ここがオメガバースの世界なら16(終)

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※ ここから受けの視点になります

 ファーストキスという単語を聞いたことで、相手の顔が近づき唇が触れて離れたという、ただそれだけの行為が自分の中で明確に意味を持った。頬が熱くなっていくのがわかる。
 ただ、なぜ今なのかわからないし、彼がこぼした言葉の意味もわからない。
 彼女が出来たら絶対に知らせることと、彼女がいる間は応じないという2つの約束の元、互いの性器を握って扱きあうような関係になってそろそろ1年近く経つのだけど、興奮に飲まれる行為の最中でさえ口を塞いでくることはなかったのに。
「なぁ、俺ら、付き合わねぇ?」
「え……?」
 続けざまに想定外の言葉が彼の口からこぼれてきて、ちっとも考えがまとまらない。
「嫌か?」
「や、じゃない、けど」
 想い人に付き合わないかと言われて、即答で嫌だと返せるわけがないけれど、だからって即答で嬉しいと了承できるわけもなかった。だって好きだと伝えたこともなければ、好きだと言われたこともない。
 誘われるまま抜き合いに応じてはいるが、他人の手のが気持ちいいよな、程度の認識なんだろうと思っていたし、相手が次の彼女を作るまでの期間限定と思っていたし、自分自身にずっとそう言い聞かせてきた。それを覆すようないきなりの発言に、気持ちが全然追いついていない。
「けど?」
「引退待ってた女の子とか、居るんじゃないの」
「は?」
「だって、試合復帰目指して集中したいから、新しく恋人作ってなかったんだよね?」
 夏休みが終わって学校に通うようになったら、すぐに次の彼女ができると思っていたのだ。なのに学校が始まっても、部活の練習に参加するようになっても、時々誘いが掛かったから、ちょっと怪我したくらいでそこまでモテなくなるものなのか聞いたことがある。そしたら告白されても今は断ってると返されて、その理由が真剣に試合復帰を目指すからだった。
「あーそんなことも言ったな。でも引退して恋人作る気になったからお前口説いてる、ってので何の矛盾もないだろ?」
 言われてみれば確かに。
「それはそうだけど、でも、新しい恋人は、今後告白してくれる女の子から選んだほうがいいんじゃないの。というか、BL本読んでくれるようになったし、そのせいで男同士で付き合うのも普通な感覚になってんじゃないか不安なんだけど。あと、俺を番だって認識してるせいで、良いαにならないと、みたいな思い込みで言ってない?」
 ここオメガバースなんてない世界だよと言ったら、ツラツラ言葉を重ねるうちにすごく嫌そうな顔になってしまった相手から、わかってなかったらあんなこと言わないだろと返された。
「俺が本当にΩなら良かったのに、ってやつ?」
「そうだよ」
「俺が本当にΩだったら良かった理由って、聞いても良い?」
「そんなの、ここがオメガバースの世界で、お前が俺のオメガだった場合に手に入るもの全部に決まってんだろ」
「だったら尚更、俺と付き合いたい意味がわかんないよ。本当にはΩじゃない俺には与えられないものが欲しいなら、特に、結婚できたり子供作れたりが利点だと思うなら、やっぱ女の子と付き合ったほうが良くない?」
「逆だろ。ここがオメガバースの世界じゃなくて、お前が本当には俺の番のオメガじゃないのがわかってるのにお前のことが欲しいから、お前が俺のオメガなら良かったのに、って言葉が出てくんじゃねぇか」
「そ、っか」
「そーだよ。で、どうすんの」
「どうすんの、って?」
「嫌じゃないなら、俺と付き合うってことでいい?」
 BL本読みすぎて感覚おかしくなってんじゃないの、という不安は拭えていないけれど、でもここまで言われてしまったら了承してしまいたい。
 いいよと答えて頷けば、そっと顎に添えられた手によって軽く上向かせられた。
 ホッとした様子で緩んだ顔が、今度はゆっくりと近づいてくる。

<終>

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8年目はこのままで(雑記)

昨日の雑記にちらりと書きましたが、ブログでお話を書き出してから7年経ちました。
いつも閲覧ありがとうございます。
ブログでの応援クリック・コメント・メールフォームから頂くメッセージ。pixivでのいいねやブクマやコメントやスタンプ。TwitterでのいいねやRTやリプライや作品紹介。どれも本当に嬉しいです。

