まるで呪いのような14

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 ベッドの上に座る彼の開かれた足の間に収まって、後ろからそっと抱きしめられている。服は脱いで居ないけれど、ズボンのフロントは全開で、取り出したペニスを自分で握って扱いていた。
 耳元で繰り返される好きだの言葉も、呼ばれる自分の名前も、とても柔らかで甘い。
 どんなことを想像しながら抜いているのか告げた最初はやっぱり酷く驚かれた上に、彼自身のエロ妄想とのあまりの差にか、だいぶ気まずそうな顔もされたけれど、それでも相手はすぐにわかったと頷いた。あっさりと、抱きしめて、好きだって言って、体中にキスを落としてくれると言った。
 それを、抱きしめて好きって言ってくれるだけがいいと頼んだのはこちらだ。彼の前に裸体を晒して、隅々まで唇を落とされるなんてことが現実になったら、ちょっと耐えられる自信がなかった。絶対に恥ずかしいばっかりで、気持ち良くなれると思えなかった。
 ただ、抱きしめられて好きって言われるだけでも、結果的には恥ずかしいばかりで、とても妄想と同じように気持ち良く射精することなんて出来ない。というか、実際に触れられて初めて、彼の手でイカされるという妄想をまるでしていなかった事に気づいた。
 普段頭の中で繰り広げている通りのことをしてくれる気だった相手は、だから本当に抱きしめて好きだと繰り返すだけのことしかしてくれない。というのは嘘で、彼は最初、当たり前みたいに、抱きしめて好きだって言いながら握って扱いて抜いてくれる気でいた。だから、性器を彼に握られるなんて妄想をしたことがないと知った時には、やっぱり相当驚いていた。
 つまりバカ正直に告げてしまったせいで、彼の腕に抱かれながら、自分で自身を慰める羽目になっている。しかも時折背後から覗きこまれてる気配がするし、耳元で響く声はびっくりするほど甘ったるいし、やたら恥ずかしくてちっとも集中できない。萎えないくせに、イケもしない。
「ね、も、やめたい」
「なんで?」
「だってムリ。イケそうにない」
「でも勃ってんじゃん」
「そうは言っても、ぁ、ひゃぅっ! ちょっ、何?」
 首筋に何かが触れて、一気にゾワッとしたものが体を駆け巡った。
「んー……」
「ちょ、えっ、やっ、やんっ、なに、なにして」
 何をされているかはさすがにすぐにわかったけれど、背後から抱きしめる腕にけっこうな力が込められていて、簡単に抜け出せないまま上ずったみたいな声を漏らす。というか数年前に抜かれて以降相手の方が背が高いとは言え、身長にはそこまで差がないのに、こんな簡単に腕の中に閉じ込められると思ってなかったから、内心は大いに慌てていた。
「ぁ、あっ、ぁうっ、ひっ、んんっ」
 さすがに居た堪れなくなって、必死で口を閉じながら力いっぱい前傾すれば、ようやく首筋を舐めたり柔く噛んだりしていた相手の気配が遠ざかる。
「やっぱお前脱げよ」
「は? なんで。やだよ」
「取り敢えず上だけでいいから。首と背中にキス落とすの追加してみよ。あ、耳とかもキスされたい?」
「やだってば。てか俺はもーやめよって言ってんだけど」
「でもイケないのは刺激足りてないからだろ?」
「違うっ!」
 恥ずかしくて集中できないのが理由だと言えば、相手は不満そうな声を上げた。
「えーっ」
 しかもその後、また首筋に唇が触れる感触がする。
「おまっ、もっ、やだって言って、ぁ、あ? ちょ、えっ? いっ、痛っ、イタイイタイイタイ」
 痛いと喚けば歯を立てるのは止めてもらえたが、ジンジンとした痛みは残っていたし、肌に残った歯型を確かめてでもいるように、舌が何度も行き来した。
「悪い、少し跡付いた」
 多少は本気で申し訳ないと思っていそうな声だけれど、それでもそこまで悪い事をしたなんて思ってなさそうだ。
「は? 少し?」
「少しだよ。痣になるほど強く噛んでない。でも、ゴメンね?」
