今更嫌いになれないこと知ってるくせに29

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 入学決まったよという連絡が来たのは、当初の予想に大きく反して、秋の気配が濃くなる10月の半ばごろだった。ギリギリ出願に間に合ったからと言った甥っ子は、どうやらAO入試で合格を決めてしまったらしい。
 とは言っても高校生活が残っているので、引っ越して来るのは卒業後ということに変わりはない。少しでもお金を貯めておきたいからとさっそくバイトを始めてしまったので、会える機会が特別増えたわけでもなかったが、それでもクリスマスやら正月やらのイベントを気兼ねなく誘えるのはありがたかった。
 卒業したら恋人にという約束ではあったが、好きだと告げて腹をくくったら、安心したのか落ち着いてしまった甥っ子とは逆に、こちらのほうが我慢が効かなくなっていて会うたびに苦笑が深くなる羽目になっていた。クリスマスも正月も、母と姉と3人分の手作りチョコ持参でやって来たバレンタインも、よくハグとキスだけの節度ある関係のまま放してやれたと、自分を誉めてやりたいくらいだ。
 下手したら犯罪と忠告したのは姉らしいが、多分その言葉もかなり甥っ子のストッパーになっていたと思う。息子の性格を的確に見抜いたうえでの忠告だったのかもしれない。
 思いの外強固にそれを守る姿勢に、もちろん感謝もあったが、余計なことをと思う気持ちもなくはなかった。おかげで世間的なイベントごとに、嫌というほど焦らされた。
 そんなこんなで新しい部屋を決めて、一足先に自分の引っ越しを終えて待つ事数日。
 ようやく甥っ子が引っ越してきた日の夜は、早々に甥っ子を自室に引っ張り込んで広いベッドに押し倒す。さすがにそれぞれ部屋は分けたし、甥っ子の部屋にも当然ベッドが運び込まれているが、実質自室をメインの寝室にする予定で、古いシングルベッドをダブルサイズへ買い換えていた。
「ベッド、おっきくしたんだ」
 素直に押し倒されながらも、やはり格段に広くなったベッドに驚いてはいるらしい。
「同じ家に住むからって、やった後は自分の部屋戻れなんて、ちょっと言いたくないだろ?」
「てことは、ここでそのまま一緒に寝ていいの?」
「もちろん」
 そうして欲しくて変えたんだと言えば、嬉しいと言いながら幸せそうに笑う。その唇を、そりゃ良かったと言いながら塞いでやった。
 軽いキスを数回繰り返してから、性急だなと自嘲しながらもあっさり深いものへと変えていく。思いの外強い意志で、高校生のうちは節度ある関係をと求められてしまったので、性感を煽るようなキスを仕掛けると途中で逃げられてしまうことが多かったが、性感を煽るように口内を舐め啜っても、さすがに今日は途中で止められる事もなさそうだ。
 これはやはり、相手の覚悟も充分と思って良いんだろう。
 途中で逃げられることもあったが回数そのものはそれなりに重ねているのもあってか、キスの合間にうっとりと甘い呼気を漏らすことへの躊躇いはないようだ。性急に性感を煽られ、戸惑いを滲ませつつも必死で応じる様が、堪えることなくこぼれ落ちてくる甘い声と相まってたまらなく可愛らしい。
 服の裾から忍ばせた手で直接肌の上をあちこち撫でれば、要所要所でピクリピクリと手の平の下の肌と、口内で触れ合う舌が震えて、弱い場所を晒してくる。腹から上へ向かって撫でていた手が胸の先の小さな尖りに触れれば、ひときわ大きく肌が波打ち舌が震えた。
 ねだられて繋がる直前まで触れた夏の行為を思い出す。あの時も胸の先への強い刺激で随分と反応していた。思い出しながら、同じように爪先で掻いて捏ねるように押しつぶし、摘んで引っ張り指の腹を擦りあわせて挟まれた乳首を転がしてやる。
「ふっ、んん、…っ、んぁっあっ!」
 肌が波打つどころではなく腰が跳ねて揺れた。
