親友の兄貴がヤバイ7

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 とうとう噴出した相手が、ゴメン嬉しいと言いながら照れた顔を隠すように、少し身を屈めて肩口に額を押し当ててくる。
「あのさ、お前に抱かれる覚悟は出来てるけど、でも怖くないわけじゃないんだよ」
 繋いだままの手がまたキュッと強く握られたので、応じるように握り返してやれば、また小さく安堵の滲む息を吐く。
「みっともない姿だって色々見せるだろうし、お前の期待するような反応できるかわからないし。というか多分期待通りの反応なんてほとんど出来ない気がする。年上の余裕なんて、始めて抱かれる側になるベッドの中にまで持ち込めないの、わかりきってんだよ」
 だからさと続けながら頭を上げた相手の顔が近い。
「ホテル入るまではって思って、大事な恋人を優しく気遣う大人でカッコイイ俺、ってのを頑張って演じてた」
「頑張って、演じて、た……?」
「そう。演じてたの。みっともない姿を晒す前に、ちょっとくらいカッコつけて置きたかったんだよ。それくらい、させてよ」
「敵わないって打ちのめされるくらいに、格好良かった、ですよ」
 ふふっと笑った顔が近づいて、軽いキスを一つ掠め取っていった。
「あんまりカッコイイから、追い詰めて酷い目に合わせてやりたいって?」
「酷いことされたら萎える系って思い知ってますから、返り討ちにあうのわかっててやりませんよ、本当には」
 困らせて泣かせて溜飲を下げたとしても、それが一時的なものにしかならないことはわかりきっている。ただそう思ってしまうことが、そういった感情が湧いてしまうことが、忌々しいなと思うだけだ。
「優しくしたい?」
「しますよ。余裕なんて欠片も無いですけど、出来る限りは」
「うん、そうして。多分、お前が見たい俺は、優しくされても見れると思うし」
「どういう意味ですか?」
「年上の余裕なんて、ベッドの中にまで持ち込めないって言ったろ。お前に抱かれたら、どんなに優しくされたって、追い詰められてみっともない姿を晒すよ。それこそ、下手したら泣き顔だって見せるかもしれないけど、お前がむしろそんな俺を見たいなら、安心する、気がする」
「さっきの嬉しいって、そういう意味、なんですか? 俺が貴方を追い詰めて困らせて泣かせたいと思ってて、安心したって話?」
 Mじゃないって言ってませんでしたかと聞いたら、優しくされたいんだからMなわけないだろと返される。
「カッコつけること考えなくても、みっともない俺を見せても、お前は大丈夫なのかなって安心だよ。お前の中の妄想の俺がどんなか知らないけど、現実の俺に幻滅しないといいなとは思ってる」
「ああ、初恋拗らせて、頭ん中で散々貴方を犯してますからね」
「知ってたけど、そういうのは突きつけてこないで欲しいかな」
「妄想と現実の区別くらいついてますよ。というより、妄想通りの反応された方がよっぽど幻滅します」
「本当に? 現実ってそんなに甘くないよ? セックスってそんな綺麗なもんじゃないからな?」
 不安げに揺れる瞳に、そういやこの人、若干潔癖入ってたからなと思う。後、今日のデートを振り返って思うに、それなりにロマンチストだ。
 多分、相手よりも自分の方が汚い現実をちゃんと見ている気がする。少なくともセックスに綺麗事なんて求めてない。正直シャワーなんて浴びずに始めたっていいくらいだ。
 もちろん、あちこち残るソープの香りに、深く口付けた口内に残るミントの爽やかさに、一生懸命どこもかしこも綺麗にしてきたのだと知らされるのも悪くはないけれど。
「あの、どうしても不安だったり怖かったりするなら、今日じゃなくても、いいですよ。今日、既に色々して貰ったのに、更に貴方の初めてまで欲しいなんて、貰い過ぎなんじゃって思ってたところですし」
「えっ、嘘。まさか萎えた?」
 サッと血の気が引いていく顔に、いやいやなんでだと思う。
