いつか、恩返し30

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 気持ちのままに顔を寄せて、ちゅっと軽く相手の唇を啄んでやる。
「あーもー、お前、ほんっと、俺に対して可愛すぎんだけど」
「ならベッド行く?」
 いい加減、可愛いも好きも言われ慣れてる相手は、それでも嬉しげに笑って、そんな誘いをかけてくる。
「行く。けど、先にさっきの一緒に住まないかって話、受ける気あるかだけでも聞かせて」
「もちろん受けるよ。同棲って、めちゃくちゃ魅力的な響きだよね」
「んじゃ、後はお前の親の説得か。そういやお前の親って、うちの親の事、どー思ってんだろ」
 まさか従兄弟との現在の関係を明かせるはずもないから、手っ取り早いのは、縁切りされた件を持ち出して従兄弟と一緒に住みたいと言うのが良さそうだとは思う。ただ、甥っ子を助ける気になってくれるかどうかは、さっぱりわからない。
 思えば、従兄弟から従兄弟両親の話を聞いたことがあまりない。親が従兄弟両親に関してあれこれ言っているのを聞いた記憶もあまりなかった。
 とにかく、従兄弟に遅れを取るな、従兄弟に勝て、みたいな事ばかりで、親自身も従兄弟ばかり気にしているような感じだったように思う。でも従兄弟と同じ大学に通うことになって、生活費やらの件で明らかに従兄弟親と張り合っていたから、実親が従兄弟親を意識しまくっているのは確実だ。
「親の説得なんて多分必要ないよ。お前と住むから少し広い部屋借りることにしたって言っても、わかったって言って書類にサインしてくれると思う。お前の親のことも、多分きっと、なんとも思ってない」
 悪い意味でそういうとこ無関心なんだよね、と苦笑う顔は、なんだか凄く淋しげだ。
「興味の大半が仕事とかお金とか自分たちの生活の快適さ、なんだよ。うちの親。一人っ子で財産継ぐの俺だから、俺に金かけるのは厭わないと言うか、親の顔に泥塗るような真似とか、親の手を煩わせたりしなけりゃ、俺のことは基本放置で金だけ出してくれる方針だからさ」
 有り難いよねと無理矢理に笑ってみせるから、そうだな、なんて言って頷けるわけがない。
「それ、親から信用されてる、って話じゃないのか?」
「そりゃ、信用はされてると思うよ。むしろ親の信用を勝ち取ってきた結果が今だよ」
 俺の優等生っぷりをお前は間近に見てきただろうと言われてしまえば、それは確かにそうだったと頷く以外にないけれど。でもやっぱり、その顔はちっとも嬉しそうでも自慢げでもないのだ。
「実はお前も、相当親絡みで苦労してきた、とか言う?」
 高校一年時に謝罪した時、親に煽られていた部分が大きかった、というようなことを言ってしまったのもあったし、大学受験をする時に、従兄弟より良い大学なら学費を出してやると言われた事なども、彼は当然知っている。他にも細々、特に高校時代は、相談とも愚痴ともつかないような事を、会話の端々で漏らしていたとも思う。
 だから彼はこちらの親事情をそれなりに把握しているのだけれど、彼が彼の親の話題を出さないことを気にしたことなんてなかった。むしろ親への不満などが出ないのは、親との間に何の問題もないからだろうと思っていたし、彼ほどの男であれば当然かとも思っていたのだ。まさか親から、金さえ出せばいいだろう、みたいな扱いを受けてきたなんて、欠片も考えたことがない。