7年目は少し更新頻度を落として活動してきましたが、8年目も今の状態を継続してお話を書いて行きたと思っています。
月水金更新で、1ヶ月以上更新が続いた後のきりがいいところで1ヶ月お休みを取る形です。
ダラダラと書き連ねてしまう癖がついているというか、当初考えていた半分復帰より全然お休み少なかったんですけど、まぁこのままでいいかなと。だってエンド付く前の話を放置してお休みする気にはなれないし、お休み中に他のお話(リメイク)を書く予定だったのも、結局ほとんど進まなかったですしね。

一応8年目の希望としては、ダラダラ長い話が多くなってるので、もっと小ネタが増やせると嬉しいです。お題チャレンジとか。
でも長いのなれ過ぎちゃって、逆に小ネタが難しい……

そんなわけで、結局長めの話がいくつか増えるだけになりそうな8年目も、どうぞ宜しくおねがいします。

 
 
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今日の投稿は無理そうです(雑記)

今日は時間が取れなくて、まだ数行しか書けていない状態です。
体調を崩しているわけではないので、今日の分は明日か遅くても明後日には投稿したいつもりでいますが、若干寝不足気味なのと、明日7周年なのでそれに関する記事の方を優先して、もしかしたら1回お休みになるかもしれません。

何のお知らせもなく予定されてた更新がされないと心配をかけてしまいそうなので、短いですが雑記を書いておきます。

 
 
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ここがオメガバースの世界なら15

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 部活の練習に参加復帰する少し前から、リハビリ混じりの自主練に彼も付き合ってくれるようになった。ただただ走ったり柔軟したり筋トレしたりの日々を抜けて、競技の感覚を取り戻していくための訓練には、経験者である彼の協力がありがたかった。
 医者には、日常生活に問題ない範囲までの回復は可能だと言われたが、競技者として活躍できるほどに回復出来るかはわからないと言われている。
 正直に言ってしまえば、怪我を理由に競技をやめる事も考えたのだけれど、活躍できるほど、というのはレギュラー陣に混じって今までと同じように試合参加するのは難しいかもしれない、という意味であって、もう競技が出来ないと言われたわけじゃない。
 どこまで復帰できるかわからないからもういいと、何の努力もせずに諦めて辞めてしまったら、競技そのものは好きだからと楽しそうに試合を見に来てくれていた彼に幻滅されそうな気がしたから。という理由がそこそこの比重を持っていることを、自覚していた。
 だから、自主練に付き合ってくれる彼が楽しげにしているのが嬉しかったし、結局試合に出られる程には回復しないまま引退を迎えてしまったことがなんとなく申し訳なかった。
「ごめん……」
「え、いきなりなんの謝罪?」
 引退後、最初に顔を合わせた時には思わず謝罪が口をついてしまったが、相手からすれば意味がわからないものだったらしい。
「夏の大会終わったから」
「あ、負けちゃったのか。え、でも、試合出てなかったんだよね?」
 試合に出られないのは確定だったので、相手はもちろん観戦には来ていなかった。
「だから、お前にも散々自主練付き合ってもらったのに、試合出られないまま引退になったから、ごめん、って」
「えー……っと、聞いても意味がわからないんだけど」
 困惑顔は本気で意味がわからないと言っているようだ。
「いやだから、俺が復帰できるようにって、お前もあんなに協力してくれてたわけだろ。なのに、結果出せなかったから」
「ああ、なるほど。いやでも謝られても困るというか、そもそもお医者さんの見立てだって強豪校で活躍できるレベルに回復するかわからないって言われてたわけだし、確かに試合復帰できたらいいよねって応援はしてたけど、その応援に応えられなかったなんて理由で謝らないでよ。それに回復が思うように進まないのも俺的にはちょっと有り難かった部分あるし」
「有り難かった?」
「あー……いやだって、俺とじゃ実力に差がありすぎだったところを、俺相手でもそこそこ形になると言うか、その、お前からしたら俺レベルに落ちたって感じだろうからあんまり喜んじゃダメだとは思ってるんだけど、でも、自主練誘ってくれたの本当に嬉しくて。それに、お前が怪我して前みたいに活躍できなくなったのを残念って思う気持ちはもちろんあるんだけど、隣に住む幼馴染としては、お前の怪我があったおかげで昔みたいにお前と一緒に遊ぶ時間が一杯出来たのも、すごく嬉しかった」
 だから謝らないでよと告げる彼は、どこか照れている様子で笑っている。嘘でもお世辞でもなく、本当に、嬉しそうだと思った。
 怪我をした後、ずっと残念だと惜しがられるばかりで、リハビリを重ねても思うように動かない体に苛立つことが多く、だからこそ、自主練に付き合ってくれる彼の楽しげな様子に救われていた部分は大きいのだけど。それをはっきりと、嬉しかった、という言葉にされたことで、抑えが効かなくなる。
「え……」
 気づいた時には相手の唇を奪った後で、目の前には呆然とこちらを見上げる彼の顔がある。
 とうとうやらかしてしまった。とは思ったが、後の祭りでしか無い。
「お前が、本当に俺のオメガなら、良かったのに」
 どうせやらかした後なので、やけくそ気味に、長いこと抱えていた想いも吐露してしまう。
「は……?」
「ファーストキス、勝手に奪ったのは、本当に、ごめん」
「ふぁーすときす……」
 単語を繰り返すようにつぶやいた後で、ようやくその事実を認識したらしい。一気に顔を赤くして狼狽える姿を、間違いなく、可愛いと感じている。