「かなり痛かったんだけど。つうかそれは許せって意味のゴメンなの? こんな酷いことしたけど捨てないでって縋りたい意味のゴメンなの?」
「どっちも。それと、ちょっとこの後もっと酷いことするかもだけど許して、って意味もある、かも?」
「ん? 何するって?」
「さすがにここで止めるの無理だから、もし泣かせちゃったら本当にゴメン」
 大好きだよと囁く声はとても甘い。そうして欲しいと言ったからくれてるだけの言葉だとしても、こちらを喜ばせたい彼の本気が篭っているのは伝わってくるから、嬉しくてたまらない気持ちになる。なのに、まだ微かに痛みの残る場所へ再度唇を落とされれば、先程の痛みを思い出してしまう。嬉しさよりも恐怖が勝って、身が竦んで震えてしまう。

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まるで呪いのような13

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 そんなことを言われれば、頭の中で普段なにをされているかを思い出してしまって、じわっと顔が熱くなる。彼はそれを、頭の中の彼によほどエロいことをさせている、と思ったらしい。
「やっぱ相当凄いことさせてんだ?」
「ち、ちがっ」
 慌てて否定するものの、当然、信じてなんかくれないだろう。でも本当だ。嘘じゃない。妄想だからって、別にそんな凄いことはさせてなかった。逆に酷く幼いというか、抱きしめられて何度も繰り返し好きだと言ってもらったり、体のあちこちにキスを落とされる程度の妄想で十分抜ける。抱かれたいなと思う気持ちは、結局は彼に求められたい気持ちと同じもので、そこまでリアルに彼に抱かれる妄想をしていたわけじゃない。
「別に、顔真っ赤にするほど恥ずかしいようなことでも、言っていいけど。というか言ってくれればどんなことでも、引いたりしないでしてやるから言えって。高度なテクが必要な場合は、お前が満足できるレベルになるまでちょっと待たせるかも知れねぇけど」
「いやだから、ホント、高度なテクとかじゃなくてっ」
 っていうかそもそも彼の言う高度なテクってのが、どんなものを指して言ってるのかすらわからないんだけど。むしろお前こそいったいどんな凄い想像してんだと言ってやりたいけれど、こちらが欠片も想像していないようなエロい話が飛び出してくるかもと思ったら、なんだか怖くて聞けなかった。
「だいたい、お前だって脳内で俺をどう弄り回してるか教えてくれないのに、俺だけオナネタ披露させようってオカシイだろ」
「なら俺が言ったら言うわけ?」
「えっ? 言えって言ったら口で説明すんの?」
「そりゃ言うだけなら出来るよ。ただお前、嫌な気分にさせるかもだけど」
 ただの妄想だし、現実にはそんな状況にはならないってわかっているし、オナネタと割り切ってる分も大きいから、結構本気でむちゃくちゃ好き勝手してるし、お前は俺に都合よく喘いだり笑ったり恥ずかしがったり泣いたりしてんだけどと続けてから、それでも聞きたければ教えてもいいと言う。
 さっき言ってた、喘ぐ顔を想像して抜いてるだとか、現実にはそこまで感じさせるテクがないからだとかの言葉は、彼なりに気を遣ってくれた結果だったのかもしれない。だって喘がせる以外のこともしてるって、今、言った。喘がせる笑わせる恥ずかしがらせるまではまだ理解が出来るけれど、泣かされているんだというのをどう受け止めれば良いのかわからない。
 でも多分、それを気にしている時点で、彼の妄想を聞く資格がない。彼は妄想を妄想として、ただのオナネタとして、割り切っているのだから。
 そういや、恋人がいるのに恋人以外で抜くのは悪いって理由で、自分を使ってるって言ってたっけ。
 とてもじゃないが聞きたいなんて言えずに黙り込む自分に、彼は聞かないのが正解だろと言って自嘲気味に笑うから、少しだけ胸が痛くなる。
