可愛いが好きで何が悪い9

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 連続していくつもの花火が上がったあと、終了のアナウンスが流れてくる。別に急いではいないし少し人が引けるのを待つかと話しあっていたら、女性二人組に声を掛けられた。
 どうやらこちらの会話が聞こえていたようで、急いでないならどこかでお茶でも的なお誘いだ。逆ナンって本当にあるんだなぁという気持ちの中に、でもきっと彼はこんなの慣れっこなんだろうなぁという気持ちがある。
 どうせ彼女らの目的は彼だろうから、対応は任せたというつもりでチラッと隣の男に視線を流す。わかってると言わんばかりに一つ頷いた相手が、こちらの肩に腕を回しながらグッと頭を寄せてくる。
「ゴメン、俺たち今デート中だから」
 なんで寄ってくるんだと思った矢先にそんな言葉が耳の近くで発されて、とっさに真横にある相手の頭に自らの頭を打ち付けた。
「痛って!」
 ガンと鈍い音がして相手が痛みに声を上げたが、もちろんこちらだって相応の衝撃を受けている。ただ、そんな痛みはとりあえず後回しだ。
「ちょ、何言ってんだお前」
「いやいやいやそんな照れなくても」
「照れてるとかじゃなくて、断るにしてももっとマシな言い訳あったろ」
 てっきり、下半身がだらしないと言われたのが悔しいから、暫く女の子のお誘いは受けるつもりが無い的な話をするんだと思っていた。
「えー、だって、さっきデート否定しなかったじゃん。お姉様方からのデート費用カンパ受け取ったじゃん」
「バイト代だろ、あんなの」
「え、酷い。俺はデートって信じてたのに」
 大げさに嘆いて見せる姿が数時間前のファミレスでのやり取りを思い出させる。なんだかとても演技っぽい。
 ただそれを指摘はしなかった。というよりは、彼とのやりとりがどうでも良くなった。
「わりぃ、見つけた。ちょっと行ってくる」
「え、え、ちょっ」
 置いてかないでよの声を無視して、目的の場所へと急ぐ。といってもそう距離はなかったので、あっという間に迷子らしき兄妹の元へ辿り着いた。
「迷子か?」
「だったらなんだよ」
 声をかければ兄らしき少年が背中に妹を庇うようにして睨んでくる。
「そう警戒すんな。迷子センターまで連れてってやるだけだ」
 相手の警戒が少しでも解けるようにと、しっかりと腰を落として相手を軽く見上げた。
「迷子センター……」
「それとも迷子になったときはどうするか、親と既に決めてるか? 待ち合わせ場所とか」
 聞けば首を横に振る。
「なら闇雲に探すより、迷子センターで待ってる方がいいと思うぞ」
「そうそう。このお兄ちゃん迷子ハンターだから安心して送ってもらうといいよ」
 すっと隣に人がしゃがむ気配がして、追いかけてきたらしい連れの男が話に割り込んでくる。
「なんだ来たのか」
「置いてくなんて酷いよね。俺にもヒーローやらせてって言ったのに」
「ヒーローなの?」
 反応したのは兄の背中に庇われていた幼女だった。ちょこっと顔を覗かせながらも視線は隣の男に釘付けだ。
「うーん、どっちかというと、ヒーローになりたい男、かなぁ。ね、俺に助けられて、俺をヒーローにしてくれる?」
「する! したい!」
 イケメンのにっこり笑顔に陥落する幼女というものを目の当たりにしてしまい、内心複雑ではあったが、妹を守らなければと気張る少年相手に少々手こずるかとも思っていたので、妹をその気にさせてくれたのはありがたい。
「ね、おにーちゃん、いいでしょ?」
「マジかよ。てか本当に信じていいんだな? って、おいっ」
 兄の方は未だ警戒気味だけれど、妹はすっかり警戒を解いていて、兄の背から出て隣の男に駆け寄っている。これはちょっとお兄ちゃんに同情しそうだ。
「なんだあいつ」
「ごめんな。ヒーローになれそうで浮かれるだけだから、あんまり気にしないでやってくれると嬉しい。妹ちゃんに変なことは絶対させないから」
「本当だな?」
「ああ。約束する」
「わかった。信じる」
 兄の方の了承も取れたので、立ち上がって手を差し出した。
「はぐれないように、お兄ちゃんは俺と手ぇ繋いどこう」
「え、でも……」
「妹ちゃんもこいつと手ぇ繋いで歩くから。2人のすぐ後ろ歩いてれば、見失わないし、こいつが変なことしそうになってもすぐ止められるし、安心だろ?」
「ねぇ、さっきっから俺に対する発言が酷くない? 変なことって何? 俺、そんなヤバい男じゃないんだけど?」
「それはいいから。てかお前、迷子センター、迷わず行けるよな? 俺たちが後ろ歩いて見張ってても大丈夫だよな?」
「それは任せて!」
 力強く頷いた後、同じように立ち上がって幼女へ手を差し出す。幼女は嬉しそうに、すぐさまその手を取った。
 2人が手を繋いで歩き出すそのすぐ後ろを、こちらは渋々と握られた手を引き付いていく。

