イケメン相手にこんな関係になる予定はなかった27

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「とにかく、お前が相手なら勃つのか試したいんだって」
「それはいいけど、もし勃ったらどうすんの?」
 相手の反応的にダメと言われることはなさそうではあったが、了承の言葉にまずはホッとする。だって今更無理と断られる可能性も考えていた。なんせ、年末にはそういう関係はもう終わったからとあっさり帰られている。
「試していいってことは、お前にもまだ特定の相手は出来てないってことでいい?」
 あの時はダメで今オッケーなのはどう考えたってこちらがフリーになったことなのだろうから、これは一応の確認であって、もちろん否定が返るなんて思っていないから、相手の返答を待たずに続けてしまう。
「お前が今もフリーだってなら、俺はもう諦めて、お前を落とそうと思ってるよ」
「は?」
「これ、もしお前相手に勃ったらどうするか、の答えな」
 意味が理解できないのか、理解できるからその顔なのかはわからないが、なんとも微妙な渋面だった。眉間にシワが寄っている。
「それって、つまり……」
「お前に責任取らせたい」
「えっ?」
 想定外だっただろう返答に呆気にとられた顔になった相手に、ここは強気でニヤリと笑ってやる。
「俺の体こんなにしたのお前だから、お前が責任とって?」
「え、と、……いいの?」
「いいよ」
「わか、った」
 戸惑いはしたようだが、それでもあっさり了承されてしまった。ソワソワと落ち着きなく、しかも期待が滲む気配に、苦い笑いがこみ上げてくる。
 相手の誘いに乗ってエロいことを受け入れてきたのはこちらなので、本音では相手だけの責任ではないと思っているけれど、そういう指摘がいっさいないどころか、責任取れの言葉にこうも嬉しそうにされてしまったら、相手の気持ちなんて聞くまでもなさそうだ。まぁ、確認も兼ねて聞くんだけども。
「お前、俺のこと好きだよな?」
 もちろん恋愛的な意味でと付け加えてやれば、相手はまた眉間にシワを寄せて黙り込んでしまう。
「あれ? 違ったか?」
「ちが、わない……けど」
「けど?」
「なんか……なんか、」
「なんか、なんだよ」
「期待してた展開と、なんかぜんぜん、違う……」
 へにょっと眉尻を下げて、大きなため息とともに俯いてしまう。しかも顔を両手で覆い隠して。
「ふはっ」
 思わず笑ってしまえば、笑わないでよと力ない抗議が返ってくる。
「つか期待って、どんな期待してたんだよ」
「そんなの、俺にしか勃たないから俺でいいや、みたいな妥協とか諦めじゃなくてさぁ。俺のこと、好きになって欲しかったっていうか」
「だってお前が好きって言わないのに、俺から好きっていうの、なんか悔しいだろ」
「えっ!?」
「くふっ……」
 バッと顔をあげてマジマジと見てくるから、やっぱり苦笑がこぼれ落ちた。
「あ、からかってる!?」
「ってない。俺だってお前が好きだよ。多分」
「たぶん……」
「お前に触られたら勃つと思ってるし、だからお前に責任とってもらうつもりだし、お前が俺を好きって認めるなら恋人になってもらう気満々だし?」
「こいびと……」
「お前に恋人作る気ないなら、セフレとかでもいいけど。まぁそこらの誰かととりあえずで性欲解消のセックスすんのは止めろ、とは言うけどな」
「しないよ。てかセフレでいいとかも止めてよ。恋人に。恋人になるから!」
 必死かよと思ったら、やっぱり笑いがこみ上げた。

