可愛いが好きで何が悪い22

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 ドレスの処理が一息ついて安堵するとともに、なんとも言えない微妙な空気になる。正確には、ドレスの処理を優先していただけで、ずっと微妙な空気は続いていたしそれに気づいてもいた。それが無視できなくなったというだけだ。
「とりあえずテーブル、出さないか」
「うん」
 ドレスが壁に掛けられているのと、さっきは壁際で追い詰められた感がなくもなかったのとで、仕舞われていた折りたたみのローテーブルとクッション類を出してくる。
 しかし、そうして向かいわせに腰を下ろしてみたものの、気まずいような微妙な空気は依然漂ったままで、互いに口が開けない。かといって、話を先延ばしにするのも、この場を逃げ出すのも、違うと思ってしまう。
「あー……」
 取り敢えず化粧を落としてウィッグを外してくれ。という要望を口に出していいか迷いながら相手の姿を上からなぞってしまえば、相手もこちらが何を感じているかは察したようだ。
 ドレスにはばっちり嵌っていた化粧もウィッグもそのウィッグにあれこれ盛られたアクセサリーも、男物の普段着と合わせたらどうしたって違和感が酷い。
「いつもの俺に戻るには、ちょっと時間掛かると思う」
「そ、っか」
「あとあんまり見られたくない、かな」
「何を?」
「俺が俺に戻るとこ」
「そうか」
「ドレス以外の服も用意しておけばよかった。というか、そもそも目の前でドレス脱ぐ予定がなかったよね」
 脱がされるならせめてもうちょっと雰囲気が欲しかった。などという軽口が叩ける程度には、相手は結構リラックスできているらしい。こちらはこの微妙な空気に、けっこう緊張気味なのに。
「一人じゃ脱げないくせに、姉貴たち追い出したせいだろ。てかそれ言ったら、お前がキスしてきたのがそもそもの原因てことになるな」
「だってチャンスだって思っちゃったんだもん」
 あんなに意識して貰ったの初めてで舞い上がったよねと、こちらの反応を思い出しているのか嬉しげに頬が緩んでいる。
 顔だけを見ていられるなら、幸せそうに笑うプリンセスという目の保養案件なのに、現実がそれを許さない。他人事として、その笑顔を堪能するだけの立場で居たかったのに。こんな顔をさせているのが自分だなんて、出来れば知りたくなかった。
 でももう、知ってしまっている。この現実にちゃんと向き合うべきだってことを、わかっている。
「で、どうだったよ」
「どうだったって、何が?」
「チャンス掴んでみた結果、今後お前がどうする気なのか聞いておきたい」
「嫌われない程度のとこで取り敢えず落とせるように頑張る、という基本方針に代わりはないかなぁ」
 そんな基本方針だったとは初耳だ。
「まぁ、今日ので手応え感じちゃったし、本気で好きなのも付き合いたいって思ってるのも知られてたし、もうちょっと積極的になってもいいのかなぁ? ね、どう思う?」
「どう思うっつうか、もっとグイグイくるのかと思ってたから拍子抜け?」
「俺の手でイッてくれたし、キス嫌がらなかったし、そっちからもキスしてくれたし、これもうイケるよね。彼氏面してオッケーなとこまで行けたよね。って気持ちは確かにあるんだけど。でも自分のしてきたこと思うと、ね」
 因果応報かなぁと苦笑する顔に、また何やら胸の奥がザワツイてしまう。
「因果応報、って?」
「積極的な女の子とそういう関係になったからって、じゃあその子を彼女として扱ってたのかって言うと、そうじゃない場合のが多かったっていうか。いや、ちゃんと恋人としてお付き合いしてた女の子もいないわけじゃないんだよ。ただ、取り敢えず体だけみたいなのが多すぎてさ。気持ちよければまぁいいかって。だから、流されて気持ちよくなってくれただけなのまるわかりの相手に、じゃあもうこれで恋人ね、って俺が言っていいと思えないんだよね」