「萎えてません。というか優しくされたいんですよね? 目一杯優しく気遣った結果の言葉だったんですけど?」
「ちっげぇよ!」
 荒げた声が上がって何か怒らせたのかと思ったが、相手は何かを逡巡しながら顔を赤く染めていく。
「不安でも、怖くても、それでもお前に抱かれたくて、だから俺はここに居るんだよ?」
 やがて覚悟を決めた様子で開かれた口から告げられた言葉の衝撃は大きかった。

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親友の兄貴がヤバイ6

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 正直言ってホッとした。
 こちらを気遣うような柔らかな笑顔をひっこめて、へらへらとにやけ出している相手は、あんなつたないキス一つで緊張し始めている。それがどうしようもなく嬉しかった。
 もう一度顔を寄せて、唇を触れさせる。ただ押し当てるだけでなく、唇の先で相手の唇を軽くついばんでから離す。次は舌先で軽く突付いた。
 その次には、応じるようにちろりと差し出された相手の舌先をやわく食み、そのまま相手の舌に沿うようにして口内へ侵入させた自らの舌で、相手の口内を舐めるように探る。
 必死になってキスに没頭していたら、そろりと伸びてきた相手の手が、探るようにこちらの手を取り、指を交互に絡めるようにして握ってきた。思わず顔を離して、いわゆる恋人繋ぎ的状態となっている自分たちの手に視線を落とす。
「二人っきりなんだから、手、繋いでたって、別に、いいだろ?」
「ダメだなんて言ってないです。言う気もないです」
「じゃあ繋いでて?」
「あの、一つ聞いていいですか?」
「何?」
「これ、貴方に触れないようにって、捕まえてるんですか?」
 振りほどけ無いほど強く握られているわけではないが、片手だけでも自由に動かせないようにという意味が込められている可能性はどの程度あるんだろう?
 軽いキス一つで緊張してくれる程度には、相手だってこの先の行為を意識しているはずだ。
「何言ってんの。こっち利き手じゃないだろ?」
 しかしそれはすぐ、そんな言葉で一蹴されてしまった。その言葉からは、空いた利き手で好きに触っていいと思っているのが伝わってくる。
「まぁ、そうなんですけど」
 変なところで余計な気を回したらしいことを自覚しつつも、じゃあこの手にはどんな意味があるんだろうと思ってしまう。もし恋人らしい仕草の一つ程度の意味しかないのだとしたら、盛大に反応してしまって恥ずかしい。
「何が不安か言いたくないなら聞かないけど、お前が言わないせいで、俺だって色々不安に思うのも出来ればわかって? なんか失敗したんだなってのはわかるけど、その結果、お前の俺への気持ちがどうなってるのかわからないのは怖いよ。ちゃんとまだ俺を好きで、だから俺を抱きたいんだって、そう思えるだけの安心が欲しいってのは、多分そこまでワガママな話じゃないと思うんだけど」
 ギュッと握られた手に力が込められて、彼が言うところの安心が手を繋いでいることなのかと思ったら、あまりにいじらし過ぎて、申し訳無さに胸がきゅうきゅうと絞られるように痛んだ。
「好きです。凄く、好きです」
 とにかくまずは伝えなければと、切羽詰まった様子で言い募れば、相手は柔らかに笑ってみせた。
「うん。俺も、好きだよ」
「でも、今のその顔は、正直好きじゃないです」
「えっ? 顔?」
「優しく笑ってくれる顔。貴方が色々と優しく気遣ってくれるのは嬉しいけど、でも同じくらい悔しいし、そんな風に笑われるたび、自分の不甲斐なさを突きつけられるみたいで苦しくなります」
 不安というより嫉妬ですと言えば、意味がわからないと言いたげに、少しだけ眉が寄せられた。
「嫉妬? って俺、に……?」