続きました→

 
 
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可愛いが好きで何が悪い8

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 待ち合わせたのが昼過ぎだったので、開放されたのは既に夕方だったが、それでもまだ本日一番の目的である花火大会までには時間がある。なので予定していた観光先の中から近そうな寺院を2つほど経由してから、花火大会の会場へと向かった。
 到着後、まず確認するのはトイレと警備本部の場所だ。救護本部や迷子センターが警備本部の近くに設置されているはずなので、どちらかというとその2つの確認であるが、こんなのは混雑する祭りやらに参加するなら基本だと思う。
 ただ、連れの男はそれだけでなにやら感動しているらしい。
「さすが迷子ホイホイ」
 言い出したのは姉だったか母だったか。無駄に正義感が強い子供だったので、連れ去り男に飛び蹴り事件以外にも、小さな頃は何度かトラブルを巻き起こしている。
 さすがにある程度育ってからは、保護して迷子センターに届ければいいことを学んで、問題を起こすことはなくなった。
「ヤメロ。てか泣きそうになってる子供がいたら気になるの、仕方ないだろ」
 人混みの中、不安そうな顔で必死にうろつく子供がいたら、どうしたって目につくのだ。
 いっそ大声で泣いてしまえば、周りももっと気づくと思うのだけれど。でも今まで見かけた迷子の子は、大概泣くのを堪えてうろついている。
「それに気づくのがやっぱ普通じゃないっていうか、視野が広い? んだと思うんだよな」
 俺の目のことは言えないと思うと続いたので、全然違うだろと返しておく。
「ちょっと特殊な目、って意味では近いものがあるって」
「てことはやっぱ自分の目が普通じゃないって自覚あるわけ?」
「人の顔をよく覚えてる方、って自覚はあるよ。顔の特徴から血の繋がり感じるのも割りと得意」
 彼がバイトする浜辺と今夜花火大会が行われる浜辺はそこまで離れていないせいもあってか、既に何人か、バイト先に訪れたことのある客を見かけていると言うから驚きだ。
「まぁ、初恋の子が育った先がこうでも、ああ初恋のあの子だぁって顔見るたびにドキドキしちゃうのはちょっと問題かなぁって気もしてるけど」
「それってやっぱ本気なわけ? てか顔見るたびにドキドキしてるとか初耳なんだけど」
 育った先としてこちらの顔を指す手を払い除けながら、なんだそれと思いつつ問い返す。
「顔見るたびには言い過ぎだけど、でもまぁ、あの子なんだなぁって思う瞬間は結構あって、どっちか女の子なら良かったのになって考えちゃうことも多いよね」
「今のお前にドレスが似合っても付き合わないからな」
 言ってから、ファミレスでの会話を引きずってるなと苦笑する。姉とその友人らのせいで、男同士でも初恋相手同士のロマンスが発生する可能性をまず考えてしまった。
「てかどっちか女の子でもお前と付き合うとか多分ない」
「は? えっ? なんでぇ????」
 本気で驚かれてしまったが、いやだって、男だろうと女だろうとこの容姿ならモテまくるのは必至だし、経験人数が多そうなところもちょっと嫌だ。自分の性格的にワンチャンだって狙わないと思うし、恋人なんてもっとない。考えられない。
「あ、まさか下半身がだらしないから……?」
 わざわざ言わなかったのに、自分で気づいてしまったらしい。
「まぁそれもなくはないけど、お前みたいな目立つ美形と付き合ったら気が休まらない気がする」
「恋人には一途だけど!? 浮気なんてしないよ??」
「お前自身はそうだとしても、あちこちで声かけられて愛想振りまくの見せられるの、恋人って立場ならキツそう。まぁ、俺は多分そう感じるってだけで、モテる恋人が自慢になる女子も居ると思うから、お前はそういう子を好きになるといいと思う」
 などと話しているうちに、とうとう花火大会が始まるらしい。どうやら開始前に迷子と遭遇することはなさそうで少しホッとする。
 今日は2人で来ているし、迷子を見つけたら花火大会そっちのけで一緒についてきそうな相手だけれど、大人数で遊びに来ている場で迷子を保護してしまうと、その場で自分だけが離脱ということも起こりがちだ。泣きそうな子供を前にして嫌な顔をされることは少ないが、せっかくの誘いを途中離脱しがちな奴は誘いにくいというのもわかるし、過去にはそれで疎遠になった友人も居ないわけではない。
 実は今日の花火大会も、最初は来る気なんてなかった。でも、迷子ホイホイでもいいどころか、一緒に行ったら俺もヒーロー気分を味わえる可能性があるってことじゃない!? なんて、若干楽しみそうなメッセージを送ってこられて承諾した。