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イケメン相手にこんな関係になる予定はなかった26

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 部屋に一つしかない椅子に腰掛け、項垂れたままの相手を見つめて待つこと数分。恐る恐るといった様子で頭を上げた相手の顔は随分と不安げだ。
「さっきのだけど、あれは抱かれろって、意味?」
「は?」
「俺のせいで彼女と別れたなら、俺にその彼女の代わりをやれって話かな、と」
 不安そうにしているのは、お前のせいで別れたなんて言ったせいで、何かしらの責任を感じてでもいるのかと思っていたのに。どうやら全然違ったらしい。
「あー……」
 正直、その発想は全く無かった。
 彼女相手に勃たなかった、というのを3回も繰り返してしまった結果、見事にフラレてしまったが、でも完全に勃たなくなったわけじゃない。一人では出来ると言うか、オナニーは普通に女性を対象にしたオカズで抜いていたから、まさか生身の女性の体を前にして萎えるなんて思ってなかった。今日、こんなバカみたいなお願いをしに来たのだって、こいつが相手なら今も勃つのか試したいのが一番の目的で、そもそも勃たない可能性だってある。
「もしかして、まだ童貞だったりする?」
「わりぃかよ」
「てことは、彼女とうまくできなかった?」
 ぐぅ、と唸ってしまえば、それはもう肯定も同然だ。
「俺のせいで?」
「……そ、だよ。多分、だけど」
 彼女相手に勃たなかったのはこいつが原因とは言い切れないけれど、でもこいつのせいなんだろうとは思っている。
「つまり、俺のせいで童貞捨てれなかったから、俺で童貞捨てさせろよ、みたいな?」
「そんなこと言ってないだろ。つかお前抱きたいとか思ったことねぇよ」
 そうだ。そんなことをチラッとでも考えたことがあったなら、大学時代に口に出していたに決まってる。自分が突っ込まれるのは嫌だけど、お前が突っ込まれる側なら試してもいい、という提案をする機会なんていくらでもあったのだから。
「じゃあセックスって俺が抱く側やっていいわけ?」
「最悪、それもありかもしんねぇ、とは思ってる」
「え、嘘。マジで? いいの?」
 あんなに嫌がっていたくせにと言いたいのはわかるが、一転して嬉しそうにされるのもなんだか腹が立つ。抱いてくれという意味でセックスしてと言ったわけではないし、積極的に抱かれたい気持ちがあるわけでもないので尚更だ。
「最悪の場合、な」
「最悪の場合、って?」
「お前相手でも勃たなかったら、尻弄られるのも試してもいい」
 もしこいつに触られても勃たないなら、尻で気持ちよくなるのを試すのもありかと、チラッとだが考えたのは事実だ。なんせ尻を弄られて気持ちよくなってしまった過去があるのも事実なので。
 まぁでも、こいつ相手でも勃たない可能性はあるとは思いつつも、こいつに触られたら勃つんだろうなと思ってもいるので、尻の出番はない予定ではあるのだけれど。
「は? 勃たない?」
「オナニーは出来るからインポってわけじゃないと思うんだけど、彼女相手には反応しなかった」
「え、まさか俺にしか反応しなくなったとか、そういう話!? オカズは? それも俺?」
 食い気味に腰を浮かせて来るから、思わず椅子の上で背を反らせてしまった。
「ばか、落ち着けよ。オカズは普通に女だっつーの」
「なんで? 俺との思い出使ったりしないの?」
「しない」
 お前はするのかよ、と聞き返すのはやぶ蛇になりそうで止めておく。不満げな顔も無視決定だ。

