初恋は今もまだ9

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 カラオケを出て親友と別れた後、本来会う予定だった相手に連絡を入れる。
 先程、どういう意味かと問いかけたメッセージは既読のまま無視されているけれど、今から会えないかと追加で送ったメッセージには、すぐさまどこでという返事が来た。
 最初の待ち合わせ場所を指定して、自分ももう一度その場所へと戻る。
 少し時間がかかると言っていた相手を待ちながら、ぼんやりと頭の中を巡っているのは、先ほどの親友との会話だった。
 好きで好きでどうしようもなく、その想いは朽ちることなくずっと抱え続けていたはずなのに、自分が親友の恋愛対象になりうるのだと聞かされても、不思議なほど喜びが薄い。後輩の男を好きになったかもと聞いて、吐きたくなるほど胸が痛む癖に、自分の手が相手に届くと知っても尻込みしてしまう。
 多分、自分のキャラじゃないからと気持ちをぶちまけてしまったあの時から、叶えるつもりが一切ない想いだったせいだろう。今は喜びよりもむしろ戸惑いのが大きい。
 それでも、答えを出さないわけに行かない。
「あいつがしようって言ったら、お前、あいつとエロいこと出来そう?」
 また、あの日トイレで言われた言葉の一部を思い出す。取り敢えずで恋人となった友人は、恋人という関係が欲しかっただけのようだから、エロいことなしでと提案してくれたし、それがあったから受け入れたとも言える。けれどもし親友と恋人になることを受け入れたら、エロいこと無しでなんてわけにも行かないだろう。
 だから結局、考えるのは親友とならエロいことをしたいと思うか、行為が出来るかどうかだ。
 それとも、親友という名前が恋人という名前に変わるだけというのもありだろうか?
 エロ無しでもいいからと言われて友人と恋人関係を持ったりしなければ、考え付きもしなかったけれど、どうなんだろう?
 いやでもやっぱりそれはないよなと思う。恋人として相手を束縛するのに、恋人らしい何もないままだなんて、なんのために名前を変えるのかわからな過ぎる。
 友人の場合はやはり特殊だ。とにかく恋人という関係に持ち込みたかったのはあの日の態度からも感じていたし、さっきの話から理由もわかってしまった。ちゃんと好きとは言ってたけれど、親友に怒っているからという理由のほうが明らかに強そうだし、だからこそエロ無しでという話が成り立っている。
「ひっどい顔してんなぁ」
 お待たせと言って声をかけてきた男は、どこか呆れた様子でそう続けた。
「誰のせいだと思ってやがる」
「え、俺のせいなの?」
「お前のせいだとは言わないけど、まったく無関係じゃないだろ」
「まぁそうかもねぇ」
 ごめんね? と吐き出す言葉の軽さに、なんだか腹が立つ。ムッとして睨んだら、再度悪かったってと謝った相手は、ゆっくり話できそうな所に行こうと誘う。
 これで再度カラオケだったら嫌だなと思ったけれど、連れて行かれたのは個室のある小奇麗な居酒屋だった。

続きました→

 
 
