理解できない19

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 この家に住むようになってから先、一番近くで見守り、支え続けてくれたのはもちろん間違いなく彼だ。保護者代わりに、家族として弟の面倒をみるような心積もりで、随分と甘やかされていたのだという事も、今はもう理解できていると思う。
 だからこそ、高校を卒業して、ある程度お金が貯まったらこの家を出て行くとしても、それで彼との縁まで切る気はなかったし、切れないと思っていた。
「頼らずにというか、一人でも大丈夫ってとこを見せたい気持ちは、そりゃあるよ。でも、もし、一人じゃどうにも出来なくて困ったら、頼ってもいいんだと、思ってた」
「それをダメだなんて言ってないだろ。うちの親の手にあまりそうだとか、相談しにくいとか、そういう困りごとなら連絡してくればいい。いきなり一人でも大丈夫を見せようとするんじゃなくて、俺が側にいてしょっちゅう気にかけてやらなくても大丈夫だって事を、まずは見せるんでいいじゃないか」
 それは、そうなのかも知れない。段階を踏めと言われているだけで、卒業だなんだと言いながらも、結局はこちらを案じてくれている。
「俺はこの家の実の息子だから、家を出たって気軽に顔を出しやすいし、親の手を借りたければ手を貸してくれとも言いやすい。でもお前は一度ここを出たら、そう気軽に、俺達に困った助けてを言えるタイプじゃないだろ。独り立ちの準備は、まずは俺と少し離れて、その上でじっくりするといい」
 ただただこちらを案じてくれている、という考えを肯定するかのように、彼の言葉が続いている。
 でもそれがわかっても依然として不安が付きまとうのは、高校を卒業したら変わると思っていた関係が、自分の思っていたものと違うせいだと気づいた。どのみち縁は切れないだろうと思っていたその根拠は、卒業後には今までの礼を体で支払う関係に変わると思っていたせいだ。たくさんのものを貰ってきたのだから、分割払いは必至と思っていて、この家を出ようと当分は定期的に体を重ねる機会があるはずだと考えていた。中学最後の年の半年と、高校の三年間と。合わせて三年半くらいは、そんな関係が続くんじゃないかと思っていた。
 相手に頼りたい困りごとがあったとして、自ら相手に連絡をとって、相談をして、なんて工程はどうやら考えていなかった。
「俺が困らなかったら、どうするの」
「どうするって?」
「そっちから俺を呼び出すことは? ないの?」
 これに頷かれてしまったら、どうしよう。寒さなんて感じないはずの季節なのに、なんだか肌寒くて、思わず腕をさすってしまう。
「たまには何か奢ってくれってなら、懐があったかい時に呼び出すくらいは、まぁ、考えないこともないけど……」
「違うっ」
 そうじゃなくて、と吐き出す声はどうしようもなく震えてしまった。
「ねぇ、俺とのセックス、良くなかったとは言わないよね?」
「なんでここでセックスが? というか、さっきの。お前を抱かせろって意味での呼び出しをするか、って話なら、そんなのするわけないだろ」
「なんで? だって高校卒業、したんだよ?」
「それこそなんで、だ。約束通り抱いたし、今までの礼も受け取ったろ」
「全然返し足りてないし、俺を好きって言ったのに?」
「好きだと思うからこそだ」
 静かに言い募る相手の視線が突き刺さる。怒らせた、のかも知れない。でも理由がわからないし、ここで引けるわけもない。
「わかんないよ。こっちの気持ちはともかくとして、これ以上の礼なんて要らないって理由はまだわかるよ。でも、好きな子が抱いていいよって言ってるのに、それを抱かない理由なんてある?」
「あるよ。お前が理解するかはわからないけど、好きな子が体を差し出してくれる理由が、俺を好きだから以外のものなら、それを受け取って抱くのは苦しさが伴う。あの日俺は何度もお前に好きだと言ったけれど、お前の口から好きだと返ることは一回もなかっただろ。だからもう、俺はお前を抱きたいとは思わない」
 お前を抱いても苦しいばかりだから、と言われて心臓が嫌な感じにバクバクと鼓動を刻んで胸が痛い。次はもうないのだと、こんなにもはっきりと言い切られて、予感はしっかりあったものの、それでもやっぱり辛すぎた。