 軽く覆いかぶさる形で押し倒しているので、腰が跳ねたついでの一瞬だったが、相手の熱が自分の股間へと押し当てられた。既に充分な固さを持っているようで、ぶつかった衝撃からか、触れ合わせる口の隙間から幾分高く鋭い声がもれる。
 更に腰を落としてのしかかり、下半身を密着させた。互いにラフな部屋着というのもあって、相手の熱も固さもはっきりと感じ取れる。キスも胸への刺激も続けたまま、更に押し付けた腰を揺すってやれば、たまらないとばかりに口内に熱い息が吹き込まれた。
 最初はギュッとこちらの肩を掴んで耐える様子を見せていた相手の限界が来たのか、押しのけようと腕を張る気配に従い、腰の動きとキスを止めて少しばかり身を離す。
「そんなされたらイッちゃうよぉ」
 涙目で見つめられ、戸惑いの色濃い弱々しい声で訴えられたが、それを見ても内に湧く感情は愛しいばかりだった。

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今更嫌いになれないこと知ってるくせに28

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 甥っ子からの、話があるから泊まりに行きたいという連絡は、お盆休みが始まる頃に受けた。電話越しにも伝わってくる強い意志に、あれからまだそう日も経っていないのに、何かしらの覚悟を決めたのだということがわかる。
 彼がどんな結論を持ってきたとしても受け止めるつもりで、ちょうど明日からお盆休みで家に居るよと返せば、翌日の昼にはさっそく甥っ子が顔を見せた。
 随分晴れやかな笑顔にホッとしつつ、部屋にあげてお茶を出す。
「良い報告っぽいな」
「うんそう。大学は本気でこっち来るつもりだから、よろしくって言いに来た。というか、一緒に住んでくれる?」
「話が飛び過ぎだ。お前がはっきり覚悟決めて選んだってなら、こっちくるのも一緒に住むのも構わないが、どういう結論になったのか、学費やら生活費やらどうするつもりなのか、話してくれないとわからないぞ」
「ああ、ごめん。学費は父さんが、生活費の一部はじーちゃんが出してくれるって。一人で住むなら家賃プラス2万。にーちゃんと一緒に住むなら家賃の半額プラス3万。残りはバイトするかにーちゃんに出して貰えってさ」
 ちゃんとバイトするよと笑う顔は輝いているが、やはりまだ話が先を行き過ぎている。
「うん、ちょっと待って。結局お前はどういう結論になったわけ? 一緒に住むけど、在学中は恋人って関係にはならないよってことか?」
「違うよっ。にーちゃんの恋人になる気満々でこっち来るよ。でも心配しないで。学費や生活費はさっき言った通りだし、さすがに歓迎はしないけど反対もしないってさ」
「言ったのか!?」
「言ったというか聞いた。俺がにーちゃんの嫁になりたいの冗談だと思ってる? って」
 やっぱり本気だったのって言われるくらいにはちゃんと信じてたっぽいよと、甥っ子はケロリとした顔で告げた。
「俺さ、俺がにーちゃんの嫁になったら、にーちゃん結婚できないし孫の顔も見せられないけどいい? っていうのも聞いたんだよね。ばーちゃんが言うにはさ、例えばダメって反対したらにーちゃんがお嫁さん貰って子供作って会いに来てくれるって言うなら反対するけど、そんな都合よく進むわけ無いから、にーちゃんが俺でいいなら良いんだって。それより反対しないから、二人一緒に顔見せに帰ってくれたほうが嬉しいってさ。じーちゃんもそんな感じみたい。というかその辺はばーちゃんがなんか説得してくれたぽいかも」
 二人共にーちゃんに会いたがってたよと眉を顰めて見せるのは、前回姉の家にお邪魔しながらも、近くの実家には結局顔を出さないまま帰宅したことを責められているんだろう。
「それは考慮するよ。でも今までこんなに疎遠にしてた上、お前との関係まで知られて、どんな顔していいかわなんないな」
 苦笑するものの、大丈夫だってと笑顔で断言されてしまうと、それ以上は逆らい難い。この様子だと、来年からは甥っ子に引っ張られて度々帰省させられることになりそうだ。