 そういう顔をさせたいわけじゃないのに。甘やかしたいんだって言ってくれる気持ちは確かに嬉しくて、幸せに笑ってて欲しいって気持ちはきっと一緒で、だから彼が今日、何をしに訪れたか知った後も、抵抗なんてせずに自分のベッドの中へ彼を迎え入れたのに。
「ただまぁ、俺だって相当エロいことあれこれ妄想してっから、そう心配すんなってことだよ。お前がどんな妄想してたって、絶対俺よりまともっつーか、きっと俺からすりゃ可愛らしいこと考えてたりすんじゃねぇの?」
「それは、そうだね」
 肯定しながら苦笑する。だってエロいことなんてほとんど妄想してない。彼には思いもよらないほど可愛らしすぎる妄想だろうから、教えたらきっと相当驚かせてしまうんだろう。

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まるで呪いのような12

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 春休み初日、まるで母がパートに出かけるのを待っていたとでもいうタイミングで訪れた恋人に、ベッドの中で甘やかされている。正確には、甘やかされそうになっている。
「ホントにすんの?」
 別にこんなの必要ないんだけどという気持ちは強いが、すると返す相手に引く気はなさそうだった。
「俺がしたい」
 それなら惨めには思わないんだろと言いたげで、事実この後、彼に触れられて惨めに思うことはないだろう。たとえ彼がしたいのはこちらを甘やかすことであって、依然触れたいと思われているわけじゃないにしても。
「で、どんな風にされたい?」
 ただ、真面目な顔でどう触られたいかなんて聞かれるのは、正直微妙すぎるというか恥ずかしいというか、つまり答えたくない。
「お前が触りたいように触って。ってこの前も言ったけど」
 実はあの日、彼の疑問や不安を潰した後にもちょっとそんな雰囲気になって、これはその時にも言った。あの日は結局夕飯の時間になってしまって、実際に触れられる前に中断したし、その後も今こうして押しかけられるまで、あれはあの日の雰囲気に流されてそんな気になっただけのものって思っていたのだけど。
「お前が触られたい通りに、触ってやりたいって、俺も言ったはずだけど」
「お前が触りたい通りに触られたいってんじゃ、なんでダメなの?」
 積極的に触れたいと思ってるわけじゃなくても、脳内でこちらの体を好き勝手してヌイてるって言ってたのはもちろん忘れてなんかいないし、彼の脳内でどんな風に扱われているのか知りたいとも思う。それと、こちらがどう触れられたら嬉しいのかを、こちらがあれこれ指示するのではなく、彼自身の手で探って欲しいとも思う。ただこれはやっぱり、望みすぎかなという気もしている。
「お前、俺でヌイてんだろ? だったらそれ、俺本人で再現してみてよ」
「お前がキモチィって喘ぐ顔想像して抜いてんだから、お前がされたいように触って気持ちよくなって貰うのがいい。脳内じゃ好き勝手してても、現実の自分にお前をそこまで感じさせるテクなんかないのわかりきってるもん。再現なんて出来るわけ無いだろ」
 だから妄想通りに触るのは無理だよって話らしい。こちらが好きにしていいって言ってさえ、あれこれ弄り回して、キモチィって喘がせてやろうみたいには思わないらしい。というかやっぱそこまでするのは面倒ってことなのかも知れない。
 そう考えてしまうと、どこか寂しいような気分は拭いようがない。
 彼はこちらがして欲しい事を着実にこなしたいようだ、というのはもう十分にわかってることなはずなのに、それでもなかなか慣れないなと思う。もしくは、こちらのして欲しい事が、彼に上手く伝わっていない。
 彼がこちらを満足させたいと思ってくれているのだけはこんなにも伝わっているのに、現状ではなかなか満たされそうになくて、でもこうしてくれたら満足しそうという訴えは彼に全く通じない。恋愛感情じゃなくたっていい。彼のドロドロな執着心のままでいいから、もう少し、彼に求められていると感じたいだけなんだけど。
