弟は何かを企んでいる3

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 7月の半ば、弟は家を出て一人暮らしを始めた。といっても、一緒に暮らすなんて嫌だとか、同棲とか何言ってんだと、弟の提案を拒否ったわけではなく、もっと手順を踏めってだけの話だ。
 家事を負担してでも二人で暮らしたい、もっと言うなら家の中でエロいことがしたい弟の訴えは理解したし、そのために初期費用を貯め自炊スキルを磨いた努力は認める。ただ、兄弟で恋人、という事実を可能な限り親に隠しておきたいって部分が、弟の頭の中からはすっぽ抜けていた。
 つまり、二人同時に家を出て、しかも二人で同じ部屋を借りて住む、という理由が親に説明できない。だから時間差でどちらかが先に家を出るべきだと、あの日、一緒に住みたいと相談しに来た弟には話した。
 金銭面と必要性という意味では、多分、自分が先に家を出るのがいいんだろう。頻繁に激務でボロボロになる自分が家を出るなら、少しでも会社に近いところに住みたい、辺りで親は多分すんなり納得するとは思う。
 でも家事スキルをめちゃくちゃ心配されると思うし、事実、自分でも一人暮らしなんて無理だと思うし、先に自分が家を出て弟を後から引き込む作戦は考えるだけ無駄だ。
 それよりも、一緒に住むのを断られてもとりあえず家は出て、一人暮らしの部屋に連れ込めば「俺のベッドで抱きたい」は可能、などと考えて準備していた弟が、先に家を出るのが妥当だと判断したに過ぎない。
 とにかく家を出て一人暮らしがしたい。そのためにバイトもした。という自立心を前面に出せば、親も不思議には思わないだろう。
 考えたのは、激務の時に泊まらせて貰ううちに、やっぱりもっと会社に近い場所に住みたくなったが、自分の家事スキルに自信がない。弟が家事を負担する分こちらが多めに金銭負担すれば、弟にとっても有り難いだろうし弟もいいって言ってる。という流れで、つまりは、後から自分が合流する算段になっている。
 なので、弟が新しく住む場所にはけっこう口出しした。だけでなく、実はすでに金銭的にも少しばかり援助している。まだ住んでもいない家だけど。でも今後お世話になる気満々で。
 その時に、弟が選ぶデート先が小さな駅の特別有名ってわけでもない店になった理由も知った。つまりは、今後住みたい地域の選定だ。町や店に対するこちらの反応も、それなりに見られていたらしい。
 家を出て二人暮らしをする理由、にまでは考えが及ばなかったようだけれど、弟にしては随分早くから周到に準備していたと思う。
 ほんのりと怖いのが、弟に入れ知恵している存在が居る可能性なんだけど、さすがに怖くて聞けていない。弟に、実は兄貴が恋人、を知ってる友人やらが居ないことを願うばかりだ。
 そして弟が家を出た一月後、世間ではお盆休みと言われる時期に、初めて新居にお邪魔する予定になっている。しかも、今年のお盆休みは全日弟の新居に居続け予定だ。
 ラブホにお泊りは何度か経験があるが、それ以外で弟と泊まりで過ごしたことはない。つまりは初めて、恋人という関係のまま長時間一緒に過ごすことになる。それを考えるたび、少しの不安と、期待と興奮とで、なんだかソワソワしてしまう。


