竜人はご飯だったはずなのに8

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 毎回、彼が本来の姿に戻るところを見ているけれど、いつもは薬の効果が切れて性器も萎えきった状態で戻るから、竜人の勃起状態のペニスというものがどういうものかというのはさっぱりわからない。だから一度繋がりを解いてから戻ってもらって、じっくり観察したい気持ちもなくはなかった。ただ、これ以上焦らさないのが条件だったし、なにより誓うと告げた直後には、あっさり魔法を解かれてしまったので口にだすことはしなかった。
 それでも頭のなかでは、終えた後にすぐ抜けば竜人のペニスが拝めるだろうか、なんてことを考える。しかしそんな事を考えていられたのは、人の姿が魔法特有の淡い光に包まれぼやけている間くらいだった。
「ぁ、っ……ちょっ……なに、これ……」
「大きさはそこまで変わらないはずだが?」
「サイズ、じゃ、なくてっ」
 いや、サイズも確実に違うけど。慣れきった穴でも、ミッチリ感増したけど。
「かた、ち?」
「多少凹凸が変わった程度のことが、腹の中でわかるものなのか」
「たしょう、じゃ、ねぇっ」
 腹の中が圧迫される位置が大きく変わった気がする。そんなことがわかってしまう程度に、人の姿の彼のペニスを、自分の腹の中は覚えてしまっているってことでもあるけれど。
 確かめるようにそっと腰を持ち上げていく。ズルズルと腸壁を擦っていけば、より一層、凹凸の違いを感じ取ってしまう。人型の時に比べて、圧倒的に、凹凸が増えている。そしてそれぞれの段差がデカイ。一度のストロークで受ける刺激が倍増どころじゃなかった。
「あっ、……ぁんっ……んんっ……」
「焦らさないんじゃなかったのか?」
 こちらが感じすぎてしまって、相手をイカせるほどの激しい動きが全然出来ていない自覚はある。
「いや、だって、こんなの聞いて、ない」
「同感だ。同じ人型での行為より、こちらの姿のほうが圧倒的に感じる、なんて聞いてない」
 次回からはもう少し積極的に応じることも考えるなんて言ってくれたのは嬉しいけれど、応じるなら今回と同じように、魔法を解くのは最後だけがいいと返した。
「これで一晩抱かれんのは、ちょっと、むり」
 善すぎて最後までこちらの体が持たないと思う。
「そんなにか?」
「ん、凄い、イイ。ついでに眺めも、いい」
 自分よりもずっと体格の良い竜人にまたがって見下ろしているという、なんとも不思議な興奮がある。しかも双方、色濃く淫らな気配を纏いながら、体を繋いで快楽を貪っているのだ。
 人の姿をしていても相手は竜人と頭ではわかっていても、やはりただ男に抱かれている、という認識ばかりが強かった。でも今は違う。紛れもなく、雄の竜人に、抱かれている。竜人のペニスに、貫かれている。
 背徳感が凄いが、興奮も凄い。
 これは食事で、こちらを生かすための手段だとわかっているけれど、それを意識して惨めにならないようにと気遣われているのも知っている。ただの実験体かもしれないけれど、極力そう思わせずにいてくれる。
 こんなに優しい種族だなんて、ちっとも知らなかった。人の姿で抱かれるより興奮するのは、竜人という種族に対する好意のせいもありそうだった。
「あと、嬉しい」
「嬉しい?」
「人の姿が俺のためってわかってるけど、こっちの姿のが、好きだから」
 言えば少しの沈黙の後、どこか気まずそうにそうかと返された。相手は元の姿で繋がりあうことへの興奮はないらしい。
 残念だと思ってしまった気持ちをごまかすみたいに、腰の動きを再開した。けれどなんとか相手をイカせようと頑張ってはみるものの、快楽にのまれてしまってなかなか思うように動けない。
 そして結果的に、相手を焦らされ切る寸前まで追い込んだらしかった。
「すまない。そろそろ終わってもいいだろうか」
「ん、ごめん。焦らさないって、言ったのに」
 動いてと頼めば、すぐに下からガツガツと突き上げられる。すぐに射精してくれたのでそう長い時間ではなかったけれど、それでもその短時間で未知の快楽に叩き込まれた気がした。

続きました→

 
 
