可愛いが好きで何が悪い20

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 悪い男に付け込まれるよと苦笑いするその顔はどうみたってかなり可愛い女の子で、その顔がまたゆっくりと寄せられてくる。
 抵抗はしなかった。
 さっきも一度、もう好きにすればいいとヤケクソ気味に思ったのだけれど、それともまた違って、どうすればいいのかがわからないというのが正直な気持ちだった。もっと言うなら、受け入れたくないのに、拒否もしたくない。
 好きだと言われたって、付き合いたいと言われたって、友人としてはともかく恋愛感情で好きだと思ったことはないし、やっぱり付き合いたいとまでは思えないのに。汚れきったと自嘲する相手の望みのない願いを、叶えてやりたい気持ちがある。
 対象が自分でなければ、きっと、どうにかしてやりたいと協力していたとも思う。
 このドレスは似合っているし、間違いなく好みのプリンセスではあるけれど、どちらかというと少し距離を置いたところから眺めていたい対象だ。隣に自分ではない王子が寄り添って、幸せそうに笑ってくれればそれでいい。自分はそれで満足するだろう。
 なんで、よりによって自分なんだと、どうしても思ってしまう。彼の隣に並べるような、王子の器なんかじゃないのに。
 わずかに離れては再度触れ合う唇。さっきと違って深いものにはならず、互いに相手を窺うみたいに、目も閉じずにただただ何度も繰り返されている。
 相手が何を考えていて、このあとどうするのかはわからない。ただきっと、相手が引かなければ受け入れてしまう。何かを恐れるようにおずおずと触れては離れていく唇に、何かを恐れているくせに止まれないと言わんばかりに繰り返されているキスに、拒否はできないという気持ちが膨らんでいるのがわかるからだ。
 ああ、もう、本当に困った。
 そっと瞼を落とせば、一瞬の躊躇いの後で、相手の舌が口の中に入り込んでくる。
 この場合、先へ進む引き金を引いたのは自分、ってことになるんだろうか。なんかもう、それでもいいような気がしていた。あまりに焦れったくこちらの様子を窺うのに、絆されたのかもしれない。
 口の中を探られ舐め擦られても、やっぱり嫌悪感はないし気持ちがいい。応じるように差し出した舌を絡め取られ、相手の口に誘いこまれるのに従えば、ぢゅっと吸われて腰が痺れた。
「んんっっ、はぁ、ぁ」
 鼻にかかった音とともに触れ合う唇の隙間から荒い息がこぼれて、相手に興奮を知らせてしまう。
 さっきはあんなに躊躇いなく触れてきた手は、今度は少し迷っているようで、ゆるっと太ももをなで上げながら熱を持ち始めた中心へと近づいてくる。やっぱり酷く焦れったくて、急かすように腰が揺れてしまって恥ずかしい。
「んっ、ふ、ぅ……」
 やっと触れて貰えた安堵と快感とで体がわずかに弛緩する。ずっと塞がれていた口が開放されて、相手が顔を離していく。でも閉じたままの目を開くことはしなかった。
 羞恥で相手の顔なんて見られないと思っていたからだ。なのに、確かめるように熱を撫でる手が止まり、顔には相手の視線を強く感じて、耐えきれなかった。
 開いた目に飛び込んできたのは、さっきみたいにうっとり笑う笑顔じゃなくて、すぐに酷く後悔する。胸の奥がキュッと絞られて痛い。
「ぁ……」
「ごめん、ね」
 困った様子の悲しそうな微笑みに、大事なプリンセスにこんな顔をさせているのは誰だよという怒りと、情けなさがこみ上げる。こんな顔をさせているのは自分だと、わかっているからだ。
「あやまん、な」
 自分自身へ向かうべき怒りが、声に乗ってしまった。つまりは八つ当たりで、ますます相手を傷つけた。
「うん。ありがとう」
 無理やり笑ってみせたのがありありとわかって、ダメだと思うのに眉間に力がこもってしまう。
「だから、気持ちよくなって、ね」
 よりいっそう作られた感の強い笑顔を見せて、相手の手が動き出す。もう躊躇いは捨てたらしい。