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可愛いが好きで何が悪い7

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 結局、観光予定地のファミレスで姉の友人たちが合流するのを待ち、そこで数時間ほど過ごした。予定はかなり狂ったが、昼間の観光が一番の目的ではなかったのと、やはり姉同伴で会話に聞き耳をたてられたり茶々を入れられたりレポートを書かれたりは遠慮したい。ついでに言うなら、自分は何度も訪れたことのある場所だからそこまで観光に対する熱量がない。
 彼も特に観光への思い入れはないようで、むしろ姉の友人たちを交えたお茶会のほうが魅力的らしい。正直それもどうなんだと、内心若干引いた。
 半ば強制的につきあわされた先日の海での1件は未だ記憶に新しく、彼女らの興味の対象が自分ではなくても、結構精神的に疲れたというのに。興味の対象ど真ん中が、自らその輪の中に入っていこうというコミュ力には脱帽する。
 ただ、観光より女性とお茶する方が楽しいよね、的な安易な発想とはどうやら違ったようだ。
 すっかり友人ポジションではあるが、こちらの都合で学科内ではあまり親しげにしていないというか、連れ立って行動することが殆どないせいで、他者を交えて会話をした経験がほぼない。そのせいで、姉の友人らが、王子が友達と話すプライベートに興味があるように、彼自身、2人きりでは話題にも登らないような話が出来るかもという期待だか興味だかがあったらしい。
 姉とのやり取りを楽しげに見ていたのも、普段は見せない姿が面白かった、というのが大きかったようだ。
 確かに、こちらの趣味を隠す必要が一切ない姉と、そんな姉から色々筒抜けだろう姉の友人たち相手なら、会話の幅は間違いなく広がるだろうけれど。でも彼に対してそういった興味が一切なかったので、正直言えば驚いた。というか、やっと出会えた初恋相手の子として、妙に意識されているらしくてビックリだ。
 可愛らしいふわふわドレスやそれが似合うプリンセスが好きだろうが、初恋相手がめちゃかわのリトルプリンセスだろうが、恋愛対象としてそういう女性を求めているわけではない自分と、可能なら初恋相手の女の子とお付き合いしたかったと嘆く相手とでは、「初恋相手」に対する気持ちがどうやら大きく違うらしい。
 いやまぁ、どこまで本気かはわからないけど。演技というか、そういうテイでってだけな気がしないこともない。
 そして、姉が既に彼の初恋相手が誰であるかを知っていたように、姉の友人たちにもそれは周知されていた。ついでに言うなら、幼少期のドレス写真まであれこれと見られた後だった。しかも、彼に渡していないどころか見せてすらいない過去のドレス写真が、彼のスマホに増えてもいた。
 犯人はもちろん姉だ。姉とその友人のスマホには、代わりに彼の写真が何枚か譲られたらしい。その中に、こちらの初恋相手のリトルプリンセスが入ってないのが解せないが、一応、その写真も見てはいるそうで、こちらの初恋相手が彼だということもどうやら既に知られている。
 どうせ彼女らの目的は彼だしと、半ば他人事のように同席していたはずが、初恋相手同士のロマンスを期待するかのような会話に引きずり込まれて戸惑った。
 王子がバイト先では見せないような、友人との気安いやりとりや、うっかり漏らすプライベート情報が目当てなんじゃなかったのか。とも思ったが、周りの反応を見るに、どうやらそういうネタで楽しく遊んでいるだけっぽい。
 まぁ、王子の今までの女性関係を突くより、既に男だと判明している初恋相手ネタのが弄りやすいんだろうことはわかる。なんせ、下半身がだらしないと言われたのがショックだから夏のバイト中は女の子と遊ぶ気はないと、女性の誘いを断る口実にも使われているくらい、過去の女性関係になにやらありそうな匂わせがされているのだ。
 ただし、なんとなく理解はできるものの、そのネタに便乗して彼女らを喜ばせてやるかは別問題だ。双方ともにドレスを着ていたせいで互いに初恋相手と認定したが、どちらもしっかり男として成長しているのに、初恋相手同士のロマンスなど発生してたまるか。
 もう一度ドレスで着飾ったら、やっぱりこの子がいい。なんてことが起こるはずがない。
「てかそれもう、女装させて笑いものにしたい的なの、透けて見えてるんですけど」
「まぁ、あんたは昔があれだし、今も似合わない可能性が高いけど。でも王子の目にはちゃんと初恋の彼女が成長した姿に映るかも知れないでしょ?」
 姉の目から見ても、あの写真はないらしい。主にカメラの前での決めポーズがよろしくないとのことで、その意見には賛成だ。
「あと、変なポーズ取らないで黙って座ってたら、ワンチャン可愛いもあるかも知れないわよ。王子だって、惚れた子の写真写りが残念だっただけで、変なポーズ決めてるあんたに惚れたわけじゃないんだろうし」
「ねぇわ」
 その意見には賛同できないと、即座に否定を返す。というか飛び蹴りかました少女に惚れたんだから、変なポーズ決めてる子に惚れたようなものだと思うんだけど。あと、あの写真を見て躊躇いなく、勇ましいポーズ取ってるのが可愛いって言ってたぞ。
 なんて指摘はもちろんしない。
「でもほら、王子は普通に似合いそうだし、うっかり惚れ直すかもしれないじゃない?」
 姉の友人の一人に言われて、思わずマジマジと対面に座っている彼を見てしまったが、ニコリとわざとらしく微笑まれたので、こちらもわざとらしく眉を寄せて見せた。
「ないっすね」
「わー、もう、ほんと、連れないなぁ」
 言って大げさに嘆いて見せる辺り、もう全てが胡散臭いとしか言いようがない。というかもう、こんなのは彼女らを楽しませるパフォーマンスでしかないので、下手に同意してその方向で盛り上がられる方が後々絶対に面倒くさいのだ。
 今でも似合いそうなどと言ったら、本当に彼のためのドレスを用意しかねない。
 そんなこんなで、あれこれおもちゃにされつつ数時間。開放された時には相当ぐったり疲れていたが、憧れの王子とバイトのついでや隙間時間じゃなくたっぷり話せて満足したらしい姉たちから、この後のデート用と言って結構な額のお小遣いを渡されたので、この数時間はバイトだったと思うことにした。

続きました→

 
 