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いつか、恩返し29

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「ああ、でも、会社の寮に入るとか、保証人代行とか、保証人不要物件とか探せばいいのか……?」
「ちょ、待ってって。先走んなよ。お前が言う通り、親に頼れなくたって部屋借りる方法は色々あるけど、それを考えるのはお前が俺の申し出を蹴った場合な」
 申し出ってなんだと言いかけた相手の言葉を遮るように、一緒に住まないか、と告げる。
「……えっ?」
「引っ越し、するんだろ? そんときちょっと広めのとこ契約して、ルームシェアとかって無理?」
 従兄弟本人が了承したって、従兄弟の親がどう判断するかはわからないけれど、まずは従兄弟自身の承諾が必要だ。
「本気、で?」
「うん。まぁ本音はルームシェアってより同棲だけど」
「ど、ぅえっ、えっ」
 嫌がられてる感じではないけど、めちゃくちゃ動揺させてしまった。
「元々、お前の受験終わったら相談するつもりだった。親に縁切りされたからってんじゃなくてさ」
「あのさ、それって、大学卒業しても俺と恋人続けるって意味でいいわけ?」
「は?」
 全く想定外の質問に、間抜けな声を出してしまう。きっと声だけじゃなく、間抜け面を晒しても居るだろう。
 そんなこちらの態度に、相手は慌てた様子で口を開いた。
「だって同棲って、そういうつもりじゃなきゃ出てこない単語じゃないの」
 そりゃそうだ。そういうつもりだったに決まってる。でも相手はそうじゃなかったんだってことに、気づいてしまった。
「なぁ、もしかして、卒業したら終わりなつもりだった?」
 確かに、ただの恋人ごっこのままだったなら、卒業を期に恋人のふりなんて止めただろう。色々と面倒そうだから在学中は従兄弟の恋人でいいか、というつもりで従兄弟の恋人に収まったのも事実ではある。でもそんなの、とっくに翻っている。というよりも、今はもう、自分たちの関係が恋人ごっこだなんて欠片も思っていない。
「まさか。俺から終わらせるなんて、するはずないだろ」
 まさかはこっちのセリフだ。まさか、否定されると思わなかった。
「てことは、俺に終わりなって言われる気だった?」
 これはこれで、肯定されたら結局ショックを受けそうだ。
 始まりは確かに成り行きの恋人ごっこだったかもしれないけれど、こちらの想いがちゃんと育っていることを、相手は知っているのだから。言ってくれたらもちろん嬉しいと言われてから先は、好きだの言葉だってそれなりの頻度で口に出してきた。ちゃんと、想いは伝えてきたはずなのに。
「正確には、言わせない気だった。というかさっきのはただの確認」
 良かったと笑う顔は、随分と安堵に満ちている。
「大学卒業までに、お前に、卒業した後も恋人続けようって、思って貰えたらいいなって、ずっと、思ってた。そして、そうなるようにって、動いてたんだよ」
 実ったと笑った今度の顔は満足げだ。その顔と、しみじみと言い募る様子で、以前交わした会話を思い出す。
「あ、じゃあ、もしかして、前に俺から差し出して欲しいって言ってたのって」
 もう待てないと思ったら強引にでも、恩を返せよって言ってでも、彼が欲しいと思っていて、でも出来ればこちらから差し出して欲しかったものってのは、つまり。
「ああ、うん、そう。これ。大学卒業で終わりにならない、お前との関係」
「最悪、恩を返せよって言ってでも、俺と恋人で居続けたいって?」
「そうだよ」
 もう叶ったからなんとでも言えと、拗ねたみたいに少しばかり口を尖らせて見せるから、その唇に吸い付きたいなと思ってしまった。

