親友の兄貴がヤバイ2

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 相手の後を追って入ったリビングで、いらっしゃいと声をかけてくれたのはキッチンスペースに立つ彼らの母親だ。チラリと部屋の中に視線を走らせ父親の姿がないのを確認した後、再度お邪魔しますと声を掛ける。
「わーん。来るの待ってたよー」
 既にテーブルの上に問題集を広げて取り組んでいた親友が、顔を上げて情けなく泣き真似をしてみせた。
 一応彼も受験を切り抜け大学進学しているので、弟の切羽詰まり具合に仕方なく、得意科目のみ昔を思い出しつつ勉強をみてやっているらしい。ただ、弟の出来なさ具合に不安になって、これじゃいかんとつい厳しく接しがちになるようで、親友もそれは解っているから、あまり彼を頼ることはしていないはずなのだが。
 いい加減親友本人も切羽詰まりきったのか、それとも今日は一緒に受験勉強と聞いた彼がお節介を働いたかのどちらかだろうなと思う。
「お前はこいつに頼りすぎ。少しは自分の頭使って考えろよ」
「兄さんスパルタすぎてやだー。というか兄さんの説明じゃ良くわかんないもん」
「お前が甘ったれ過ぎなの。というかこいつ居なきゃ俺の説明でなんとかするくせに。こいつに甘えんのもいい加減やめなさいね」
「何それ嫉妬? 残念でした。こいつは俺の勉強を見に来てくれてるんですぅー」
「一応一緒に受験勉強、だろ。まぁそのつもりで来てるのも確かだけど、はっきり言い過ぎ。で、突っかかってるのどこ?」
 彼らのやり取りを聞きつつ、多分後者だなと判断して親友の隣の席に腰掛けた。
「あ、原因お前の方だったわ。お前が甘やかすから、俺の弟が俺に冷たい」
「なんであなたが厳しくなるのか、こいつ理由知ってるから大丈夫ですよ」
「お前が好きでこいつに教えてやってんならいいんだけどさ。お前自身が受験生だって忘れんなよ?」
「わかってます」
「まぁ人に教えると自分の理解にも繋がるとか言うもんな。じゃ、これ以上は邪魔になりそうだから俺は引っ込んどくわ」
 彼は自分と隣りに座る親友との頭にそれぞれ手のひらを乗せると、頑張れよとわしゃわしゃと髪を掻き撫でてからキッチンスペースへ入っていく。その背をなんとなく見送っていたら、袖をツンツンと引かれて隣の親友へ意識を戻した。顔を寄せてくるので、内緒話かとこちらも耳を寄せる。
「ね、もしかして玄関でキスされた?」
 言葉に詰まれば、まぁ聞くまでもなかったよねと小さな笑いが耳の横で弾けた。
「俺に難題押し付けて自分が迎えに出れるようにしてたから、絶対狙ってると思ってた」
「ああ……そう」
「お前さ、嫌なことは早めに言った方が良いよ?」
 更にひそりと声を潜めて続いた言葉に、親友にはやはりバレてしまうのだなと思う。
「嬉しくないわけじゃないんだけど、ね」
「うん。だから尚更、教えてあげて。きっとお前が喜んでくれてるって思ってるから。今日の何かがダメだったとは多分まだ気付いてない。てか何されたの?」
「お前らイチャイチャしすぎだろ。勉強しろ勉強」
 ハッとして親友から体を離し声の方向へ顔を向ければ、キッチンからお盆を手に彼が戻ってくるところだった。
「ひそひそと俺の悪口言ってたんだったら許さない」
「大好きな兄さんの悪口なんて、俺が言うと思う?」
 兄さん大好きって話をしてただけと笑った親友の顔はとてもあざとい。しかし彼はニコリと笑って、よし許したと言った。とんだ茶番だ。
「じゃ、そんな可愛いお前たちに、お茶と茶菓子の差し入れな」
 テーブルの上に置かれたお盆には、三つのマグカップと皿に盛られたクッキーが乗っている。彼は自分の分のマグカップを手に取ると、それ以上は何も言わずにソファへ向かって行った。
 親友が言うには、普段は自室で過ごすことのが多いらしいのに、自分が訪れている時にはリビングのソファが彼の定位置だ。数年ぶりに訪れたあの日は、明らかに監視されている感じだったけれど、今はきっと、せめて同じ空間で同じ時間を過ごそうとしてくれている。
 勉強するこちらを気遣い静かに過ごしながら、時折こちらを見つめてくる瞳は優しい。その優しい視線が、彼の大事な弟だけではなく、今は自分にも向かっているのだと思うと、どうしようもなく嬉しくて、でも少しばかり居心地が悪い。そわそわドキドキ心臓が跳ねて、それを隣りに座る親友だけが、訳知り顔でニヤニヤ見てくるからだ。更に言うなら、そんな自分たちが彼の目にはイチャイチャしてると映るらしいのも、少しだけ納得がいかない。
 考えるだけでそわそわしだしてしまう気持ちを落ち着かすように、気持ちを切り替えるように。
「じゃあ、いい加減始めようか」
 もう一度、どこに突っかかってるのと聞きながら、親友の手元の問題集に視線を落とした。