 既にフロントボタンは外されていて、チャックもわずかに降ろされている。さっきはそこで中断されたからだ。
 今度はあっさり全開にされて、さっさと下着の中からも取り出されてしまう。しかも。
「ちょ、ば、なに、を」
 じっと見られながら数度扱かれた後、相手の頭がグッと下がっていく。
「あああっっ」
 勢いよくパクリと相手の口の中に自身の熱を咥えこまれて嬌声が上がった。

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可愛いが好きで何が悪い19

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 その格好で言うのはズルい、という気持ちは正直言えばある。今その話を持ち出すのかよと身構える気持ちもだ。
「その彼女のこと、抱いた?」
 けれどそんなこちらの警戒にはどうやら気づいていないらしい。もしくは、気づいていての続行だろうか。
「なんでそんなのお前に教える必要があるんだよ」
「てかはぐらかされたけど、さっきのキスがマジでファーストキスだったりする?」
「んなわけあるか」
「じゃあやっぱ非童貞?」
「ノーコメントで。つかさっき自分が何言ったか覚えてねぇの?」
「さっき? ってどれ?」
「俺と間接セックスするために寝取るのが有りってやつ」
「あー……お前に抱かれたことある過去の彼女探し出して、間接セックス?」
「そう」
 高校時代にいた彼女の話は当然姉から情報だろう。何度か家に呼んだから姉とも面識があって、確か、初彼女を姉が面白がって連絡先を交換していたような記憶がある。
 こいつがその気になれば、相手の特定はそう難しくもないだろう。
「それは、別れても元カノは大事、ってこと?」
「俺のせいでお前の毒牙に掛かるのは阻止したい、って程度にはな」
 別に啀み合って別れたわけじゃないのだから当然だ。受験やらですれ違いが増えたところに進学先が物理的にそこそこ離れたのが主な原因で、別れを言いだしたのは相手側ではあったが、進学後は夢の国通いが出来ると浮かれていたから、こちらとしても渡りに船だった。
「なら、嘘でも童貞だって言っとけば良かったんじゃないの。本気で相手のこと、守りたいって思うならさ」
「一生隠し通せる嘘以外はつかない。がモットーだから」
 まぁそれも嘘ではないんだけど、どちらかというと、経験がないと言ったら相手が喜びそうだからという理由のが大きい。
 そんな嘘で喜ばせた後、嘘だと知られる方がヤバい気がする。ヤバいと言うか、そんなことで落胆させたくはない。
 そう思う程度には、目の前の相手のことだって大事に思っている。
「らしい、とか思っちゃうのがなんか悔しいな。あと、童貞なら俺で童貞卒業しない? って誘おうと思ってたのに、残念」
「は? お前、俺に抱かれたい側?」
「いや、抱きたい側だけど」
 てっきり逆だと思っていた。と思ったら、即座に否定されて意味がわからない。
「童貞卒業させるって、お前が抱かれる側になるって意味じゃないのか?」
「本当に童貞なら、童貞貰うために一回は抱かれてもいい。くらいの気持ちかな。正直、抱かれる側で気持ちよくさせてあげられる自信がないっていうか、俺が抱く側やったほうが気持ちよくしてあげれそう」
 嫌な自信だ。と思ったまま口に出せば、過去はどうしたって変えられないからねと返ってくる。
「貞操守り通してまっさら未経験のピュアっピュアな体だったら、初恋効果でワンチャン男でも恋愛対象になれてたかもとは思うけど、再会前に汚れきっちゃったからさ。じゃあもう、その経験を活かしていい思いしてもらうしかないなって思って」
 へらりと笑った顔は自虐気味ではあるものの、もう、泣きそうではなかった。なのに今度はこちらが泣きそうだ。
 そんな顔をさせたくなかった。汚れきったなんて言って欲しくなかった。
「お前にはお前の事情があったろ。今はもう、下半身だらしないなんて思ってない。お前自身がさっき、今は全部断れてるって、言ってただろうが」
