キスしたい、キスしたい、キスしたい

寝ぼけてキスをしたの続きです。

 共同生活ルールの中には、従兄弟が在宅中に食事を作る場合は従兄弟の分も一緒に作る事。というのがある。
 比較的自由にさせて貰ってはいるが、こちらは学費と従兄弟へ払う家賃(激安)以外の生活費はバイトで賄う大学生だ。自分がここに放り込まれた主な理由はどう考えても親の経済力だが、従兄弟がそれを受け入れた理由ははっきり知らない。ただ、共用部分の掃除と洗濯と買い出しとたまの簡単な食事作りで、大半の生活費を向こうが負担する条件を提示してきたのは従兄弟なので、こんな自分が適当にこなす家事でも、一応役には立っているのかもしれない。
 自分で買い物をしている手前、それがどれだけ割の良い待遇かはわかっているつもりだ。自分のバイト代だけで食費も雑費も遊ぶための小遣いも全部賄う事を考えたら、多少家事が増える方が断然いい。二人分だからといって手間が二倍になるわけじゃないのだから尚更だ。
 そんなわけで、あんな事があった後ではあるけれど、今から少し遅めの朝食を作る以上、やはり彼の分も考えなければならないだろう。とすると、まずは食事がいるかどうかの確認が必要だ。家に居るからと勝手に作って無駄になった事が数回あって、残された分を捨てたのを怒られて以降は、確認も必須になった。
 リビングを出た所でかすかに水音が聞こえて来たので、どうやら従兄弟はシャワー中らしい。あの状態なら、自分だってまずはシャワーを浴びるだろうから、なんの不思議もないけれど。
 なのでそのまま洗面所に入り、バスルームの扉を軽く叩き、少しだけ扉を開いて声をかけた。
「ちょっといい?」
 従兄弟は髪を洗っている最中で、振り向くことはなかったが、それでも返事はしてくれる。
「どーした?」
「朝飯作るけどいる?」
「ご飯と味噌汁なら食べたい」
「冷凍のご飯でいいなら。もしくは炊飯器のセットだけする」
「チンでいーよ。よろしく」
「出たらすぐ食べる?」
「食べる」
「わかった」
 言って扉を閉めた。その後はリビングに戻って、二人分の朝食を用意する。
 自分一人が食べる弁当類は自腹だが、食材なら従兄弟が出してくれるおかげで、自炊率は高い方だ。しかしだからと言って料理が上手いかどうかは別だった。
 朝食の用意と言ったって、冷凍しておいた白米をレンジに突っ込み温めている間に、お湯を沸かしてインスタント味噌汁を作って、二個の卵を目玉焼きにして、一袋分のソーセージを焼き、後はご飯のお供系瓶詰め類をテーブルに並べるだけの簡単すぎるお仕事だ。なお卵二つとソーセージの大半は自分の胃袋に消える計算で焼いている。多分従兄弟はそれらにほとんど箸をつけないだろう。
 自分的には十分だけど、これ絶対また野菜が足りないとか言われるメニューだ。なんてことを、並べ終わったテーブルの上を見つつ思っていたら、風呂から上がった従兄弟がさっぱりとした様子でリビングに戻ってきた。
「野菜足りない?」
 言われる前に自分から言ってしまえと口にすれば、テーブルの上を確認した従兄弟はあっさり足りないと返してくる。
「自分で足す? 俺に作れって言うなら作る物も決めてよ」
「いや、足りないけどお前がいいなら今日はいーわ。でも卵残ってるなら出して。生卵。卵かけごはんしたい」
「わかった」
 冷蔵庫から出した生卵を小鉢に割り入れて、醤油と共にテーブルへ運ぶ。
「はい。これでいい?」
 席に着いた従兄弟の前にその二つを置き、さて自分も席に着こうと移動しかけたら、従兄弟に腕を掴まれた。
「なに?」
「どうよ」
「どうよって何が?」
「さっきの、小汚いおっさんてやつを訂正して欲しいなーって」
 にっこり笑って見せる顔は、じゃっかん作りモノめいている。笑顔がなんとも胡散くさかった。
「えー……」
 確かに今の格好を小汚いおっさんとは言わないどころか、こうしてラフな服装だとむしろ実年齢より若く見えるけれど、言われるまま訂正してやるのはなんだか納得いかない。だって思い出さないようにしているだけで、小汚いおっさんにキスされた事実は変わらないのだ。
 そう言ったら、じゃあキスする? などと返ってきて、まったく意味がわからない。
「はあぁ?? なんでそーなる」
「トラウマかわいそうだし上書き」
「小汚くなくてもおっさんに変わりないし。おっさんにキスされたらどっちにしろトラウマだよ」
「んなこと言われるとますますしたくなるな」
「だからなんでだよっ!」
 変態かよと言っても否定されなかったから、どうやら従兄弟は変態のお仲間ということで良いらしい。普段は下の名前にさん付けで呼んでいるが、今度から変態さんとでも呼んでやろうか。
「おっさんのテクでトラウマとか言えないくらいには良くしてあげるから、まぁちょっとキスくらいさせなさいよ」
「バカじゃないの! 絶対やだ」
 ちょっと焦りつつ掴まれた手を振り払ったら、めちゃくちゃ楽しげに笑われた。からかわれただけっぽいとわかって、ホッとしつつも腹が立つ。
 さらに面倒なのは、このやり取りがあってから、たまに思い出したようにキスしようかと言われる事だ。
 遊ばれてるのは悔しいし、時々本気かと思ってドキッとさせられるのはもっと悔しい。悔しさのあまり最近は、いっそのことキスの一つくらいしてしまおうかとまで思い始めている。

レイへの3つの恋のお題:寝ぼけてキスをした/キスしたい、キスしたい、キスしたい/あと少しだけこのままで
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