「そうです。貴方に。俺だって貴方にいっぱい優しくしたい。なのに、年上の余裕とか、経験値の差とか、そういうのを目の当たりにすると、むしろ追い詰めて酷い目に合わせて、困ったり泣いたりすればいいのにって。自分と同じところにまで、貴方を引きずり落としてやりたくなるんですよ。そして、そう思ってしまう自分に、嫌気がします」
「落ち込んでたのって、それ?」
 頷いて見せれば、ホッとしたように安堵の息を吐く。その後、じわじわと広がる笑みを堪えきれない様子で噛み殺しているから、今度は自分の眉間に皺が寄るのを自覚した。

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親友の兄貴がヤバイ5

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 片側のベッド端に腰掛ける自分の横に、同じように腰を下ろした相手は、緊張してるかと聞いてくる。緊張すると笑っちゃう系と言ってた相手の顔は不安気で、決して前回のようにニヤニヤ笑っては居ない。
「それとも、本当に怒ってたり、する?」
「え?」
「緊張してるだけなら、いいんだけど。でも、あいつみたいにはまだ、わからないから」
 でも幸せで嬉しくて仕方ないって感じじゃないことだけはわかるよと続いた言葉は尻すぼみで、不安げな顔はなんだか泣きそうにも見えた。
「怒ってません」
「本当に?」
「本当に」
「でも緊張してるだけ、ではない?」
 あいつみたいにはわからないと言うなら、そんなことは見通してくれなくていいのに。
 あまり感情の出にくい顔を、それでも両手で覆って俯き隠しながら、深い溜め息を吐いた。情けないこの気持ちを、どう口に出して説明すればいいかわからない。
「ゴメン。やっぱなんか、失敗したっぽい、……よな」
「なんで、あなたが謝るんですか」
「君がさ、思ってたより人目が気になるみたいなのわかってたのに、人が多いデートコース選んじゃったし。しかも地元じゃないからとか、暗いからとか言って、ちょっとイチャイチャしすぎちゃった自覚もあるし?」
 半個室のレストランで一口頂戴を口を開けて待たれたことや、イルミネーションきらめく中、押し切られて少しだけ手を繋いで歩いたことなどを思い出す。
 仕方なく応じてやるような態度を取ってしまったけれど、仕掛けて貰わなかったら自分からなんて決して出来っこないそれらの事を、喜ぶ気持ちがないわけがない。これは恋人とのデートなのだと思い知らされるようなそれらの瞬間と、胸に残る甘いトキメキを、忘れたくないと強く思っている。初デートでそれらの思い出を残してくれた相手に、感謝すらしているのに。
「嬉しかった、ですよ」
「うん。でも嬉しいだけじゃなかった、だろ。不安にさせてゴメンね?」
 相手の方こそ、今現在不安そうな顔をしているくせに、何を言っているんだろう。ああ、でも、彼を不安にさせているのは自分なのか。
 顔を覆っていた手を外して、俯いていた顔を上げて、隣りに座る相手をジッと見つめた。戸惑うように揺れる瞳に、この人にこんな顔をさせているのは自分なのだと思う。優しい笑顔を向けられるよりも、こちらの方が嬉しいかも知れないだなんて、我ながら性質が悪い。もしくは長く抱えていた初恋を拗らせきっている。
「人目を気にして不安だったとかではないです。人に何かを言われて、あなたがこの関係を終わりにしようと言い出すのを恐れる気持ちはありますけど。でもあなたの様子からすると、見知らぬ他人に何か言われるくらいの事は、多分、平気なんでしょう?」
 こちらが人目を気にしているのをわかっていながらやったと言っているのだから、クリスマスイブに男同士でデートしている事への好奇の視線など気にならないどころか、それを跳ね除けて大丈夫と笑えるくらいの気概があるんだろう。というか事実、大丈夫だよと言うように優しく笑ってくれていたのを覚えている。
「じゃあ何が不安だった?」