「でも、俺に事情があれば、過去のあれこれがチャラになるわけでも、お前の恋愛対象になれるわけでもないじゃん。てか地味目で真面目な子がタイプなんでしょ?」
 元カノの情報を得ているなら、その子がどんな子だったかだって、知っていても不思議はない。
 そこそこの人数で遊びに行った際に迷子を保護してしまって、自分だけ抜けて迷子を送ろうとしたら一緒に行くと言って付き添ってくれた、委員長タイプの女子だった。子供が好きだそうで、迷子を保護する手際を褒められたし、交際のきっかけは間違いなくそれだ。
 地味だと思ったことはないが、確かにふわふわドレスが似合いそうだと思ったこともない。でも頼りになるところもある落ち着いた性格は、間違いなく好きだった。
 さすがに可愛いものやプリンセスが好きだという趣味は教えていなかったのだけれど、もしこの趣味を許容すると言われていたら、あっさり別れを受け入れるのではなく、もうちょっと続けるための模索や努力をしたかも知れない。
 そんな元カノと目の前の彼とでは、見た目も中身もだいぶ違う。
「どう頑張っても全然当てはまらないんだから、お前好みになれるように頑張るより、いっそ過去の経験を武器にするくらいのがまだチャンスありそうじゃない?」
 別に自分を卑下してるわけでも過去を後悔してるわけでもなくて、前向きに考えた結果なんだけどと言いながら、相手の手が頭の上に伸びてくる。
「そんな顔しないでよ」
 いったいどんな顔をしてるっていうんだ。
 ゆるっと頭を撫でられたが、それを聞く気にはなれなかった。

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可愛いが好きで何が悪い18

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「お前の気持ち知ってる奴らに、脈ないぞって、言われなかったか?」
 こちらの反応をうかがっているのだと思っていたから、思わせぶりな態度を見せたりはしてないはずだ。
「言われたし、わかってるけど。てか、わかってるから、期待はしないつもりだったんだけど」
 じゃあなんで、とはさすがに言えない。聞かなくても、わかってしまった。
「それは悪かったよ。けどしょうがないだろ、そんな気合い入れたドレス姿で近寄られたら、意識はするって」
「うん。凄く、嬉しかった」
 へらりと笑ってみせるものの、色々と失敗している。その姿で泣くのは勘弁してくれと言いたくて、でもそんな事を言ったら余計に泣かせそうな気がして言えない。
 結果、キュッと唇を噛み締めて黙るしかなかった。
「やっぱ俺じゃ、ダメ?」
 目を潤ませながら、そんな縋るみたいな顔をしないで欲しい。耐えきれなくて、とうとう顔を背けてしまった。
「逆に、なんで俺と付き合いたいとか思うんだよ。セックス、もう一生分やった気がするとかも言ってたろ。だからしたいと思わないって。だったらわざわざ俺と付き合って、なにしたいわけ? 今のまま、友達のままじゃダメな理由ってある?」
「そんなの、他の誰にも取られたくないから、だよ。お前に近づく女子に、俺のだから手ぇ出さないでって言える権利がほしい」
「なんだそれ」
「お前は俺が誰と付き合おうと、どんな子とセックスしてようと、何も思わないのかもだけど、俺は無理だもん。俺に彼女紹介したら寝取られるって思ってくれていいよ。紹介されなくても寝取るけど」
「は?」
「お前と間接セックス、って思ったら、相手どんな子だったとしても、たとえ男だったとしても、やれる気しかしない」
 下半身だらしないしモラルとかないしと、自嘲気味に吐かれる言葉が怖い。逸らしていた顔を戻して相手を窺ってしまえば、本気だよと、睨むみたいに告げてくる。
 変わらず泣きそうに目を潤ませているくせに、でもその目には、言葉通りに本気だということが滲んでいた。
 思わずゴクリと喉が鳴る。
「セックスはもういい、んじゃなかったのかよ」
「俺に抱かれたいって寄ってくる子を抱く気にはもうなれないって話だよ、それ。だからお前は別だし、お前とやった相手も別」