続きました→

 
 
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親友の兄貴がヤバイ1

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 絶対に自分を見てくれることなどないと思っていた初恋相手が、親友の多大な協力によって恋人となってくれて数ヶ月。告白すらせずに縛ってフェラチオしたあげく抱かせろと迫ったり、自分の手で気持ち良くなってくれる姿が見たいとねだって手コキでイカせたりなどを経て恋人になった割に、関係はそれ以上まったく進んでいなかった。
 部活を引退して受験一直線となるはずのこの時期に、愛だ恋だセックスだなどと言っていられる余裕がないのは確かで、同級生の親友を弟に持つ相手もそれはわかっている。というよりも、相手はより身近な弟を基準に大学受験を考えているだろう。
 余裕があるとは言わないが、親友ほどには切羽詰まってはいないのだけれど、おかげで休日に彼と一緒に遊びに出かけることもままならない。デートなんて受験が終わってからいくらでも付き合うからと言われて、外で会えても食事かお茶をして数時間程度で帰されてしまう。
 ただ、むちゃくちゃな始まり方だった事を考えれば、随分と穏やかで落ち着いたお付き合いが出来ている、とも思う。テーマパークやらへのお出かけデートは出来ていないが、決して恋人っぽいやりとりがないわけではなかった。
 ラインでの文字による他愛ない会話やスタンプの応酬がメインではあるが、たまに電話越しに声を聞かせてくれるし、受験勉強という名目で親友の家にお邪魔した時に相手も在宅中なら、隙を見つけて軽いキスをくれたりもする。
 動揺や喜びが顔に出にくいタイプで良かった。でも本当に誤魔化せているのは、実のところ彼らの両親だけだ。
 親友には最初からこちらの慌てぶりも浮かれっぷりもバレバレだったせいで、彼の兄がこっそりキスしてくれる瞬間を見られたわけではないらしいのに、何をされたかまでほぼ察知されたし、恋人本人も反応が薄いと口を尖らせたのは最初の一回だけで、相変わらずたいした反応を見せずとも、満足気で柔らかな笑みを浮かべている事が多い。
 親友は元々協力者なのだから、彼らの両親にさえ知られなければ問題ないのかも知れないが、それでもふいに掠め取られていくキスは心臓に悪い。
 日曜の今日は朝から親友宅へ呼ばれて一緒に受験勉強ということになっていて、彼も普通に仕事休みで家にいることはわかっていた。でも、玄関が開いた直後に、いらっしゃいの言葉とともにキスされるなんて想定外も甚だしい。
「ちょっ、なんでっ」
「大丈夫、誰も居ないよ」
 慌てて背後を確認する自分に掛けられたその言葉を、どこまで信用していいかわからない。あの一瞬で周りを確かめる余裕なんて相手にあったとは思えない。
「怖い顔してないで早く入りな。あいつも待ってる」
 動揺や喜びがわかりやすく顔に出ることは少ないが、困ったり驚いたり考え事をしている時は、まるで怒ったような顔になるらしい。人に指摘されたこともあるし、自覚もないわけじゃない。でもまぁ今のは多少、本当に怒ってもいい場面という気もするけれど。
 せっかく奇跡的に手に入れた恋人を、迂闊な行動で手放す目にはあいたくなかった。親友があまりに協力的で忘れがちだが、世間的にどう見られる関係なのかはわかっているつもりだ。
 誰のせいだと言ってやりたいのをこらえて、お邪魔しますと告げつつ、ここ最近ですっかり通い慣れてしまった家の中に上がった。