 こちらが笑えるようになんでもしてやりたいって思ってるなら、テクなんて要らないから取り敢えず好き勝手してみて欲しいなと思うんだけど、彼がその要求を納得して実行してくれる気になる方法も言葉も全くわからなかった。
「お前こそ、俺で抜いてるなら、頭のなかで俺に何されて気持ちよくなってんのか言えよ。それともお前の脳内の俺も、凄いテクニシャンだったりすんの? どうせ無理とか思ってんの?」
 もやもやと考えにふけっていたせいか、黙ってしまったこちらに焦れたようで、彼の声は少し機嫌が悪そうだ。

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まるで呪いのような11

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 泣きそうとまでは言わないがそれでもやはりどこか不安げな顔に、大丈夫だという気持ちを込めて、ゆるく笑いかける。
 彼の執着と、こちらの恋情との差は、自分が思っていたよりも遥かに大きかった。同じ想いが返らないという意味でなら、間違いなく、彼のほうが辛い思いをしているだろう。自分には、化け物じみた執着も、明確な覚悟も、ない。それでも。
 放さない逃さないと言い切る彼の執着に、捕らわれたまま生きていくのも悪くはない。だって元々、ずっと彼と共に過ごす未来を見据えて高校を選んだし、大学も就職先もそれを前提に選ぶ予定だった。このまま恋人という関係ごと続けるのだろうから、自分が思い描いていた甘やかな恋人関係からはだいぶ外れてしまったというだけで、結果として、同性の恋人を生涯の伴侶として生きていくことにだって変わりなんてない。
「お前とずっと一緒にいたいと思ってたのが、俺の独りよがりじゃないなら、良かった」
 気持ちを噛みしめるように、ゆっくりと言葉を吐いた。間違いなく彼が欠片も想像していない、先程までの会話とは一見まるで続いていない、ほぼ脈絡のない言葉のはずだ。だから彼がその言葉の意味を飲み込めるまで、口を閉じてジッと待つ。
「…………えっ?」
 やがて漏れ出た困惑の声に、堪えきれずにふふっと笑った。
「お前自身がキモくて怖いと恐れるほどの、ドロドロに拗れた執着が怖くないなんて言えないし、それを受け入れてやれる自信があるかっていうとないし、覚悟だって出来てるかって言われたらちょっとよくわかんない。でもお前の執着が、学年の違う親友を側に置いておきたいってだけのものじゃなくて、俺の一生を縛って狂わせたままにしたいって思うようなものなら、多分、お互い様だと思うんだよね」
 程度の差はかなりありそうだけど、とまではさすがに言わないでおいた。
「いやちょっと、……えぇぇ、お互い様とか、えっ、ちょっと、意味、わかんねぇんだけど」
 戸惑いすぎて混乱しきった様子がなんだかおかしくて、ケラケラと笑いだしてしまいたい気持ちを抑えるように、何度かそっと深呼吸を繰り返す。自分の中で答えが出たからと言って終わりにせず、ちゃんと、彼にもこちらの結論を説明してやらなければ。
「俺の場合はさ、執着じゃなくて恋愛感情だし、お前も同じ気持ちなはずって思い込んでたから、お前とは違う意味で辛い思いをしてた。お前が必要としてるのは親友としての俺で、執着は子供の癇癪や我侭みたいなものなんだから、同じように想っては貰えないんだって諦めかけてたんだけど、俺は、お前とずっと一緒に生きていくつもりで今の高校選んでるからさ。同じように想っては貰えなくても、お前が俺をずっと捕まえっぱなしにする気だってなら、もうそれでいいんじゃないかなって、気にはなった」
 あんだけ逃さないって言い切ったんだからお前こそ俺を放さないでよねと、少々おどけて続ければ、ムッとした様子で語気は荒かったものの、絶対放さねぇから覚悟しろよと、まるで挑むみたいな力強さで返されホッとする。うん、と頷く自分の頬が緩んでいるのは自覚できたし、あっさりとしかも嬉しげに肯定された相手が面食らっているのもわかってしまって、やっぱり笑ってしまいそうだった。というか笑った。