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理解できない18

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 肯定が返るんだろうという予想がありながらも、確かめるように決定事項なのかを問えば、やはりあっさり頷かれてしまう。
「ああ。急いで出てこうとまでは思ってないけど、条件の良い物件が見つかれば」
 どうやら週末家に居ないのは、不動産屋を巡っているかららしい。
「俺、何か、した?」
「いや。お前は何もしてない」
 たまらなくなって聞いてしまえば、こちらはすぐに否定される。知らず識らずのうちに何か不快な真似をしていて嫌われたのかと思ったけれど、そうじゃないならなんで、と思う。
「じゃあなんで、俺を、捨てるの」
 口に出してしまってから、そうだ捨てられるんだと、この状況を理解してしまって悲しくなる。好きって言ったくせに。あんなに大事そうに抱いてくれたくせに。
「お前は俺のものってわけじゃないのに、そのお前をどう捨てろって?」
 苦笑しながら、捨てて出ていくんじゃなくて卒業したから出ていくんだと続いた言葉の意味は、わかるようでわからない。
「俺に構うのを止めてこの家を出てくって意味では、どっちも同じだ」
「俺にとってはちっとも同じじゃない。お前を俺のものだなんて言えないから、連れて行くのを諦めただけだ」
「連れて行く? 俺を連れて、一緒にこの家を出るの? それは一緒に暮らすって事?」
「そうだよ。そうなったらいいと思ってたけど、そう上手くは進まなかった」
「え、なんで? 連れて行ってよ。一緒に行きたい」
「ダメだ。お前を連れて行く理由がない」
 保護者も家族も卒業しただろうと言われて、自分の高校卒業以上に、彼の卒業がオオゴトになっていて困惑する。こんなことになるなら、何を卒業するのなんて聞かなければよかった。一緒に卒業旅行を、だなんて考えなければよかった。
「知ってたら、一緒に卒業旅行なんて行かなかったのに」
 そうだ。卒業旅行はとても楽しかったけれど、こうなるって知ってたら、行かない方を選んでいた。そもそも、彼が誘ってこなければ、卒業旅行をする予定なんてなかったのだから。
「一緒に卒業旅行に行かなくたって、お前が高校卒業したら、俺はお前の保護者も家族も辞める気だったよ。じゃなきゃ、お前のことをいつまでも抱けない」
 自分の保護下にいる弟のような存在相手とセックスなんて出来ないからと、高校生はまだ子供だ、高校生のうちはダメだ、と言っていたのと同じ顔で告げられた。
「でも、でも、俺を連れて出ていく可能性も、あったんでしょ。保護者と家族を卒業するのが決定事項だったなら、保護しなきゃいけない弟じゃなくなった俺を、それでも一緒に連れて行く方法が。ねぇ、何をすればいいの。今からじゃもう、間に合わないの?」
 出ていくのは決定事項でもまだ物件は見つかってないと言っていたのだから、今からでもどうにかなるんじゃないかと、必死になって考える。
「なぁ、なるべく早くこの家を出ていって独り立ちしたいって考えてるお前が、俺についてきたいと言うそれは、矛盾してると思わないか?」
「そ、それは……」
「俺が先にこの家を出るのは、お前がこの家を出て一人で何もかもを背負うには、さすがに早すぎると思うからだよ。俺のが断然稼いでるってのも、もちろん大きい。なるべく早くこの家を出ていきたいって考えてるくらいなんだから、当然、俺に頼らず生きたい気持ちだってあるだろう?」
 家を出るって言ったくらいでそんなに狼狽えるなよと言われたって困る。自分から出ていくのと、置いていかれるのは絶対に違う。だって胸の中の不安はちっとも晴れてない。捨てていくを否定されても、悲しい気持ちだってそのままだ。