 確かに流されたところはあると思う。ただ、気持ちがいいから流されたと思っているなら、それは自分とは違う認識だ。気持ちよければまぁいいか、という気持ちで受け入れたわけじゃない。
「なるほど、自業自得だな」
「だねぇ」
「で、俺が流されて気持ちよくなったとして、今後もうちょっと積極的にってのは、やっぱエロ方面なわけ?」
 ああこれ、その顔で回答聞きたくない。という気持ちが勝って、聞きながら顔を横に向けてしまった。それをどういう意味で取られたかはわからないが、相手は小さな苦笑を漏らしている。
「んー、そういう方向で落とす方が自信あるっていうか、勝算あるだろうなって思ってたけど。でもそこはちょっと考え直したほうがいいのかも知れない?」
 語尾が上がって疑問符が見えるようだが、気持ちよく相手の手で果てた結果、考え直そうと思わせたのは意外だった。
「もしかして、恋人になってって泣き落として土下座で頼み込む方が、効果あるんじゃないか、みたいな気もしてる」
「はぁ!?」
 続いた言葉に驚いて声を上げる。いやだって、考え直した結果が土下座で頼み込むだなんて、予想外もいいところだ。
 でも実際、エロ方面で積極的に迫られるより、頼み込まれる方が確かに弱い気がする。自信満々に迫られたらふざけるなと跳ね除けられても、自信なさげにおずおずと触れてくる手はきっと跳ね除けられない。
「あと王子希望じゃなくても、プリンセスに迫られるのはかなり弱いのわかったから、ドレスまできっちり揃えるのは無理でも女装方面頑張るのもありっぽいかな」
「待て待て待て。そっち方面の努力はヤメロ。必要ない。絶対要らない」
「って強く否定するところが、図星でしょって感じ」
 指摘にウグッと言葉に詰まれば、ますますその通りだと言っているようなものだろう。相手はほらみろと言わんばかりに、多少の呆れを混ぜつつも楽しそうに笑っている。
「で、逆にそっちは? 俺が今後もうちょっと積極的になったらどうするの?」
 まぁ聞かれるだろうとは思っていた。だから用意していた言葉を返す。
「正直、もう付き合ってもいいかって気になってる」
 諦める気がないことも、余所に目を向ける気がないことも、もう、疑うことなく信じている。信じてしまっている。
 そしてその気持ちを拒否して相手を悲しませるよりも、受け入れて笑っていて貰うほうがいいと思っている。自分がそう思っていることを、先程のあれこれで思い知ってしまった。
 だったらもう、四の五の言わずに付き合ってしまえばいい。
「は? え?」
 驚いた顔をした後、そういうのは早く言ってよ! と声を荒らげている。そう思う気持ちはわかるし、してやったりという気持ちもあって、こちらもやっと少し笑いが溢れた。
「ただ、お前に抱かれるセックスまで許容する気は今のとこないから。俺のだから手ぇ出さないでって言える権利なら、お前が持っててもいいかな、ってだけだな」
 恋人になる方優先するんだろと言ってやれば、今度は相手がウッと言葉に詰まっている。
「俺に抱かれてもいいかなって思って貰えるように努力するのまでは、止めないよね?」
「女装方面頑張るってのは止めたい」
「そこまで嫌がられたら逆に無理でしょ。そこを目一杯頑張る流れじゃん」
 それに実は、と言いながら、新しいドレスに再利用できなかった形見のドレスの端切れで色々作ってもらったアクセサリーとかもあるんだよねと、ウキウキで見せられた数々のアクセサリー類を前にしたら、ダメだ嫌だ女装はするな、とはもう言えなくなった。