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初恋は今もまだ8

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 こちらの視線から逃れるように、相手はがっくりと肩を落として俯いてしまう。
「俺はさ、お前の好きの正体を知りたかったんだよな」
 俯いたまま語られる声は、なんだか疲れきった様子でヘロヘロだ。
「好きの、正体?」
 結局お前の好きってなんなの? とあの日トイレで尋ねられたことを思い出す。好きって言うだけで満足で、相手を欲しがらず、親友という立場からはみ出ないのが望みならと言われたこともだ。
「俺がお前に似た男を好きになったと言っても、平気な顔で応援してくるなら、それはもう本当にただの挨拶代わりの好きなんだろうって思うつもりだった」
 お前に似た男と言う言葉に、ぐらりと思考が揺れた。気づきたくなくて、あの日、むりやり押し流した気持ちが溢れそうになる。
 ちょっと抜けてるところもあるけど一生懸命で、犬っころみたいに懐くという表現に、昔の自分が重なる気はしていた。自分とその男とで決定的に違う何かが気になる程度には、似ていると思ってしまった。だからこそ、なんで今さらそんな男を好きになるのだという絶望は大きかったし、吐かずには居られなくなったのだ。
 たとえば、今までの彼女と性別だけが違うような相手を好きになったかもと言われていたら、きっとあそこまでのショックは受けなかっただろう。自分はこいつの好みの範疇外というのを、改めて自覚するだけで終わっていたはずだ。
「後輩の男の話、嘘?」
「嘘じゃない。けど、そいつ見ながら、昔のお前に似てるなってのはよく思う。だから自分の好きがどこから来るのか、本当は誰に向かってるのか、ちょっと自分でも混乱してたんだ」
 卑怯でゴメンと続いた言葉に、なんとなくは察したものの、より詳しい説明を求めるように問いかける。
「卑怯って、どういう意味?」
「混乱しつつも、多分きっと、俺はお前を好きなんだろうって思ってたんだよ」
 後輩はそれに気付くキッカケだったと言って、更に言葉を続けていく。
「でも今更、お前が好きかもしれないなんて、お前に正直に言うのを躊躇った。だってお前の好きって、どう考えても俺と恋人になりたいとか、そういった要素なさそうだし。だからわざとお前が誤解するように話して、お前の反応を試した。お前が吐きに行ったから、もしかして脈ありかもなんて思ってた俺は、本当にただのバカだったよ」
 ゆっくりと俯いていた顔を上げた相手は、困ったような、泣きそうな顔をしていた。
「やり方めっちゃ間違えたし、成り行きだろうと恋人作ったお前に、あいつと別れて俺と付き合ってなんて言えないとは思うんだけど、あいつがお前を恋人にしたのは俺への当て付けだってわかってるせいかな。ああ、あと、お前がまだ俺に好きだって言ってくれたこと」
 一度言葉を区切ってじっと見つめてくる瞳に、生唾を飲み込む音が響いてしまった気がして恥ずかしい。
「お前を諦めたくない。どうやら俺はお前が好きらしい。いや、らしいじゃなくて、お前が好きだ。だから聞きたい。俺に、お前の恋人になれる可能性、まだ残ってたりする?」
 先程友人から届いた、『お前が幸せになれるなら俺はどっちでも良い』という文面を思い出しながら、小さな溜息を吐き出した。
「そういう聞き方、お前、ずるいよ」
「ごめん……」
「あのさ、めちゃくちゃ正直に言うと、お前と恋人になるって事を考えたことがない。お前が俺と恋人になりたいなんて言い出すはずがないって思ってたから。あと、あんまり長いことお前を好きだったから、俺自身、ちょっともうよくわからなくなってる部分、あると思う。それに、確かにあいつとは成り行きで恋人になったけど、お前に好きって言われたから乗り換えるわーってのはさすがに抵抗ある」
 まぁ、そう言ったってあいつは笑っておめでとうって言いそうだけど。なんてことを思いながら苦笑する。
「だからさ、少し時間ちょうだい。お前への好きがどんなものなのか、今、どんな風になってるのか、思考停止やめてちゃんと考えるから」
 言えば、神妙な顔でわかったと返された。

続きました→
 

 
 