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理解できない17

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 キスをした最初に、ちっとも下手じゃないなと思ったけれど、慣らされてる間も、体を繋げてから先も、同じことを何度も思った。同じ事をどころか、上手いなとすら思っていた。しかもそんな男が、気持ちよくしてやりたいって思いながら、好きだと繰り返しながら、触れてくるのだ。
 久々で不安だったはずのセックスは、びっくりするほど気持ちが良かった。こんなに気持ちよくなってしまったのは初めてだ、ってくらいに。
 ずっとおあずけを食らって、早く抱かれたいって思いを何年も抱えていた相手だからだろうか。必要がないと言われているところを、自分から望んで抱かれているという意識があったせいだろうか。自分の中にはっきりと、相手へ返したい感謝の気持ちがあったからだろうか。
 そもそも、嫌だという気持ちを飲み込んで、仕方なく、全く気乗りがしない中で抱かれるのだって、それなりに気持ち良くなれてしまうような体なのだから、初めてそういった感情を持たずに抱かれた結果と考えたら、めちゃくちゃ気持ちが良かったのも当然といえば当然なのかも知れないけれど。
 もちろん自分ばっかり気持ちよくなって終わったわけじゃない。フェラでイカせた分も含めたら合計三回イッた相手だってちゃんと楽しんでくれてたと思うし、もっと続けてもいいよって誘いを充分満足したからと言って断ったのだから、その言葉を信じるなら満足してくれたはずだ。
 なのに。
「ねえ、もしかして俺のこと、避けてる?」
「は? 避けてたら今お前の目の前に居ないだろ」
「そう、だけど。でも、随分放ったらかされてる。よね?」
 週末家に居ないことが増えたし、お土産だの差し入れだの言いながら部屋に入り込んでくる事も減った。というか、こんな風に部屋で向かい合ってお菓子をつつくのなんて、二ヶ月ぶりくらいじゃないかと思う。
 こっちも学生じゃなくなって、ガラリと変わった環境に何かと忙しかったのもあって、あまり気にしないようにしてたけど。でも、なんだか少しずつ距離を置かれている気がするし、何より二回目の誘いが一向に掛からない。
「放ったらかしっていうか、お前の保護者卒業したんだから、あんまり構うのもどうかと思って。もちろん、保護者やら家族やら卒業したって、何か困ったこと起きてるなら相談にはのるけど」
 何かあったかと聞かれて首を振って否定したけれど、急に不安が胸の中に大きく広がってしまったから、相手は何もないとは信じられなかったらしい。
「何があった?」
「何も、ない。本当に」
「顔色悪いぞ?」
「だ、って、保護者卒業したから構うのやめる、なんて聞いてない」
「あー……それは、悪かったよ。ただ、お前だっていつまでも俺にあれこれ干渉されたくないだろうと思ったし、金銭的にだって随分余裕出来ただろうから、俺が差し入れなくたって、いくらでも自分で好きなもの買って食べれるだろ?」
「お金貯めたいし、余裕なんて、全然ないよ」
 何か欲しいものでもあるのかと聞かれて、なるべく早く家を出たいのだと告げた。実親から最低限の生活費が払われるのは高校卒業までってことも、早く自立したいと思っていることも知っているはずの相手は、そんなに急がなくていいよと言う。
「俺が出てくから、お前はゆっくり独立資金をためたらいい」
「は? 俺の自立とそっちが家を出ることに何の関係があるの? というか、出てくってどういうこと?」
 聞いてないと言えば、迷ってたからと返ってくる。迷ってるってことすら、欠片も聞いてない。胸の中は既に不安でいっぱいなのに、これ以上不安を増やさないで欲しかった。

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理解できない16

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 それなりに準備の出来ている体を、これでもかってくらいに改めて丁寧に解されるのだって、しつこいだとかねちっこいだとか思うより先に、嬉しいと思ってしまう。大事に触れて貰っている証拠みたいだと思ったし、大事にされるのは好かれているからなんだとも思った。
 アッアと気持ちよく喘ぐ合間に、フッフと小さな笑いが交じる。嬉しい気持ちが溢れていく。
「ちょっと、意外だな」
 にやける頬をさらりと撫でられながら不思議そうに言われて、何が、と思う。思うまま、口に出して聞いていた。
「意外って?」
「お前が俺に抱かれたがるのは、手っ取り早く借りを返す方法として最適と思ってるから、ってだけだと思ってた。というか、抱かれるって行為そのものは好きじゃないと思ってたから、今、嬉しそうにされて少しビックリしてるんだよ」
 こんなとこ好き勝手弄られても嫌じゃない? と聞かれながら、お尻の穴に嵌っている指を揺らされる。
「ぁんっ、や、じゃない、よ」
「なら、良かった」
 少しホッとしたように微笑まれて、手っ取り早く借りを返す方法として最適と思っているのも、抱かれるのが好きじゃないのも事実だ、とは言えなくなった。上手にされれば体は気持ちよくなれるけれど、だからって自ら進んで抱かれたいなんて思ったことはない。必要がないならしたくない。
 だったら、既に支払いは終わっているから改めて礼なんていらないって言うこの人に、わざわざ抱かれる事もないだろうって言われそうだけれど。でも支払いなしでいいなんてラッキーだって流してしまえないくらい、この人にはたくさんのものを貰ってきたから、相手の中で既に収支が釣り合っていようと、ちゃんとお返しがしたかった。
 このセックスを金銭換算する気がないなら、この際もうそれでいい。支払うべき額もはっきりしないどころか、支払わなくていいと言われているのだから、このセックスに値段が付かなくたってなんの問題もない。
 つまりはお礼の気持ちってやつだ。多分。本当に返したいのはきっと感謝の気持ちで、この体以上に彼が喜んで貰える何かが思いつかないし、相手からだって代案を提示されなかったのだから、この体を差し出すのが最適という判断になるのは当然だと思う。
「ねぇ」
 足を抱え上げられ、挿入されるその瞬間。甘えるように呼びかけながら両腕を伸ばした。
「ぁ、ぁっ、ぁあっっ」
 すぐさま肩に手が触れる程度に前傾してくれた相手に縋りながら、久々に体を貫かれる衝撃をやりすごす。
 心配そうに見下ろしてくる視線に大丈夫と示すように笑って見せて、もう一度、ねぇと呼びかけながら相手の肩を掴んだまま腕を引けば、どうしたと言いながらあっさり上体ごと寄せられてくる。
「好き、って言って。あと、出来ればキス、も」
 酷く驚かせた様子で、手の中の相手の肩が強張るのがわかった。ここまで驚かれる理由がわからないし、そもそも、あれきり好きだと言われないことも、一度はあんなにも長く触れ合ったキスがそれっきりなのも、こちらからすればなんだかよくわからない状況なのだけれど。
「だめ?」
「いや、だめじゃない」
 好きの言葉やキスをねだる代わりに、改めて何かを差し出す必要があるのかと思いながら尋ねた声にはすぐに否定が返る。
「なら、」
「好きだよ」
 好きだと言ってキスをして、という言葉を繰り返すより早く、望んだ通りの言葉と共に唇が塞がれた。