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可愛いが好きで何が悪い6

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 送られてきた写真には姉の他にもう一人女性が写っていたし、当然姉の友人も居るだろうとは思っていたが、その人数は思っていたより多かった。姉を含めて5人もの女性の中に、男は自分だけという状況に逃げ帰ろうかと思ったが、もちろんそんなことが許されるはずもない。
 ただすぐに、彼女らの目的は当然自分ではなく、すっかり王子扱いの彼でしかないことを思い知る。
 バイト先だという海の家に顔を出した瞬間から、周りのテンションが一気に上ったからだ。友人である自分への、客に対するものより数段気安い態度がお気に召したらしい。
 どうやら、自分が訪れることで、普段は聞けない話なども聞けるかも的な下心で集まったようだ。ますます馬鹿らしくはなったが、施設利用料や飲食代などは全部彼女らが負担してくれると言うので諦めて一日付き合った。
 なお、本当の狙いは休憩時間などでもっとプライベートな会話を聞けないかと思っていたようだが、その日はすこぶる天気が良かったせいで彼女らの目論見は半分以上外れたと思う。つまり、めちゃくちゃ賑わっていたのもあって、彼はろくな休憩時間が貰えなかった。
 せっかく久々に会ったんだろうから、仕事が終わるまで待って食事でも一緒にと誘えという訴えもあったが、さすがにそこまで付き合う気はない。彼の方も察していたのか、相手からもそんな誘いはなかった。
 帰り際、リベンジを目論む姉とその友人たちとには、二度と付き合わないと宣言しておく。
 5人ものお姉様がたに囲まれてハーレム気分が味わえたでしょう、などとも言われたが、自分なんてほぼほぼ眼中になかったのもわかっている。あそこまであからさまな王子狙いを見せておいて何を言うと鼻で笑って、切り捨てた。
 でもまぁ油断はできないと思ったとおりに、こちらに戻る前から約束していて彼が事前に休みを申請していたその日、当たり前みたいな顔をして姉が付いてこようとする。彼がその日に休みを貰っているという情報は姉も既に握っていたようで、一緒に遊びに行くんでしょと言い当てられてしまった。
「そうだけど、だからってついて来ようとすんのおかしいだろ!」
「ちょっとくらいいいじゃない。お金ならだすよ?」
 あんたの分も王子の分もとまで言い出すので、無茶を言っている自覚は多分あるんだろうとは思う。
「そういう問題じゃ。ってか、またあの4人も合流する気じゃないだろうな」
「するする。てか少しでいいから私達とお茶する時間作ってよ〜」
「ヤダって言ったろ。狙うなとは言わないけど、そういうのは俺抜きでやれってば」
「それはそれとして、やっぱバイト以外での顔も見ておきたいファン心理的なの、あるでしょ?」
「いや知らねぇって。てか待ち合わせに遅れるからもう行く。マジついてくんなよ」
 言い捨てて家を飛び出したが、こちらの言う事など聞きやしないでついてくる。最寄りの駅前というわかりやすい待ち合わせ場所にしてしまったのもあって、結局、相手の前に姉同伴で姿を見せる羽目になってしまった。
 こちらの姿を見て少し驚いたような顔を見せたのは一瞬で、すぐに状況は理解したんだろう。