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初恋は今もまだ7

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 取り敢えずゆっくり話せる場所に移動しようということで、近くのカラオケボックスに入った。どう考えたって会話の内容が男同士で好きだの付き合うだのになるのはわかっていたから、会話が他の客に聞かれない場所をとなると、それくらいしか思いつかなかったせいだ。
「それで、お前の話って、何?」
 小さな部屋の中、横長ソファーの端と端に座って、警戒心いっぱいに問いかける。
 なんで謝られるのかさっぱりわからないし、また余計な話を聞いて無駄に傷つくのだって怖い。こいつが誰を好きになろうと仕方がないとは思えるけれど、それをわざわざ聞かされたくはないのだ。でもその話を蒸し返される予感がする。
 だって、あの日こいつが男を好きになったかもと言い出さなければ、きっと吐いたりしなかったし、吐きに行かなければ友人と取り敢えずで恋人なんて関係にはならなかった。
「あのさ、この前話した後輩の事なんだけど」
 ほらやっぱり。
「待って。やっぱ聞きたくない」
「ゴメン、でも聞いて」
「やだって。俺はお前が好きなんだぞ。お前が誰好きになったっていいけど、でもそれを俺に聞かせるな」
「まだ、俺を好きだって、言ってくれるんだ?」
 相手は驚いた様子で開いた目を瞬かせている。
「そりゃだって、今更止められるような好きじゃねーもん」
「あー……うん。そっか。そうだよな」
 深い溜息が吐き出されて、なんだか責められているみたいで居心地が悪い。
「なぁ、お前の好きってさ、やっぱ今も一方的に俺がスルーしてなきゃダメなやつなわけ?」
「は? どういう意味だよ」
「言葉通りの意味だよ。お前が言ったんだろ。俺を好きになったから好きって言いたいけど、俺と親友のままでいたいから、お前が好きって言ってもスルーしてくれって」
 忘れたのかと言われたので、慌てて首を横に振った。それは中学を卒業した春休みに彼へと告げた言葉だ。
「覚えてる。お前には、感謝してるよ」
「感謝ね……」
 相手はまた自嘲気味に笑っている。
「俺は結構後悔してるよ。お前の好きを聞き流すのが当たり前の関係になったこと」
 後悔してるなどという言葉を辛そうに吐き出されて、胸の奥が痛くなる。どう答えて良いのかわからなくて言葉を探すうちに、待ちきれなかったらしい相手が更に言葉を重ねていく。
「俺に彼女が出来てもお前は平気そうな顔をしてたし、お前に彼女がいた事だってあったよな。でも、お前は顔を合わせると、やっぱり俺に好きって言うんだ。だからもう、学生時代の鉄板ネタ挨拶みたいなものかなって思ってた」
「そう思われてるのは、知ってた。でも別に、それで良かったんだよ」
「全然良くないだろ。俺が男好きになったかもって言っただけで、あっさり別の男と恋人になったくせに」
「いやまぁ、あれは成り行きで……」
「あーいや、ゴメン。お前を責めてるわけじゃない。というか、悪いのは俺の方」
「お前の何が悪いの? 後輩の男ってのを好きになったって、それはお前と後輩の問題で、俺が勝手に傷ついただけでお前は悪くないよ」
「いや、俺が悪いよ。お前が気づいてないだけで、俺はお前を試してた。あいつはそれに気づいたから、俺に怒って、お前を恋人って形で俺から掻っさらって見せたんだ」
「は? 試す? 何を?」
 まったく意味がわからなくて、悔しそうに唇を噛み締めている相手を呆然と見つめていた。

続きました→

 
 
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初恋は今もまだ6

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 恋人になったんだからデートしようと誘われて、特に用事があるわけでもなかったので了承した。
 彼と二人で遊びに出かけるのはかなり久しぶりではあるが、元々親しい友人なのだからまったく経験がないわけではない。手を繋いで歩いたり、肩を抱き寄せられたり、少しばかり接触が増えたとはいえ、それだってどこか懐かしい学生時代のノリって感覚が近かった。
 もちろん、恋人でなければしないような事をする気は一切ないし、相手もそれをわかっている。わかっててくれているから、恋人だからと言われながらも、友情の延長で相手のことを受け入れられるんだろう。
 そう、これはどう考えたって友情の延長上にあるもので、それ以上にはならない。なのに。
「俺は結構本気で、お前を幸せにしてやりたいって思ってるよ」
 あの日の夜、囁かれたセリフが耳の奥に蘇って、少しだけ鼓動が早くなる。あれは酔っぱらいの戯言と言うには、あまりにも真剣な声音だった。
 取り敢えずでいいからと言われて恋人になったけれど、相手はどこまで本気でこの関係を捉えているんだろう?
 そういや下心だの、ちゃんと好きだの言っていたけれど、相手の口調が軽かったからあんまり深刻に考えては居なかった。それよりも、慰められてと繰り返されたことのほうが印象に残っている。
 おかげさまで、初恋の親友が男を好きになったかもという衝撃を、帰宅後も引きずって落ち込むなんてことはしていない。確かに彼の突拍子もない提案に救われていた。
 恋愛感情なんて欠片もないけれど、取り敢えずだろうと恋人を続けていたら、これから先、友情以上の感情が芽生えてくるのだろうか?
 デートしようと言う誘いを、デートという部分を否定することなく了承して、のこのこと待ち合わせ場所へ出てきたあたり、そうなればいいと思う気持ちが自分の中に多少はあったりするのだろうか?
 そんなことをぼんやりと考えながら相手のことを待っていた。
 時間にルーズなタイプではないのに、連絡もなく遅刻してくるなんて珍しい。そう思ったところで、相手から短なラインメッセージが届いた。
『お前が幸せになれるなら俺はどっちでもいい』
 意味がわからず、どういう意味かと問うメッセージを返したところで、名前を呼ばれて顔を上げる。
 そこには片頬を赤く腫らした初恋相手の親友が、申し訳無さそうな顔で立っていた。
「え、なに? どういうこと?」
 思わず手の中の携帯と親友の顔とを交互に見比べてしまう。
 今日ここで待ち合わせることを知っているのは、自分と恋人となった友人だけだ。だってデートなんだから。
「ゴメン。本当に、ごめんなさい」
 戸惑いまくる自分に、目の前の相手は深く頭を下げるから、ますます意味がわからなかった。
「お前に謝ること、いっぱいあるんだ。だけど、まずは俺の話、聞いてもらえる?」
 頭を上げた相手の目は真剣で、どこか切羽詰まった様子にも見える。
「いや、でも、俺、待ち合わせが……」
「知ってる。でもあいつは来ないよ」
「な、んで……」
「俺が、頼んだから。一発殴られる代わりに、お前とのデートを代わって貰った」
 腫れた頬を指差して、相手は自嘲気味に笑ってみせた。