 一人旅の趣味なんてないので、今年のお盆は泊まりで出かけるから食事の用意は要らないと母に話した際には、かなり珍しがられたけど。そこは曖昧に濁して、大きなカバンに着替えやらを突っ込み家を出たのはお盆休み初日の昼前だった。
 待ち合わせた弟新居の最寄り駅近くで昼食をとった後、案内されるまま弟に付いて新居へ向かう。色々口出しはしたが、さすがに一緒に内見まではしていないので、全く初めての道のりを、なるべく覚えられるように目印になりそうなものを探しつつ歩くこと20分弱。ようやく弟が住むマンションにたどり着いた。
 駅からの距離が遠いほど家賃が安くなるのは当然で、弟的には30分くらいまでは有りと思っていたようだが、いずれ合流する身としてはさすがに30分はキツイ。それと、壁が薄そうなアパートは論外。というこちらの意見を考慮した、立地と建物というわけだ。
「あ、鍵、俺の使っていい?」
 玄関ドア前に立ちポケットを探る弟に声を掛ければ、振り返った弟が嬉しそうにニヤけるのがわかった。
「もちろん。てか、ぜひ」
 ポケットから手を抜いて、ドア前を譲るように横にズレた弟に代わってドア前に立つ。
 思いつきの発言だったので、自分のキーケースを出すのに少し手間取ってしまった以外は、なんの問題もなく自分の鍵でこの部屋のドアが開いた。
 キーケースの中にぶら下がっているのは、弟が家を出る直前に、兄貴の分ねと言って渡してきたスペアキーだ。
「ん、ふふ」
 こみ上げる笑いとともに玄関に入って、ただいまと告げながら靴を脱げば、鍵が閉まる音とほぼ同時に伸びてきた腕に、背後から抱きしめられてしまった。

続きました→

 
 
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弟は何かを企んでいる2

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 ノックの後、部屋に入ってきた弟の機嫌は良さそうだった。
 家の中でエロいことはしない、というのは恋人になったところで変える気はなかったのだけれど、さすがに軽く触れるキスくらいならと許容するようになっている。つまりは恒例になりつつある、おやすみのキスをねだりに来ただけではないようで、弟はそのままどかりと部屋の真ん中辺りに腰を下ろしてしまう。
「何かいいことあった?」
「うん。そろそろ家を出ようと思って」
 その報告がしたいんだろうと思って話を振れば、そんな言葉が返ってきて、一瞬何を言われたかわからなかった。
「ようやく色々準備整ったんだ。だから、兄貴にも一度ちゃんと相談したくて」
「……は?」
 随分間を開けて、それでもまだ理解が及ばず、間抜けな音が一つ口から漏れる。
「あー、兄貴にとっては急だと思うけど、ずっと家は出たいって思ってて、」
「待て待て待て。え、家出るって、お前が? 一人暮らし? 出来んの?」
 ようやく何を言われたかは理解したけれど、何を言っているんだという気持ちは大きい。すぐに理解できなかったのも、この弟に一人暮らしなど出来るイメージがないせいだ。