「ちょっと予想はしてたけど、本当にお姉さんと一緒にくるとは思ってなかった」
 不満があるような顔ではないが、でも姉の前だから気を遣っている可能性もある。
「ごめん」
「まぁ来ちゃったものを追い返すのは可愛そうだし、いいけど」
「受け入れんなよ。お前が邪魔って言ったら帰るかもだぞ」
「それはほら、俺のキャラじゃないっていうか、ね」
「さすが王子!」
 にこっと姉に笑いかけるもんだから、姉がすっかり舞い上がって勝ち誇る。
「このあとどうする? お姉さん一緒で、コースは予定通り?」
「あー、」
「ねぇ、私だけなら、一日一緒に居ても良かったりする?」
 友人らが合流するらしいと言いかけたところで、姉が先に割り込んでくる。
「は? 合流するんじゃないのかよ。私らとお茶する時間作れって言ってたのは?」
「そうだけど、まだどこでとか決めてないし。2人に一緒していいなら、あとでレポート書いて提出すれば多分許される、はず」
「レポート……」
 彼とのプライベートな会話をレポート形式で纏めて友人らに配布する気だろうか。
「まさかと思うけど、レコーダーとか忍ばせてないよな? え、マジ?」
 姉の持つカバンを指さしたら焦った様子を見せたので、本気で引いた。
「てかキモい。だせ。預かる」
 姉のカバンに手を伸ばす自分と、取られまいと逃げる姉とを止めたのは、もちろんその場に居たもう一人だ。しかもなんだか楽しげに。
「笑うなよ」
「いやだって、羨ましくて」
「え、羨ましい? どこが?」
「一緒に海来たのもちょっと驚いたけど、仲いいよなぁって思って」
「あー、まぁ、俺の趣味否定しないどころかむしろ協力的だし。というか俺の趣味に影響与えた一人だしなぁ」
「ああ、そういえば聞いたかも。てかお前はお姉さんみたいに可愛い服着たいとかないの?」
 姉は今日もふわっとした感じの可愛い寄りなワンピースを着ている。夏の海通いですっかり日焼けしたことを気にしてか、せっかく「可愛い」服と言ってもらったのに、なんだか少し恥ずかしそうだ。
「俺が着てどうすんだよ。てか園児でもあの似合わなさだったんだぞ。キモいわ」
「似合うかと着たいかは別じゃない? あと、メイクとか立ち居振る舞いでだいぶ変わるものじゃない?」
「んー、姉貴と違って、俺は別に自分が可愛くなりたいわけじゃないしなぁ。ひらひらドレスとそれが似合うプリンセスが好きってだけで」
「なんだ、そうなのか」
「なんでそこでお前がちょっとがっかりするわけ?」
「そんなの、今のあんたに女装してみて欲しいからでしょ」
 プライベートな会話を盗み聞いてほくそ笑んでるのかと思いきや、姉が口を挟んでくる。しかもその内容が酷い。
「なんでだよ!」
「初恋相手の少女があんただったって聞いてるけど」
「聞いてんのかよ! てかこいつの目、絶対おかしいから!」
「ええ、ホント酷いな」
「てかなんか注目集まってきて辛いんだけど。もうやだ。早く移動したい」
 ただでさえ目立つ男とさえない男が、気合の入った可愛い服を着た女性一人を挟んで何やら言い合っている状況だということに気づいて、いたたまれなくなる。
「取り敢えず電車には乗ろうか。お姉さんの友達呼んでお茶するか、そのまま3人で観光するかは電車の中で決めよう」
 彼と違ってこちらは人の視線に晒されることになど慣れていないと気づいてくれたらしい。本気ですぐにでもこの場を離れたかったので、その提案には即座に頷いた。