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いつか、恩返し28

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 大学4年の夏前には内定を貰っていたが、親への報告はしなかった。従兄弟が大学院へ行くつもりだと知った親に、お前も行けと言われていたからだ。せっかく詳しい事情などそう簡単に伝わらない距離にいるのだから、自分から伝えて親の機嫌を損ねるなんてバカらしい。
 そんなわけで、親から電話が掛かってきたのは、従兄弟が大学院合格を自分の親へと知らせた翌日のことだった。近所に住む親戚ではあるけれど、それにしたって情報の伝達が早い。
 お前の方はどうなってるんだ、ちゃんと合格してるんだろうな、なぜ何も知らせてこないんだ、というほぼ一方的な親の言い分をとりあえず全部聞き流した後、そもそも院試など受けていないこと、内定はとっくに出ていること、就職先は当然都内であることなどを告げれば、怒り狂った親に勢いで縁切りと仕送り中断宣言をされたけれど、残り数ヶ月の大学生活を凌げる程度の蓄えはある。さすがに親子の縁を切るとまで言い出したのは驚きだったが、こちらが困ればいいという下らない理由なのは透けていたので、どちらかと言えば開放感の方が大きかった。
 親に縁を切ると言われたって、親が考えるほどには困ったりしない。こちらは後数ヶ月で社会人だし、成人済みだし、従兄弟だっているのだから。
 しかしそんなこちらの気持ちを、傍らで電話を聞いていただけの従兄弟が知る由もない。
「仕送り中断、までは読めてたんだけど、ごめん」
 随分と申し訳無さそうな顔をされてしまって、少々焦る。
「なんでお前が謝るんだよ。むしろお前には感謝しか無いのに」
 院に進む気がないことを、出来る限りギリギリまで隠して置いたほうがいいと言い出したのは従兄弟の方だけれど、その時に二人で色々と相談して、最終的に決めたのは自分だ。それにもし正直に親に伝えていたら、もっと早い時期に仕送りを切られていたかもしれない。
「でもさすがに縁を切るって、大事だろ。随分話が大きくなっちゃったなって」
「あー、いいよいいよ。ほぼ勢いで言ったっぽいし、向こうが困ればシレッとなかったことにして、連絡してきたりしそうだしさ」
「でもお前が困った時は?」
「親よりよっぽど、お前のほうが頼りになると思ってるんだけど」
「え、俺?」
 随分と驚かれたことに、こちらまで驚いた。そこまで驚くようなことを言ったつもりはないんだけど。
「なんだかんだ親に一筆貰うのが楽、って場面は多いと思うけど、保証人関連で真っ先に出てくるのって賃貸関連だし、他にパッと思い浮かぶの、入院だとか手術だとかする場合くらいなんだけど。あー後、緊急連絡先?」
「そりゃ遠くの親より近くの親戚のが頼りやすいだろうけどさ」
 呆れている、というよりはどうやら困惑が強い。困惑させるような事を言ったつもりもないんだけど。
「緊急連絡先が俺になるのは全然いいよ。病気や怪我した時に手を貸したり、入院だ手術だで同意書だの保証書だのにサインするのまでなら俺でもなんとかなるだろうし、逆ならお前がサインする場合もあると思う。今よりは離れるだろうけど、実家よりよっぽど近いとこに住むだろうしさ。でもさすがに大学院生が賃貸の保証人にはなれないだろ」
「あー、それなんだけど、」
 今よりは離れる、と当たり前に口に出されたことで、相手の中では卒業後、お互い別々に新しい生活を始める事になっているんだなと思う。就職した自分が卒業後にどこに住むつもりでいるかを言ったことはないし、そもそも勤務地だってまだはっきりしていないのだけれど、他大学の大学院に進む彼の方は、その大学近くへ越すのが決定済みなんだろう。

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いつか、恩返し27

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「でもベッド行く前にもいっこ聞かせて。恩返し使って俺にねだりたいものって、何?」
「それも言わないとダメ?」
「ダメっつうか、この際だから言っちゃえよってだけ。多分、叶えてやれそうな気がするし」
「ああ、うん。それはね。言ったらお前は俺にそれをくれるだろう、ってのはわかってんだよ」
「なら尚更、さっさと俺にそれをねだればいい」
 うーん……と悩んで渋るから、よほど言いたくないような事なのかも知れない。
「どうしても言いたくないような事なのか?」
「そういうわけでもないんだけど、」
「ないんだけど?」
「くれって言って貰うより、お前から差し出してくれないかなぁ、みたいな期待?」
「なんだそりゃ。俺にそれを察しろって話?」
「違うよ。もうちょっと俺に好きにやらせてくれないか、って話。恩を返せよって言えばお前は俺にそれをくれると思うけど、でも、出来るだけそういう形ではなく、手に入れたい」
 恩を返せの言葉は、どうしても手に入らないとわかった時の最終手段にとっておきたい、ということらしい。
「それにさ、急いでないんだ。今をもっと楽しみたい。もしかしたらいつかお前から差し出してくれるかもって、わくわくした気持ちを持ったまま、もう少し今の関係を続けたい」
 ダメかと聞かれて、ダメだとは言えなかった。
「そりゃ、お前がそうしたいってなら、いいけど」
 ただ、こちらから差し出して欲しい何かとやらに全く見当がついていない。その期待を裏切りそうで不安だという気持ちは間違いなくある。
 まぁ、その時には恩を返せって言って強引に奪い取りに来るのだろうから、そこまで気にしなくてもいいのかもしれないけれど。
「じゃあ、お願いだからそうさせて。あと察してくれと思ってるわけじゃないから、あまり気にせず今までどおりのお前で居てよ。気にするなって方が難しいかもだけど」
 だから言いたくなかったんだよねと苦笑している相手に、気にはするけどそれで察せるかは別問題だからあんま期待されたくないんだけど、と言ってみれば、もう待てないって思ったらちゃんと自分で貰いに行くから大丈夫だと返ってきたから、少しばかり安堵する。本当に好きにやらせてくれるだけでいいんだと、念を押すように言われてわかったと返した。
 多分、勝算があるんだろう。こちらが頑張って察しようとしなくたって、いつの間にか誘導されて、いつの日か当たり前みたいに差し出してしまうのかもしれない。
 ああ、きっとそうに違いない。いつか、本当にそうなればいい。
「よし、じゃ、ベッド行こっか」
 もっかい抱かせてと繰り返し告げながら、今度こそ立ち上がる。うん、という返事と共に、背後で相手が立ち上がるのがわかった。