 いやまぁ、自分が家を出ないのだって、似たような理由ではあるんだけど。
 必要ないと連絡しない限りは日々食事が用意され、汚れた衣服も洗濯かごに突っ込んでおけば、後日綺麗に畳まれ自室のベッドの上に乗っているような生活をしているのだ。それらを自分の手でと考えただけで、あっさり白旗を揚げてしまう。
「だぁから、そのために色々準備してたんだって。あと、一人暮らしになるかは兄貴次第かな」
「俺?」
「一緒に暮らさない?」
「はぁ?」
「兄貴と同棲したい」
「いやいやいやいや」
「やっぱ嫌?」
 そうじゃない。てか嫌かどうか以前の話だろう。
「嫌かどうかより、まず無理だろ。お互いに。家出てどう生活すんだよ。ってか準備したって何?」
「あー、引っ越し資金というか初期費用的なの貯めてたのと、あと、自炊できるように料理覚えたり。掃除と洗濯は元々そこそこ出来る、はず」
「え、お前、休みの日にこっそり何やってんのかと思ってたけど、料理習ったりしてたの? え、で、さらに初期費用まで貯めたって、お前、入社一年目でそこまで稼げるような会社、入ってた? そこまで残業もないような会社で???」
 頭の中を疑問符が巡りまくる。
 若干ブラック気味の自社は入社一年目でもけっこう容赦なくこき使ってくれたし、でもその分が給料に上乗せされていたから、その気になれば1年足らずで初期費用くらい貯まっただろうけど。料理教室的なものに通う費用も出せなくないかもだけど。かくいう自分も、結婚資金と思って結構貯め込んでいたんだけど。
 まぁ、結婚に至る前にその激務のせいで振られたし、そのおかげで、今じゃ弟相手に抱かれる側で恋人だ。
「いや、アルバイト。てか副業?」
 知り合いの飲食店で、料理を教わりながら手伝いをしていた、らしい。知り合いというか、友人の親の店だそうだ。
「それ、なんで言わなかったんだよ。ずっと隠れてなにかやってるとは思ってたけど、バイトしてるならしてるって言えば良かったのに」
「えー、だって、阻止されたくなかったし」
「つまり? お前は俺が、お前の自立を反対すると思ってる、ってことでいい?」
「まぁね。だって兄貴、今の生活で満足そうだもん。その満足を維持するために、俺を今のまま、側に置いておきたいかなって」
 確かに今の生活になんら不満はないし、むしろ幸せを満喫しているところがあるし、その幸せをもたらしているのがこの弟だってこともわかっている。
「お前は不満ってこと?」
「不満っていうより、欲張りなだけ。手に入れたいもののために、出来そうなこと頑張るのは基本だろ」
「手に入れたいもの? 恋人ってだけじゃまだ何か足りないのか?」
「わざとはぐらかしてる? 兄貴の言い分わかるから引いてるけど、お願い自体は何度かしてる」
 そう言われて思い当たることはあった。
「あー……家でヤりたい、って?」
「そう。正確には、俺のベッドで抱きたいってやつな」
 弟の匂いが染み付いたベッドの中で、ドロドロに甘やかされながら乱れまくる姿を見たい、らしい。兄貴の匂いで俺のベッドにマーキングして、とかなんとか言ってたような気もする。

