理解できない18

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 肯定が返るんだろうという予想がありながらも、確かめるように決定事項なのかを問えば、やはりあっさり頷かれてしまう。
「ああ。急いで出てこうとまでは思ってないけど、条件の良い物件が見つかれば」
 どうやら週末家に居ないのは、不動産屋を巡っているかららしい。
「俺、何か、した?」
「いや。お前は何もしてない」
 たまらなくなって聞いてしまえば、こちらはすぐに否定される。知らず識らずのうちに何か不快な真似をしていて嫌われたのかと思ったけれど、そうじゃないならなんで、と思う。
「じゃあなんで、俺を、捨てるの」
 口に出してしまってから、そうだ捨てられるんだと、この状況を理解してしまって悲しくなる。好きって言ったくせに。あんなに大事そうに抱いてくれたくせに。
「お前は俺のものってわけじゃないのに、そのお前をどう捨てろって?」
 苦笑しながら、捨てて出ていくんじゃなくて卒業したから出ていくんだと続いた言葉の意味は、わかるようでわからない。
「俺に構うのを止めてこの家を出てくって意味では、どっちも同じだ」
「俺にとってはちっとも同じじゃない。お前を俺のものだなんて言えないから、連れて行くのを諦めただけだ」
「連れて行く? 俺を連れて、一緒にこの家を出るの? それは一緒に暮らすって事?」
「そうだよ。そうなったらいいと思ってたけど、そう上手くは進まなかった」
「え、なんで? 連れて行ってよ。一緒に行きたい」
「ダメだ。お前を連れて行く理由がない」
 保護者も家族も卒業しただろうと言われて、自分の高校卒業以上に、彼の卒業がオオゴトになっていて困惑する。こんなことになるなら、何を卒業するのなんて聞かなければよかった。一緒に卒業旅行を、だなんて考えなければよかった。
「知ってたら、一緒に卒業旅行なんて行かなかったのに」
 そうだ。卒業旅行はとても楽しかったけれど、こうなるって知ってたら、行かない方を選んでいた。そもそも、彼が誘ってこなければ、卒業旅行をする予定なんてなかったのだから。
「一緒に卒業旅行に行かなくたって、お前が高校卒業したら、俺はお前の保護者も家族も辞める気だったよ。じゃなきゃ、お前のことをいつまでも抱けない」
 自分の保護下にいる弟のような存在相手とセックスなんて出来ないからと、高校生はまだ子供だ、高校生のうちはダメだ、と言っていたのと同じ顔で告げられた。
「でも、でも、俺を連れて出ていく可能性も、あったんでしょ。保護者と家族を卒業するのが決定事項だったなら、保護しなきゃいけない弟じゃなくなった俺を、それでも一緒に連れて行く方法が。ねぇ、何をすればいいの。今からじゃもう、間に合わないの?」
 出ていくのは決定事項でもまだ物件は見つかってないと言っていたのだから、今からでもどうにかなるんじゃないかと、必死になって考える。
「なぁ、なるべく早くこの家を出ていって独り立ちしたいって考えてるお前が、俺についてきたいと言うそれは、矛盾してると思わないか?」
「そ、それは……」
「俺が先にこの家を出るのは、お前がこの家を出て一人で何もかもを背負うには、さすがに早すぎると思うからだよ。俺のが断然稼いでるってのも、もちろん大きい。なるべく早くこの家を出ていきたいって考えてるくらいなんだから、当然、俺に頼らず生きたい気持ちだってあるだろう?」
 家を出るって言ったくらいでそんなに狼狽えるなよと言われたって困る。自分から出ていくのと、置いていかれるのは絶対に違う。だって胸の中の不安はちっとも晴れてない。捨てていくを否定されても、悲しい気持ちだってそのままだ。

続きました→

 
 
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