続きました→

 
 
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可愛いが好きで何が悪い21

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 躊躇いがないにもほどがある。元カノに口でされた過去はなく、フェラなんて知識でしか知らない行為だけど、こんなに勢いよくかぶり付くようなものじゃ無い気がする。
 いやでもこちらの態度を窺ってゆっくり顔を近づけられたら、必死で逃げただろうとも思うから、この強引さと勢いは必要だったのかも知れない。
 だって、既に咥えられてしまったこの状況では、相手を引かせる方法がない。下手な衝撃を与えて自身にダメージが来るのを恐れる気持ちがあるし、気持ちの良さに思考が霞んで、抵抗する力も気力も奪っていく。
 積極的な相手に流されて、気持ちよくなっての言葉通り、気持ちよくなってしまえばいい。
 そう思う気持ちは大きいのに、わずかに残る理性が、やめろと口から言葉をこぼす。
「ぁ、うぅ、……や、だ、……きたなっ」
 最後に風呂を使ったのは昨夜の夜で、それからどれくらい時間が経っているかも、その間に何回用を足したかも、だいたいわかっている。もしも自分がする側なら、たとえ相手が女性でも恋人でも躊躇うと思う。
「へーき。俺は、気にならない」
「ば、っか、やろ……おれが、気に、する、あ、ああっ」
 余計なことを気にするなとでも言うみたいに、先端に吸い付かれながら竿部分を強めに扱かれて気持ちがいい。得たことのない快感に、あっさりと射精感が募っていく。
 こんなにも簡単に相手のテクにイカされてしまう、という情けない気持ちを、こみ上げる衝動が脇へと押し流してしまう。
「あ、あっ、だめ、だ、……も、いく、いくからっ、くち、離せ、ってぇ」
 それでも最後の抵抗とばかりに、必死に訴えた。
 どうせ無視されるんだろうと思ったのに、とうとう精を吐き出すその直前になって、相手がパッと頭を上げてこちらの顔を覗き込んでくる。
「ひっ」
 口元を汚したプリンセスという暴力的な絵面に悲鳴が漏れた。
 吐き出して終わるはずだった射精感が、あまりの驚きと衝撃に一瞬で散ってしまう。完全にイキそこねて、いっそ苦しい。
「うぅっっ……」
「ごめん、イキそこねちゃった?」
 呻けば相手にも状況は伝わったらしい。
「でもやっぱ、イク顔見ときたくて」
「ばっか、も、ほんと、お前」
「わざとじゃないよ。でも、もうちょっと触ってられるのは嬉しい、かな。せっかくの気持ちぃ顔、いっぱい見ておきたいもん」
 悲しみを全く感じない訳では無いが、それでもうっとりとした笑顔に、胸の何処かで安堵している。でも本当に見たいのは、もっと幸せそうに笑う笑顔だ。
 汚れた口元に手を伸ばしてその汚れを拭った後、自ら顔を近づけた。
「え……」