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可愛いが好きで何が悪い5

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 親から帰省を促す連絡が来るより先に、姉から大量のメッセージと1枚の画像が届いた。画像は彼のバイト先と思われる海の家を背景に、水着姿の彼の両脇に、同じく水着姿の姉とその友人らしき女性が腕を絡めるようにくっついていて、3人とも笑顔にピースで随分と楽しげだ。
 メッセージの内容はこんな王子と友達になったなんて知らなかったというもので、イケメンだの美形だのの単語を使わず、躊躇いなく王子と書き込んでいる辺りなんとも姉らしい。とは思うものの、全体的に随分とテンションが高い上にあれこれと非難めいてもいて、思わずため息がこぼれた。
 いわく、あんたが余計なことを言ってなければ私にもワンチャンあったかも、だそうで、状況はこちらが危惧していたのとは真逆の様相を呈している。そもそも、姉が友人らと遊びに行った先で見つけた王子だったそうで、どうやら出会いそのものは偶然だったようだ。
 ただ、声を掛けたのは彼の方からで、しかも、初っ端からこちらの名前を出して、もしかしてお姉さんじゃないかと聞いたというのだから、あいつの目はやはり何か特殊だと思う。男の自分は当然のことながら、姉だって、あの写真に並んでいた少女とはすぐに結びつかない程度の成長はしているはずだ。
 昔から知っている親戚やら近所のおばちゃんやらには、たしかに何度か似た姉弟と言われたことがあるけれど、今の自分を基準に姉と判断したとも思いにくい。今でも隣に並んで姉弟なんですと言えば血の繋がりくらいは感じられるかも知れないが、似てるなんて言われていたのは中学に入って背が伸びだす前くらいまでだったはずだ。
 一通り姉のメッセージを読んだあと、姉ではなく、彼に当てて短なメッセージを送る。
『下半身だらしないなんて言って悪かった』
 姉からの情報によると、友人にそう言われて反省したから、夏バイト中の誘惑には乗らないことにしているらしい。マジかよと思う気持ちと、本当に気にしているなら勢いで酷いことを言ってしまったという気持ちとが胸の中で混ざり合って、取り敢えず謝罪はしておこうという結論に達したからだ。
 彼にメッセージを送ったあと、姉にはあまり友人困らせるようなことはしないでくれと言うのと、昔話などでこっちの情報を相手に与えないでくれという2点を返したけれど、書きながらこれは多分意味がないお願いだと思ったとおりに、すぐさま、もう色々話しちゃったと悪びれもないメッセージが戻ってきた。ですよね。
 彼からは夜になって、女の子のお誘い断るのにいい口実になってるというメッセージと、にこにこ笑って親指を立てている猫っぽい動物のスタンプが送られてきた。やっぱりね。
 そのあと、お姉さんから色々お前の話聞けて凄く楽しかったと、やっぱりにこにこ笑ってバンザイする、同じ猫っぽい動物のスタンプが続いていたから、親指を下に向けた凶暴そうな顔つきの、なんだかよくわからないキャラのスタンプだけ返しておいた。