 今後の参考までに出来たら教えておいてと、情けない顔でそれでも柔らかに笑いながら尋ねられて、本当に敵わないと落ち込みながらも、何故か唐突にキスがしたいなと思った。その衝動のまま顔を寄せれば、相手は一瞬目を瞠った後でゆっくりと瞼を下ろしていく。完全に瞼が落ちたのを見届けてから、唇を押し当てるだけのつたないキスを一つ。
 顔を離してからもじっと見つめ続ける中、ゆっくりと目を開いた相手が、どこか困った様子でへらりと笑った。

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親友の兄貴がヤバイ4

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 期待していいなら泊まりで。クリスマスプレゼントは貴方が欲しい。
 そう伝えた結果、彼が言うところのビジネスホテルに毛が生えた程度らしいシティホテルの一室で、彼がシャワーを浴び終えるのを待っている。
 望んだ通りの展開のはずなのに、胸は重く沈んでいた。
 自分が渡したプレゼントだって、彼の弟でもある親友に付き合って貰って選んだだけあってかなり喜んで貰えたけれど、でも今日彼がくれたものと、これからくれようとしているものを考えたら、全く釣り合っていないと思う。
 クリスマスデートが出来るなんて思っていなかったから、どうしてもクリスマスにはここへ行きたいなどという場所や店はなく、それならデートプランは決めさせてと言われて相手に任せてしまったけれど、それだって、受験生であるこちらを気遣って余計な時間を割かずに済むように、そう言ってくれただけ程度に思っていたのだ。
 でもランチからスタートした本日のデートを、終始ご機嫌に笑う彼にあれこれエスコートされてしまって、ディナーを予約したという店に入る頃にはすっかり滅入っていた。彼任せにせず一緒に今日のプランを考えていたところで、違う結果になったかはわからないけれど。
 だってあまりに慣れている。告白したあの時期にたまたまフリーだっただけで、高校大学あたりは彼女が居ない期間のほうが短かったらしいから、きっと何度も恋人とクリスマスを過ごして来たんだろう。この部屋だって、ビジネスホテルに毛が生えた程度などと言ったって、前回取り敢えずで入ったホテルより、同じツインルームでありながらやはり格段にこちらの方が雰囲気がいい。要所要所を外さず押さえているという感じが、ありありとわかって辛かった。
 比べてこちらは、彼が初恋で、もちろん初めての恋人だ。恋人と一緒に何処かへ出かけるデートだって今回が人生初めてで、悲しくなるくらいあちこちの場面でテンパって内心あたふたとしてしまった。表情に出ることは少ないようだけれど、一瞬動きが止まってしまったり、きっとまた怖い顔をしていただろう。
 そんな自分に、彼はやはり終始優しかった。色んな場面で細やかに気遣ってくれた。
 ちょっと甘ったれな弟を溺愛してるような人だし、きっとあれこれ気遣い世話を焼くのが、元々好きなんだろうというのはわかる。恋人という関係になったせいで、自分もまた、彼の中では庇護対象になったらしいのも感じている。弟でも女の子でもないのに、弟と同じ年齢だからか、それとも過去への罪悪感がそうさせるのか。
 彼の弟のように、もしくは彼が付き合ってきた女の子たちのように、その優しさや気遣いに甘えて喜んでありがとうと笑えば良いのだ、ということもわかってはいた。でも素直に甘えるなんて真似が、自分に出来るわけがない。彼に甘やかされるのを嬉しく思う気持ちはないわけじゃないけれど、でも甘えたいよりは自分が彼を甘やかしてみたいと思う。
 なんせ抱きたいと思っているような相手なのだ。彼から与えられるものだけで満足なんて出来っこない。自分の手で、自分自身の力で、彼の色んな姿を見たいし、引き出したいと思ってるのに。弟になりたいわけでも彼女になりたいわけでもない。一人の男として見てほしいのに、五歳という年の差も、経験値の差も、どう埋めたら良いのかわからない。その差を埋められる気がしない。