「あと母さんね。ばーちゃんの話聞いた後だったし、これは俺自身の問題だから、反対されてもされなくても、お嫁さんや孫の顔は見せられないからそれは諦めてって言ったら、知ってたって。相手がにーちゃんだってのは複雑だけど、にーちゃんが良いって言ったならしょうがないから頑張れってさ」
 ばーちゃんも母さんもにーちゃんが良いならって言うんだけど、本当に良いんだよね? といささか不安げに聞かれて今更だろと返した。
「言ったろ。お前が俺を選ぶなら、俺も腹くくるって。俺だって今更お前を嫌いになんかなれないんだから」
 良かったと笑う顔が可愛らしくて、今すぐにでも抱きしめてキスしたい衝動が湧く。しかし甥っ子の報告はまだ続いていた。
「それと、父さんはなんかすごい事言ってたよ」
「すごい事って?」
「反対しないけど、もし今後年の離れた弟か妹が出来たとしても、おろせとかは言わないでくれって」
「は?」
「ね、本当に は? って感じだよね。言うわけないけど、さすがにビックリした。これやっぱ俺が嫁も子供も無理って言ったせいだと思う?」
「いやそれは……てかうちにしろ義兄さんの実家にしろ、跡継ぎどうこうって話聞いたことないから、そこまで気にしなくてもいいとは思うけど」
 さすがに聞けなくてと困った様子で言われたが、あまり迂闊なことも言えないので濁すしかなかった。
「ならいいんだけどさ。後、もし本当に弟か妹出来たら、学費は就職したら少し返すことにするかも。これは俺がそう考えてるってだけの話だけど」
「お前、ホント、凄いな……」
「そんなことないよ。本気でにーちゃんとずっと一緒に居たいんだって言っても、絶対ダメとは言われないだろうなって、わかってただけ。でも本気だって言ったら、それなりに色々言われたけどね」
「色々って?」
「せっかく大学行かせるんだから嫁とか言ってないでちゃんと就職しなさいよとか。当たり前だっての」
 嫁ってのはずっと一緒に暮らせる人、って意味で使ってただけなんだよねと言いつつも、にーちゃんが望むなら受験終わった後少し花嫁修業っぽいことしてきてもいいけど、なんて続けるものだからどうしていいかわからない。
「でもまずは受験だよね。絶対受かってこっちくるから、そしたら俺と恋人になってね」
「今すぐ恋人にしろ、とは言わないんだな」
「うん。にーちゃんが好きって言ってくれたから、もうちょっと我慢しようと思って。というか色々言われた中にちょっとそれ関係もあって」
「それ関係って?」
「あんまりにーちゃん困らせちゃダメって話。せめて高校生のうちは節度ある関係でいなさいよって。そのつもりがなくても下手したら犯罪になるんだからって」
 抱けって迫ったりしてごめんなさいと言われてしまったら、これはもう、卒業まで手が出せないなと内心苦笑うしかなかった。

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今更嫌いになれないこと知ってるくせに27

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 先程、家族と縁が切れる可能性を口にはしたが、義兄は認めてくれるかもしれない。という気持ちは確かにあった。
 応援されたとまでは思わないけれど、あの口ぶりから言ったら、話し合った結果が恋人になる事だったと報告しても、それを頭から否定される事はないのではないか、くらいのことは思っている。
「にーちゃん?」
 不安げな声に呼ばれて、また色々と考え込んでいたことに気づいた。苦笑しながら、思考の中身を口に出す。
「義兄さんとの会話、思い出してた。義兄さんや姉さんもお前の気持ち知ってて応援してるって可能性は?」
「言ったことないし、聞かれたこともないけど、ばーちゃんが言ってる可能性はあるかも。でも応援されてると思った事はないかなぁ」