続きました→

 
 
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弟は何かを企んでいる1

兄は疲れ切っているのその後の二人を兄側視点で書いています。

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 弟と恋人という関係になってから先、抱かれる頻度は半分くらいに減った。体だけでも繋いでおかないと不安だった、というのが、恋人という立場を得て安定したせいらしい。
 まぁ、ホテル直行だったのがデートという手順を踏むようになったのと、一回のチェックインで数回イカされるようになったのとで、金銭的にはそこまで変わらないし、肉体的にはむしろマイナスって気もするけど。でも精神的には確かにこちらも、かなり安定してはいた。
 兄弟で恋人ということも男同士でデートすることも、全くと言っていいほど気にしていない相手に、躊躇もなく愛情を注がれながらデートし抱かれるのは、正直クセになるほどイイ。
 デートと言ったって、初回が映画と食事だったわけで、毎回デートスポットやらを探して巡ってやっているわけではなく、むしろ食事だけってことも多いんだけど。でも一緒に食事をして、あれが美味しいこれが美味しいと言い合って、愛しげに見つめられる中で差し出される、スプーンに乗った相手のデザートを前に口を開ける頃には、すっかり気持ちが昂ぶっている。
 それを更にどろどろに甘やかされつつ抱かれるのだから、イイのは当然だと思う。特に、すっかり開発されきったお尻や胸への刺激だけでトコロテンするのが、たまらなく気持ちいい。
 体はその先があることを知っているけれど、さすがに吐精無しでイッたのは恋人として初めて抱かれた日くらいだ。玉が空っぽの状態じゃなくてもそうなることがある、らしいのは知っているけれど、今のところそこまでは至っていないし、玉が空になるほど何度となくイカされるような抱き方もされないからだ。でも奥を突かれた時に、痛いよりも気持ちいいが勝るときが増えているから、いずれは吐精無しでイケるようになるのかも知れない。
 そんな日々が大きく変わったのはやはり弟が大学を卒業して就職してからだろうか。いや、自分との関わりに影響が出たのが卒業後というだけで、変化はもう少し前から起きていた。
 ずっと熱心に続けていたスポーツを社会人になっても続けるのかと思いきや、あっさり引退して家から通える範囲の職場を探した辺りで、もっと真剣に話し合いをするべきだったのかも知れない。自分との関係を今後どうするつもりでいるのか、実のところ聞けていない。
 自分の実力はわかってるし、元々大学卒業までと思ってた。という弟の言葉を疑う気はないが、弟の進路に自分が影響した可能性を考えずにいられない。
 まず大きく変わったのは金銭面の負担割合で、それはまぁ、とくに不思議なことではないのだけど。でも割り勘という形ではなく、交互に支払いがいいと言い出したのも、その日のデート先を支払い側が決めようと言い出したのも、ただただその方が楽しいから的な理由ではなさそうだ。
 なぜなら、弟に連れて行かれる先が、こちらがメインで支払っていた頃とかなり違う。メインで支払っていた頃だって、弟が提案してきた店やら場所やらを拒んだことはほぼないのに。
 最近弟が選ぶデート先は、あえて大きな駅を避けているように感じる。今までは降りたことがないような小さな駅にある、特別有名ってわけでもなさそうな店に入ることが多い。
 それなりに調べてはいるようで、それらの店に不満があるわけじゃないんだけど。でも、なんで? と思わずにいられない。だって、そんな小さな駅前にラブホがあるわけもなく、結局、そのあと大きめの駅に移動している。
 それと、デートをしない休日に、何をやっているかさっぱりわからない。今までは彼がいない週末=部活絡みの何かとはっきりしていたけれど、別に試合を見に行ってるだとか、後輩指導で母校を訪れているだとか、そんなわけでもないらしい。
 特に、何してたと聞いても、ちょっと色々と濁されるのが、とにかくめちゃくちゃ怪しかった。
 絶対に何か企んでるっぽいけど、そのうちちゃんと話すから待っててと言われてしまうと、追求もし難い。そしてそんな悶々とする日々は、なんと、もう1年近くも続いている。

続きました→

 
 
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煮えきらない大人3(終)