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竜人はご飯だったはずなのに7

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 経験的に次が最後の一発だなというのがわかったので、ちょっとお願いがあるんだけどと持ちかける。既に疲労が色濃く見え始めている相手は、それでも黙ってこちらを見つめてくるから、取り敢えずその内容を聞いてくれる気はあるらしい。
「元の姿のお前とヤリたい」
「ダメだ」
 端的に即答で拒否された。でももちろん食い下がる。
「今もちゃんと理性働いてるだろ。なんでダメ? どうせもう後一発で最後っつーか、それで薬も切れんじゃないの?」
「お前の体を気遣う余力がない」
「あー……もうだいぶ疲れてんもんなぁ」
 わかったらワガママ言うなとでも言いたそうに気怠げな顔で軽く頷き、つい先程何発目かわからない射精を終えたまま、萎えずに尻穴を穿つペニスでグッグッと奥を突いてくる。
「あ゛、ぁ゛あ゛っ、ま゛って、って」
「まだ何かあるのか」
 動きは止めてくれたが、同時に疲れの滲むため息も零された。相手からすれば、さっさと最後の一発を吐き終えて、眠りに落ちたいところなんだろう。
「俺が、動く」
「どういう意味だ?」
「騎乗位って言ってわかるか? あんたは上向きに寝っ転がってるだけでいい」
 考えてみたら、こちらは彼の精液を食って元気になるばかりなのだから、精も根も尽き果てるまで抱き続ける相手に、最後まで腰を振らせて頑張って貰う必要はないことに気付いた。毎回最後は疲れ切る相手を見ていたのに、自分で動こうという発想を今までしてこなかったのがいっそ不思議だ。
 とは言っても、騎乗位を思いついたのは、こちらの体を傷つける心配ばかりする相手と、どうすれば本来の姿の彼と繋がれるかを必死で考えてみた結果でしかないのだけど。
「あんた疲れてるなら丁度いいだろ」
 試させてと言ったら繋がるまま引き起こされて、逆に相手が後ろへ向かってゆっくりと倒れ込んでいく。
「これでいいのか」
「うん。いい。じゃ、動いて見るから、気持ちよく出来たてたら教えて」
 言葉通り、思いつくまま腰を動かしてみる。慣れきった体はなんの抵抗もなく、大きく腰を上下させれば、相手のペニスを喰みながらヌルヌルと扱いた。もちろん、自分で自分のイイ所に当てて、擦りあげるのも忘れない。
「あ、やべっ、めっちゃ楽しい」
 疲れた様子の相手を、こちらが動いて気持ち良くイかせてやるのが目的だったはずなのに、すぐさま夢中になって好き勝手腰を振り立てた。律儀に、気持ちがいい時は気持ちが良いと言ってくれる相手に、頷いて、あえてその動きを変えてしまう。数回繰り返せば、相手はちょっとムッとした顔をしだしたから、余計にそれが楽しくて嬉しい。
「思ったより、意地が悪いな」
「あんたはひたすら紳士だもんな。優しいばっかのセックスもいいけど、たまにはこーゆーのも楽しくない? てか俺は楽しい。で、焦らされるのってどう?」
「わかった。今度してやる。あと、焦らされ切る前には、こちらの判断で終わりにするぞ」
「なんでだよ。最後まで主導権握らせろよ」
「力の差を考えて煽ってくれ。お前が私の理性を切ってどうする」
「あー……」
 忘れてたなと言われて、素直にごめんと謝った。
「楽しそうに、お前が自分で気持ちよくなってる姿は、悪くない。焦らさずこちらがイクのに協力するなら、このままお前が主導権を握っていても構わないが?」
「わかった。もう焦らさない。だからさ、魔法、解いてよ」
 再度、元の姿に戻ってと頼めば、暫く待たされたあとで、絶対にこれ以上焦らさないと誓えるか問われた。もちろん、誓うと即答した。

続きました→

 
 