続きました→

 
 
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おっさんの蔵書(目次)

キャラ名ありません。全7話。
半放置子だった視点の主が、雑多な蔵書目当てで近所宅に出入りしているうちに、家主でゲイだということを隠していない、一回り以上年上のおじさん相手に興味を持ってしまう話。
セックス描写は視点の主 ✕ おっさんのみですが、視点の主が抱かれる側になった事もあるとわかる描写が含まれています。
視点の主がおっさんへの恋愛感情を認める所までで、恋人という関係にはなっていません。

下記タイトルは内容に合わせたものを適当に付けてあります。
性的なシーンが含まれるものにはタイトル横に(R-18)と記載してあります。

1話 大学卒業前に
2話 えっちな蔵書を読みに通う
3話 感想を言い合う楽しさ
4話 煽られて
5話 寝室で押し倒される(R-18)
6話 抱かれるのだと思ってた
7話 恋人になりたい

 
 
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ゲイを公言するおっさんのエッチな蔵書6(終)

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 互いのオススメ本を読みあって、ランチタイムに感想を言い合って、時々セックスする。という関係に、どうやら落ち着いてしまった気配がする。
 彼は自分を抱く相手を見てみたいという好奇心にも応じてくれたので、時々セックスの内の二回ほどは自分が抱かれる側だった。もちろん事前に自分である程度慣らす事はしたし、はっきり言えばそれなりにキモチイイ思いもした。多分おっさん本人が言うほど下手ではなかったのだと思う。
 ただ、気持ちよくはしてもらったけれど、気持ちよくはさせられなかった。もっと端的に言えば、その二回とも、相手がイくことはなかった。
 一番キツかったのは、相手は本当に好奇心を満たしてくれるだけなのだと、抱かれることでよりはっきりと突きつけられた事だった。言うなれば、たんたんと体が気持ちの良くなれる場所を的確に刺激されて、その刺激に正しく体が反応しただけだったからだ。
 酷いことなどされなかったし、むしろ優しく気遣ってくれたとは思うのだけど、でも愛されているとも好かれているとも一切感じることが出来ないままただ抱かれるという行為は、元来アナルを男の性器で擦られたいなんて欲求が一切なかった人間にはなんとも虚しいばかりだった。
 本当に、自分を抱いている彼の姿を見てみたいだけだったらしい。出来れば、自分を抱きながら欲情して気持ちよくなってくれる彼を見たかったが、それが見れるまでにどれだけこの虚しい行為を重ねなければならないのかと考えたら、さすがにこれ以上を求める気は失せた。
 そんなわけで抱かれる側は二回で懲りたのだが、抱く側にしたって実のところそう行為の内容に大差はない。
 せいぜい中を刺激されることに慣れた相手がイッてくれる場合もあるというだけで、疲れたからもう終わってと頼まれて自分だけが達して終わることも多かったし、そこに愛や恋があるわけでもない。抱かれるよりは相当マシと言うだけで、行為の後に虚しさがないわけでもなかった。
「今日は、抱かせてくれるんですか?」
 午前中に読んでいた本の感想に一区切り付いたところで、午後はどうするのか聞いたら、相手はうーんと渋る声を上げる。気分じゃなければ今日はなしと即答してくる相手なので、この反応は珍しい。
「別に、無理にしたいとは言いませんけど」
「いや。抱かれるのが嫌ってことはないんだけど、でもまだ飽きないのかと思って? お前の好奇心を満たしてやるとは言ったけど、そろそろただの性欲処理になってないか? そうだってなら、さすがに他当たって欲しいんだけど」
 善がってる顔どころか前回中イキまでしてみせたんだし、これ以上何を見たいのと言われて言葉に詰まった。こちらの技巧も上達しているのか、疲れたから終わってと頼まれる回数は減ってきているし、たしかに前回、後ろだけの刺激で相手をイかせる事に成功もした。
 彼のそんな姿を見れたことに若干の驚きや多大な興奮はしたものの、でもそれは相手の体がこちらの与える刺激に反応した結果であることもわかっている。