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 通学定期を手に入れた後は、可能な限りカフェに通う生活になった。とは言っても、当然、連日入り浸りというわけには行かない。
 小遣いは限られているのでバイトはしなきゃ資金が足りないし、でも、ここでバイトしたいという提案は、人手は足りてるとあっさりお断りされている。
 なので曜日や時間帯をあれこれ変えながら、なるべく週に1回は訪れるようにしていた。そしてタイミング良く店長不在かつ自分以外の客が居ないとき、つまりは店内に二人きりのときだけ、隙を見て「好きです付き合ってください」という告白を繰り返してもいた。まぁ、返事は変わらず「もうちょっと考えさせて」で逃げられているんだけど。
 ただ、いつまで待つのが妥当なのかの判断が難しい。
 今までまともに意思表示もしないまま、いつか大人になったら付き合えるという未来を勝手に思い描いていたのは事実なので、とりあえずはっきりと意思表示を続けよう、くらいのつもりで繰り返す告白を、多分、相手は楽しんでいる。だって考えさせてってお断りしてくるくせに、困るとか迷惑とかって素振りはなくて、どこか嬉しそうな気配まで滲んでいる。
 まぁ相手が楽しいならいいか、なんて思える余裕はさすがにない。むしろ、嬉しいならさっさとOKしてくれって気持ちが膨らむのは当然だと思う。
 脈はありまくりなのに、進展する気配がない。という事実には間違いなく焦らされていた。
「あれから半年ほど経ちますけど、まだ、考え中ですか?」
「え?」
 驚いたような声を出されたのは、告白タイムは帰る間際のことが多いせいだろう。今日は、ドリンクを運んできたその場で、立ち去る前の彼を引き止めるように声をかけている。
「好きです、付き合ってください。でも今日もまた、考えさせてって逃げるつもりですよね?」
「あー……怒って、る?」
「怒ってはないですけど焦らされてキツくなってるとこはあります。だからせめて、あとどれくらい考えれば答えが出そうか、教えてほしいです。というか二十歳になったらと思ってるなら、あと1年待ってって、言って欲しいです」
 正直に言えば、この前誕生日を伝えたときに、そう言ってもらえるかなと期待していた。普通に、じゃあお祝いねと言われて、カットケーキがサービスされて終わりだった。
「あー……」
 この話題を持ち出すのは店内に二人きりのときだけ、と相手もわかっているだろうに、困ったように店内を一度ぐるっと見回したあと、相手は観念した様子で対面の席に腰を下ろす。しかしその様子から、とうとうOKが貰える、という期待はまったく湧き上がってこなかった。それどころか、困った顔を崩さない彼を正面にして、不安が膨らんでいく。
「やっぱ、今の状態を続ける気はもうない感じ?」
「ええ、まぁ。でも期限切ってくれるなら、待てます。その日が来るまで、今まで通り告白続けてって言われるのは構わないです」
 返答がずっと「考えさせて」から変わらないのが、とにかくキツい。
「そっか。じゃあ正直に話すけど、答えはもう出てる。お付き合いは出来ないよ」
「はぁ!? ちょっ、えっ、なんで!?」
 意味がわからないと言えば、ごめんねと謝られてしまった。謝られたいわけじゃないのに。
「理由は? てか告白するたびあんな嬉しそうにされたら、絶対脈アリって思いますよね?」
「理由は前に言ったのと一緒だよ。歳が離れすぎてて、お付き合いが上手くいくイメージが全然持てないっていうのと、一回りも年下の真っ更な子に手ぇ出せる気がしないから。で、脈アリって思わせたのは申し訳ないけど、実際嬉しかったし、この状態でいいって言ってくれるなら、可能な限り引き伸ばしてたかったんだよね」
 いつ追求されるかなと思ってたけどここまでかぁと、相手は残念そうに苦笑している。
「期待持たせて焦らして引き伸ばしてたの事実だし、嫌われる覚悟は、できてる」
「いや、嫌いになったりしませんけど。あと諦める気もないですけど」
 とっさに口に出せば、相手は呆気にとられた顔になる。
「えっ……」
「だって俺と付き合いたいって、本音のとこでは思ってますよね? だから嬉しそうな顔するんですよね? 本当に嫌われる覚悟ができてる、って言うなら、付き合いましょうよ。とりあえず付き合って、うまく行かなくて、喧嘩とかするのもいいんじゃないですか。嫌われてもいいって思ってるなら、怖くないでしょ? もう無理って、俺に思わせたらいいじゃないですか。もちろん俺は、そうならないように頑張りますけど」
 呆気にとられた顔が、嫌そうに歪む。喧嘩してもう無理って言われる想像でもしたんだろうか。
「ちなみに、お付き合いしてみた結果、情けないとことかダサいとことか見せられても、一回りも年上なのに気持ぃセックスして貰えなくても、それで幻滅する予定もないです」
「ちょ、待って待って待って。なにそれ?」
「いやなんか、もしかしてうまく伝わってないのかな、みたいな気がして」
 嫌われる覚悟があるなら付き合えばいいと説きながら、嫌われて離れていくのは許容できても、幻滅されたりを恐れてる可能性があることに気づいてしまった。年の差をかなり気にしているから、付き合ってボロを出したくないのかも知れない。
「うまく伝わってないって、なにが?」
「ほとんど一目惚れだったの事実だし、カッコイイって思ってるのも事実だけど、別に、カッコイイ年上彼氏が欲しいなんて理由で、付き合ってって言ってるわけじゃないんですよ。ってのが」
 え、違うの。という声は聞こえてこなかったけれど、間違いなく、そう思っている。
「だって、カッコイイ年上彼氏が欲しいなら、その条件に合う別の誰かでもいいって話になるじゃないですか。しかも元々は7か8くらいの差だと思ってたわけだし、条件で選ぶなら一回りも年上の相手、わざわざ選びませんって」
「そ、っか……」
「で、ちょっとは前向きに考えてくれる気になりました?」
「う、あ、でも……」
 まぁここであっさり頷いてくれるような人なら、ここまで焦らされることなくとっくにOKされてるんだろうけど。でもちょっとは進展した気がするので、今日のところは良しとする。
 返す言葉を探して口ごもる相手を見ながら、運ばれてきたドリンクにようやく手を伸ばした。