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竜人はご飯だったはずなのに6

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 お互い様だと言えばそうだなと返ったが、でもやはり申し訳なさそうな寂しそうな顔はそのままだった。もし彼にも自分と同じように、この関係に情が湧いているなら嬉しいのになと思う。
「こういうの、確かめてもいいのかわかんねぇんだけどさ」
「なんだ?」
「最中に好きだの可愛いだの言ってくれるの、俺がそうしようって言ったから続けてるだけで、今も食事を彩る言葉遊びのまま? 本当は欠片もそんなことは思ってないけど、薬で勃起してるから抱いてる感じ?」
「そんなわけがないだろう」
 即座に否定されてほっとすると同時に、小さく笑ってしまった。
「俺もだよ」
 体の欲求に従って彼を求めてしまうけれど、純粋に彼を想う気持ちだってちゃんと育っている。彼が与えてくれるものに、返す言葉は本心だ。味気ない食事を彩る言葉遊びでもないし、一晩限りの恋人ごっこを繰り返しているつもりもない。
 そう伝えたつもりなのに、相手はなにやら渋い顔になる。
「どういう意味だ?」
「どういうって、そりゃ、俺も言葉遊びで返してるんじゃなくて、ちゃんとあんたを本気で好きだと思ってる、って意味、だけど」
「何を言い出してるんだ?」
 ますます渋い顔で、困惑を混ぜてそんなことを言われる意味がわからない。
「え?」
「お前が本当に食べたいと思っているのも、好きだと言ってほしいのも、言いたいのも、世話係として置いてるあの子だろう?」
「えっ?」
「私に本気で好きだなんて言ったと知ったら、あの子がガッカリしてしまうよ?」
「ちょ、待て待て待て。てか一回抜いて」
「やはりそこまで腹が減っているわけではなかったらしいな」
 もっともっととこちらがねだるのが通常で、中断してくれなんて言ったことは確かに無かった。多分、さっきも言われたように、マズいものばかり食べさせられて美味しいものが食べたかったのが本音で、もう少し言うなら彼に来てもらうことそのものも目的の一つで、既にかなり満足しきっているんだろう。
「しかし先程も言ったように、こちらは薬を使って抱きに来ている」
「つまり?」
「完全に中断してゆっくり話を、というのはさすがに難しい」
 だと思った。
「欲情しきってる状態でこれ、とかあんたの理性強靭すぎだろ」
 もっとそれっぽく振る舞ってくれなきゃわかんねぇよとぼやけば、それも食事担当になった理由の一つだと言われた。なるほど。竜人の力を持って理性飛ばして抱き潰すみたいに扱われたら、そのままそれが死に直結しそうだし、こちらを生かし続けたい彼らからすればそこは細心の注意を払って選んだことだろう。
「じゃあ続きしよ。そっち優先で」
「だが、空腹なわけでもなく、気が乗らない状態でするのはキツイだろう?」
 そういや元々はそれを心配されていたのだと思い出す。
「んー、なんか大丈夫な気がする」
「何がどう大丈夫なんだ」
 そう聞かれた所で、わかりやすく理由を提示できそうにはなかった。だって今日は開始する前からして色々とありすぎで、ただでさえたいして良くない頭が、詰め込まれた情報を全然処理しきれてない。
「そうだな。強いて言うなら、あんたを好きって、かなり本気で言ったから、かな」
「全く意味がわからないのだが」
 そう言うだろうと思った。薬のせいとはいえ、好きな子が目の前で欲情しきった状態で耐えてるなんて知らされて、興奮しないわけがない。でも多分、そんな単純な理由だけでもない気がするから、ただの性癖と言い切ってしまうのは控えたい。こういう自分の直感は、割と信じる方だった。
「まぁまぁ、今はとりあえず続けようぜ。我慢して理性ぶっちぎるほうが怖いだろ?」
 言えば確かにそうだなと苦笑されて、ゆるりと腰を動かされる。あまり心配をかけないようにと、こちらも目の前の彼だけにしっかり意識を向けた。