 母から姉に話が流れている可能性はかなりあると自分も思った。しかしそれをどこまで真剣に考えているのかも、受け入れる気があるのかどうかも、まったくわからない。母の話だって、男の孫が息子の嫁になりたいという話を応援しているなんて、やはりにわかには信じられなかった。
「俺は今の両親とも姉さん義兄さんともほとんど付き合いがないから、実際どういう反応をされるかはまったく予想が付かない。でも世間一般では叔父と甥が恋仲になる事を歓迎する親族ってのはかなり稀な部類だと思うし、お前の話を信じて報告した結果、縁を切られる可能性もやっぱり考えずにいられない」
「内緒にしておこうって話?」
「違うよ。自分から知らせるかどうかは別問題で、知られた時にもし否定されても、俺と恋人でいる事を選ぶかって話」
 知りたいのは彼の覚悟だ。
「そこまでの覚悟があるってなら、俺も腹くくってお前と一緒にいられる道探すから」
「にーちゃんは俺のために最悪家族捨てる覚悟が出来てるって事?」
「俺は元々かなり疎遠になってるし、一応ちゃんと仕事もあるからな。いつか勘当される日が来るかもって想定は、してなくもなかったし。けど、大学進学したい高校生の甥っ子に、最悪家族を捨てさせる、もしくは家族に捨てられる身にさせる覚悟、なんてもんは一切出来てない。出来るわけがない」
 大学進学とともに随分と疎遠にしてきたが、学費も生活費の大半も親がかりだったし、何かと親の署名や捺印が必要だった。叔父である自分が代われる部分も多少はあるかもしれないが、やはり経済的な部分は大きく不安がある。
「お前が、そういう可能性を一切考えてなかったことも、嫁になりたい発言済みってのも、俺にはまったくの想定外で、もしお前が言うように本気で応援してくれてるってなら、こんな懸念は必要ないんだろうけどな」
 お前の言葉を信じきれなくてゴメンと言ったら、俺も自信を持って大丈夫って言えるわけじゃないからと、苦笑しつつ首を横に振られた。その苦笑がまた泣き顔に変わってしまうかもと思うと気が重い。それでも提案せずにはいられない。
「お前がまだそこまで考えられないってなら、今はまだ、恋人って関係に進むのは待ったほうが良いと思ってる。せめて、お前が大学卒業して、自分の手で食えるようになるまでは」
 相手の言葉を信じてやれないのに、信じてくれとしか言えないのが辛いが、待っている間にお前への気持ちが変わることはないからと告げれば、甥っ子は真剣な顔になって考えさせてと言った。
「最悪家族捨てるかもなんてのは俺もちょっと想定外だったから、答え出すまで待ってくれる?」
「ああ、もちろん。じっくり考えていい。進学先についても、俺を選ぶってなら、もし万が一親に切られたらって場合含めて考えろよ。さすがに俺にも、お前の学費分まで背負い込んでやれるほどの稼ぎはないから」
「えっ? てかさ、にーちゃん的にはもし俺が覚悟決めてにーちゃん選んじゃった場合、どんだけ最悪な未来を想定してんの?」
「最悪の未来というか、親から縁切られたらお前の学費と生活費と全部俺に被さってくる、という事は考えてるよ。いやまぁ、もちろんその場合は奨学金借りて貰うけど」
「そんなの当然だけど、っていうか……」
「何?」
「にーちゃんも大概俺に甘くない? 最悪学費と生活費ひっかぶる覚悟って、何それ?」
「俺を選んだせいで、本来なら親から受けられるはずの物が受け取れなくなるなら、それは俺がなんとかしないとならないだろ」
「にーちゃんってさ……」
 笑いたいのか泣きたいのか微妙な顔になった甥っ子は、体ごとこちらを向いたかと思うとそのまま胸の中に身を寄せてくる。
「俺、なんでにーちゃんが臆病なのか、ちょっとわかった気がする。考え過ぎだし自分一人で色々背負い過ぎだよ」
「あー……それ、さっき義兄さんにも指摘されたかも。そんなつもりはあんまりないんだけどな」
「無自覚だから厄介なんだろ。俺は、にーちゃんが俺を選んでくれるだけで、もう充分なのに」
「甥と恋仲になるってのは、そんな簡単な話じゃないよ」