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イケメン相手にこんな関係になる予定はなかった25

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 待ち合わせた時刻は年末の時と同じだったが、空はまだ充分に明るい。もうすっかり夏だなぁと思いながらも相手の到着を待つこと10分。こちらに気づいて駆け寄ってきた相手は、遅れてごめんと謝った。
「まだ5分前だぞ」
「そうだけど、もっと早く来れるはずだったから」
 待たせたくなくてと言った相手は、その後心配そうに、何かあったって言ってたしと続ける。彼からすれば、約束時間の5分前にここに自分がいること自体が、ことの重大さを意識せずにいられないのかも知れない。
 屋外待ち合わせなら季節関係なく、どこかで時間を潰してギリギリ到着になるように調整するタイプなのは認める。相手の心配を煽ろうと狙ってやったわけじゃないし、無自覚ではあったけれど、確かに、そんな調整をする余裕を失くしてはいるようだ。
「どれくらい待たせた?」
「気にすんなよ。それより行くぞ」
 歩きだしてしまえば、相手も黙ってついてくる。行き先は食事のできる店ではなく、今夜泊まる宿の部屋だ。相手は泊まらないだろうけれど、一応ちゃんとツインの部屋をとってある。
「どういうこと?」
 ホテルに入った辺りからずっと何か言いたげな気配を感じていたが、それでも黙って部屋の中にまでついてきた相手が、部屋のドアが閉まると当時に口を開いた。
「お前に、頼みたいことがあって」
「頼みたいこと? 誰にも聞かれたくない何かヤバい相談ってこと?」
 なにか変なことに巻き込まれてるのかと焦りだす相手は、どうやら何かを誤解している。でもまぁ、そんな誤解も当然かも知れない。
 年末にはホテルの部屋に酔った状態で二人きりになっても手は出されずに帰られているし、相手の中ではもう、自分はそういった対象からは外れたただのオトモダチなのだろうから、ラブホでもない普通のホテルの部屋に連れ込んだところで、エロ目的だなんて思うはずもないんだろう。それに彼女と別れてしまったことだってまだ知らせていないから、相手はいまだこちらを彼女持ちと思い続けているはずだった。
 まずはそこから伝えるか。
「お前のせいで彼女に振られた」
「へ?」
 言いがかりだと言わせるつもりはないし、説明をする気もあるが、取り敢えずで単刀直入に結果だけ伝えれば、相手はなんとも間抜けな顔で口を半開きにしている。イケメン台無しザマァと思うのに、その間抜け面にさえ胸の奥がキュンと疼く気がして鬱陶しい。
「だからお前、俺とセックスしてくれねぇ?」
「は?」
 若干イラっとして、投げやり気味に今日の目的を口に出せば、相手は欠片も想像もしていなかっただろうセリフに目を瞠っている。想定外なのはわかっているが、それでもその反応がどうにも腹立たしくて、零れそうになる舌打ちをどうにか飲み込んだ。
「てか待て待て待て。え、ちょ、なんで!?」
 意味がわからないと苦々しげに吐き出した相手は、ふらふらと部屋の中に進んでいくと、片側のベッドにドサッと腰を下ろして項垂れてしまう。
「「はぁ〜……」」
 二人分の大きなタメ息が重なって部屋に響く。それでも、その一息で、多少は気持ちが落ち着いた。
 相手のせいだけど、相手のせいだけじゃないのもわかっている。
「悪かった。ちゃんと説明する」
「や、待って、ホント、待って」
 八つ当たりじみたことをしてしまった謝罪と、あとは唐突すぎる無茶を言った自覚もあるので、ちゃんと説明しようとしたのに。
 ちょっと思ってた反応と違う。とは思ったものの、相手がこちらの話を聞ける状態にないのは見ていてなんとなくわかっていたので、仕方なく相手の復活を待つことにした。