「性欲処理のつもりは、ない、です」
「じゃあどんなつもり? 好奇心や探究心だってなら、これ以上の何が見たいのかはっきり言って。協力するから」
 これ以上何が見たいのかの自覚はある。こんなただ体の快楽を追うだけの殺伐としたセックスではなく、もっと想いを分け合うような、互いに想いあった、心ごと愛し合うようなセックスを彼としてみたい。
 そうは思うが、それを好奇心で試してしまうのはさすがに怖すぎた。そもそも本当には愛し合ってなど居ない状態で、そんなセックスが可能なのかわからない。そして多分間違いなく、今以上に彼への情が湧く。
 そうだ、こんな殺伐としたセックスだって、結局情は湧いている。一回り以上年上のおっさんが自分の腕の中で善がる姿に、可愛いかもだなんて感情が欠片でも湧いてくること自体が、終わってるとしか言いようがない。認めないわけにいかない。
 かといって、彼と本気で恋人の関係になりたいのかと言えば、正直無理だとしか思えなかった。主に、彼の感情面が。
 この人はきっと、自分に恋なんてしてくれない。体はくれても心はくれない。それはセックスを重ねるごとに、強くなっていった思いだった。
 でも言ってしまったほうがいいんだろうか。彼とどうなりたいかの結論は、彼の予想を裏切って、どうやら恋人になりたいだとか特別な一人になりたいだとか、そういったものになってしまった。
「もし俺が、恋人として付き合って下さい。って言ったら、どうします?」
「そういう試すような聞き方は気に入らない。この流れだと、一々説明するの面倒だから恋人になればセックスし放題。って思ってるように感じるぞ」
「違いますよ。ただ、俺がこれ以上に見たいものは、きっと恋人にならないと見れないだろうと思っただけで」
「ああ、恋人ごっこがしてみたいって話?」
「違います。ごっこじゃないです。恋人になりたい、という結論です」
「は?」
 何の結論? と言いたげな顔に、あなたとどうなりたいかの結論が出たって話ですよと教えてあげれば、今度は呆然と嘘だろとこぼしている。
「嘘じゃないです。こんな結果になって残念でしたね」
「本当にな。好奇心だけにしときゃ良かったのに」
「恋人になるのは無理だって振りますか?」
「取り敢えずお前とのセックスはもうしない」
「未来永劫?」
「そこまでは言ってない。というかまず、もしお前がこんな俺相手でも恋人になりたいって言い出したら、言うつもりだった言葉が最初っからあるんだけど、それ、言っていいか?」
「どうぞ」
「ここに通うの止めろとは言わないし、俺を口説くなとも言わないけど、でもお前をそういう意味で好きになれる自信はあまりない」
「それは今も変わらない気持ちってことでいいんですよね?」
 聞けば苦笑とともにそうだと返された。
「でも通い続けていいし、口説いてもいいし、自信がないだけで可能性がないわけではないと。口説き落とせたら、次は恋人らしいセックスもさせてくれるって事でいいですか?」
「そりゃそうなるけど、お前の俺への好奇心と探究心ってそこまでのもんなの?」
「好奇心舐めないで下さいって言いましたよね」
「ごめん、舐めてたわ。じゃあ期待させても悪いから先に言っとくけど、お前、俺の好みから相当外れてる」
「それ今言います? てかそういや教えてもらってませんでしたよね。あなたの好みのタイプってどんな男なんですか」
「年上」
「ちょっ! 一回り以上年下の相手に中イキまでさせられてて、今更、本当は年上が好きとか酷すぎません?」
 年齢などという、どうあがいても変えられない部分の好みを、どうしろと言うのか。つまりさっさと諦めろと、当回しに言われているだけなんだろうか。
「好きって気持ちなんかなくてもセックスで善くなれるってのは散々実証してやったろ」
「ええ、ホント、そうですね」
「人の心なんてなかなかどうこう出来るもんじゃないんだよ。俺は俺で色々抱えてる。セックスする相手ってんじゃなく、恋人になるってのは心の話だからさ、しんどくなりすぎる前に、適当なところで自分から諦めろよ」
 ああやっぱり諦めろということらしい。
 一応わかりましたとは返したけれど、でも当分は諦められそうにない。さてまずは、どう口説いて行くのがいいだろうか。
 午後は彼のオススメ本を読むのではなく、今の自分の助けになるような本を探してみようと思った。