 かすかに漏れた戸惑いの声を奪うように口付けて、驚きに緩んだ相手の口内にいささか乱雑に舌を突き刺す。
「んんっ」
 それは反射だったのかも知れないが、差し込んだ舌を柔く喰まれながら吸われて、腰に痺れるような快感が走った。そしてそれに気づかれた後は、相手主導でそのまま濃厚なキスを続けてくれる。
 再度、射精感が募るのはすぐだった。
「ん、んんっ」
 イク顔が見たいと言っていたくせに、イきそうになって相手の体を押してもキスは中断されなかった。それどころか、絡め取られた舌を強く吸われて体が震える。
「んんんんっっ」
 体の中に溜まっていた気持ちいいがドクドクと吐き出されていくのとともに、体の力が抜けていく。ぐったりと背後の壁に寄りかかれば、相手の顔が追ってくることはなかった。
 近すぎて見えなかった相手の顔がやっと見える。目が合えば、相手が嬉しそうに破顔したから、心底安心して目を閉じた。
 眠るつもりはなかったが、相手は寝落ちたと思ったのか、一人で何やらごそごそと動く気配がする。どうやら後始末をしているらしい。
「汚れたとこ、拭くね」
 囁くような小声で告げられた後、性器に触れられドキリと心臓が跳ねた。けれど相手は、こちらが本気で寝落ちているわけではないことに気づかなかったらしい。
 触れられた最初の段階で目を開いてしまえばよかったのかも知れない。しかしわずかに躊躇ってしまったのが仇となって、結局そのまま汚れた性器を相手の手で拭き清められることになった。
 正直恥ずかしすぎたが、だからこそ途中で、実は起きてましたなんて知られるわけにいかなかった。
「あ、どうしよ。一人じゃ脱げない」
 一通りこちらの衣服を整え終えた後、今度はそんな呟きが聞こえてくる。
 まさか姉たちを呼び戻したりしないよなと焦ったが、まぁ起きてからでいいかと、どうやらこちらが目覚めるのを待つつもりらしくホッとする。しかし次の言葉には黙って寝たフリが続けられなかった。
「シミにならないといいけど」
「はぁ?」
「うわっ、えっ、起きて……?」
「シミってなんのだ」
「あー……ちょっと、受け止めるの失敗しちゃって」
 キスに夢中になってたのもあってとゴニョゴニョと言い募るそれは、多分、間違いなく、こちらが放った精液ってことなんだろう。
 裂かれたドレスの1枚はウエディングドレスだったけれど、彼が今着ているドレスにはそこまで白い布は使われていない。カラードレスの方が再利用できる布が多かったようで、そちらが基調になった青系のドレスだ。そんなドレスに、精液の白い汚れが残ったらと思うとゾッとする。
「よし脱げ。手伝う」
 一大事だと慌てるこちらに、相手はなんだか微妙な顔をしていたけれど、それでも大人しく脱がされていく。
 精液の汚れの落とし方を二人で調べて一応その通りに染み抜きをしたし、もともと今日の試着の後はネット経由でドレスの長期保存が出来るタイプのクリーニングに出す予定だったというので、多分ドレスは大丈夫だろう。