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イケメン相手にこんな関係になる予定はなかった24

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 年末に酔い潰れたに近い醜態を晒した後も、相手の反応は特に変わりがなかった。一度は、都合がつくなら会えないかという、日時も場所も指定された誘いも貰った。残念ながら都合がつかないと言って断ったけど。
 相手の誘いはいつもこんな感じで、日時と場所が指定されているが、これは間違いなく、断りやすいようにと気を遣ってくれていると思う。事実、本当に別の予定が入っていて都合がつかなかったことなんてない。
 誘いに乗らなくても、付き合いが悪いと責められもしないし、じゃあまたの機会にとあっさり引き下がり、しかも数カ月後には本当に「またの機会」がやってくる。でもさすがに、誘われる頻度は少しずつ減っていた。
 都合がつかないと断っているのは自分なのに、誘われる頻度を気にして、少しずつ相手との距離が離れていくような錯覚に胸が痛いなんてバカらしい。相手とはもうとっくに、物理的にも心理的にも結構距離が取れているのに。
 今更、どう接していいかがわからなかった。そもそも自分と相手とは友人だったのかすら、今はもう自信がない。せっかく友だちになれたんだから、とか、卒業しても友だち止めないでしょ、とか、そんなようなことは言われたから、相手の中では今も昔も自分は友人なのだろうけれど。でも自分にとっての彼は、やっぱり友人の括りからは大きく外れた存在だと思う。
 友人として、気軽に会って酒を飲みながら近況報告や思い出話で盛り上がって、楽しい数時間を過ごして終われる相手じゃない。彼女の存在を忘れてホテルに誘うなんて、彼以外が相手ではありえない行動だった。
 卒業したあとも友人関係が続く、というのが想定外だったのだから、いっそ関わりを全て断った方がいいのかと考えたこともある。けれどその決心は未だにつかないままだった。
 多分、友人として付き合い続けたい気持ちは自分の中にもある。今はまだ、大学時代のあれこれが身に染み付いたままで、エロいことをしない友人関係に馴染んでいないだけだ。彼としか経験がないのも、もしかしたら原因の一つかもしれない。
 エロいことなしの友人関係にあっさり移行できた相手は、もともと童貞ではなかったし、卒業後も特定の相手は作っていないものの、やることはやってるって話だった。なのにこちらは、やっと彼女が出来はしたものの、童貞を捨てるには至っていない。
 彼意外と気持ちがいいことを経験すれば、それが当たり前になれば、彼とのあれこれを過去のものにして、ただの友人関係が築けるだろうか。そうなればいいなと思った。
 なのに。
 会いたいと自分からメッセージを送るのは初めてだった。相手のように、時間や場所を指定して、都合が付けばなんていう逃げ道を作らず、都合のつく日に合わせて相手の住まい近くまで行くからそっちの予定を知らせろと送った。
 何かあった? という心配するメッセージがすぐに届いたが、相手の予定は記されていない。あった、とだけ短いメッセージを送って、続けて、だから都合のつく日を遅れと再度催促してやれば、少しして、いくつかの数字が戻ってきた。当たり前だがその殆どが土日で、一番近い土曜の夕方を指定して会う約束を取り付ける。
 何があったかの詳細をメッセージでやり取りする気がないことは伝わっているようで、それ以上の追求はなく、可愛らしい了解のスタンプだけが送られて行きた。