 出来ることなら自分が彼をエスコートして、素敵なクリスマスデートを過ごしたかった。なのに自分が彼にしたいと思うようなことを、あっさりと彼にこなされてしまって、自分の立場ってなんなんだろうと気持ちが揺らぐ。
 ここに居るのが自分ではなく女の子なら、今日のデートにふわふわと甘く幸せな気持ちにさせられたまま、その気持を壊されることなく彼に優しく抱かれてクリスマスデートを締めくくるんだろう。なのに彼は、今日一日不慣れな年下の恋人を散々優しくエスコートした挙句に、締めくくりとして抱かれるための準備をしている。
 責任感でも罪悪感でも同情でもいいから彼が欲しい気持ちは確固としてあるのに、この後、差し出されるまま彼の体を抱いてしまうことに躊躇いを感じずには居られなかった。それでも、彼の体を目の当たりにしたら、そんな躊躇いは彼を組み敷きたい欲望の前に霧散するのだろうか。
 バスルームの扉が静かに開く音がして、胸がギシリと軋む気がした。

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親友の兄貴がヤバイ3

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 このまま夕飯も食べていけばと言う誘いはさすがに断って、また明日学校でと告げ親友の家を出たのは18時を少し過ぎた時間だったけれど、外はすっかり日が落ちて真っ暗だった。
 思いの外冷たい風が吹いていて、寒さに少しばかり身を竦めながら歩いていたら、隣から思ったより外は寒いねと声が掛かる。その声はコンビニに行きたいから途中まで送るよと言って付いてきた彼のものだ。
「誰もいないし、手、繋ぐ?」
「は?」
「手、繋いでたら少しは暖かいかも」
「繋ぎませんよ」
 魅力的な誘いではあったが、いくらなんでもこんな場所で手を繋いで歩く勇気はない。そこまで遅い時間ではない割に人気がないとはいえ、お互い知り合いに見られるリスクが高すぎる。
 家が近い彼はもちろんのこと、自分だってこの近辺に住む友人知人は多い。自宅からはそこそこ離れているが、それでもここは同じ学区内だ。
「デートはしたがるくせに、手繋ぐのも躊躇っちゃうんだ?」
 今なんて絶好のチャンスっぽいのにと小さく笑われて、ぐっと握りしめた拳を慌ててポケットに突っ込んだ。煽られた勢いで手を繋いでしまいそうだった。
 歩いていた足を止めて、隣を歩く相手をじっと見つめる。二歩ほど先で相手も立ち止まり、体ごとこちらに振り返る。
「どーした?」
「あなたが、恋人っぽいアレコレを色々してくれようとしてるのはわかってるし、嬉しい気持ちがないわけじゃないですけど、でも、人に知られるのは普通に怖いです。余計な雑音を聞きたくないし、あなたに聞かせたくもない。せっかく恋人になれたのに、そのせいで別れるようなことになったら、絶対に、嫌です」
 真剣に言い募れば、すぐさま相手の眉尻が申し訳なさそうに下がった。伝わってよかったとホッと息を吐く。
「そ、っか。あー、その、ゴメン、な?」
「キスも、嬉しくないわけじゃないんですけど、でも、あんまりヒヤヒヤさせないで下さい」
「朝の?」
「はい」
「ん。ゴメン、気をつける」
 せっかくコンビニに行きたいなどと理由をつけつつわざわざ送ってくれているのに、相手の好意に文句を言って落ち込ませて何をやっているんだと思うと、ついため息がこぼれ落ちた。
「こっちこそすみません。色々してくれようとするその気持ちだけでも、本当に、凄く、嬉しいです」
 でもそうやって色々としてくれようとするのは、まるで一生懸命恋人としての勤めを果たそうとしているようにも見えてしまう。なんて薄暗い気持ちもほんのりと自覚してはいたけれど、さすがにそれを口に出すことは出来ない。