 なんだそれ。とは思ったが、今度は口に出さなかった。
 ちらちらと想いがこぼれていることはあっても、性的な目で見られていると感じたことはなかったと思う。だから、自分相手にセックスしたいと思っているなんて、考えていなかった。
 さっきのだって、既成事実を作って体から落としてしまえ的な思惑なんだろうと、思っていた。
「もし俺が、お前と付き合うのはいいけどセックスはしないって言ったら?」
「え、俺とセックスしたくないから付き合いたくないって言ってんの? セックスなしなら恋人になってくれるの?」
「もし、って言ったろ。なるとは言ってない」
「なんだ残念」
「で、どうなんだよ」
「んー、恋人になること優先したいから、セックスしないの受け入れて恋人になる、かな。でも、俺とはセックスしないから余所にセフレ作るとかは許さないし、俺とセックスしてもいいなって思ってもらえるように頑張るかなぁ」
「お前は?」
「俺?」
「俺がセックスさせないなら他にセフレ作ろう、とかならねぇの?」
「それやったら確実にふられるのわかってて、作ると思う? てかそういう自分の欲の解消でセックスしたいってのはないから、浮気とかもないよ。恋人がモテるのが嫌だってのは知ってるけど、ちゃんと全部きっぱりお断りするし、今もそれは出来てるから、そこは安心して欲しいかな」
 ちょっとは考えてくれる気になった? と期待を込めて見つめられてしまって言葉に詰まる。
 付き合ってやる気が出てきたわけでもないのに、余計なことを聞いた自覚はある。
「そもそも、お前が心配するようなこと、起きないと思うぞ」
「俺が心配してることって?」
「俺に彼女が出来ること。てかお前がダメとか以前に、恋人持つ気が今はない」
「でもそれ、今は、でしょ。今は夢の国に通う方を優先したいから、彼女いらないってだけじゃないの?」
 高校のときには彼女いたことあるんでしょと、どこか拗ねたみたいな顔で言われてしまった。なんだか責められているような気持ちになるのは、過去の彼女に嫉妬しているらしいのがわかってしまうせいだろうか。それともやはり格好のせいだろうか。
 経験人数余裕で二桁のお前が言うのかとも思うが、モテ過ぎるのも大変だなと思ったことはあっても、過去にこいつと関係した誰にも嫉妬なんて感情が湧いたことがないので、そこは比較してはいけないんだろう。

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可愛いが好きで何が悪い17

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 過去の相手は女性だけだと思っていたが、もしかして男とも経験があるんだろうか。なんてことを霞む頭の片隅で考えるくらいには、相手の手に迷いがない。
 キスは男女関係ないかも知れないが、男を知らない相手に触れられて、ここまで簡単に気持ちよくなれるとも思えなかった。
 相手のドレス姿にこちらの反応が色々と鈍っているのを好機と捉えて、相手が快楽という手法で落としにかかってきているのはわかるが、取り敢えずやってしまえばどうにかなる的に考えているのだとしたらガッカリだなとも思う。
 体の熱は相手の思うがままに高められて行くのに、気持ちだけはどんどんと冷めていく気がする。それに合わせて快楽に抗うのを止めてしまえば、相手はうっとりと笑って、やっと受け入れてくれる気になったの? などと言う。
「ばぁか」
「ひっど」
「なんかもう面倒くせぇわ」
「えっ?」
 好きにしてくれと言う気持ちのまま吐き捨ててから口を閉じれば、相手はやっと慌てだす。
「え、えと、ちょ……あの、……そんな、嫌だった?」
 オロオロと戸惑ってから、今更そんなことを聞いてくる。
「気持ちは良かった」
「だよね??」
 肯首しながらも、相手の頭の中はきっと疑問符でいっぱいだ。
「なぁ、忘れていいって言ったの、お前だよな?」
