あの日の自分にもう一度3

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「いやだって、どうしていいかわかんなくて。この格好であぐらは無しだろ。で、アヒル座りできないし、横座りより正座のが長時間体をまっすぐ保てそうで」
「まぁそれは……けど、足痺れんだろ?」
「出来ればそうなる前に終わって欲しい」
「んじゃキツくなったら声かけろよ」
「あ、じゃあ、そーする」
 途中休憩可の提案にありがたいと思いながら頷けば、化粧品類を纏めて突っ込んだ籠を手に、正面に腰を下ろしてくる。
 龍則は胡座なのに視線があまり変わらないのは身長差があるからか。なんてことをぼんやりと思いながら相手の手元を見つめていれば、迷いなく取り出したものの中身をスポンジの上に乗せていく。
「そういや、なんでそんな慣れてんの?」
「んー、慣れてはない。この前紘汰にやったのが初めてだし」
「え? とてもそうは見えないんだけど」
「姉貴居るからだろ。実家いた頃に過程というか工程見る機会は結構あったし、そのせいじゃね?」
「へぇ」
「ほら、塗るから目ぇ閉じて」
 龍則の手に摘まれたスポンジが眼前に迫って、慌てて目蓋を下ろせば、すぐに頬の上にぺとりとした感触が押し付けられる。二度目ではあるが、なんせあの日はしこたま飲んでいた酔っ払いだったので、正直、化粧をされていた時間の記憶はあまりない。
 黙ってジッと待つだけだと暇を持て余して、ついつい相手の気配を追ってしまう。そして、顔を弄られていない時は、薄らと目を開けて相手の様子を探ってしまう。
 男友達の顔に化粧を施す、なんていう、どちらかというとお笑い要素が強い真似をしているはずなのに、たまに盗み見る龍則は真剣そのものの顔をしている。目を閉じている間、つまりは顔を弄られている時、その真剣な目は、間違いなくジッと自分を見つめている。
 それに気付いてしまったら、なんだか急に恥ずかしい。気持ちがソワソワして、でも体も顔も動かしちゃいけないと思うと、ますます気が逸ってしまう。
 冷やかす外野が居ないせいで、やたら静かなのもいけない。体の中でドキドキと脈打つ音がする。それが相手にも聞こえてしまうんじゃないかと不安になる。
「どした?」
 声を掛けられると思っていなくて、ビクッと大きく肩を揺らしてしまった。やはりこの心音が聞こえてしまったかと焦ったが、どうやら龍則は足が痺れてきたと思ったらしい。
「足、疲れたなら休憩するか?」
「あ、いや、そういうわけじゃ、ない」
「ふーん……?」
「な、なんだよ」
 けっこうな至近距離でジロジロと様子を探られてますます焦る。そんな中、龍則の真剣だった顔がふにゃりと緩んでいったかと思うと、パッと口元を押さえて顔を横に背けてしまう。
 その横顔から、龍則に何が起きているのかを、こちらも察した。耳と頬とが赤くなっているからだ。
 お前まで照れるなよと出掛けた言葉をグッと飲み込む。そんな事を言って、自ら羞恥していた事実を告げる必要はない。まぁ、こっちの羞恥に気付かれたからこその、反応なんだとは思うけれど。
 しかし咄嗟の言葉を飲んでしまった結果、照れて顔を背けている龍則相手に、どうすれば良いのかわからなくなった。掛ける言葉が見つからない。
 ただ、真剣に見つめてくる龍則の視線から逃れられたおかげで、だんだんと気持ちが落ち着いては来ていた。化粧してくれる手も止まっているので、今度は逆に、紘汰の方からジッと相手を見つめてしまう。
「そんな目で見んなって」
 その視線に気づいたようで、龍則がさらに顔を背けながらそんな事を言う。
「そんな目ってなんだよ」
「ぼーっとして、なんか俺に、見惚れてる、みたいな……って、あーくそっ、今のナシ。これは紘汰。男友達の春野紘汰」
 後半はブツブツと、まるで自分自身に言い聞かせてでも居るようなその言葉にピンときた。
「あ、お前、もしかして俺にトキメイた?」
「うっせ。てかどう考えても、俺のメイクが上手いせいだから。それだけだから」
「へぇ。てことは、もう結構ちゃんと女の子になってんの?」
 鏡が見たいと立ち上がりかけたら、そっぽを向いていた龍則が慌てたように振り向いて、それだけではなく肩を押さえて立ち上がるのを阻止してくる。
「なんだよ。鏡見ちゃダメなの?」
「いやもう後ちょっとだから。どうせなら完成してから見ろって」
「手ぇ止めたの龍則じゃん」
 その指摘に一瞬ウッと言葉に詰まったものの、龍則はすぐ終わらせるからと言って口紅を手にとった。

続きました→

 
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