「何笑ってんだよ」
「んー、なんか、ちょっとホッとした。のかなぁ……」
「お前のそういうトコ、ちょっと尊敬するわ」
 言葉上は尊敬なんて言いつつも、呆れ返った声をしている。絶対尊敬なんてしてない。
「そういうトコ、って?」
「ホッとする要素なんて俺はなかったっつってんの」
「なんでよ。恋人やめないでが実現してるどころか、お互いの希望通り一生一緒にいようねってことになったんだから、もっとお前も安堵したら?」
「すげー解釈だな。ホント、尊敬する」
「お前ね。何が不満なの」
 聞けばぶっきらぼうに色々と返ってくるから、こちらも少しばかり意地になって、ここまで来たんだからきっちり全部スッキリさせようと促してみた。お前のドロドロな執着以上に、聞いて怯むようなことなさそうだしと言えば、相手もそこには同意したようだ。
「じゃあ言うけど、お前が俺と一生一緒に生きてくつもりだったとか初耳だし、結局別の高校選んだせいで別れ話だされたって理由もわかんねぇままだし、お前の好きに同じ気持ちで好きって返せないままなの変わらねぇし、お前がまた惨めだとか泣き出した時どうすりゃいいのかっつうか、恋人として何したらお前が満足するのかわかんねぇままだし、お前が満足そうに笑ってんのが嘘だとは思わねぇけど、でも疑う気持ちゼロじゃないしまたすぐ辛くなって俺から離れてこうとするんじゃって不安な気持ち、あるから」
「あー……なるほどね」
 相手の気持も確かめないまま、彼と恋人として一生一緒に暮らせるようになんて考えていたことを恥じていたから、彼の気持ちが恋じゃないと知っていて口になんて出せるわけがなかったし。彼が別の高校を選んだ今なら、彼への恋を終わらせられると思ったからだし、そうするべきなんだと思ってたし。こちらの好きに同じ想いが返らないことは、やっぱり寂しかったり惨めに思ったりするかもしれないけれど、でも彼が抱える化け物じみた執着に同じだけの執着は返せないし、そこはもうお互い仕方がないのだと諦めに似た気持ちが湧いているし。今のところ、ドロドロの執着でこちらの一生を縛り付けるというその強い意志を突きつけられたことで、なんとなく満足してしまったような気がするから、彼に何かして欲しいなんて気持ちは特に無いし。今後辛くなって離れたくなる可能性が一切ないとはいわないけど、でもだって何がなんでも逃さないし放さないって言われているのに、それを振り切って逃げ出そうとするには相当大きなエネルギーが必要になることもわかっているし。
「うん、じゃあ、一つずつその疑問と不安を潰していこうか」
 まずは一生一緒に生きてくつもりの人生設計してるなんてとても言えなかった理由からだなと思いながらも、目の前で何とも言えない妙な顔をしている相手を見つめてしまう。
「えっと、どーした?」
「つくづく、お前って凄いやつだと思って」
「え、どこが?」
「まるで敵う気がしないっつーか、お前、ちょっと俺に甘すぎじゃねぇの」
「俺、好きな子甘やかしたいタイプだから。つまりお前が俺をそうさせてんだっつーの。それにそんなの今更だろ。てかお前、」
 顔赤くすんなよこっちが照れるわ、と続けるはずだった口は、グッと顔を寄せてきた彼によって塞がれてしまった。
「俺だって俺の執着でお前泣かせたいなんて欠片も思ってねぇし、おかしな執着押し付ける分、お前が幸せに笑えるようになんでもしてやりていって思ってんだから、頼んで触ってもらうのは惨めだなんて言ってねぇでもっと甘えてこいよっつーの。俺だってお前を甘やかしたい」
「えー……ええー……」
 真剣に見つめられながらそんなことを言われても戸惑うしかない。顔が熱くなってくる。
「顔真っ赤」
 頬を薄っすらと赤く染めたままの相手にそんな指摘をされて、お前が言うなとさすがに怒鳴ってしまった。なのに相手はおかしそうに肩を揺すっているし、それに釣られてこちらも笑いだしてしまったし、こちらが笑えば相手も声を立てて笑い出す。