続きました→

 
 
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可愛いが好きで何が悪い20

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 悪い男に付け込まれるよと苦笑いするその顔はどうみたってかなり可愛い女の子で、その顔がまたゆっくりと寄せられてくる。
 抵抗はしなかった。
 さっきも一度、もう好きにすればいいとヤケクソ気味に思ったのだけれど、それともまた違って、どうすればいいのかがわからないというのが正直な気持ちだった。もっと言うなら、受け入れたくないのに、拒否もしたくない。
 好きだと言われたって、付き合いたいと言われたって、友人としてはともかく恋愛感情で好きだと思ったことはないし、やっぱり付き合いたいとまでは思えないのに。汚れきったと自嘲する相手の望みのない願いを、叶えてやりたい気持ちがある。
 対象が自分でなければ、きっと、どうにかしてやりたいと協力していたとも思う。
 このドレスは似合っているし、間違いなく好みのプリンセスではあるけれど、どちらかというと少し距離を置いたところから眺めていたい対象だ。隣に自分ではない王子が寄り添って、幸せそうに笑ってくれればそれでいい。自分はそれで満足するだろう。
 なんで、よりによって自分なんだと、どうしても思ってしまう。彼の隣に並べるような、王子の器なんかじゃないのに。
 わずかに離れては再度触れ合う唇。さっきと違って深いものにはならず、互いに相手を窺うみたいに、目も閉じずにただただ何度も繰り返されている。
 相手が何を考えていて、このあとどうするのかはわからない。ただきっと、相手が引かなければ受け入れてしまう。何かを恐れるようにおずおずと触れては離れていく唇に、何かを恐れているくせに止まれないと言わんばかりに繰り返されているキスに、拒否はできないという気持ちが膨らんでいるのがわかるからだ。
 ああ、もう、本当に困った。
 そっと瞼を落とせば、一瞬の躊躇いの後で、相手の舌が口の中に入り込んでくる。
 この場合、先へ進む引き金を引いたのは自分、ってことになるんだろうか。なんかもう、それでもいいような気がしていた。あまりに焦れったくこちらの様子を窺うのに、絆されたのかもしれない。
 口の中を探られ舐め擦られても、やっぱり嫌悪感はないし気持ちがいい。応じるように差し出した舌を絡め取られ、相手の口に誘いこまれるのに従えば、ぢゅっと吸われて腰が痺れた。
「んんっっ、はぁ、ぁ」
 鼻にかかった音とともに触れ合う唇の隙間から荒い息がこぼれて、相手に興奮を知らせてしまう。
 さっきはあんなに躊躇いなく触れてきた手は、今度は少し迷っているようで、ゆるっと太ももをなで上げながら熱を持ち始めた中心へと近づいてくる。やっぱり酷く焦れったくて、急かすように腰が揺れてしまって恥ずかしい。
「んっ、ふ、ぅ……」
 やっと触れて貰えた安堵と快感とで体がわずかに弛緩する。ずっと塞がれていた口が開放されて、相手が顔を離していく。でも閉じたままの目を開くことはしなかった。
 羞恥で相手の顔なんて見られないと思っていたからだ。なのに、確かめるように熱を撫でる手が止まり、顔には相手の視線を強く感じて、耐えきれなかった。
 開いた目に飛び込んできたのは、さっきみたいにうっとり笑う笑顔じゃなくて、すぐに酷く後悔する。胸の奥がキュッと絞られて痛い。
「ぁ……」
「ごめん、ね」
 困った様子の悲しそうな微笑みに、大事なプリンセスにこんな顔をさせているのは誰だよという怒りと、情けなさがこみ上げる。こんな顔をさせているのは自分だと、わかっているからだ。
「あやまん、な」
 自分自身へ向かうべき怒りが、声に乗ってしまった。つまりは八つ当たりで、ますます相手を傷つけた。
「うん。ありがとう」
 無理やり笑ってみせたのがありありとわかって、ダメだと思うのに眉間に力がこもってしまう。
「だから、気持ちよくなって、ね」
 よりいっそう作られた感の強い笑顔を見せて、相手の手が動き出す。もう躊躇いは捨てたらしい。
 既にフロントボタンは外されていて、チャックもわずかに降ろされている。さっきはそこで中断されたからだ。
 今度はあっさり全開にされて、さっさと下着の中からも取り出されてしまう。しかも。
「ちょ、ば、なに、を」
 じっと見られながら数度扱かれた後、相手の頭がグッと下がっていく。
「あああっっ」
 勢いよくパクリと相手の口の中に自身の熱を咥えこまれて嬌声が上がった。