<終>

 
 
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ゲイを公言するおっさんのエッチな蔵書5

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 自分の上に跨り、なんとも苦しそうに喘ぐ相手に、なんで、と思う。
 すっかり自分の方が抱かれるのだと思っていたのに、いざ始めて見れば彼が抱かれる側だった。とはいっても、行為の主導権はずっと彼が握っている。今も、どうしてと思いながら何も出来ず、ただ苦しそうな顔を見上げているだけだった。
 ローションを垂らした手を彼自身の股間に差し込んだのを見た最初、あまりにビックリして何してるのと聞いたら、全く経験がないだろう男の子をいきなり抱いたり出来るわけないと返された。ローションが使いかけなのはオナニーに使用してたからとは言っていたが、まさか本当にアナニーしていたとは思わなかった。
 でもアナニーしていた割に、苦しそうなばっかりで、ちっとも気持ちよさそうじゃない。
 あまり躊躇いなく進められて、騎乗位で腰を落とす時も、キツそうにはしても怯んで受け入れられずに止まってしまうなんて瞬間はなく、ゆっくりとだが確実にずぶずぶと入ってしまったから、きっと未経験ではない。もしくは自己開発が相当進んでいる。けれど、決して慣れては居ないのだと思った。
「ねぇ……ホントは、タチなんじゃ、ないの?」
 不安になって聞いてしまった。
 確かに抱かれている彼も抱いている彼も両方見てみたいとは言ったし、実際どっちがいいという強い希望なんてなかったけれど、なんで自分が抱く側になっているのか正直良くわからない。こちらの好奇心に応じて気軽にいいよなんて言われたら、相手は行為を楽しむだけの余裕があると思うだろう。まさか、苦しそうに受け入れてくれる姿を見せられる羽目になるなんて思ってなかった。
 もし本当に、初めての相手をいきなり抱けないというのが理由だと言うなら、セックスはしたいとはっきり言ったあの時、したいならアナニーして慣らしてこいとでも言えば良かったのに。そんな言葉を掛けられたらきっと期待から、頑張って自己開発を進めるくらいは平気でしてしまうのに。
「ハハッ、どっちの経験が多いかって言ったら、これでも抱かれる方、なんだよ。ゲイだからってのと、セックスやり慣れてるのはイコールじゃ、ない」
「じゃあなんで、セックスさせてくれるなんて言ったの。俺を煽ったりしたの。したいとははっきり言ったけど、した後あなたとどうなりたいかの結論は出てないのに」
「お前の好奇心、少し満たしてやろうと思っただけかな。抱いても抱かれてもどうせそこまで良くしてはやれそうにないし、だから体が良くてズルズル離れられなくてなんて事にはならんだろうし、むしろやってみて幻滅すりゃそれはそれで好都合だとも思ったし?」
「あなたに幻滅してあなたへの興味が失せたら、確かにお互い良かったかもですよね。でも残念。あなたの苦しそうな顔ばっか見せられてる今の俺の気持ち、教えましょうか?」
 教えたいなら言っていいよと返されたので、少々ムッとしつつ、善がってる顔が見てみたくなりましたと言ってやる。