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竜人はご飯だったはずなのに5

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 どうやら彼が話しておきたかったのは、少しずつセックスによる食事頻度を下げていくという計画についてらしかった。薬の話をしたのも、彼の体に大きく負担がかかっている現状を知らせ、抱きに来いと頻繁に訴えるこちらを牽制するのが目的だったのかもしれない。
 全くナシになるのは当分先になるにしても、頻度が下がればそれだけ彼と会う機会も減ってしまう。それが、なんだか酷く怖いことのように思えて、不安になる。
「薬飲まないと勃たないなら、舐めに、来てよ。精液食わせてくれなくていいから、唾液だけでも頂戴」
「飢えきった体に対してならともかく、唾液はそこまで栄養があるわけではないらしいぞ」
「それは体感的にわかってる。けど、薬飲まなくていいなら、今よりもっと頻繁に通って来れるだろ。だから回数でカバーして」
 あ、これは結構いい案なんじゃないか。なんて浮かれかけたのは一瞬で、すぐに無駄な提案だと言わんばかりに、彼が言葉を続けていく。
「いや、回数でカバーできるような問題じゃないというか、それこそ口直しくらいにしかならないというか。あの子が極力、食後にしかキスを与えないのは、キスじゃ腹が満たされないのをわかってるからだよ。食欲が刺激されるだけで、余計に抱かれたくなってしまうだろ?」
「食後だけでも、めちゃくちゃ抱かれたくなってんだけど」
「そう。そこが難しいらしくて」
 理論上はあの液体でエネルギーが補えていれば、そこまで抱かれたい衝動は起こらないはずらしい。んなこと言われたって、実際その衝動がどうしようもなく湧き上がってしまうのは事実だ。
「味が改良されて、食事として受け入れてもらえるようになれば、もう少し気持ちごと満たされてそんな衝動も減るかもしれない。ということで、あれを美味しくするってのが最前の目標らしいな」
「あー、まぁ、確かに。マズいもんばっか食ってたら、たまには美味いもん食わせろってなるよな。美味いもの、はっきりしてんだからさ」
「そうだな。というわけで、そろそろメインディッシュに移ろうか」
「いつまで待たされんのかと思ってたよ」
「悪かった。ただ、お前が抱かれたがっても何も出来ないってあの子が困り果てるから、こちらがどういう思惑で動いてるのか、お前にも少し知っておいて欲しかったんだ。何も知らずにただ焦らされるより、呼ばれてすぐには来れない理由がわかっていたほうが、いくらか気持ちが楽だろう?」
 ああ、そうだ。今後ますます彼と会える機会が減っていく、という点をどうにもできない。
 先ほど感じた不安を思い出してしまって、抱かれたいと切望する以外に彼をこの部屋に呼ぶ手段が何かないかと考えたいのに、抱かれ始めてしまえば余計なことに思考を回す余裕がなくなる。
 どうしようもない不安が胸の奥に燻っていて、どうやらそれは体を繋ぐ相手にも伝わっているようだ。何度も甘やかに情を交えたセックスを繰り返した相手なのだから、当然といえば当然だった。
 ついでに言うなら、世話係の彼がこちらの状態を彼を含むどこかへ報告しているように、彼だってこの食事内容をどこかへ報告しなければならないのかもしれない。二人共、細やかにこちらをよく観察している、と思うことは多かった。
「あんな話を聞かせたから、気分が乗らないか?」
「来てくれる頻度落とすって言われたんだから、今を大事にして、めいっぱい楽しまなきゃ損だろ、ってのは、思うんだけど。逆に、次っていつなんだとか、今度はどんだけ焦らされることになるんだとか、考えちゃって」
「なんだ。気になるのはそっちなのか?」
「他に、何か気にしそうなことって、言ってたっけ?」
「薬でむりやり体を発情させて、お前を抱いてる」
「ああ、うん。ゴメンな。毎回すぐ寝ちまうの、あんだけ出せば疲れもするだろと思ってたけど、薬による疲れもあったんだな」
 初回にここで寝ていけばいいと引き止めたせいか、二度目からは当たり前にそのまま寝ていく。翌朝スリットを弄って起こすのも変わらないし、その度怒られはするが、でもやっぱりその次もまた無防備に寝姿を晒してくれる。
「それはいいんだ。そうじゃなくて」
「そうじゃなくて?」
「こんなに睦言を繰り返しているのに、その実、お前の体に欲情してるわけじゃないというのは、少し、申し訳ない気もしている」
「優しいな。そんなこと言ったら俺だって、あんたの体に欲情してるとは言えないのに」
 それでも、食事と割り切らないセックスに、もちろん情は湧いている。もし口から食べる食事だけで満たされて、彼とのセックスが必要なくなっても、彼さえ応じてくれるなら情を交えるためだけの食事じゃないセックスがしたいくらいには、この行為そのものを楽しんでいる。受け入れている。彼へ好意を寄せている。
 ただまぁ、薬の力を借りない本来の繁殖期が十年近く先では、どうしようもないけれど。