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可愛いが好きで何が悪い19

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 その格好で言うのはズルい、という気持ちは正直言えばある。今その話を持ち出すのかよと身構える気持ちもだ。
「その彼女のこと、抱いた?」
 けれどそんなこちらの警戒にはどうやら気づいていないらしい。もしくは、気づいていての続行だろうか。
「なんでそんなのお前に教える必要があるんだよ」
「てかはぐらかされたけど、さっきのキスがマジでファーストキスだったりする?」
「んなわけあるか」
「じゃあやっぱ非童貞?」
「ノーコメントで。つかさっき自分が何言ったか覚えてねぇの?」
「さっき? ってどれ?」
「俺と間接セックスするために寝取るのが有りってやつ」
「あー……お前に抱かれたことある過去の彼女探し出して、間接セックス?」
「そう」
 高校時代にいた彼女の話は当然姉から情報だろう。何度か家に呼んだから姉とも面識があって、確か、初彼女を姉が面白がって連絡先を交換していたような記憶がある。
 こいつがその気になれば、相手の特定はそう難しくもないだろう。
「それは、別れても元カノは大事、ってこと?」
「俺のせいでお前の毒牙に掛かるのは阻止したい、って程度にはな」
 別に啀み合って別れたわけじゃないのだから当然だ。受験やらですれ違いが増えたところに進学先が物理的にそこそこ離れたのが主な原因で、別れを言いだしたのは相手側ではあったが、進学後は夢の国通いが出来ると浮かれていたから、こちらとしても渡りに船だった。
「なら、嘘でも童貞だって言っとけば良かったんじゃないの。本気で相手のこと、守りたいって思うならさ」
「一生隠し通せる嘘以外はつかない。がモットーだから」
 まぁそれも嘘ではないんだけど、どちらかというと、経験がないと言ったら相手が喜びそうだからという理由のが大きい。
 そんな嘘で喜ばせた後、嘘だと知られる方がヤバい気がする。ヤバいと言うか、そんなことで落胆させたくはない。
 そう思う程度には、目の前の相手のことだって大事に思っている。
「らしい、とか思っちゃうのがなんか悔しいな。あと、童貞なら俺で童貞卒業しない? って誘おうと思ってたのに、残念」
「は? お前、俺に抱かれたい側?」
「いや、抱きたい側だけど」
 てっきり逆だと思っていた。と思ったら、即座に否定されて意味がわからない。
「童貞卒業させるって、お前が抱かれる側になるって意味じゃないのか?」
「本当に童貞なら、童貞貰うために一回は抱かれてもいい。くらいの気持ちかな。正直、抱かれる側で気持ちよくさせてあげられる自信がないっていうか、俺が抱く側やったほうが気持ちよくしてあげれそう」
 嫌な自信だ。と思ったまま口に出せば、過去はどうしたって変えられないからねと返ってくる。
「貞操守り通してまっさら未経験のピュアっピュアな体だったら、初恋効果でワンチャン男でも恋愛対象になれてたかもとは思うけど、再会前に汚れきっちゃったからさ。じゃあもう、その経験を活かしていい思いしてもらうしかないなって思って」
 へらりと笑った顔は自虐気味ではあるものの、もう、泣きそうではなかった。なのに今度はこちらが泣きそうだ。
 そんな顔をさせたくなかった。汚れきったなんて言って欲しくなかった。
「お前にはお前の事情があったろ。今はもう、下半身だらしないなんて思ってない。お前自身がさっき、今は全部断れてるって、言ってただろうが」
「でも、俺に事情があれば、過去のあれこれがチャラになるわけでも、お前の恋愛対象になれるわけでもないじゃん。てか地味目で真面目な子がタイプなんでしょ?」
 元カノの情報を得ているなら、その子がどんな子だったかだって、知っていても不思議はない。
 そこそこの人数で遊びに行った際に迷子を保護してしまって、自分だけ抜けて迷子を送ろうとしたら一緒に行くと言って付き添ってくれた、委員長タイプの女子だった。子供が好きだそうで、迷子を保護する手際を褒められたし、交際のきっかけは間違いなくそれだ。
 地味だと思ったことはないが、確かにふわふわドレスが似合いそうだと思ったこともない。でも頼りになるところもある落ち着いた性格は、間違いなく好きだった。
 さすがに可愛いものやプリンセスが好きだという趣味は教えていなかったのだけれど、もしこの趣味を許容すると言われていたら、あっさり別れを受け入れるのではなく、もうちょっと続けるための模索や努力をしたかも知れない。
 そんな元カノと目の前の彼とでは、見た目も中身もだいぶ違う。
「どう頑張っても全然当てはまらないんだから、お前好みになれるように頑張るより、いっそ過去の経験を武器にするくらいのがまだチャンスありそうじゃない?」
 別に自分を卑下してるわけでも過去を後悔してるわけでもなくて、前向きに考えた結果なんだけどと言いながら、相手の手が頭の上に伸びてくる。
「そんな顔しないでよ」
 いったいどんな顔をしてるっていうんだ。
 ゆるっと頭を撫でられたが、それを聞く気にはなれなかった。