「なるほどね。好奇心もだけど探究心も強いっぽいのは厄介だな」
「厄介ですみませんねぇ」
 ムッとしたまま棒読みで返せば、なるべく好奇心満たしてやりたいけど、その好奇心と探求心の強さだと、次から次へとなりそうだと苦しげな顔のまま小さく笑われた。
「一回セックスしたら、それで引き下がるとでも思ってたんですか? 俺の好奇心舐めないで下さい。好奇心を満たしてやりたいなんて思ったこと、後悔しますよ」
「確かに、下手なのは即バレするだろうから、セックスへの興味を無くす可能性は考えてた。でも好奇心を舐めたりしてないし、後悔はしないよ」
「好奇心が満たされきるまで散々セックスしまくって、その結果、もう満足したからいいですってやり捨てされてもいいんですか?」
 そんな可能性があることを、下衆な好奇心を持っていることを、自覚している。セックスに限定はしないが、知りたいことを知ってしまったら、見たいものを見てしまったら、一回り以上も年上のおっさん相手に興味が続くかなんて自信がない。
「散々やりまくってから捨てられるって事への心配はないな」
「好奇心で始めた肉体関係でも、セックスしてればお互い情が湧きますか?」
 さっき読んでいた本にはそんな描写が入っていた。ただ彼らはヘタで気持ちよくないセックスではなく、ドロドロに感じてアンアン言いまくるセックスをしていたけれど。
「そうじゃなくて。やり捨てされても別にいいって事だよ」
「何、言ってんですか」
「お前の好奇心が満たされきって、未練なく俺から離れていくなら、それでいいと思ってる。ただセックスで善い思いしたことって殆ど無いし、善がり顔なんていつになったら見せてやれるかわからないんだよな。久々すぎて今日は思った以上にキツいから、慣れればもうちょい俺も感じるかもしれないけど」
 下手でゴメンなと言いながら止めていた動きを再開しようと腰を上げていくのを、腰を掴んでやめさせる。
「あの、自分で動きたいんですけど、ダメですか?」
「若さでガツガツやられたらさすがにシンドイんだけど。でも下手すぎてこんな動きじゃイケないってなら、好きにして、いいよ」
 どこかホッとした様子を見せるから、自分で動くのはやはり相当キツイのだろうと思った。
 ちゃんと優しくしますよとか、あんまり苦しくて辛そうだから見てられないだけですよとか、一人で頑張らないでくださいとか、そう言った言葉を掛けてあげれたら良かったのかもしれない。想いあった相手との行為なら、そう言った言葉が吐けるのかもしれない。
 でもこれは好奇心を満たすためと言明されていて、しかも先程の会話内容から察するに、相手は自分が彼の元を去ること前提で居るようだ。どうなりたいかの結論はまだ出てないと何度も言っているのに。恋人になりたいとかいっそ家族になりたいとか、それに近い結論は出ないものと思われていそうだった。
 結論が出ずに迷っていることが、彼からすれば既に結論なんだろうか?
「じゃあ、好きにさせて、貰います」
 吐き出した言葉のどこか冷たい響きを後悔しながら上体を起こし、逆に彼をベッドに押し倒す形に体位を変えた。

続きました→

 
 