 そんな笑いの連鎖が収まって互いが落ち着くまで、当然、彼の疑問と不安とを潰す作業はお預けとなった。

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まるで呪いのような10

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 抱えたままの膝にまた顔を埋めて目を閉じる。涙は流れていないし、もちろん呼気も乱れていない。泣いているわけじゃなく、ただただ、自分の内側に閉じこもるように息を潜めた。
 ドロドロでキモチワルクて怖いと、彼自身が泣きそうになって言い募る執着を、恐れる気持ちはもちろんある。けれど、こちらの恋情ごと絡め取って今後もずっと手放さないと言い切る強い意志を、喜ぶ気持ちも、安堵する気持ちも、間違いなくありそうだった。
 なんで別れたかったんだっけと考える。彼が違う高校を選んだという理由で別れを切り出したのは、今なら自分の恋を終わりに出来ると思ったからだったはずだ。同じ高校に進学してくれてたら片恋とわかっていながらも続ける気があったのは、彼と共に過ごす学校生活の中で、彼への想いを捨てられるはずがないと知っていたからに他ならない。
 残り二年ある、彼と共に通うことをしない高校生活は、チャンスなんだと思った。
 この一年で嫌というほど思い知った彼との想いの差に打ちのめされていたし、自分だけが持ってしまった恋心のせいで彼に負担を強いているのもわかっていたから、終えたほうがいいと思っていたし、終えてしまいたかった。
 でも彼は間違いなく、こちらの一方的な恋情で彼にかかる負担ごと、受け止め抱え込む覚悟を持っている。彼の想いが返らない事で、惨めで切ないと泣いて離れたがることすら、想定済みだったようだし、それでも放す気がないという。
 もっと言うなら、育ってしまった彼の執着を受け止める覚悟を持てなくても、たとえば彼の言葉を肯定して同じように気持ちが悪いとか怖いとか言って逃げたがっても、酷いと責めても、彼はきっと怒りはしないだろうと思う。そうなる可能性もわかっていて伝えたのだろうし、それでこちらがどんな結論を出そうと、それら全てを飲み込んで絡め取って抱え込んで、逃がす気も放す気もないのだと言っているのだ。それほどまで彼の執着が育っているのだと、知らせているのだ。
 そしてそれだけの強い意志が有りながら、一方では、キモチワルイと思わないで受け止めて捨てないで嫌わないでと、心の内側で必死に泣き叫んでもいる。
 胸が騒いでキュウキュウと切なく疼くから、ズルいなぁと思う。これももしかしたら無自覚に嗅ぎ分けて使いこなしているのだろうか。だとしても、彼への愛しさがどうしようもなく湧き上がってしまう。
 昔っから、こういうとこってあったなと思う。彼が口に出したりはっきりと表に見せる感情よりも、じわりと滲み出る内面の必死さが愛しかった。必死に好きだ好きだと叫んでいるように思ってしまったけれど、もしかしてずっと、捨てないで嫌わないで好きでいてと叫ばれていたのかもしれない。
 もしそうだったとしたら、そしてそれを正確に把握できていたら、結果として好きになるのは同じでも、両想いだなんて誤解はせずにすんだろうか。でもきっと、お前の呪いのせいで好きになったんだから、責任取れよと持ちかけていただろうなとは思う。
 きっと少しだけ、動き出すのが早すぎて、だからちょっと遠回りをしていただけなのだ。
 膝を抱えて丸まった体勢を解きながら、体を後ろへ倒していく。背中をベッドマットに預けきった後、ゆっくりと目を開ければ、心配そうにこちらを見下ろす瞳と出会う。でも口は開かず、黙ったままだ。こちらから話しかけるのを、どんな結論を出したのかを、彼はじっと待っている。
 片手を上げて彼の背中を覆う布を握り、数度緩く引っ張れば、同じように彼も体を倒して隣に寝転がった。

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まるで呪いのような9