高校時代の一人訪問話を書いてみたらやっぱりイマイチで、まるっと書き直して結局大学入学後の話になりました。多少リクエストに寄れた気がするので、このお話はここまでにしたいと思います。
リクエストどうもありがとうございました〜

 
 
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煮えきらない大人2

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「昔、まずは大人になってから、って言いましたよね?」
「え、えっ、ちょっ……ええ〜」
 店長の息子だという彼が店に立つようになったのは中学に上がった頃で、一目惚れに近かった。ジロジロと眺めた挙げ句、その視線に気づいた彼に向かって、どうすればあなたの恋人になれますかとド直球に聞いたのだ。怖いもの知らずのマセガキだった自覚はある。
 クラスの女子なんかより初対面の男にトキメイている事実には自分自身かなり驚いたけど、でもなぜか、今すぐ意思表示しておかないと他の誰かに取られちゃう、って思ってしまった。
 その時に、子供と恋人になるのは無理だなぁと笑われて、まずは大人になるところから頑張ってと言われたのを、こちらは片時だって忘れてないのに。
「まさか忘れて、ってことはないですよね? だって俺のこと、ちゃんと意識してくれてるし」
「いや、いやいやいや」
「どういう反応なんですか、それ」
「もしかして本気、だった?」
「本気でしたけど。ていうか本気じゃないのに男相手に告白すると思ってんですか?」
「だって君がそれ言ったの、初回だけだよ? 初対面でそんなの言われて、本気にすると思うのってのもあるし、次会ったときは好きとか付き合いたいとか恋人とか一言もなかったから、若気の至り的な何かで衝動的に言っちゃった系って思ってた」
「それは恋人の条件がまず大人になれだったからでしょ」
 だって、しつこく告って困らせるのも、それで嫌われるのも避けたかった。初回の告白だけでも自分のことを覚えてくれたし、小さなデザートがオマケされたりのちょっとだけ特別な扱いをしてくれてたから、今はそれでいいって思ってた。
 大人が子供に手を出したら犯罪ってのを知ってからは、だから大人になれって言われたんだと思ったし、大人になるのを待っててくれてるんだって信じてた。意識されてるのがバレバレの態度に待たせて悪いなって思ってたし、早く彼が安心して手を出せる年齢になりたいとも思ってたし、高校卒業したらOKにならないかなって期待もしてた。
 その前提が今、目の前で崩れかけている。
 大人の定義が高校卒業なのか、二十歳なのか、就職したらなのかは考えてたけど、告白本気だったの? なんて聞かれる想定は欠片もなかった。
「てか本気にしてなかったなら、なんで、俺のことそんな意識してるんです?」
「し、てない、よ」
 さすがにそれは無理がありすぎる。じゃあなんで、定休日の今日、二人きりで特別メニューを振る舞われてるんだって話になってしまう。
「嘘ばっかり。てかあなたがお店手伝うようになってから、あなた狙いの女性客めっちゃ増えたって聞いてますよ。でも恋人居ない歴着々と重ねてるの、俺が大人になるの待っててくれてるからじゃないんですか?」