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可愛いが好きで何が悪い18

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「お前の気持ち知ってる奴らに、脈ないぞって、言われなかったか?」
 こちらの反応をうかがっているのだと思っていたから、思わせぶりな態度を見せたりはしてないはずだ。
「言われたし、わかってるけど。てか、わかってるから、期待はしないつもりだったんだけど」
 じゃあなんで、とはさすがに言えない。聞かなくても、わかってしまった。
「それは悪かったよ。けどしょうがないだろ、そんな気合い入れたドレス姿で近寄られたら、意識はするって」
「うん。凄く、嬉しかった」
 へらりと笑ってみせるものの、色々と失敗している。その姿で泣くのは勘弁してくれと言いたくて、でもそんな事を言ったら余計に泣かせそうな気がして言えない。
 結果、キュッと唇を噛み締めて黙るしかなかった。
「やっぱ俺じゃ、ダメ?」
 目を潤ませながら、そんな縋るみたいな顔をしないで欲しい。耐えきれなくて、とうとう顔を背けてしまった。
「逆に、なんで俺と付き合いたいとか思うんだよ。セックス、もう一生分やった気がするとかも言ってたろ。だからしたいと思わないって。だったらわざわざ俺と付き合って、なにしたいわけ? 今のまま、友達のままじゃダメな理由ってある?」
「そんなの、他の誰にも取られたくないから、だよ。お前に近づく女子に、俺のだから手ぇ出さないでって言える権利がほしい」
「なんだそれ」
「お前は俺が誰と付き合おうと、どんな子とセックスしてようと、何も思わないのかもだけど、俺は無理だもん。俺に彼女紹介したら寝取られるって思ってくれていいよ。紹介されなくても寝取るけど」
「は?」
「お前と間接セックス、って思ったら、相手どんな子だったとしても、たとえ男だったとしても、やれる気しかしない」
 下半身だらしないしモラルとかないしと、自嘲気味に吐かれる言葉が怖い。逸らしていた顔を戻して相手を窺ってしまえば、本気だよと、睨むみたいに告げてくる。
 変わらず泣きそうに目を潤ませているくせに、でもその目には、言葉通りに本気だということが滲んでいた。
 思わずゴクリと喉が鳴る。
「セックスはもういい、んじゃなかったのかよ」
「俺に抱かれたいって寄ってくる子を抱く気にはもうなれないって話だよ、それ。だからお前は別だし、お前とやった相手も別」
 なんだそれ。とは思ったが、今度は口に出さなかった。
 ちらちらと想いがこぼれていることはあっても、性的な目で見られていると感じたことはなかったと思う。だから、自分相手にセックスしたいと思っているなんて、考えていなかった。
 さっきのだって、既成事実を作って体から落としてしまえ的な思惑なんだろうと、思っていた。
「もし俺が、お前と付き合うのはいいけどセックスはしないって言ったら?」
「え、俺とセックスしたくないから付き合いたくないって言ってんの? セックスなしなら恋人になってくれるの?」
「もし、って言ったろ。なるとは言ってない」
「なんだ残念」
「で、どうなんだよ」
「んー、恋人になること優先したいから、セックスしないの受け入れて恋人になる、かな。でも、俺とはセックスしないから余所にセフレ作るとかは許さないし、俺とセックスしてもいいなって思ってもらえるように頑張るかなぁ」
「お前は?」
「俺?」
「俺がセックスさせないなら他にセフレ作ろう、とかならねぇの?」
「それやったら確実にふられるのわかってて、作ると思う? てかそういう自分の欲の解消でセックスしたいってのはないから、浮気とかもないよ。恋人がモテるのが嫌だってのは知ってるけど、ちゃんと全部きっぱりお断りするし、今もそれは出来てるから、そこは安心して欲しいかな」
 ちょっとは考えてくれる気になった? と期待を込めて見つめられてしまって言葉に詰まる。
 付き合ってやる気が出てきたわけでもないのに、余計なことを聞いた自覚はある。
「そもそも、お前が心配するようなこと、起きないと思うぞ」
「俺が心配してることって?」
「俺に彼女が出来ること。てかお前がダメとか以前に、恋人持つ気が今はない」
「でもそれ、今は、でしょ。今は夢の国に通う方を優先したいから、彼女いらないってだけじゃないの?」
 高校のときには彼女いたことあるんでしょと、どこか拗ねたみたいな顔で言われてしまった。なんだか責められているような気持ちになるのは、過去の彼女に嫉妬しているらしいのがわかってしまうせいだろうか。それともやはり格好のせいだろうか。
 経験人数余裕で二桁のお前が言うのかとも思うが、モテ過ぎるのも大変だなと思ったことはあっても、過去にこいつと関係した誰にも嫉妬なんて感情が湧いたことがないので、そこは比較してはいけないんだろう。