 たとえ根底にあるのが責任感でも罪悪感でも同情でも、本当の恋はしてくれなくても、彼と恋人となれる道をあの日選んだのは自分だ。だから本当は、一生懸命恋人っぽくあろうとしてくれる姿に、文句など言える立場にはないのに。むしろ歓迎すべきだと思うことすらあるのに。
 内心そんな反省をしつつ、止めていた足をゆっくりと踏み出した。またすぐ並んで歩きながらも、どことなく気まずくて会話はない。
 その気まずさを破って口を開いたのは、やはり彼のほうだった。
「あのさ、やっぱり知り合いと会いそうにない場所というか、どこか遠出してデートしたいのが希望?」
 ずっとそれを考えていたのだろうか。話題を変えてなんとなく楽しい会話でやりすごすという事はしないらしい。
「まぁ、一緒に色んな所に出掛けてみたい、という希望は有りますけど、でも知り合いと出会う可能性がないなら手を繋いで歩けるとか、そういうのは別に考えてないですよ?」
 本当は食事やお茶だって、もっと長時間一緒に過ごせるなら、もっと満足出来る気はするのだ。ほんの数時間でじゃあ勉強頑張ってと言われて別れなければならないのが不満なだけで。
 そう言ったら、もしかしてイチャイチャしたい欲求って少ない? と聞かれてしまった。
「俺、あなたを抱きたいって、言いましたよね?」
 欲求がないわけないじゃないかという気持ちが漏れて、声が固くなったのがわかる。
「うん聞いた。ってそういうガッツリした話じゃなくて!」
 自分から話題を振ったくせに、照れた様子で少し声が大きくなった。
「そういうのじゃなくてさ、キスしたり手繋いだりの軽いスキンシップの話。あいつとは距離めっちゃ近いのに、俺とはイチャイチャしたいって思わないのかと」
「そりゃ二人きりでなら、したいですよ」
 二人きりで軽いスキンシップなんてしたら、それだけで済む気はしないけれど、それは言わないでおく。
「でも人の目がある中で、あいつとあなたと、同じ距離感で接してたら明らかにおかしいでしょ」
「まぁそうだな。じゃあもっと直球で聞くけどさ、クリスマスくらいはちゃんと恋人らしく過ごしたいんだけど、それってあり?」
「は? クリスマス?」
「そう、クリスマス。今年24日が土曜なんだよ。だからちょっと遠くても行きたい場所あれば行けるし、二人きりになりたければホテルって手もないわけじゃない。けど、さすがにホテルはこの前みたいにいきなり部屋取れると思わないし、予定は早めに立てたいんだよね。それでどう? 俺と、クリスマス恋人デート、する気ある?」
「ないなんて言うわけない」
 言えば、ホッとした様子で嬉しそうに笑ってくれるから、こちらもなんだかホッとしてしまう。
 ああもうなんか色々と、圧倒的に敵わない。そんな気がしてしまって、悔しさにひっそりと唇を噛み締めた。

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親友の兄貴がヤバイ2

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 相手の後を追って入ったリビングで、いらっしゃいと声をかけてくれたのはキッチンスペースに立つ彼らの母親だ。チラリと部屋の中に視線を走らせ父親の姿がないのを確認した後、再度お邪魔しますと声を掛ける。
「わーん。来るの待ってたよー」
 既にテーブルの上に問題集を広げて取り組んでいた親友が、顔を上げて情けなく泣き真似をしてみせた。
 一応彼も受験を切り抜け大学進学しているので、弟の切羽詰まり具合に仕方なく、得意科目のみ昔を思い出しつつ勉強をみてやっているらしい。ただ、弟の出来なさ具合に不安になって、これじゃいかんとつい厳しく接しがちになるようで、親友もそれは解っているから、あまり彼を頼ることはしていないはずなのだが。
 いい加減親友本人も切羽詰まりきったのか、それとも今日は一緒に受験勉強と聞いた彼がお節介を働いたかのどちらかだろうなと思う。