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いつか、恩返し26

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「ねぇ、好き」
 笑い混じりに飛んできた声に、またか、とは思わなかった。好きだと思った気持ちをただ零しているだけ、とか言っていたけれど、さすがにこれは違うとわかる。
 応じてくれと願う気持ちと、こちらがそれに気づいて応じるだろう確信とが、微妙に混じった色合いの声音だと思う。ねぇ、お前は? と続かなかった、彼の声を聞いた気がした。
「あー……俺も、好き」
 ふふっと柔らかな笑いが漏れて、しみじみとした声が嬉しいなぁと続くから、姿は見ていないのに、嬉しそうにはにかんでいる姿が容易に想像できてしまう。
「あのさ、俺、ちゃんとお前のこと好きになってるよ?」
「うん。それは知ってる」
「もしかして、もっと俺にも好きって言って欲しかった?」
 好きだ好きだと繰り返し口にだすのは、こちらにも同じように、好きだと言葉に出して言って欲しい気持ちがあっての事だったんだろうか。しかしそれはすぐに、あっさり否定されてしまう。
「言ってくれたらそりゃ嬉しいけど、お前が感じてる裏ってやつとは違うかな」
「で、それを言う気はやっぱないの?」
「いや、言うよ。でも本当に、ただただ声に出して好きって言いたい、伝えたいって気持ちが大半なんだよ」
 そこは信じてねと言うので、信じてるよと返した。別に疑ったりしていない。
「ただ、好きだ好きだって聞かされるお前が、俺のお前が好きって気持ちを意識して、お前の中の俺を好きって気持ちを育ててくれそうな気がすると言うか、そういうの狙う気持ちもなくはない。のも事実。で、あとこれ言っちゃったら、お前意識的にそうしてくれちゃうだろうから、なんかちょっと、さすがに言うの躊躇った」
「あー……その、言ってることは理解したんだけど……」
「したんだけど……?」
 途端に不安そうな声になるのも含めて、くっそ可愛い、なんて思われている事実を、突きつけてやるべきなのかは少々迷う。
 理由を聞きながら、なんだそれ、と思っていたのだ。いっぱい好きって言ったら、こちらの好きも育つかもだなんて、そんな事を考えていたとは思わなかった。
 好きになってる、というこちらの言葉に、すんなり知ってると返してくるくせに、でも本心ではもっともっと好きになって欲しいと思っていたらしい。でも直接それを言うことが出来なくて、もしくはなるべく直接言いたくはなくて、そんな健気で可愛らしい努力を重ねていたのかと思うと、たまらない気持ちになる。
「いやぁ、なんつうか、お前、ホント俺に対して健気すぎて困る」
「ああ、ごめん。さすがに自分でも、随分と健気でいじらしい努力をしてるなって、笑いたくなる事あるわ」
 だから言いたくなかったのもあると、苦笑交じりに告げられて、そうじゃないと思う。
「困るってそういう意味じゃない。なんなら今からもう一回抱きたいくらい可愛いこと言ってる自覚、ないだろ」
「えっ?」
「もっかい抱きたい。そこそこ寝たし、体、大丈夫だろ?」
「え、そりゃ、いいけど。え、本気で?」
 本気でと返しながらも、立ち上がることもしなかったし、振り返ることすらしていない。だってまだ、聞きたいことが残っている。
 この際だから、いつか恩返ししたい気持ちを利用してでも欲しいもの、とやらを聞き出しておこうと思っていた。だってそれもきっと、健気で可愛らしい要求なんじゃ、という気がしてならない。