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初恋は今もまだ5

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 こいつ家まで送るからという言葉に促されて、一足先に飲み仲間たちに背を向ければ、すぐに冷やかし混じりの声がいくつも追いかけてくる。
「なぁ、せっかくだし、もうちょっとあいつらに見せつけてやろうぜ」
 耳元に顔を寄せてこそっと囁く声は酷く楽しげだ。
 なるほど。どうやら随分とのんびりしたこの歩調も、隣の男にとっては見せつけている行為の一つらしいと気付く。
「見せつけるって何をどうやって?」
 振り向いてやることはせず、そのまま前を向いて問いかけた。
「手、お前から、繋いでよ」
「えー……」
「手くらい良くない? 恋人っぽくない?」
「まぁ手くらいいいいけどさ。なんで、俺から?」
「お前からってのが重要なんだろ。さっきお前が本当だって言った時のあいつの顔、凄かったもん」
 ちょっと溜飲下がったわと笑う声は軽やかだ。確かに自分も彼の反応で、気が晴れた部分が多少はある。けれどだからこそ、なんとなく後ろめたい気持ちも湧いていた。
 彼が思った以上に反応してくれたからこそ感じるのだとわかっていつつも、随分と子供っぽい仕返しをしてしまった気がしている。彼が後輩の男を好きになったって、そこにはなんの罪もないのに。
「そりゃあ今日も顔合わせた直後に、あいつに好きだって言ったしね、俺。それが数時間後には別の男と恋人宣言とかわけわかんないよね。俺自身、わけわかんないし」
「そう言いつつも、お前が皆の前で、俺と恋人になったって認める発言してくれたの、凄く嬉しかった。だからさ、お願い。手も、お前から繋いで?」
「なに甘ったれてんの。お前が、俺を、慰めるんじゃなかったの?」
「そうだよ。こうやってお前に甘えるのも、俺からしたら慰めてるのと同義なの」
 まぁどうしても無理ってなら俺から手ぇ繋ぐけど、と続く声を聞きながら、黙って相手の手をとった。ふふっと笑った相手は、嬉しさとおかしさを混ぜあわせたような気配を滲ませている。
「あいつら、今のこれ、ちゃんと見てたかなぁ~」
「さあね。あいつらだっていつまでも俺ら見送ってたりしないんじゃないの?」
 ゆっくりとした歩調とはいえ、話しながら歩き続けていたわけで、既にそれなりの距離は開いている。手を繋いだところで、背後から掛かる冷やかしはなかった。だからきっともう、自分たちのことは見ていないんじゃないだろうか。
「お前がさっさと手ぇ繋いでくれないからー」
「俺のせいにすんなバカ。手、離すぞ」
「ヤダ。離さない」
 軽く繋いでいた手がぎゅうと握られた。
「あいつらに見せつけるとか関係なく、俺が嬉しいから、もうちょっと繋いでて」
「あの角曲がるまでな」
「えー。お前の家までこのままじゃダメなの?」
「ダメだろ。というか繋いでから言うのも何だけど、男同士で手ぇ繋いで歩くとか、普通にないよね」
「恋人だよ?」
「恋人でも、おおっぴらに手を繋いで歩くってのはない気がする。あとここ地元だし、知り合いいっぱいいすぎて、誰かに見られたらと思うとなんか嫌だ」
「見られて困る知り合いなんて居る? お前が男も有りだって、知り合いならだいたい知ってんじゃないの?」
 親ですら知ってるって言ってたろという言葉は間違っては居ないが、問題はそこじゃない。
「相手がお前なのが問題なんだろ」
「うわー傷つくわー」
「うっせ。後、男もありっての、誤解だから。あいつだけが特別だったって思ってる奴のが多いと思う。というか親はそういう認識で諦めてる。だから、取り敢えずで恋人にはなったけど、あいつら以外に認める気はないし、エロいことも本当無理だからな」
「そんな釘刺さなくたってわかってますー。まったく、可愛げないんだから」
「可愛げなんかなくて結構。てかその可愛げのない男相手に、慰めたいとか言ってるお前が普通に異常なだけだからな」
 角を曲がって、握られていた手を振り払った。
「普通に異常って矛盾してるだろ。まぁ、可愛げないお前が可愛いから、それも矛盾なんだけどさ」
 振りほどいた手はあっさり肩に回されて、かえって距離が縮んでしまう。
「俺は結構本気で、お前を幸せにしてやりたいって思ってるよ」
 覚えててと告げる声は思いのほか真剣で、さすがにドキリと心臓がはねた。

