いつか、恩返し25

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 口に出して伝えれば、お前ってさぁ、とやっぱり呆れたような声を出した後、口元を覆ってしまった相手が、顔を隠すように深く俯いてしまう。
「ちょ、なんだよ」
 不満げな声を上げても反応がない。どうしたんだとジッと見つめてしまえば、肩が小刻みに震えているような気がした。
「なぁ、おい。どうした? なんとか言えって。なぁ」
「ごめっ、……」
 何が起きているのかわからない不安から急かしてしまえば、苦しげな息と共に謝罪が吐き出されてきて驚いたなんでものじゃない。
「えっ?」
「も、ちょっと、待って」
 震える声を詰まらせる相手は、多分、間違いなく、泣いている。
「お前、まさか、泣いてんの!?」
「ごめん、違う、から」
「違うって何が? 泣いてるだろ? あ、いや、別に泣いてるのを責めてるわけじゃなくて、というか、泣かすほど酷いこと言ったか、俺」
 酷いことを言った自覚が全くないから焦ってしまう。ちゃんと彼へと向かう想いが育っている、というのを、喜ばれることはあっても泣かれるほど嫌がられるなんて思ってなかったから、それがショックだというのもきっと大きい。
「ちがっ、ちがう、から。待って。誤解」
 ぐいと目元を拭う仕草の後、ようやく顔をあげた彼の目元は真っ赤になって潤んでいた。震えながら何かを吐き出そうとした口は、結局すぐに彼の手によって覆い隠されてしまう。
「あー……っと、俺こそ急かして、ゴメン」
 罪悪感が半端ない。
「落ち着くで待つ。待つから、話できるようになったら声かけて」
 今度はこちらが逃げるように、くるりと相手に背中を向けた。
「ありがと」
「いいって」
「あのさ、ホント、ごめん。お前が悪いわけじゃないから。というか、出来ればそのまま聞いてて欲しいんだけど、いい?」
「そりゃいいけど、大丈夫なのかよ」
 まだところどころ声が詰まっているから、無理をしているんじゃないかと思う。
「無理させたいわけじゃないし、ちゃんと待つけど」
「ん。大丈夫。好きだよ」
「ははっ、またそれか」
「うん、だって、言いたい。言われたくないと思ってないなら、言わせて」
「好きって言われたら嬉しいよ。なんか裏がありそうと思ったりはするけど、実際何かあるっぽいけど、それでもちゃんと嬉しい」
「うん。俺も、嬉しい」
「好きって言うのが?」
「そう。好きって言っていいのが。あと、お前が嬉しいよって言うのが。嬉しいよ」
「そっか」
「後ね、さっき泣いたのも、お前に言われたことが嫌だったとか、ショックだったとかじゃなくて、嬉しかったからだよ」
「は?」
 そう話が繋がっていくのかと思いながらも、さすがに受け止めきれず、とっさに聞き返してしまった。
「嬉しかった」
 念を押すように繰り返されてしまえば、こちらももう、受け止めるしか無い。
「そうなんだ」
「ん、そう。顔見られたくないのも、実は、口元へらへら笑ってる自覚があるからで、」
「まじか」
 驚きすぎて、相手の言葉を遮るように発した後、口元をへらへら嬉しげに歪ませる相手を想像して笑ってしまった。
「まじだよ」
 返される肯定も、若干笑いが混じっているようだ。
「なんだ、なら、良かった」
 ホッとしてこぼせば、相手が笑う気配が強くなっていく。

続きました→

 
 
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