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いつか、恩返し25

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 口に出して伝えれば、お前ってさぁ、とやっぱり呆れたような声を出した後、口元を覆ってしまった相手が、顔を隠すように深く俯いてしまう。
「ちょ、なんだよ」
 不満げな声を上げても反応がない。どうしたんだとジッと見つめてしまえば、肩が小刻みに震えているような気がした。
「なぁ、おい。どうした? なんとか言えって。なぁ」
「ごめっ、……」
 何が起きているのかわからない不安から急かしてしまえば、苦しげな息と共に謝罪が吐き出されてきて驚いたなんでものじゃない。
「えっ?」
「も、ちょっと、待って」
 震える声を詰まらせる相手は、多分、間違いなく、泣いている。
「お前、まさか、泣いてんの!?」
「ごめん、違う、から」
「違うって何が? 泣いてるだろ? あ、いや、別に泣いてるのを責めてるわけじゃなくて、というか、泣かすほど酷いこと言ったか、俺」
 酷いことを言った自覚が全くないから焦ってしまう。ちゃんと彼へと向かう想いが育っている、というのを、喜ばれることはあっても泣かれるほど嫌がられるなんて思ってなかったから、それがショックだというのもきっと大きい。
「ちがっ、ちがう、から。待って。誤解」
 ぐいと目元を拭う仕草の後、ようやく顔をあげた彼の目元は真っ赤になって潤んでいた。震えながら何かを吐き出そうとした口は、結局すぐに彼の手によって覆い隠されてしまう。
「あー……っと、俺こそ急かして、ゴメン」
 罪悪感が半端ない。
「落ち着くで待つ。待つから、話できるようになったら声かけて」
 今度はこちらが逃げるように、くるりと相手に背中を向けた。
「ありがと」
「いいって」
「あのさ、ホント、ごめん。お前が悪いわけじゃないから。というか、出来ればそのまま聞いてて欲しいんだけど、いい?」
「そりゃいいけど、大丈夫なのかよ」
 まだところどころ声が詰まっているから、無理をしているんじゃないかと思う。
「無理させたいわけじゃないし、ちゃんと待つけど」
「ん。大丈夫。好きだよ」
「ははっ、またそれか」
「うん、だって、言いたい。言われたくないと思ってないなら、言わせて」
「好きって言われたら嬉しいよ。なんか裏がありそうと思ったりはするけど、実際何かあるっぽいけど、それでもちゃんと嬉しい」
「うん。俺も、嬉しい」
「好きって言うのが?」
「そう。好きって言っていいのが。あと、お前が嬉しいよって言うのが。嬉しいよ」
「そっか」
「後ね、さっき泣いたのも、お前に言われたことが嫌だったとか、ショックだったとかじゃなくて、嬉しかったからだよ」
「は?」
 そう話が繋がっていくのかと思いながらも、さすがに受け止めきれず、とっさに聞き返してしまった。
「嬉しかった」
 念を押すように繰り返されてしまえば、こちらももう、受け止めるしか無い。
「そうなんだ」
「ん、そう。顔見られたくないのも、実は、口元へらへら笑ってる自覚があるからで、」
「まじか」
 驚きすぎて、相手の言葉を遮るように発した後、口元をへらへら嬉しげに歪ませる相手を想像して笑ってしまった。
「まじだよ」
 返される肯定も、若干笑いが混じっているようだ。
「なんだ、なら、良かった」
 ホッとしてこぼせば、相手が笑う気配が強くなっていく。

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