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初恋は今もまだ4

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 席へ戻れば既に親友の恋話は終わっているようでホッとする。一緒に戻った相手も、特に何を言うでもなく隣の椅子に腰掛けた。
 体調を気遣う言葉には大丈夫と返しながらも、さすがにこれ以上アルコールを摂取する気にはならずに烏龍茶を頼んだ。
 そこから更に二時間ほどダラダラと居座って、ようやく重い腰を上げて店を出る。
「あのさ、最後にちょっと、お前らに聞いて欲しいことがあるんだけど」
 店の外でじゃあなと別れの挨拶を告げる直前、そう言い出したのは先程取り敢えずで恋人となった友人だった。周りは酔いのテンションで、なになに~と好奇心いっぱいに耳を傾けている。
「実は俺、こいつと付き合うことになったから」
 ふいに伸びてきた手に引き寄せられて、肩にがっしり腕が回った。酔いなんかとっくに覚めているのに、あまりに驚きすぎて言葉が出ない。ただただ、肩を抱かれているせいでかなり近くに寄っている相手の横顔を、呆然と見つめているだけだった。
「はぁあああ?」
「何? なんで? いつから? あ、まさかさっき吐きに行った時?」
「意味わかんねぇんだけど。突然過ぎ」
 やはり周りの反応も驚きと戸惑いばかりだ。タチの悪い冗談か二人でドッキリを仕掛けているのかなどと言う声も聞こえてくる。周りの声はちゃんと耳に届いているのに、けれどそれらの言葉に反応は出来なかった。
 そんな中、はっきりと名前を呼ばれて、ようやく隣の男からその声の主へと視線を移動する。呼んだのは初恋相手の親友だ。
 少し青ざめて見えるくらいに動揺している様子に、様々な思いと過去のアレコレがふつふつと湧いては消える。
 その動揺の意味はいったいなんだろう。聞いてみたいような気もするし、けれどもうどうでもいいという投げやりな気持ちもある。
 結局、どうしたのとすら声を掛けられないまま、相手の言葉を待つしかなかった。
「本当、なの?」
「嘘なんかじゃねぇって」
 答えたのは隣の恋人で、親友はお前には聞いてないと冷たく言い放つ。肩にまわった腕に力がこもるのがわかった。チラリと見た横顔は親友を睨んでいるようで、そういやムカついてるって言ってたもんなと思う。
 だからきっと、これは宣戦布告なのだろう。
 取り敢えずでいいから恋人になれといった相手の言葉に頷いてしまった自分は、既にこの隣にいる男の側の人間だ。
 今この場面で、恋人は恋人でも取り敢えずのごっこ遊びみたいな恋人だという真相をぶちまけてしまったら、お前が傷つくのが嫌だから慰められてくれと言った隣の男を裏切ることになってしまう。
「本当だよ」
「うおおおおマジかー」
「え、これ、おめでとうでいいの?」
「いいんじゃん? めでたいんじゃん?」
 肯定したら、即座に周りが祝福ムードになって驚いた。仲間内で、男同士で、なのに躊躇いもなくおめでとうだの幸せになれよだのの言葉が掛けられるというのは、なんともこそばゆい。慰められろなどと正面切って言ってくる隣の男を含めて、本当に、いい仲間に恵まれていると思う。
 親友だけは呆然と立ち尽くしたまま祝福の輪に入っては来なかった。女の恋人が出来たと言った時には普通におめでとうと言われていたから、さっき彼が男を好きになったかもしれないと言い出して酷く動揺してしまったように、彼もまた女であれば気にならなくても相手が男となれば別なのかも知れない。
 もちろん、真相はわからないけれど、そうだったらいいなと思う。もしそうだったら、ざまーみろだ。だってずっと好き好き言っていた相手が急に手のひらを返して他の男の物になったのに、それすらすんなりと祝福されてしまったら、あまりに彼を想い続けた自分が惨めじゃないか。

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