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理解できない15

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 応じるみたいに好きだよと囁かれて、優しい顔が近づいてくる。キスをされるのだと思ってそっと目を閉じたのに、唇が触れたのは先程親指に撫でられた目尻の辺りだった。
 相変わらず言葉と行動がなんとなくチグハグだ、と思った。保護者と家族は卒業したと言っていたくせに。気遣いのようなものは感じるが、好きな子を抱きたいという欲のようなものは感じられない。
「キスひとつちゃんと口にはしてこないで、その好きを信じろって言うの?」
「お前が黙って目を閉じる理由を知ってるのに、口にキスできるわけ無いだろ」
 したい気持ちがないわけじゃないよと言いながら、親指がふにっと唇に押し当てられる。けれど結局その指だって、やっぱりあっさりと外されてしまう。本当に、欲を感じない。
 したい気持ちはある、という言葉への信頼まで崩れて行きそうで、なんだか泣いてしまいそうだった。ここはラブホの一室で、今までとは違ういやらしい触れ方で体を洗われて、フェラで相手をイカせてそれを飲み下した後だと言うのに、やっぱりセックスはなしと言われる可能性を考えてしまう。
 だってずっと、相手のくれる言葉だけが頼りだった。抱きたい気持ちがあるという言葉を信じてたから、高校生相手には出来ないとの言葉を信じていたから、待っていたのに。
「どうしたら口にキスしてくれるの? まさか、セックスの最中もキスはしないつもりでいるの? それとも、ここまできといて、抱くのなしって言い出す気?」
 高校卒業するまでどんだけ待たされたと思ってるのと、恨みがましく言ってしまえば、諦めた様子でため息がひとつ。
「お前がどうしても、今までの礼をセックスで返さないと気が済まないって言うなら、このまま抱くし、まぁ、セックスの一部としてのキスは、するよ」
「じゃあして。早く。いますぐに」
 まだ抱いてくれる気が残っているらしいと知って、食い気味に急かしてしまった。だってダラダラと話していたら、したくないって方向にどんどん相手の気持ちが流れてしまうんじゃないかと不安だった。
 わかった、という短な了承の後、再度顔が寄せられて今度こそ唇が触れ合った。食い気味に急かしたおかげか、唇に吸い付かれて食まれて、口を開けばすぐに舌が差し込まれてくる。
 今度こそはっきりと感じる相手の欲に、ホッとして体の力が抜けていく。別にちっとも下手じゃないと思いながら、応じるように舌を差し出し絡めて、口内を擽られる気持ちよさに身を委ねた。
 相手の腕にしっかりと体を支えられているので、どれだけ快感に没頭していても体が崩れ落ちてキスが中断してしまう、なんてことは起こらない。もちろん嫌がって相手を押し返す真似をするはずもなく、つまり、ひどく長々とキスを、キスだけを、続けていた。
 セックスの一部としてのキス、にしてはあまりに長い気がしたし、こんなにキスばかりに時間を掛けてくれる事こそが、大事にされているという気にさせる。先程聞いた、好きだよの言葉が時折頭の中に繰り返し響いて、じわじわと嬉しくなる。
 気持ちよくして欲しいよりも気持ちよくしてやりたい、なんてことを言ってもいたから、キスだけでもこんなにはっきりと快感を示している自分に、相手も安心しているだろうか。
「んっ、ふぁっ、ぁふん」
 だったらいいなと思いながら、合わさる口の隙間から甘やかな吐息をこぼして、こんなにも気持ちがいいと、少しでもたくさん相手に伝えようとした。