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可愛いが好きで何が悪い17

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 過去の相手は女性だけだと思っていたが、もしかして男とも経験があるんだろうか。なんてことを霞む頭の片隅で考えるくらいには、相手の手に迷いがない。
 キスは男女関係ないかも知れないが、男を知らない相手に触れられて、ここまで簡単に気持ちよくなれるとも思えなかった。
 相手のドレス姿にこちらの反応が色々と鈍っているのを好機と捉えて、相手が快楽という手法で落としにかかってきているのはわかるが、取り敢えずやってしまえばどうにかなる的に考えているのだとしたらガッカリだなとも思う。
 体の熱は相手の思うがままに高められて行くのに、気持ちだけはどんどんと冷めていく気がする。それに合わせて快楽に抗うのを止めてしまえば、相手はうっとりと笑って、やっと受け入れてくれる気になったの? などと言う。
「ばぁか」
「ひっど」
「なんかもう面倒くせぇわ」
「えっ?」
 好きにしてくれと言う気持ちのまま吐き捨ててから口を閉じれば、相手はやっと慌てだす。
「え、えと、ちょ……あの、……そんな、嫌だった?」
 オロオロと戸惑ってから、今更そんなことを聞いてくる。
「気持ちは良かった」
「だよね??」
 肯首しながらも、相手の頭の中はきっと疑問符でいっぱいだ。
「なぁ、忘れていいって言ったの、お前だよな?」
 忘れられなくても忘れたことになっていて、なかったことになったはずだったから、この2年近くを友人として過ごしてきたのに。友人として、彼の環境を改善するための協力をしてきたのに。それをあっさり覆して、体から落として関係を変えようとしてくるそのやり方が、多分、一番気に入らない。
 それっぽい言動はちょいちょいとあった上に、大学内ではそこまで親しくしていないとはいえ、2年以上も同じ学科で過ごしていれば色々と気づくやつは気づくし、余計なお節介を働くやつも居る。だから正直、付き合いたいと思っているとはっきり口に出したことそのものには、そこまで驚いてはいないのかも知れない。でも展開の速さについていけない部分は間違いなくあるし、相手の経験値を思い知らされるようなやり方は、正直しんどいなとも思う。
「あー……れは、あのときは、その、気の迷いだったらいいって、俺もまだ、そう思ってたというか、願ってた、から」
「お前がはっきり気の迷いじゃないって思ってからも、俺とはオトモダチでいただろ。今更友人やめたいって、どういうことだよって聞いてんだけど」
 他人がなんと言おうと、ちらちらと想いがこぼれていようと、それでもこいつは友人で居ることをずっと選んでいたはずだった。男同士だし、更に言うなら性別に関係なく彼を恋愛対象とはしないと言ったこともあるので、友人として付き合い続ける方を選んだのだと思っていた。
「待って、待って。え、俺が本気で好きになってたの、気づいてた? え、いつ? いつから?」
「いつから本気とかは知らないけど、お前が本命出来たからって女子の誘い断ってるのは知ってる」
「ちょ、え、なんで??」
 なんでもなにもないだろうと、呆れてためき息が零れそうだ。
「その本命が俺、っての、お前の友人で知ってるやつ居るだろうが」
「えー、えー、なにそれ裏切りが酷い……」
 内緒って言ったのにと、ガックリうなだれてしまうから、本気で内緒が通じると思ってたのかと、今度こそ本気で呆れてため息がこぼれ出る。どちらかというと、それを知らされたこちらの反応をうかがって、多少なりとも脈があるかどうかを探っているのだと思っていたのに。
 わざわざ彼の気持ちをこちらに知らせてこないだけで、多分間違いなく、姉とその友人たちだって知ってるだろうと思っていたが、つまり彼女たちは、彼の秘密にしてねを守っていただけってことか。
 そういや、家庭環境の酷さや継母と関係を持ったことがある話も、全くもって秘密ではなかったことを思い出す。さすがに弟妹が自身の子の可能性が高いという話は慎重に扱っていたようだけれど、それだって知ってるやつは多分そこそこいる。なんせ、彼にとってはあのタイミングで簡単に吐いてしまう程度の秘密で、ドン引きだよねと言いつつも他者の同情を買うネタの一つ扱いだった。

続きました→

 
 
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