 忘れられなくても忘れたことになっていて、なかったことになったはずだったから、この2年近くを友人として過ごしてきたのに。友人として、彼の環境を改善するための協力をしてきたのに。それをあっさり覆して、体から落として関係を変えようとしてくるそのやり方が、多分、一番気に入らない。
 それっぽい言動はちょいちょいとあった上に、大学内ではそこまで親しくしていないとはいえ、2年以上も同じ学科で過ごしていれば色々と気づくやつは気づくし、余計なお節介を働くやつも居る。だから正直、付き合いたいと思っているとはっきり口に出したことそのものには、そこまで驚いてはいないのかも知れない。でも展開の速さについていけない部分は間違いなくあるし、相手の経験値を思い知らされるようなやり方は、正直しんどいなとも思う。
「あー……れは、あのときは、その、気の迷いだったらいいって、俺もまだ、そう思ってたというか、願ってた、から」
「お前がはっきり気の迷いじゃないって思ってからも、俺とはオトモダチでいただろ。今更友人やめたいって、どういうことだよって聞いてんだけど」
 他人がなんと言おうと、ちらちらと想いがこぼれていようと、それでもこいつは友人で居ることをずっと選んでいたはずだった。男同士だし、更に言うなら性別に関係なく彼を恋愛対象とはしないと言ったこともあるので、友人として付き合い続ける方を選んだのだと思っていた。
「待って、待って。え、俺が本気で好きになってたの、気づいてた? え、いつ? いつから?」
「いつから本気とかは知らないけど、お前が本命出来たからって女子の誘い断ってるのは知ってる」
「ちょ、え、なんで??」
 なんでもなにもないだろうと、呆れてためき息が零れそうだ。
「その本命が俺、っての、お前の友人で知ってるやつ居るだろうが」
「えー、えー、なにそれ裏切りが酷い……」
 内緒って言ったのにと、ガックリうなだれてしまうから、本気で内緒が通じると思ってたのかと、今度こそ本気で呆れてため息がこぼれ出る。どちらかというと、それを知らされたこちらの反応をうかがって、多少なりとも脈があるかどうかを探っているのだと思っていたのに。
 わざわざ彼の気持ちをこちらに知らせてこないだけで、多分間違いなく、姉とその友人たちだって知ってるだろうと思っていたが、つまり彼女たちは、彼の秘密にしてねを守っていただけってことか。
 そういや、家庭環境の酷さや継母と関係を持ったことがある話も、全くもって秘密ではなかったことを思い出す。さすがに弟妹が自身の子の可能性が高いという話は慎重に扱っていたようだけれど、それだって知ってるやつは多分そこそこいる。なんせ、彼にとってはあのタイミングで簡単に吐いてしまう程度の秘密で、ドン引きだよねと言いつつも他者の同情を買うネタの一つ扱いだった。

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可愛いが好きで何が悪い16

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 馬鹿なこと言ってんなと憤るこちらと、へらへら笑いながらもテンション高く応じる相手とを残して、姉とその友人たちはさっさと帰ってしまった。というか妙な気を使われたのがありありとわかる退散の仕方に、いざ二人きりとなったら妙に気まずい。
 なんせ目の前には育った初恋相手が渾身のドレス姿で立ったままなのだから。
 双方が初恋相手なのは事実だけれど、それは双方が相手を異性と思っていたからで、今現在は間違いなくただの友人なのに。
 けれどふと、あの夏の花火大会の夜、どっちかが女の子じゃなくても付き合いたいと思ってると、途方に暮れた困った顔で告げられたことを思い出してしまう。忘れていいと言われたし、相手もちょいちょい怪しい言動を見せつつもあの件には一切触れなかったし、だからこちらもなるべく思い出さないように気をつけていたけれど、でも、本当に忘れ去るなんてどだい無理な話だ。
 これまでもふとした瞬間に何度も思い出してはいたが、今この瞬間には、出来れば思い出さずにいたかった。