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竜人はご飯だったはずなのに4

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 君たちが仲良しすぎて少し嫉妬してしまった、なんて言いながら柔らかなキスが落ちる。それはそのまま深いキスへ変わり、惜しげもなくたっぷりと唾液が流し込まれるのを、喉を鳴らして飲み下す。
 相変わらず濃厚な旨味が詰まったような味で量も多いから、確かに食事をしているような気分になる。
「私には、足りないもっと、とは言ってくれないのか?」
 離れていく唇に満足げな吐息を零せば、さみしげな顔を作ってそんな事を言う。でも先程の嫉妬にしろこれにしろ、もちろん本気なわけじゃない。食事としてのセックスを楽しく彩る演出みたいなもんだ。
 口調や発言内容から生真面目なタイプかと思っていたが、相手は意外とノリがいい。最初に情も交えたセックスがしたいと言ったのはこちらだが、そのせいか人間の恋愛事情に興味津々らしく、なにやら勝手にアレコレ調べているらしい。そしてそれを、抱きに来た時に披露してくれる。ようするに、今夜は他者への嫉妬的な要素を取り入れてみた、ってことなんだろう。
 柔軟な対応は彼の持つ権限だけじゃなく、性格によるものも大きそうだった。
「残念だったな。あんたが盗み見てる間に、あいつのキスで満足したよ。それより、足りないのはこっち」
 ベッドの縁から下ろしていた足をM字に広げるようにしてベッドマットの上に乗せ、さらに自ら指をあて、押し開くようにして見せつける。部屋着は相変わらずペラい貫頭衣のみで、下着もないままだった。
 相手は楽しそうにふふっと笑いを零している。
 その笑みに、期待で腹の奥が蠢いてしまう。奥だけでなく、アナルもヒクつき、早くしろと彼を誘う。なんともはしたなくていやらしい体だ。けれどそう思うことで、体はさらに昂ぶっていった。
 彼との食事を重ねるうちにこんな真似まで出来るようになってしまったが、実のところ、こんな風に女の子に誘われたら興奮していた、というようなことをして見せる事が多い。誘われる側でも誘う側でもあまり変わりなく興奮するというのは、こんな体にならなければきっと気づくこともなかっただろう。同じ人間だって性癖は人それぞれなのに、人でもない相手がそれで興奮するかはかなり微妙なところだけれど、誘う自分自身が興奮するのと、相手もとりあえず楽しそうにはしてくれるから、あまり気にしないことにしている。
「あの子はここにはキスしてくれないのか?」
 言いながら、ベッド脇に膝をついた相手がその場所へ顔を寄せてくる。躊躇いもなく舌が伸ばされ、アナルを解しながら中へと唾液を注いでくれる。尻穴に味覚があるわけじゃないからそれを美味しいと感じるわけではないが、食欲に素直な体が彼の舌を食んで奥へ誘っているのははっきりわかる。後、単純にひたすらキモチガイイ。
 あっあっと喘ぐ合間に、足りないもっとと三回ほど繰り返してやれば、どうやら満足したらしい。体を起こして隣に腰を下ろした相手は、どうやらまだ話したいことがあるようだった。
 体の奥は疼いているが、この後たっぷり抱いて貰えるのがわかっているから、こちらもそこまで焦っていない。早く抱いてくれとねだることはせず、会話に付き合うつもりで問いかける。
「なに?」
「腸内のが吸収が良いんだから、あの子にも、こっちにちょうだいって言ってみればいいのにと思って」
「いやいやいや。キスはあのマズい液体の口直しだから。お前が抱いてって言ったら無理って泣かれかけたし、抱けないならケツ穴舐めて、なんて言えるわけないだろ」
「あの子がお前を抱けないのは、繁殖期ではないからだと思うが?」
「は? 繁殖期? あいつ、んなもんあるのか」
「竜族は竜人も含めて大概繁殖期があるものだよ」
 彼にもあるのかと問えば、あるにはあるがとどこか含みのある言葉が返った。
「あ、もしかしてそれで、早く来てって言ってもなかなか来てくんないのかよ」
「それは半分当たりで半分外れだな。本当の意味での私の繁殖期は、後十年近く先のことだから」
「え、十年?」
「大柄になるほど長命な種族だからな。でも小柄なあの子だって、数年に一度のサイクルだぞ」
「ならなんで繁殖期でもないあんたは俺をこんな頻繁に抱けるわけ?」
 世話係の彼が繁殖期じゃないから抱けない、というのが本当なら、なぜ繁殖期が十年以上のサイクルだと言っている男が食事担当なんてしているのかわからない。
「詳しくは言えないが、血筋を絶やさないために作られた薬がある。簡単に言うと、強引に体を発情させて、一晩に大量の子種を撒き散らすことができるようになる。が、強い薬なので体力の消耗が激しい。私でもかなりギリギリ使用許可が出ているし、とてもあの子には使わせられない」
 魔法で人型になれるかよりも、その薬が使える状態にあるかのほうが実は重要で、こちらの要求に即応じられない事も多いのはそのせいらしい。
「なんだ。よっぽど魔法が下手くそなんだと思ってたわ」
「魔力ゼロのお前に言われるのは心外だな」
「だって人型で抱くのに拘ってんのそっちだろ」
「それはお前を傷つける心配があるからだと言ったろう。薬の副作用の心配もあるし」
 個体によっては理性が効かずに相手を抱き潰す勢いで盛ってしまう、なんて場合もあるくらい強い薬で、しかも本来ならこんなに短期間に何度も服用する薬でもないらしい。
「それ、相当負担掛かってるって話じゃないの。なんで食事担当、あんただけなんだよ」
「それはこちらの事情であって、お前が心配することではないな。対策はきちんと考えているし、実行もしてる。現に、私との食事の頻度を落としても、お前はこうして生きているだろう」
 それがあのマズい液体で、あれに慣れてあれが主食になる頃には、この彼は自分を抱きに来てはくれなくなるのかもしれない。彼の体を本気で心配するなら、そうなったほうがいいに決まっているのに。
「そんな顔をしなくても、味の改良は今後も重ねていく。いつか、美味いと言えるものが毎日飲めるようになるはずだし、いずれは固形物も提供できるようになる予定だ」
 そうじゃない。でも抱かれなくなるのは嫌だと言うのも躊躇ってしまう。だって彼の告げた未来のほうが、セックスが食事代わりの今より、よっぽど人間らしい生活だ。