「うん。ゴメン。俺もちゃんと考えるから。俺を好きって言ってくれて、にーちゃんの覚悟も教えてくれて、本当、ありがと」
 身を寄せられた時に思わず抱きしめてしまった肩が小さく震えて、やはりまた泣かせてしまったと思いながら、宥めるようにその背をそっと撫で続けた。

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今更嫌いになれないこと知ってるくせに26

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 口もして、という可愛いおねだりに否を返すわけもなく、その唇を塞ぎながらとうとうベッドに押し倒す。軽いキスを繰り返しながらもさすがにこれ以上はと自制していたのに、相手からぺろりと唇を舐められ誘われ、結局最後は深く口付けてしまった。とは言ってもなるべく相手の性感を煽るような真似はせず、深く触れ合うことが目的だった。
 けっこうな長さで繰り返すキスの合間に様子をうかがう相手が、少しづつ満たされて表情が緩んでとろけていくのが可愛らしい。やがて呆けたようにぼんやりとして、触れ合う舌の反応が随分と鈍くなったところで、もっと続けるかと問いかける。
 言葉は出ないようだったが緩く首を振って否定されので、頷いてその隣に寝転んだ。それを視線で追ってくる甥っ子は、首だけこちらを向いて見つめてくる。
 なので仰向けにはならずに横向きになって、顔だけは向かい合うようにした。肩を引き起こし甥っ子も横向きに変えてしまっても良かったが、触れたらまた抱きしめてしまいそうだったからだ。
「なん、か……」
「どうした?」
 舌っ足らずに吐き出されてくる声に、優しく先を促した。
「嘘、みたいで。夢、じゃないよね?」
 恋人になれたって思っていいのと不安げに尋ねられて苦笑する。
「お前に、覚悟が出来るなら。と言っても多分、お前はとっくに覚悟決めてそうだけど」
「覚悟って?」
「親に、というかお前の立場でだと両親と祖父母か。もし知られた場合、どうなると思ってる?」
 最悪お前も俺も家族捨てる事になるぞと続けたら、びっくりしたように目を瞠るから、こちもびっくりしてしまう。
「そういう事、全然考えたことなかった?」
「えっと……じーちゃんとばーちゃんに関してなら大丈夫。じゃないかなぁ……」
 躊躇いがちではあるが、その発言から不安はほとんど感じられなかった。彼にはなんらかの確信があるようだ。
「なんで?」
「いやだって、俺がにーちゃん大好きなの知ってるもん。てか応援してくれてたし」
「は? いやいやいや、ちょっと待てよ。応援? んなバカな話信じられるか」
「え、だってにーちゃんとこの側の大学なら生活費援助してくれるとか、めちゃくちゃ応援されてない?」
「いやいや、それ恋愛的な好きってわかってないだろ。俺たちが恋人として付き合う事になった、なんて言っても生活費援助の話がそのままとは限らないぞ」
 ちゃんとわかってると思うけどと、やはり躊躇いがちに返されて、再度なんでそう思うのかと問いかける。
「それはさ、俺、ばーちゃんに、にーちゃんのお嫁さんになりたいって言った事あるから?」
「いつ!?」
「にーちゃんが大学生の頃」
「なんだ。あんま脅かすなよ。小学生の話なんてそこまで本気にしてないだろ。お前が俺に懐きまくってたのは事実だし、俺が居なくなって寂しいんだくらいにしか思わなかったんじゃないか?」
「あー、うん、それ言ったとき、もう中学生なってた。あと、料理習うとき、押しかけ花嫁する気なのって笑われたから、そのつもりって言っちゃった」
「ちょっ、……」
 予想外の話に若干気持ちが付いていけずに言葉が詰まった。その時の母の返答について尋ねる声は、若干震えていたかもしれない。
「で、母さんはなんて?」
「じゃあしっかり覚えなさいって言って簡単なの色々教えてくれたよ。実際にーちゃんも、食べてすぐわかるレベルの作れてたろ?」
 確かにそうだ。しかしそれは本当に応援と思ってしまって良いのだろうか?