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イケメン相手にこんな関係になる予定はなかった23

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 多少スッキリはしたが、胸の痛みもムカつきも消えず、結局、トイレから戻った後はそう長居せずに店を出た。
 時間はそこまで遅くなく、終電まではまだ時間がある。けれど当然どちらも2軒目などの話題は出さなかったし、言葉少なにただただ駅へ向かって歩いていた。
 時折酒で足元がふらつくのを、気をつけてと言いながら支えてくれる腕に、やっぱりなんだか胸が痛い。だって大学時代と違って、このまま家まで連れ帰ってもらえるわけじゃない。私立の男子校で双方電車通学だったから、今日は互いの実家の中間地点あたりで飲んでいて、駅へ着いたらそれぞれ逆方向の電車に乗るのだ。
 一緒にいたって話が弾むわけじゃないのに、というよりも友人と過ごす楽しい時間を潰したのはどう考えたって自分なのに、駅まであと数分のこの土壇場で、別れがたく思っているのがひどく苦しい。
 今日ので呆れられて、次の誘いが掛からなかったらどうしよう。
 そう思ったら足が止まってしまった。就職を機に住む場所の距離は開いたが、毎日通学するのは躊躇う程度の距離でしかないから、中間地点で会おうとするなら双方そこまで負担にならないとわかっていたのに。何度かあった誘いを今日までのらりくらりと躱していたくせに。次はもうないかもと思ったら、こんなにも惜しい。
「どうしたの?」
「あー……思った以上に酔ってる、っつか、こんなで無事、家に帰りつけんのかな、って、思って」
 ちょうど腕を支えられている時だったので、名残惜しい気持ちをそんな言葉で覆い隠して時間稼ぎをはかってしまった。きっと、酔いがもう少し覚めるまでどっかでお茶でも、という誘いを掛けても変には思われないはずだ。けれどこちらが口を開くより先に、相手が話し始めてしまう。
「じゃあタクシー捕まえる? それとも泊まるとこ探す?」
「へ?」
「家まで送ったらさすがに俺が帰れなくなりそうだし、お前の家からタクシーで帰るのはさすがにキツイんだよね。だからもしタクシーで帰るってなら、少しは俺もお金出すよ」
 こんなに酔わせた責任が俺にもありそうだしと、心配そうな顔で告げる相手の声は優しい。といよりも、さっき相手の恋人絡みの話で少し空気がオカシクなった以外、相手はずっと変わらずに優しいんだけど。
 でもそれがますます、これで最後かもと思わせてもいた。だって大学時代なら、店で吐くほど飲んだら多少は嗜める言葉があった。はっきり呆れる様子を見せていた。
「泊まるとこ、は?」
「そこそこ大きな駅だし、飛び込みで入れそうなビジネスホテルとかありそうじゃない?」
 少し離れた駅の反対側にラブホ街があることは知っているが、相手のいう泊まりはそこではなかったらしい。まぁ、向こうにラブホ街があるよ、なんて言われても、じゃあ泊まりでなんて言えるわけがないんだけど。
「じゃ、泊まる」
「わかった。じゃあ取り敢えず、あそこに見えるホテルで聞いてみようか」
 言われて指さされた方へ視線を向ければ、確かにホテルらしき建物がある。
 そして結果から言えば、無事に部屋は空いていて、あっさりチェックインが終了した。ただし、部屋はシングルで、今現在、この部屋の中にいるのは自分ひとりだ。
 ベッドに突っ伏しながら、恥ずかしさと後悔とで悶絶している。だってこんなの、想定外もはなはだしい。
 だって、ロビーの椅子に座らされていたから、カウンターでのやり取りは一切聞いていない。だから、鍵を手に戻ってきた相手に促されて部屋へ行き、一つしかないベッドを見た後でさえ、まさか自分ひとりのための部屋だとは思わなかった。
 足元がおぼつかないほど酔ってるのはこちらだけで、相手は自力で帰れるのだから必要がない。と言われてしまえば、お前も一緒に泊まれとは言えない。それでも一緒に部屋に来たってことは、それなりの下心があるのだろう。なんて思ったのさえ、どうやらこちらの勘違いだった。
 酔っ払いを無事に部屋まで送り届けるのが目的だったようで、一通り説明を済ませるとさっさと帰ろうとするから、思わず、する気かと思ったと告げてしまったのは多分未練で、そういう関係は終わったことと、彼女が出来たんだろうと指摘されたことが恥ずかしい。
 彼女が出来たのだから、相手の誘惑にも勝てるはずと思っていたはずが、自分から誘ってどうする。彼女が出来たのは最近で、まだそこまで深い関係にないとはいえ、その瞬間、彼女の存在をすっかり忘れていた自分に嫌気がさす。自分自身に裏切られたような気持ちだった。
 宿泊先を探そうかと言われて、自分だけがその気になっていたなんて。これはもう、恥ずかしいというよりは、なんだか惨めだった。
 部屋を出る間際に、じゃあまた、と告げていった相手の言葉には少しばかり救われているけれど。でも本当に次の誘いが来るかわからないし、次の誘いが来たとして、その誘いに乗れるかもわからない。
「はぁ〜……」
 深い溜め息が、顔を埋めた枕に吸い込まれていった。

