実家暮らしではあるが、土日休みの両親と違って平日休みの仕事なので、休みの日の朝、家の中は本来ひどく静かなものだ。しかし今朝は自室を出たところですぐに違和感に気づいた。
ぼそぼそと人の話し声が聞こえる。というよりは、どうやらリビングのテレビが点いているらしい。
消し忘れなんて随分と珍しい。そう思いながらも、とりあえずテレビはそのままにトイレを済ませて顔などを洗う。どうせ朝食を摂りながら自分もテレビを点けるのだから、別にそのままでもいいか、という判断だ。
あれ? と思ったのは、顔を洗い終わって水を止めた時だ。先程まで確かに小さく漏れ聞こえていたテレビの音が聞こえなくなっている。
どういうことだと疑問に思いはしたが、それでも、リビングに誰かがいるとは考えなかった。休みだと聞いては居ないが、もし親が居るならこのタイミングでテレビを消す意味がわからないし、親が居ないのに客だけそこに居るなんて考えるはずもない。
だから無造作にリビングの扉を開けてしまったし、どうやら自分が入ってくるのを待っていたらしい相手と思いっきり目があってしまって、相手が誰かを認識するより先にまずは驚いて悲鳴とも言えそうな声を上げてしまった。腰を抜かして尻もちをつく、なんて醜態をさらさずに済んで良かった。
「うぎゃっ」
「おはようございます。やっと起きたんですね」
待ちくたびれた様子の、呆れた声が掛けられる。親が仕事に出る前には来ていたのだろうから、確かに何時間も待たせてしまったのだろうけれど、でも来るなんて一言だって聞いてないし、なぜここに居るのかも謎すぎる。
「おはよ。つか、え、なんで?」
そこに居たのはけっこう年の離れた従兄弟だった。同じ市内在住ではあるが、ご近所と言えるほど近くはないし、そもそも年が離れすぎてて個人的な交流などない。なんせこちらが中学生の頃に生まれたような子だし、彼が小学校に入学したくらいで、正月に祖父母宅に集まるようなこともなくなっている。
祖父が亡くなったあと、祖母が老人ホームに入居したせいだ。
老人ホーム絡みで親同士はそれなりに連絡を取り合っていたのかも知れないが、年の離れた子供同士が顔を合わす機会はなくなり、祖母の葬儀で久々に顔を合わせた時には彼は中学生になっていたし、自分はもう社会人だった。中学生の彼と、祖母の葬儀で会話を交わした記憶がほとんどない。多分、軽く自己紹介的な挨拶をした程度だと思う。
それから法事で何度か顔を合わせるうちに、多少の雑談はするようになったが、3回忌から7回忌まで4年ほど空いた間はなんの音沙汰もなかったのに。
「この前の法事で、もうすぐ二十歳だって、言ったの覚えてます?」
「ああ、そういや言ってたな」
「先日、誕生日を迎えたので」
「ああ、うん、おめでとう?」
まさか誕生日プレゼントをねだりに来たってこともないだろう。おめでとうとは口にしたけれど、さっぱり意味がわからないままなので、語尾は疑問符がついて上がってしまった。
「その、一緒にお酒を飲みに行ける年齢になったので」
「え、ちょっと待って。俺と一緒に飲みに行きたいって話? え、なんで?」
ますます意味がわからない。酒が飲めるようになったから、という理由で、たいして交流のない従兄弟をわざわざ誘う理由なんてあるだろうか。
「一緒に飲みに行きたい、の前に、ちょっと確認させてほしいんですけど」
「確認? 何を?」
携帯を取り出して何やら操作したあと、画面をこちらに向けてくる。そこに表示されていた画像に、ザッと血の気が引く気がしたし、彼が何を確認したいかも察してしまった。
「これ、あなたですよね?」
そこには趣味で上げている動画が映し出されていた。
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■
HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