっているのはもしかして、女の子との話を聞かせたからだけじゃなく、それを今の自分の身に置き換えて考えてしまったのもあるのだろうか。
「なら、もし俺が、罰ゲームでも恋人は恋人なんだからイチャイチャさせてって言ったら、どうすんの?」
「エロいことすんのはちょっと……」
 小さく笑って意地悪く聞いてみたら、思った通り引かれてしまって苦笑が深くなる。
「じゃあ良いのかなんて聞くなって」
「や、でも、抱っことかおんぶくらいなら、してあげれるっすけど」
「え、抱っこにおんぶ?」
「肩車もやればできそうな気はするんすけど、ここでやったら確実に天井に頭打つっすよね」
「あ、ああ……さっきのあれか。てかなかった事にしてくんないのかよ」
 ようやく相手が何を言っているのか理解した。
「もしかしたら嬉しいかもって、言ってたんで」
「お前さ、もしかして俺を喜ばせたいの?」
 だから平日の夕飯にも付き合ってくれるし、こうやってご飯作りに来てくれるし、抱っこやらおんぶまでしてくれようとするんだろうか。そんな疑問は、すぐさまあっさりと肯定された。
「え、はい」
「なんで? これ、お互い罰ゲームだよ? お互いっていうか、どっちかって言ったらお前は俺の罰ゲームに巻き込まれてるんだよ?」
「それは……」
 サッと視線を逸らしたから、これは何か隠してるなと思う。
「それは、何? 俺に何かさせようとでもしてる? 喜ばせたお礼よこせみたいな」
「お礼よこせ、とまでは言いません、けど」
「でもなんか下心はありそうだな。怒らないから取り敢えず言ってみ?」
 エロいことがしたいわけじゃない下心ってなんだろうという純粋な興味と、相手ばかり恋人としてあれこれさせている心苦しさで問いかける。ただの罰ゲームでありながら、相手が相手のできる範囲でこちらを喜ばせようと頑張ってくれているのがわかるから、自分だって自分に出来そうな事なら返してやりたいと思う程度の想いはあった。
「あの、出来ればでいいんすけど、バスケ、教えて欲しくて……」
「は? バスケ?」
 思いもかけない単語が飛び出てきたせいで、呆気にとられてその単語だけを繰り返す。
「そ、っす。先輩、中学ん時はバスケ部レギュラーだったんすよね?」
 県大会常連校のと続いたので、どうやら自分の噂は恋愛絡み以外のものもあれこれ彼に流れているらしいと知った。というかバスケ部なんだから、バスケ関連の話が流れているのは当然と言えば当然かも知れない。それどころか、現バスケ部の同学年メンバーを考えたら、彼が聞かされた自分の噂はそっちの話のがメインかもしれない。
「確かにそうだけど、辞めてからどんだけ経ったと思ってんの。高校入ってから一切やってない俺に、今更、現役バスケ部員のお前に教えられることなんてないだろ」
「そんなことないっす。というか、先輩らに教わってこいって、言われてて」
「あー……それでお前、俺の機嫌取ってんのか」
「そういうわけじゃ」
 少しだけガッカリしている自分には気付いたけれど、さすがに目の前の後輩に八つ当たる気にはなれず、大きく息を吐いて気持ちを落ち着ける。
「いいよ別に。けどホント、何か教えられるとは到底思えないんだけど、いったい何教えてほしいわけ?」
「なんでも。と言うか俺、めちゃくちゃ初心者なんで。きっと教われることたくさんあると思うっす」
「は? 初心者?」
 やはり思いがけない言葉に驚いて、その単語を繰り返してしまった。

続きました→

 
 
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