続きました→

 
 
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ここがオメガバースの世界なら14

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※ ここから攻めの視点になります

 退院初日に衝動的に手を出してから先、相手とはたまに抜き合うような妙な関係が続いている。一緒に同じBL本を読んだ結果、こいつ相手なら有りかもと思ってしまった気持ちに間違いはなく、腐男子でもなければ彼女しか居たことがない異性愛者だったはずが、彼の手で気持ちよく果てれてしまったせいだ。
 入院生活で溜まっていた、というのも絶対に大きな要素の一つだったと思うが、初回はともかく、退院してたやすく一人で処理出来る状態でも手を伸ばしてしまう程度には、相手との行為を気に入ってしまっている。
 相手も気持ちよさそうにしているし、アルファもオメガもない世界で番の機嫌を取るために嫌々言うことを聞いているとは思えないし、多分きっとそれなりに、何かしら得るものがあってこちらの誘いに乗ってくれているんだろう。
 まぁ突っ込ませろと言ったことはないし、恋人が居たことのない相手とではキスすら躊躇ってしまうし、初回にあちこち触りまくったのは嫌そうにしてたので、現状やっていることといえば互いの性器を握って扱きあうだけだから、自慰の延長程度に思っているのでも、腐男子としての好奇心で応じているのでも構わないと思っている。
 でももし姉がこの状況を知ったら、相当怒られそうだとも思っていた。さすがに相手もこんな関係になってしまったことを知らせる気はないようだし、自分から言うはずもないので、姉に怒られる日はきっと来ないけれど。ただ、確実に、後ろめたい想いはある。
 時間に余裕があったせいで、姉が送ってきた本を読み切った上、彼のオススメなどにまで手をだしているのもあって、余計に後ろめたさを感じている可能性は高い。男同士の恋愛物語をいきなり大量に摂取したせいか、自分たちの今の状況が、めちゃくちゃ中途半端に感じてしまう。
 実のところ、いっそ恋人になってしまえば良いのかも知れない。と思ったこともあるのだけれど、恋人になんてなってしまったら現状で満足できなくなりそうな予感があるというか、恋人を免罪符に今以上の行為を要求してしまいそうで、どう考えてもBL本に毒され過ぎと判断せざるを得ない。
 だいたい相手だって、こんな関係を長く続ける気はないというか、こちらに次の彼女が出来次第きっぱりさっぱり応じるのを止めると宣言されている。浮気はしたくない、という気持ちが強いようで、彼女が出来たら絶対すぐに知らせると約束していた。
 怪我の後まともに学校に行っていなかったから、学校へ行きだしたら、彼女と別れたことを知って告白してくる女子も出てくるだろう。とは彼に指摘されるまでもなく自分自身思っていたし、実際、学校が始まってから先、告白してくれた女子はいた。
 断ったけど。
 今までだって相手は選んで付き合ってきたし、恋人が居ない状態で告白をお断りするのも初めてではなかったけれど、彼とのことがなかったらOKしていた可能性はある。どちらかというと、彼のようにせっせと世話をしてくれるようなタイプは遠慮したいのに、なぜ、恋人を作って彼との関係を終えようと思えなかったのかは不思議だ。
 部活復帰はまだ難しいものの杖は外れたし、親からのバイト代だってもう出ていないのだから、ずるずると性欲処理まがいの行為につき合わせ続けるのは止めるべきだとも思うのに。
 やはりBL本に毒され過ぎなんだろうか。
 双方、ここがオメガバースの世界なら相手が番、という変な認識を持っているのも、良くないのかも知れない。
 いっそここが本当にオメガバースの世界なら。相手がオメガで自分がその番のアルファだったなら。恋人だとか恋愛感情だとかを取り敢えず脇において、発情期だとかフェロモンだとか本能だとかのせいにして、相手を抱いてしまうことが出来るのに。