 そう思ったところで、先ほどの義兄との会話も、そういえばやけにスムーズに進んだ事を思い出す。
 どこまで知ってるか尋ねた時に、大好きな君に振られたようだと言っていたセリフを、聞いた瞬間は懐いていた叔父にキツく拒絶された的な意味で言っているのだろうと思っていた。けれどその後の流れを考えたら、あれはやはり恋愛的な意味で使われたものだったんだろう。
 義兄を嫌ってないと必死に言い募ったくらいで、義兄を恋愛的意味合いで好いていたと気づかれたのも、自分と甥との問題が恋愛的なものという認識があったからだと思った方が納得がいく。
 更に言うなら、甥っ子と逃げずに向き合うための、最後の勇気を与えてくれたのも義兄だった。好きだから逃げたのではなく、好きになってしまわないよう突き放して逃げた。その結果が今なのだと言って、少しばかり泣いてしまった後の事だ。
 出来たらそれ教えてあげてと、義兄は酷く優しい声で言った。親子二代で苦しめてごめんとも、もう一人で背負わなくていいからとも言われた。
 きっちり全部見せて話し合ったら、二人共が幸せになれる道も見つかるかもしれないよと言った義兄は、その後親馬鹿なんだけどと前置いて、うちの息子は結構いい男に育ってると思うんだよねと笑った。
 まだまだ子供に思えるかもしれないけど、君の不安や葛藤を受け止められるくらいの度量はあるんじゃないかな、なんてことを誇らしげに言われてなければ、冷たい視線の甥っ子とここまでしっかり対峙できなかったかもしれない。

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今更嫌いになれないこと知ってるくせに25

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 焦って思わず立ち上がったものの、泣いている甥っ子を抱きしめ慰めるなどという行為が、果たして自分に許されるのか。ベッドに腰掛ける甥の傍らにまで近寄ったものの、触れることが出来ないまま立ち尽くした。
 甥っ子の涙はボロボロと流れ落ち、時折苦しげにしゃくりあげている。
「悪い、また、傷つけた。本当に、ごめん」
 何がここまで甥っ子を泣かすことになったのか、正直いまひとつわかっていなかった。けれどどうしていいかわからなくて、オロオロと謝罪を繰り返す。
 そんな中、嗚咽と共に甥っ子が、途切れ途切れに言葉を紡いでいく。しゃくりあげながらの言葉は聞き取りにくく、腰を落として膝立ちになり、やや下方から覗き込む形で甥っ子の口元に耳を寄せた。
 いわく、仕返しなど考えておらず、ただ好きだから抱かれたい。両想いでするセックスに期待して何が悪い。ということらしい。
「いやだって、お前、こんな俺のこといい加減嫌になってるだろ?」
 あまりにビックリして問いかければ、真っ赤な目で睨まれた。
「嫌いだって繰り返し言えば嫌いになれるなら、こんなに苦しんでない。にーちゃんだって父さんのこと引きずりまくってたくせに。気持ち受け入れてもらえないからって、今更嫌いになんてなれないこと、にーちゃんだって知ってるだろ」
 やはり途切れ途切れに、必死に絞りだすようにしてそう告げると、その後は耐え切れないと言った様子でわんわんと声を上げて泣き出してしまう。
 こんな風に泣かれるのは二度目だ。あの夜は嫌いだと言われまくってそれなりに凹んで居て気づかなかったのか、それとも下から見上げるこの体勢のせいなのか。泣きじゃくる顔に、幼いころの面影がかなり色濃く見えている。昔も泣きじゃくって居る時には、視線を合わせるために屈んで、俯く相手を下から覗き込んで相手をしていた。
 昔はどうやって慰めていただろう?