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 どうはぐらかすか、もしくはどう説明するか、悩んでいるんだろうか。相手は迷う様子で暫く黙り込んだ後、ようやく口を開いた。
「お前に酷いことしてるって自覚はあるから、お前が俺に謝って欲しいならいくらでも頭を下げて謝るし、土下座しろって言うならしたっていい」
「聞いたのそういうんじゃないんだけど。というか謝れって言ってるわけじゃないんだけど」
 謝りたくない理由を聞いてるんだと言えば、謝る気はちゃんとあるって言ってんだと返されてしまって、今ひとつ話が噛み合わない。というか多分意図的にズラされているんだろう。
「なんで隠すの?」
「隠すっていうか、言っても多分わかんないよ」
 俺はオカシイからなんて泣きそうな顔で言う相手に、じゃあ言わなくていいと言えるほど大人じゃなかった。
「いいから言え。たとえ理解できなくても知っておきたい」
 言えば諦めたみたいに大きなため息を吐き出している。
「お前が欲しがっても居ないのにゴメンゴメンって繰り返すのは、お前をその言葉で縛って手に入れたい時だから」
「え?」
「お前は俺に激甘で、三ヶ月ポッチ年上なだけでお兄さんぶって、俺にゴメンって謝られたら許さなきゃって思うんだって、知ってた?」
「しら、ない。なにそれ」
「昔から、お前が本気で怒っててヤバイって時しか、俺はゴメンって言ってない。俺のゴメンは、お前に離れて行かないで欲しい時のとっておきだった。お前が俺に悪いなと思った時、素直に口に出すゴメンとは圧倒的に意味が違う」
 それを彼はうんと小さな子供の頃から、無自覚に嗅ぎ取って使い分けていた。ということに気づいてしまった時、彼は随分と戦慄したそうだ。自分でもすぐには理解できず認めたくもなかった行動を、わざわざ言いたくなかったってことらしい。
「お前の好きは俺のドロドロな執着心とはこんなに違うと思ったせいか、お前のゴメンと俺のゴメンも大きく違うってのまで思い出して、お前のゴメンに反応しすぎたのはあると思う」
 だからゴメンなと続いた言葉にドキリとする。
「おまっ、それ今、言うの?」
「まぁさすがに今のはわざとだけど。この話聞いて、ゴメンって言われた感想はちょっと知りたい気もする」
「今後お前にゴメンって言われても、許さなきゃとは思わなくなるかもって?」
「そうなりそう?」
「なっていいの?」
 いいよと言いながら、相手は少しおかしそうに、そしてやっぱり泣きそうに、笑っている。
「全然、いいよって顔じゃないんだけど……」
「だってお前と話してるとさ、俺のお前への執着心、ほんっとドロドロでどうしようもなくキモチワルイってのがわかる」
 なんでわざわざ最後にゴメンって言ったと思うのと聞かれて、こちらの反応を見たかった以外に、あの場面でわざとゴメンという意味なんてわからなかった。
「俺はまた一つ、お前に呪いをかけたと思うよ」
 薄く笑う顔は泣きそうなのにゾッとするほど怖くて、どういう意味かと尋ねる声は少し震えていた。
「多分今後、俺がゴメンって言うたび、お前は俺を許さなきゃって思うより先に、俺に、俺を放さないでくれと縋られてるって思うようになると思う」
 言われれば、確かにそうなりそうだという気がしてしまう。
「お前は優しい上にまだ俺を好きって気持ちが残ってるから、そんなことされたらますます俺を突き放せないだろ。お前がそうやって俺のゴメンにがんじがらめに捕まってる間に、俺はゆっくり次の手を考えることにした。つまり、さっきのゴメンは、お前をこの言葉で縛るよって宣言」
 ゴメンねと再度告げられた言葉には、放さないという強い意志しか見えなくて、全く縋られているような気はしなかった。つまり彼の思惑は失敗している気がするのだけれど、それを指摘してやるべきかは大いに迷うところだった。

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