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ゲイを公言するおっさんのエッチな蔵書4

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 でも先に飯なと言われて、食べながら当初の望みどおり彼が読んでいた方の感想を言い合う。白熱したそれは食べ終わった後も暫く続いたけれど、意見も出尽くしたあたりでじゃあそろそろしようかと言われて、最初は意味がわからなかった。
「寝室移動する? それともそこのソファでいい?」
 重ねられた言葉に、すっかり意識の外へ追いやっていた先程の会話を思い出す。そうだ。さっき彼は、セックスさせてくれると言った。
 行為への期待からか心拍数はあがっていくのに、同じくらい不安が広がってもいる。
「怖気づいたならやんなくたっていいけど、次にいつ、その気になるかはわからないぞ?」
 本当にどっちでも良さそうな若干投げやりな態度と言葉に、ここで断ったら多分二度目はないと察知する。少なくとも、好奇心でやってみたいが通じるのは今日この時だけ、なんだろう。
「やります、よ」
 やった後、気持ちや関係がどうなるのかはわからないが、少なくとも今の段階では今後も通う気でいるので、リビングで致すのは気が引ける。というか今後ランチの度に意識する羽目になるのが目に見えている。
 それを口にはしなかったが、寝室に移動したいと言えば、あっさりじゃあおいでと席を立つ。
 連れて行かれた寝室には、シングルサイズのごくごく普通のベッドと、小さな本棚だけが置かれていた。本棚にはガラス扉が付いていて、そこに並んでいるのはきっととても大切にしている本たちなのだろうと思う。
 一冊一冊柄の違うブックカバーが掛けられていることなども、本部屋や仕事部屋に置かれた本との扱いの違いがあからさまだった。
「ここの本は触っちゃダメだよ」
 どうしたって気になってしまう本棚をジッと見つめていたら、クローゼットを開いて何やらごそごそやっていた相手が、本棚と自分との間に割って入りながら言った。
「あんな大事そうな本、許可もなく触りませんよ」
「知ってる。じゃなきゃ寝室に入れたりしない。でも一応な」
「それより、それ」
 すっごい食いつきだったからと苦笑する相手の手には、ローションとゴムの箱らしきものが握られている。しかもどちらも間違いなく使いかけだ。
「ああ、初めて見る?」
「最近は薬局にも平気で置いてますよ、ローション。ゴムはコンビニでだって買えます。じゃなくて、思いっきり使いかけですけど、まさか恋人居たり、するんですか?」
「恋人なんか居るはずないって思ってたか?」
「居るならダメでしょ、こんなの」
「真面目だね。あと目ざといな。使いかけなんか出して悪かったよ。気遣いが足らなかった。大丈夫。居ないよ、恋人なんて」
 一人でするのに使ってたと平然と続いた言葉に、カッと体が熱くなる。ただローションをペニスに垂らして擦るオナニーという可能性だってあるのに、目の前の男がベッドの上で自ら尻穴を弄っているアナニー姿を想像してしまった。
「当然そんなことを言うお前にも恋人は居ないって事でいいんだよな?」
「いません、よ」
「さすがに後ろは処女だと思うけど、童貞? 彼女いた事あったよな。高校生の頃」
「そんなの、覚えてたんですか」
「まぁ、あの頃既に、お前以外はほとんど本読みになんか来てなかったからな。お前もこのまま来なくなるのかなって思ってたところに、頻繁に顔出すようになったから印象に残ってる」
 最近立て続けに来るねと声をかけられて、彼女に振られたからだと答えたのを覚えている。
「あの時、ああそう、って随分軽く流されたから、そんなの忘れてるとばかり」
「あまり積極的に関わってなくても、うちに通ってた子どもたちが俺に報告してくれた事は、それなりに覚えてるよ」
「そう、なんだ」
「そう。で、俺の問いに関する返事はないの?」
「問い?」
「お前、童貞? 俺で童貞捨てさせてって思ってる?」
「童貞じゃない、です」
「そ、なら良かった」
 何が良いのか聞き返す前に腕を引かれてベッドに押し倒された。
「抱くんでも抱かれるんでも、どっちでもいいんだよな?」
 ああこれ、自分が抱かれる側になるのか。
 そう思いながら、見下ろしてくる相手を見つめ返して、はいと短く返した。

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