 思い出しながら伸ばした手で頭を撫でる。触れた瞬間だけビクリと肩が跳ねたけれど、前回同様、その手を拒まれることはないようだ。
 そのまま若干引き寄せるように抱きしめて、トントンと背中を叩いて宥めながら、マイッタなと思う。考えてみたら、昔甥っ子が泣きじゃくっていた時の理由には、自分の非がほとんどない。いたずらをして叱られたとか、ワガママを通そうとして叱られたとか、要するに、甥っ子がごめんなさいと言って泣くことがほとんどだった。
 今回ごめんなさいをしているのは自分のほうで、昔とは真逆の立場に必死で掛ける言葉を探す。残念ながら過去はまったく参考にならなかった。
 しかし現状、何を言っても傷つけてばかりの結果しか出ておらず、その事実を認識しただけで気持ちが沈む。臆病になる。
 なのに腕の中の甥っ子は、やはりこの前の夜と同じように、おずおずと擦り寄って肩口に額を押し当ててくる。今回は嫌いだという言葉はなく、聞こえてくるのはただしゃくりあげる時の苦しげな呼気だけだった。
「好きだよ。お前が好きだ」
 ふと、これが今の彼に出来る精一杯の甘えなのかと思ったら、なんだか酷くいじらしくて、言葉はするりとこぼれ落ちた。しかも短いながらも、俺も、などと泣き声に混じって返されれば、愛しさがあふれてたまらなくなる。
「うん。泣かせてばっかりでとっくに嫌われてる、現在進行形でもっと嫌いになってるだろう、って思ってたけど、そう思い込むことが既に俺の独りよがりだったよな」
 ごめんなと言ったら、肩口に置かれた頭がフルフルと振られて、小さな謝罪が耳に届いた。
「いっぱい嫌いって言ったの、俺の方だから……」
 どうやらこちらが嫌われたと思うのは仕方がないという事らしい。
「それ言ったら、お前にあれ言わせたのだって俺だろうが」
 辛いことをたくさん言わせたことを謝れば、甥っ子が小さく笑う気配がして、部屋の空気がふわりと和んだ。
「にーちゃんずっと謝りっぱなし」
「あー……まぁ、謝って済む話でもないってのはわかってるけど、それ以外どうしていいかわかんないんだって」
「じゃあもっといっぱい好きって言ってよ。ごめんって言われるより、今はそっちが嬉しいよ?」
「好きだよ。凄く、好きだ。あーもう、お前ほんっと可愛いんだけどっ」
 言いながらギュウギュウに抱きしめてやったら、腕の中で楽しげな笑いが起こる。やっと顔を上げた甥っ子は、目元も鼻の頭も真っ赤なままだったから、衝動的にそこへ何度も口付けた。

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今更嫌いになれないこと知ってるくせに24

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 想いがあることなど告げないほうが、彼にとっては良かったのだろうか?