「いやいやいやいや」
「なんでそこ否定なんですか」
「だって幾つ違うと思ってんの」
「え、……7か、8、くらい?」
 実際どれくらい年齢差があるかなんて考えたことがないけれど、初めて会った頃の彼は専門学校に通いながら店を手伝ってるとかなんとか言ってたような記憶があるから、多分、20歳前だった。
「そんな若く見えてた? まぁチャラかった自覚はあるんだけど」
 苦笑した相手は、初めて会ったときにはもう25だったと続ける。
「ええっ!?」
 さすがにそれは想定外過ぎた。てことは、12か13は上ってことか。
「俺、大学出てるし、飲食全く関係ない会社に一回就職もしてんだよ。でも色々あってあっさり退職しちゃってね」
 そしてその後も何やら色々あって、結局親の店を継ぐことにしたらしい。
「あー、まぁ、思ったより年食ってるのはわかりました。でもそれってそこまで問題ですか? 俺は別に、あなたが幾つでも、そこまで気にしないですけど」
 言っても相手はうーんと唸っている。
「てか問題って年齢差だけなんですか? 本気にしてなかったってなら、男はない、とか言われる可能性もあるのかなって、思ってるんですけど」
「あー……それは問題ないっていうか、さっき言った色々あったの中に、俺がゲイってのも含まれてるんだよね。女性客増えようが恋人居ない歴重ねてんのもそれのせいっていうか、君が大人になるの待ってたからってわけじゃないっていうか」
 なんとも煮えきらない態度で、いまいちはっきりしない。
「とりあえずはっきりさせたいんですけど、俺のこと、好きですか?」
「そりゃ、嫌ってたらこんなお祝いしないよね」
「そういう言い方ずるいですよ。じゃあ俺のこと、抱けそうですか? それとも元々ゲイなら抱かれたい側です?」
「うん、だから、そういうのはね。一回りも年下の子相手に、手なんか出しちゃダメでしょ、って」
「出来るのか出来ないのかを聞いてるんですけど。ちなみに俺は、ゲイだなんて知らなかったから自分が抱かれる側になればいいって思ってましたし、抱かれたいって言われる想定はなかったです。まぁ、抱かれたい側って言われても諦める気ないんで頑張りますが」
 諦める気がないと言い切ったからか、相手が酷く困った様子で、抱かれたい側じゃないから変なこと頑張らないでと言う。でも抱けるのかって部分は結局うやむやにするらしい。まぁうやむやにして無理ってはっきり言わないあたりが、抱けるって意味なんだろうけど。
「ていうか、本気って思ってなかったから、もうちょっと考えさせてほしいんだけど」
 せっかく作った料理が冷めちゃうからと言われたら、さすがに了承を返すしかない。それに想定外の話を色々と聞かされたこっちも、今後に向けて対策を練り直す必要がありそうだ。
「そうですね。じゃあ一旦この話は終わりにしますけど、成人年齢下がって成人済みだし、もう大人になったってことで、今後は俺ももっと本気で恋人狙っていきますから」
 それだけ宣言して、頂きますと手を合わせる。対面では、困っているような諦めているような、そのくせどこか嬉しそうでもある、なんとも言い難い顔をした相手が、成人は二十歳でいいのになぁとぼやいていた。