「お前はこいつに頼りすぎ。少しは自分の頭使って考えろよ」
「兄さんスパルタすぎてやだー。というか兄さんの説明じゃ良くわかんないもん」
「お前が甘ったれ過ぎなの。というかこいつ居なきゃ俺の説明でなんとかするくせに。こいつに甘えんのもいい加減やめなさいね」
「何それ嫉妬? 残念でした。こいつは俺の勉強を見に来てくれてるんですぅー」
「一応一緒に受験勉強、だろ。まぁそのつもりで来てるのも確かだけど、はっきり言い過ぎ。で、突っかかってるのどこ?」
 彼らのやり取りを聞きつつ、多分後者だなと判断して親友の隣の席に腰掛けた。
「あ、原因お前の方だったわ。お前が甘やかすから、俺の弟が俺に冷たい」
「なんであなたが厳しくなるのか、こいつ理由知ってるから大丈夫ですよ」
「お前が好きでこいつに教えてやってんならいいんだけどさ。お前自身が受験生だって忘れんなよ?」
「わかってます」
「まぁ人に教えると自分の理解にも繋がるとか言うもんな。じゃ、これ以上は邪魔になりそうだから俺は引っ込んどくわ」
 彼は自分と隣りに座る親友との頭にそれぞれ手のひらを乗せると、頑張れよとわしゃわしゃと髪を掻き撫でてからキッチンスペースへ入っていく。その背をなんとなく見送っていたら、袖をツンツンと引かれて隣の親友へ意識を戻した。顔を寄せてくるので、内緒話かとこちらも耳を寄せる。
「ね、もしかして玄関でキスされた?」
 言葉に詰まれば、まぁ聞くまでもなかったよねと小さな笑いが耳の横で弾けた。
「俺に難題押し付けて自分が迎えに出れるようにしてたから、絶対狙ってると思ってた」
「ああ……そう」
「お前さ、嫌なことは早めに言った方が良いよ?」
 更にひそりと声を潜めて続いた言葉に、親友にはやはりバレてしまうのだなと思う。
「嬉しくないわけじゃないんだけど、ね」
「うん。だから尚更、教えてあげて。きっとお前が喜んでくれてるって思ってるから。今日の何かがダメだったとは多分まだ気付いてない。てか何されたの?」
「お前らイチャイチャしすぎだろ。勉強しろ勉強」
 ハッとして親友から体を離し声の方向へ顔を向ければ、キッチンからお盆を手に彼が戻ってくるところだった。
「ひそひそと俺の悪口言ってたんだったら許さない」
「大好きな兄さんの悪口なんて、俺が言うと思う?」
 兄さん大好きって話をしてただけと笑った親友の顔はとてもあざとい。しかし彼はニコリと笑って、よし許したと言った。とんだ茶番だ。
「じゃ、そんな可愛いお前たちに、お茶と茶菓子の差し入れな」
 テーブルの上に置かれたお盆には、三つのマグカップと皿に盛られたクッキーが乗っている。彼は自分の分のマグカップを手に取ると、それ以上は何も言わずにソファへ向かって行った。
 親友が言うには、普段は自室で過ごすことのが多いらしいのに、自分が訪れている時にはリビングのソファが彼の定位置だ。数年ぶりに訪れたあの日は、明らかに監視されている感じだったけれど、今はきっと、せめて同じ空間で同じ時間を過ごそうとしてくれている。
 勉強するこちらを気遣い静かに過ごしながら、時折こちらを見つめてくる瞳は優しい。その優しい視線が、彼の大事な弟だけではなく、今は自分にも向かっているのだと思うと、どうしようもなく嬉しくて、でも少しばかり居心地が悪い。そわそわドキドキ心臓が跳ねて、それを隣りに座る親友だけが、訳知り顔でニヤニヤ見てくるからだ。更に言うなら、そんな自分たちが彼の目にはイチャイチャしてると映るらしいのも、少しだけ納得がいかない。
 考えるだけでそわそわしだしてしまう気持ちを落ち着かすように、気持ちを切り替えるように。
「じゃあ、いい加減始めようか」
 もう一度、どこに突っかかってるのと聞きながら、親友の手元の問題集に視線を落とした。

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