 そう考えて不安に気持ちが揺れる中、甥っ子の発する声が淡々と響く。
「もしそれが本当だったとして、だからそっちの大学受けろってなら、いくらなんでもそんなの勝手すぎる」
 確かに本当に勝手なことを言っているとは思う。けれどその言葉には訂正を入れて置きたかった。
「本気で言ってるし、勝手なのも承知してる。でも、だからこっちの大学受けろとまでは言ってないだろ」
「そっちの大学受けろって言いに来たくせに」
「お前が本当に行きたい大学を狙えと思ってるだけで、親の気持ちを汲んでこっちの大学を候補に入れただけで、本当は遠い方の国立に魅力感じてるってなら、そっち狙えと思ってるよ。問題は大学の場所じゃない」
 じゃあ何、という質問には、お前が俺みたいにならないことだと返す。
「にーちゃんみたいにって、俺も逃げ癖が付いて臆病者になるって?」
「お前は俺よりしっかりしてるから、ただ逃げるのとは少し違うかもしれないけど。それでもお前、遠くの大学行ったら俺がやってたみたいに、実家にはほとんど寄り付かなくするもりじゃないのか?」
 少しだけ動揺の色が見えたから、多分、当たっているんだろう。
「現実に今、お前は受験勉強を笠に着て部屋引きこもってるだろ。でもそれ本当の理由は、義兄さんと顔を合わせるのが辛くてなんだろ? 俺が、お前と義兄さんが似てるって言ったせいで。それを理由にお前を拒んだせいで」
 どうすればいいかと聞いたら、どうすればって何がと聞き返された。
「今更お前を好きだと言ったって、すぐには信じられないかもしれないし、それで傷つけた過去が変わるわけでもない。俺のこと嫌いだって何度も繰り返してたよな。それを今更、もう一度好きになってくれと言ってるわけでもない。そんなこと、言えるわけがない」
 甥っ子は何か言いたげに一瞬口を開きかけたが、言葉はないまま結局また口を閉ざしたので、そのまま続けることにする。
「でも、少しでもお前の気持ちが晴れるような何かがあるなら、言ってみて欲しい。俺に出来る償いがあるなら、出来るだけのことはしたいと思う。正直、自分の気持ちからもお前の気持ちからも逃げるのをやめたいって気持ちはあっても、どうするのが正解なのかわからないんだよ。あまりにずっと、逃げることばかりが当たり前の生き方だったから……」
 年上ぶって兄ちゃんなんて呼んでもらっても、実際はこんなにも情けない大人でゴメンと言ったら、それを肯定するかのように呆れた様子の溜息を吐かれた。
 逃げ出したくて、せめて俯きたくて、それを必死で耐えながら眉間を寄せる渋い顔の甥っ子を見つめる。彼の言葉を待っている。
「あのさ、にーちゃんの好きって気持ち、試してもいい?」
「それは、いいけど……」
「いいけど、何?」
 思わず躊躇えば、疑惑の視線が突き刺さった。出来るだけの償いはすると言った直後でこれだから、往生際の悪さに自分でも辟易するが、けれどなんでもするとまでは言っていない。
「いやだってお前、好きなら抱けとか言い出しそうで」
「なんだ。結局さ、俺の希望なんて、叶えてくれる気ないんだろ?」
 やっぱりそれかと思うと溜息がこぼれかけたが、そんな立場ではないとなんとか飲み込んだ。
「年齢的にそういうの興味あるのはわかるけど、こんな形で抱かれるんで、お前、本当に後悔しないわけ? というかそれはどういう心理からなの?」
「どういう心理って?」
「だってそれ、好きだから抱いて、なんて可愛い感情で言ってるわけじゃないよな? あの日、お前を最後まで抱いてやらなかった仕返しで、無理にでも抱かせてやろうとか思ってるのかなと」
 ギュッと唇を噛みしめるしぐさに、やはり図星なのかと思う。
「そんなのに自分の体使うなよと思うし、もっと自分を大事にしろって言ったろ。それにお前を好きって認めた以上、嫌がる俺にムリヤリって展開にはならないからな。下心満載でお前に触れるし、持てるテク総動員でお前を誑し込むかもよ? そういう警戒心少しは持てよ」
 仕返しになんかならないと言えば、噛みしめる唇が小さく震えだす。そして両目にぶわりと盛り上がっていく涙に焦った。

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