 そんな事前のやり取りがあったせいで、正直、あまり実家に戻りたくはなかった。けれど親どころか姉や彼からも帰省を促すメッセージが届いて、仕方なく、8月の半ばに実家へ向かった。
 姉はどうやら彼のバイトする海の家にそこそこの頻度で遊びに行っているらしく、送られてきた画像に比べて随分と肌が焼けている。健康的でいいじゃんと思ったが、本人的には結構気にしているらしい。まぁ、姉は今でもひらひらふわふわした可愛い服が好きなので、日焼けを気にするのもわからなくはないのだけど。
 でも、王子の誘惑には敵わなくてと続いた言葉にげんなりする。文字だけではなく音としても「王子」の単語を聞くとは思わなかった。
「なぁ、まさか本人相手にも王子とか呼んでんの?」
「呼んでる呼んでる。なんかね、最初は思わずって感じで言っちゃっただけなんだけど、向こうも面白がってというか気に入ってて? 最近は結構みんなから王子って呼ばれてるよ」
「嘘だろ」
「ホントほんと。てかあんたも海の家には遊びに行くんでしょ? だったらそう呼ばれてるとこ見れるんじゃない?」
「うわ〜行きたくない」
 友達がいがないだのと姉に批判されたけれど、王子と呼ばれてキラキラ笑顔を振りまいている彼を見たいとは、やはり欠片も思えない。
 しかし、翌日にはウキウキで誘ってくる姉に半ば引きずられるようにして、彼のバイト先へ向かうことになってしまった。