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理解できない14

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 やがてゆっくりと頭を上げた相手は、やっぱり困った様子の苦笑を湛えている。
「俺にその体で、というか抱かれることで、今までの礼を支払いたいって気持ちは、やっぱり変えようがないか?」
「変えようって?」
「お前に菓子やら貢ぐ礼ならハグで充分だって、散々言ってきただろ。お前がくれるハグを俺がどれだけ喜んでるか、躊躇いなく伸ばされる腕にどれほど満足してるかだって、伝えてきたつもりなんだけど」
「うん、だから、お菓子とかお土産とか色々貰った分までは払わなくていいんだなって、ちゃんとわかってる、つもり、だけど。でもそれ以外に貰ってきたものへの礼は必要だし、高校卒業したら抱くつもりがあるって言われ続けてたんだから、やっと返していけるって思うの、変じゃない、よね?」
 さっきだって、こちらの言い分をわかると言っていたのだから、多分これだってそこまでオカシナ事を言っているわけではないはずだ。でも、自信がない。だって、まるで支払わなくていい、みたいな言い方をした。お礼がしたい気持ちを変えれないのかってのは、礼なんて要らないって事に聞こえる。
「あー……そうか、それは、……」
「やっぱ何か変?」
「いや。貢物以外に対する礼がしたい、って話だとは思ってなかった俺が、とんでもなくバカだったってわかっただけ」
 そりゃ通じてないわけだと納得されてしまったけれど、当然こちらからは、相手が何を納得しているかがわからない。ついでに言うなら、貢物以外に対する礼がしたい、という話だと思われていなかったこちら側こそ、通じてなかったのかと意気消沈な場面だと思う。
「俺に何が通じてないの?」
「高校卒業したら抱きたいってのは、お前を抱ける状態になってから礼をしろなんて意味じゃなかったんだよ。そもそも礼なんて要らないというか、菓子やら目に見える貢物にはちゃんとハグで返して貰ってたってのが理解出来るなら、俺がお前に関わってあれこれやってきた目に見えない物への礼だって、目に見えなかっただけでちゃんと返して貰ってたって言えば理解できるか?」
 ああ、やっぱり礼なんて要らないって思われている。今までの礼を受け取って欲しい気持ちとか、やっと返せるんだと喜んでいた気持ちとか、それらの持って行き場がわからなくて胸の中が重苦しい。
「目に見えない何かを返した記憶なんて欠片もないけど」
 こんな風に何も返してないと言い張るのはただの悪あがきだとわかっている。こちらに礼を返した認識がなくたって、相手は返して貰ったと言い切っているのだし、認識のあるなしなんて問題にしてくれそうにない。きっと、胸の中に重く伸し掛かっている気持ちを、相手が受け取ってくれることはない。
「それ言うなら俺だって、お前がそれ以外に貰ってきたものへの礼がとか言いだすまで、目に見えないような気遣いだとかを、お前に対して与えてきた物だって意識がなかったよ」
「意識できたなら改めて礼を要求しよう、ってなったっていいとこだと思うんだけど。なんで既にそれらへの礼も返して貰ってるって言っちゃうの。俺を抱いて、今までの礼を取り立ててくれる気がないなら、なんで俺を抱こうとしてるの?」
 ほらね。と思いながらも納得も諦めも出来なくて、相手を睨みつけてしまう。
 どうせもっと困らせるんだろうと思ったのに、相手は困り顔の苦笑を深めたりはしなかった。むしろ苦笑に歪んでいた口元が柔らかに緩んで、随分と優しい顔になった。
「好きな子を抱きたいって思うのは当然の欲求だと、俺は思ってるんだけど」
 左頬が暖かな手の平に包まれる。親指が目尻をそっと撫でるのに合わせて、相手を睨みつけている目元から力が抜けていくのがわかる。
「好きな子……」
 口を動かす筋肉からも力が抜けたみたいに、漏れ出る声もぼんやりとしていた。

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