続きました→

 
 
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ここがオメガバースの世界なら13

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 口を閉ざしてしまえば、また項に相手の唇が落ちてくる。さすがにもう肩を跳ねるほどの驚きはないが、許容して流されていい場面ではないのもわかっている。
「待って待って待って」
「いや? やっぱ無理?」
「むりっていうか展開わかんなすぎる。なんでいきなりそんな気になってんの?」
「逆に聞くけど、お前、BL本読んで抜いたりって経験、ないの?」
「なっ……に、言って……」
 突然何を言い出してんだと思う傍ら、相手の言いたいことはわかった気もする。つまりさっき読んでた本にはエッチなシーンも含まれていたから、それで催したって意味か。
 え、マジで?
「お、経験ありそう」
「え、でも、さっきの、そんなエッチな話じゃなかった、よね?」
 本のシチュエーションを思い出しつつ彼相手の想像で抜いてしまうことはあるから、厳密には経験無しとは言えないかも知れないが、それを正直に伝えるつもりはないので、経験の有無については無視した。
 ただ、エッチ展開も物語の一部という捉え方をするせいか、エッチなシーンを目にしたからってそれで直接エッチな気分になることはあまりないし、それはさっき読んでいたものよりもっと過激なものを読んでも同じだから、異性の恋人を持てる彼が、男同士の、しかもそこまで過激でもない描写であっさり催しているのが信じられない。
「てかゲイなわけないし、腐男子ですら無い、のに?」
「あー……それは半分くらいお前のせい」
「え、なんで俺のせいなの?」
 責任転嫁酷いと言ったら、じゃあ半分の半分くらいと言い直されて割合が減ったけれど、割合の問題じゃない。
「だーから、腕ん中に俺を番と思ってる相手が居て、そいつが本の中のオメガに同調して片想い辛いって泣きそうになってたり、想いが通じてホッとしてたり、抱いて貰ってんの羨ましがってたら、なんつーか、ちょっと俺も手ぇ出してみたいつーか、試してみてもいいかな、って思ったんだよ」
 お前相手ならイケそうな気がした、らしい。
 彼女とは破局していてフリーの状態で、好きな相手が自分に興味を持ってくれている、というのは単純に嬉しかった。多分間違いなくチャンスだ、とも思う。けれど、じゃあ試していいよって言えるほど、奔放な生き方をしていない。いいよと言って進んだ先で、やっぱ男相手は無理だわ、なんて投げ出されてしまったらとも考えると怖かった。
 どうしていいかわからず、というよりもいいよと言っていいか迷って躊躇っていたら、背後から小さなため息が聞こえてくる。こちらがもたもたしているうちに気持ちが冷めたというか、諦めてしまったのかも知れない。
「なぁ、もしお前が、腐男子だからってリアルに男相手にどうこうするのは別だとか、俺の番になったのは俺を納得させるための口先だけの話だってなら、悪いけど一旦自分ち帰ってくんね?」
「え?」
「だって、さすがにお前居るのに一人で抜くのは気まずいじゃん」
「え、そこまで切羽詰まった話なの!?」
 催したと言っても、男同士であれこれ致す話を読んで試してみたくなった、というのが一番の目的かと思っていた。
「身も蓋もない話をすると、入院生活で溜まってる」
「ほんっとーに身も蓋もないな」
 いやでもそれでちょっと納得してしまったところはある。そういう状況だから、たいして過激でもない、しかも男同士の描写で催してしまったし、たまたま一緒に居たせいで試してみてもいいって気になったのか。
 相手の感覚としては、男友達とAV見てたら抜き合ってた、みたいなのに近い可能性がある。だからお前はBL本で抜いたりしないのって、最初に聞かれたんだろう。
「もうぶっちゃけて言うと、男同士抵抗ないならちょっと俺に付き合って」
「って、俺に何させたいの? それなりに知識はあるけど、お前と違って彼女も彼氏も居たこと無い完全未経験者だし、突っ込みたいとか言われても絶対無理だよ?」
「突っ込ませろなんて言わねぇわ。ちょっと触ってみたいのと、後まぁ、嫌じゃないなら手ぇ貸して。俺の握れそうなら握って」
 そんだけでいいから協力する気があるなら体こっち向けてよと、やっと、ずっと体に回っていた相手の腕が解かれた。

続きました→

 
 
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