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イケメン相手にこんな関係になる予定はなかった22

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 相手の恋人絡みの話題は地雷だったのかも知れない。大学時代だって、お前がその気になりゃすぐに彼女なんて出来そうなのに、程度のことは口に出していたが、それ以上を追求したことはない。というかあれだけ一緒にいたら、恋人の有無なんて聞く必要がない。
 自分以外の男友達にも手を出してるのかな、と考えたことはあるが、仮にそういうことがあったとしても、それは継続的なものではなかったと思う。そんな相手がいれば気づいたはずだからだ。
 それくらい、大学時代の彼の生活の中心は自分だった。側に居たら大学卒業できそうだから、なんて理由を聞かされたことはあるし、実際彼の苦手な部分を手伝ったりもしたけれど、自分が居なければ彼の卒業が危うかったとも思えない。大学時代の彼ならば、自分じゃなくたって他に手伝ってくれる誰かを見つけられたはずだ。けれどそれ以外の意図については結局探らなかったし、彼のくれる快楽を対価として、それを受け入れていたのは自分なのだけれど。
 こちらを見つめる相手の表情はわかりにくく、怒っているようには見えないが内心どう思っているかはわからない。だからか、焦る気持ちよりも懐かしさが勝ってしまった。酔ってたせいもあるかも知れないが、こちらも相手の顔をただただ見つめ返してしまった。
 だってこの顔を知っている。高校時代の彼はいけ好かない孤高のイケメン扱いだったが、感情が読み取れないこの無表情感というか無愛想加減が、その頃と同じだった。あの頃、こんなにマジマジと見つめたことはないけれど。
 大学に入学したら、本当に同一人物かよ、と思うような変貌を遂げてしまったし、その彼と4年も共に過ごしてきた上に、高校時代なんてさして仲が良くもなかったのに、こんなにも懐かしいのがいっそ不思議だ。
「あっ……」
 思い出すと同時に、言葉が漏れた。
「おふくろさん、元気にしてる?」
「へっ?」
 突然の話題変換に相手は虚をつかれたようで、無感情だった顔に表情が戻る。その顔を見て、何を言っているんだろうと思ってしまった。ついさっきまで大学時代と変わらないにこやか顔を見てもいたのに。
 無表情顔を見ても焦らなかったのに焦ってしまう。
「あ、いや、なんか高校の時のお前と同じ顔してて、だから、もしかしてまた家族に何かあったのかも、とか、つい。てかお前、さっきまで笑ってたのに、なんでそんなこと思ったんだろ?」
 ごめん酔ってる、と酒のせいにしてしまえば、相手も気まずそうにしながら曖昧に頷いている。
「母は元気。それと、次の相手なんて、そう簡単には出来ないよ」
「え?」
「恋人は居ないし、恋人になりたいって思うような相手もいないし、気楽に解消するための特定の相手なんてのも居ないし、作る気もないよ」
「え、あ、そう……なんだ。って卒業してから誰とも?」
「そ、いうわけじゃ、あー……できれば今のは聞かなかったことに……」
 言葉の途中でハッとしてそんな事を言い出した相手は、ますます気まずそうだった。
「別に、隠すことないだろ」
「いやだって、特定の相手は作る気ないって言った側から、やることやってますってのは、ちょっと……」
「お前が相手なら、遊びだろうと一度きりだろうと抱かれたいって女が居たって全く不思議じゃないし、男はわかんないけど、でもまぁ、居ても驚きはしないって」
 そうだ。全く不思議はないし、彼がそれを受け入れたのだとしても、それを咎める立場ではない。でも、胸の奥がギュッとなってムカムカする。それはダイレクトに胃に響いたようで、せり上がってくるものを感じてとっさに口を手で覆った。
「わり、ちょっとトイレ」
 吐きそうな衝動をどうにか抑えて立ち上がる。こんなところでぶちまけるわけにはいかない、という理性は残っていた。次の衝動が来る前にと、慌ててトイレに駆け込んだ。

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