 そっと視線をそらしながら、深いため息とともに部屋の壁に沿って腰を下ろす。普段なら出ているローテーブルやクッション類は、ドレスを着るのに邪魔だったのか片付けられていて見当たらない。
「あ、クッション出す?」
「いや、別にいいわ」
「てかやっぱ結構意識されてる?」
 言いながら近づいてきた相手が、ほぼ真正面にすっと腰を落とすから、そんな指摘をされてもまっすぐに見返すのが難しい。否定の声があげられない。
「ん、っふふ」
 そんなこちらに相手が堪えきれなかったらしい笑いをこぼしている。なんとか舌打ちは堪えたけれど、どうしても、口を開く気にはなれなかった。
「前にさ、今の俺がドレス似合っても惚れ直したりしないし、付き合わないって言ったの、覚えてる?」
「今もそう思ってる」
 妙にウキウキとした声にイラッとするものの、さすがに黙り続けるのは良くないかと、苦々しい気持ちで口を開く。
「嘘つき」
「お前がそこまで化けたのは想定外だし、姉貴はつくづく俺の好みを良くわかってると思うけど、でも、それでお前と付き合うとかって話にはならないだろ」
「なんで?」
「可愛い服とそれが似合うプリンセスを眺めるのが好きなだけで、別に恋愛したいわけじゃないから。プリンセスが好きだからって、自分が王子になりたいわけじゃない」
「まぁ俺も、本気でお前に王子様になって欲しいわけじゃないけど」
「ならあんまり俺をからかうなよ」
 ホッと息を吐き出したけれど、それを咎めるように、そんな簡単に安心しないでよと声が掛かった。
「んなの、安心するに決まってんだろ」
 こちらの反応を面白がってからかわれてるだけなら、腹は立つけどそれだけだ。惚れてるだの付き合いたいだの私の王子様だのを本気で言われる方が困るのだから、安心するのは当然だろう。
「王子になって欲しいと思ってないだけで、付き合いたいとは思ってるし、この格好、思った以上に効いてるっぽいなとも思ってるし、今、めちゃくちゃチャンスとも認識してる」
 だからこっち向いてよと、甘く誘う。ただし、声が作りきれていないというか、堪えきれなかったらしい笑いが含まれ声が揺れている。
「どこまで本気で言ってんだそれ。声、笑ってんぞ」
「んー、どこまで本気だと思う?」
「おいっ!」
 ふざけんのもいい加減にしろよと、そらしていた顔を相手に向けたのは失敗だった。
 とろけるみたいに嬉しそうな顔で見つめられていて、とたんに心臓が大きく跳ねてしまう。頭に血が上っていくような気がして、顔も熱くなる。
「かっわいいなぁ。そんな顔されたら、期待するのも仕方無くない?」
 何言ってんだと言い放つはずだった口はあっさり塞がれて、しかも開きかけた口の中に相手の舌が容赦なく侵入してくる。口の中をくちゅくちゅと掻き回されて、それが不快どころか気持ちがいいから困ってしまう。
 今度はもう、キャーキャー騒ぐ声もスマホのカメラのシャッター音もなく、相手を突き放すタイミングを完全に逸していた。

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可愛いが好きで何が悪い15

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 ドレスは結局、被害が少ない部分を再利用して新しく作り直すことに決定した。
 という話を聞いたのが数ヶ月前で、それ以前もそれ以降も特に詳しい話は聞いていない。姉とその友人らと彼自身が、直接話し合ってあれこれと決めているようだったし、そこに口を挟む理由もないので、自分は完全に蚊帳の外だった。
 ただ、長いこと気落ちしていた様子の彼がだんだんと元気になっていくのは、頻繁に顔を見る機会があるのでよくわかったし、それだけで、うまいこと進んでいるのが伝わってきて安心していた。
 そんな彼が、ドレスが届くから見に来てほしいと言う。場所は彼が一人暮らしを始めたアパートで近いし、姉が絡んで作ったドレスには興味があるに決まっている。