続きました→

「大学生くらいの受けと一回り以上年上の攻めで、いい歳してこんな年下の子に手を出すのは流石に…と葛藤している攻めと、大人って大変だな…とそんなモダモダしてる攻めを観察してる受け」の再チャレンジです。
年下すぎて手を出せない攻めは想像しやすかったんですが、惚れられてるのわかってて観察するだけで待ってられる大学生受けが想像できなくて、こんな形になりました。
これ、大学合格報告した日とか、もっと前の一人でこそっと訪問した日あたりを書いたら、もうちょっと攻めを観察してる話になりますかね?
そうすると今度は「大学生くらいの受け」から外れちゃうかな〜って気もして、ううーん難しい。
一応次回、ちょっとそっちもチャレンジしてみようかと思います。

 
 
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煮えきらない大人1

 closeの札がかかった扉を開ければチリンと軽やかな音が鳴る。
「いらっしゃい。待ってたよ」
 来訪に気づいて厨房から顔を出したのはこの店の二代目で、ニコニコと楽しげな顔にこちらの頬も緩んでしまう。
「こんにちは。えと、今日はありがとうございます。楽しみに、してます」
 少しばかり緊張しながらもペコリと頭を下げれば、誘ったのこっちなんだからむしろ来てくれてありがとうだよと、やっぱり笑顔で返される。期待してていいよ、とも。
「じゃ、用意するから座って待っててくれる?」
 テーブル席のがいいかなと続いた言葉に軽く頷いて、一番奥のテーブル席へ向かって歩く。両親と訪れるときの定位置だ。
 物心ついたころから年に数回、親に連れられて訪れていたこのカフェは、両親が学生時代によく利用していたという思い出の場所らしい。近くに両親が通っていた大学があって、春からは自分も通うことになっている。
 進学先をその大学に決めた最大の理由が、この店だってことは誰にも言ってないけど。でも二代目はもしかしたら気づいてるかもしれない。なんせ、高校に上がって行動範囲が広がってからは、何度か一人でこっそりと訪れていたから。
 それに、合格が決まった先日、春からはもっと頻繁に通えるようになるって、わざわざ知らせに来てもいる。しかも浮かれて、ちょっとどころかかなりテンション高めだった。思い出すたび、少々恥ずかしいくらいに。
 でもそんなテンション高めの報告をしたおかげで、こうして合格祝いを貰ってるんだけど。
「お待たせ〜」
 そんな言葉とともに、次々と皿が運ばれてくる。お皿はどれも見たことがあるのに、メニューにない料理ばかりが盛られているから驚いた。
「すごいですね。てか多すぎません?」
 どのお皿も、一品一品そこそこの量がある。せっかくの特別メニューを残したくはないけど、どう見ても一人で食べ切れる量じゃない。
「ちょっと張り切りすぎたとこあるのは認める。けどまぁ、二人分だと思えばそこまででもないだろ」
 そっちの若さに期待してる部分もあるけどと言いながら、これで最後だよと大きめのグラタン皿が中央に置かれた。
「二人分」
「さすがに今日はね。一緒に食べようって思ってさ。わざわざ定休日に来てもらったの、そのためだもん」
 取皿使ってねと言われて、初めて、カトラリーケースの横にお皿が数枚積まれていることに気づく。一緒に食べよう、なんて言ってもらえると思ってなくて、いっきに鼓動が早くなる。
 どうしよう。嬉しさと期待で緊張が増してしまう。
「飲み物なにかいる?」
「いや、水で良いです」
 じゃ、座っちゃうねと言って、相手が対面の席に腰を下ろす。こんな風に向かい合って食事をするなんて当然初めてで、思わず相手を凝視してしまえば、その視線に気づいた相手が照れくさそうに笑った。
「お酒飲める年齢なら、ここでワインの1本も開けたいとこだよな」
「俺のことは気にせず、別に飲んでもいいですよ?」
「いや、いいよ。お酒飲めるようになったら、また祝わせてよ」
「それはもちろん、嬉しい、です。けど……」
「けど?」
 言っていいのか迷えば、言葉尻を拾って訪ねてくる。
 18歳になって成人したけど、ほんの数年前までは20歳で成人だったわけだし。急かすつもりはないんだけど、でも高校卒業も目前だし、そろそろ言葉が欲しい気持ちもある。
「えっと、それは期待していい、やつなんですかね?」
「メニューの話? 食べたいものあるなら、言ってくれれればなるべく希望に沿うように頑張るけど」
「あ、いや、そういうのじゃなくて」
 なんだろ? と首を傾げる相手にはなんの含みもなさそうで、わざとはぐらかしてるようには見えなかった。前からだけど、意識してくれてるのバレバレなのに、こっちの気持ちには鈍いところがある。
「あー、その、いつ告白してくれるのかな、って」
「えっ???」
 めちゃくちゃ驚かれたことに驚いた。なんでだよ。

続きました→

 
 
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