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可愛いが好きで何が悪い4

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 互いに互いが初恋相手だろうと、そもそも性別の認識が違っていたわけだし、そこから何かが進展するはずもない。写真を交換して、ちょっと昔を懐かしんで、それで終わりなはずだった。
 しかし、付属高校からの持ち上がり組だという彼の人脈に白旗を揚げて、夏休みを目前にしてすっかり友人のポジションに収まっている。テストの過去問は正直言って魅力的すぎたし、彼の周りは何かと有益な情報が多いからだ。
 利用していいよと言われて断れるほど、自分の頭脳に自信が持てなかった。
 ただし、間違いなく友人と呼べる親しさで付き合いが続いているが、学科内に自分たちの仲の良さを知る人間は多分いない。なぜなら、趣味を隠したいからあまり目立ちたくない。仲の良い友人と認識されるのは迷惑だ。という割と失礼な訴えを、相手があっさり受け入れたからだ。
 まぁ、代わりに結構な頻度で自宅アパートを提供する羽目になっているのだけど。
 自宅から通学している彼は片道2時間弱かけて大学に通っているそうで、つまりは翌日1限から授業がある日は友人宅に泊まれたら楽だよねってことらしい。
 ずうずうしいにもほどがある。とは思うものの、それを喜んで受け入れる人間がいることも知っている。というか寄生先はどうやら複数あるらしく、ここもその中の一つに仲間入りというわけだ。
 他にも寄生先があるからか、頻繁とは言っても連日入り浸りというわけではないのと、一応気を使ってか色々と差し入れを買ってくるのと、こちらの趣味を一切否定しないどころかむしろ興味を持って聞いてくれる節があって、今日いいかと聞かれたらついつい受け入れてしまう。初めて彼が訪れたときには仕舞っていたアレコレも、今はもう、当たり前に飾られていた。
 なお、平然と同じ布団に潜ってこようとするので、何度も泊まる気でいるなら布団は自分で用意しろと怒ったら、翌々日には布団一式が届いてしまった。そこまでしてうちに泊まりたいのかという呆れもあったが、自分用の布団を置かせてくれるなんてありがたすぎると喜ばれてしまって、その件にはあまり触れられなかった。
 家が遠いからと言う理由以外に、家に帰りたくない理由でもあって、あちこち寄生先を作っているのかも知れない。その寄生先の大半が女性なのも多分間違ってはいなくて、彼が代価に何を支払っているかも、わざわざ聞きはしないがなんとなく察してもいた。
 変な揉め事に発展しなきゃいいけどと心配はしても、それをモテて羨ましいという気には到底なれない。察しているからと言って、それを確かめるようなことも言わない。
 結局、夏休みの間はどうするんだ、とも聞けないまま最後のテストが終わってしまった。明日から夏休みだ。
 今からいいかと連絡が来たのは、夜も8時を過ぎていて、何をしていたのかと思ったら学科の友人たちとテスト終了の打ち上げでカラオケに行っていたらしい。その流れでなんでうちなんだと思いながら、別にいいけどと返せば、およそ30分後にチャイムが鳴った。
「アイス買ってきたから一緒に食べよ〜」
 テスト終わったお祝いと笑って差し出された袋の中には、ちょっとお高い有名アイスと、明日の朝食用かなと思われるサンドイッチがいくつか入っている。量的に、サンドイッチも多分2人分だ。
「いいけど先にシャワー浴びろよ」
「ごめん、臭い?」
「それもあるけど、汗かいてるだろ」
 カラオケ独特の臭いに混じって、汗と、あと香水か何かの臭いがしていた。
「そうだね、じゃちょっと行ってくるから待ってて」
 素直にバスルームへ直行した相手が戻ってくるのをこちらも素直に待ち、一緒にアイスを齧る。
「そういや夏休みってどうする予定?」
 こちらからは聞けなかった話題が、相手の口からするりと飛び出してきて少しばかり身構えてしまう。こちらの予定にはやましいことなど何もないのに。
「どう、って、基本バイトと夢の国通いしかしないけど」
「実家帰んないの?」
「あー……お盆前後に帰ってこいとは言われるかも」
「帰ってこいって言われたら帰る?」
「まぁ、多分」
「じゃあ、帰る時に連絡してよ」
「ああ、うち泊まるつもりが家主不在じゃ困るもんな」
「え、違う違う。俺、今年の夏はリゾートバイトでお前の実家近辺にいる予定だから」
「は?」
 実家がどの辺りかは以前何かで話したことがあるが、まさかそんな返答がくるとは思っていなくて驚いた。
「ここなんだけどさ」
 そういって差し出された住所は確かに実家からそう遠くはない。
「って海の家?」
「そうそう。住み込みOKだし、交通費出るし、お前の実家近いし、ここだなって思って決めた」
「俺の家が近いの、なんか利点あるわけ?」
「え、夏休み、俺と一緒に遊べる時間欲しくない?」
 その自信はどこからくるんだとツッコミを入れる気も起きない。こういう奴だというのはこのさして長くもない付き合いで既にわかっている。
「欲しくないけど」
「連れないなぁ。てかまぁ、下心は別にあるんだけどさ」
「下心?」
「お姉さん、見てみたいなぁって」
「却下」
「なんで!?」
「なんでって、そもそも会って姉貴をどうする気だよ」
「どうするって、仲良くなる?」
 仲良くなってどうするんだってのを聞いているんだけど。
「お前、あの写真見て、姉貴と初恋相手間違えないくらいには違うって言ってたろ」
「あー、それ、覚えてたか。でもほら、やっぱ一応確認しておきたい的な」
「何を確認するんだよ。てか確認した結果、姉貴に惚れたとか絶対なしだからな」
「なんで? 姉貴じゃなくて俺を見てよ、みたいな?」
「なんでそうなる。実の姉が、下半身がだらしない男の魔の手に掛かるのなんて、黙って見てられるわけ無いだろ」
「あー、ね。でもほら、選ぶのはお姉さんなわけだし?」
「とにかく絶対会わせないから」
 絶対に譲らないと強い意志を持って言えば、わかったと言って引いてくれたけど。でも一緒に遊びには行こうよねと笑う相手を、どうしても疑いの目で見てしまう。

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