 誘われてからは自分も結構楽しみにその日を待っていたのだが、当然、吊るされたドレスを見る以外の想像はしていなかった。いくら母親の形見を使った大事な品でも、自分の部屋とさして変わらない広さのアパートに、トルソーやらを持ち込んでドレスを飾るとは思えなかったせいだ。
 呼び鈴を鳴らして出てきた姉にまず驚き、含み笑いで目を輝かせている姉に急かされるまま、居室のドアを開いて更に驚く。
 そこには、ドレスに身を包む見知らぬ美女が佇んでいた。
 まぁ、見知らぬと言っても、それが彼自身だということにはすぐに気づいたのだけれど。ついでに言うなら、彼が間違いなく初恋のリトルプリンセスなのだと突きつけられる思いもした。
 幼い彼が身につけていたドレスに似せて作ったのはたぶんわざとだ。ウィッグも今の彼の地毛より数段淡い色合いのものを着用していて、何度も見返した画像と、自身の遠い記憶の中にしか存在しなかった小さなプリンセスが、成長して目の前に立っている。
 でもまさか、いくら顔の造形が良くても普通に男として育っている彼が、今更ドレスに袖を通すなんて思っても見なかった。
 二重の驚きと衝撃で言葉もなく見つめてしまえば、目の前のプリンセスが柔らかに笑んで見せる。中身は彼だと頭ではわかっているのに、間違いなく見惚れていたし、馬鹿みたいに鼓動が跳ねてなんだか顔も熱い気がする。
「どう?」
 いつもの彼とは少し違う、意識して高めに発された声が、よく知った彼と目の前のプリンセスとの繋がりを薄くしていく。頭での理解に靄を掛けて、友人としての彼を遠ざけていく。
「どう、って言われても……」
「似合ってる?」
「そ、れは……」
 似合ってるか似合ってないかで言えば間違いなく似合っているのだけど、それを認めてしまっていいのかわからない。
「この反応で、似合ってないとか言い出したら殴るけど?」
「だよね。私達の渾身の力作だし」
「ドレスに限らず、ね」
 横から口を挟んできたのは姉とその友人たちだ。部屋に入った瞬間から彼に目が釘付けになっていたが、あの日、裂かれたドレスを持ち込んだときに同席していた二人は、その後もずっとこのドレス作りに関わっていたようだから、今日も一緒に来ていたらしい。
 彼も同じように思っているのか、嬉しそうに柔らかな笑みを湛えていた。
 その彼が、部屋の入口に立ち尽くしている自分に向かって、ゆっくりと近寄ってくる。思わず後ずさろうとするのを、姉が腕を掴んで引き止めた。それどころか、彼に向かって背を押し出すまでしてくるので焦る。
 身長はほとんど変わらないけれど、目の前に立たれるとほんの少しだけ見上げる形になる。けれど今までこの距離で、相手をこんなにマジマジと見つめる機会はなかった。
 ようするに、目が、逸らせない。
 中身は男だとわかっているのに。彼だとわかっているのに。でも、だからこそ、初恋のあの子なのだということも、わかってしまっている。
「久しぶりだね。私のこと、覚えてる?」
「え?」
「昔、悪いやつから助けて貰ったんだけど」
「あ、ああ」
「あのときは、本当に、助けてくれてありがとう」
 あの日助けた小さなプリンセスと、成長して再会した的なシチュエーションだろうか。
 礼ならもう何度も言われた。なんてツッコミをする余裕はない。
「もう一度会えて良かった。私の、王子様」
「んん?」
 何を言い出して、と思った次の瞬間には、近かった顔が更に近づいて唇に柔らかなものが触れる。
 キャーキャー騒ぐ声とスマホのカメラのシャッター音とが聞こえてきて、慌てて目の前の体を押し返した。
「ちょ、おまっ、何して!!??」
「めちゃくちゃ見惚れてるから、キスくらいしても許されそう、って思って」
 ファーストキスだった? などと聞いてくる声は、すっかりいつもの彼のものだ。目の前に居るのは変わらず初恋プリンセスだけれど、それでも一気に魔法が解けた気がする。

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