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竜人はご飯だったはずなのに3

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 カーテンを閉めに来た際に運ばれてきた液体をさっさと飲み干し、口直しのキスを足りないと言って何度もねだる。律儀に応じてくれるのは、やはり憐れみからだろうと思う。
 生きるために必要なエネルギーは朝夕飲まされる液体でかなり補えているはずなのに、先日目の前の彼の舌を吸いまくってから先、体の奥が疼いてたまらない。なのに食事担当の彼が来てくれる気配はないし、目の前の彼が代わりに抱いてくれるわけでもなく、日々少しずつ追い詰められていくような気がする。
 そんなこちらの状態を、世話係として付き添っている彼が気付かないはずがない。ただこちらを心配する彼の提案は、口直しのキスをしばらく止めることだったので、それは断固拒否した。
 彼の言いたいことはわかる。口直しのキスに触発されているのは事実だろう。でも抱いて貰えないのにキスまで取り上げるなんてあんまりだ。
 結果、口直しで貰う唾液に体が疼いてもお前が抱いてって誘わないからと頼み込んで、キス停止は免れたし、口直しで貰うキスの量も増えた。でもいくら直接的な誘いをかけなくたって、抱かれたくて疼いてしまう体を隠し切ることは出来ないし、それを振り切って部屋を出なければならない彼へ精神的負担を強いているのも事実だ。
 時折泣きそうな顔をするようになってきたから、憐れまれているのはこちらのはずなのに、可哀想なことをしていると思ってしまう。困らせたいわけじゃないのに、困らせてばかりだった。
「ありがと。も、いい」
 そう言いながら顔を離したくせに名残惜しくて、そのまま俯き相手の胸元へ額を押し付ける。羽織られた薄布が邪魔だった。直接彼の肌に触れたい衝動で、むき出しの腕をそっと掴んで撫で擦る。ところどころゴツゴツしているけれど、ひやりとして滑らかな肌触りは気持ちが良かった。
 緊張しているのか腕にはかなり力がこもっているし、呼吸もほぼとまってしまっているが、慌てる様子はなく触れる手を振り払われることもない。こちらからの接触に慣れてきたというよりも、慎重に様子を見られているがきっと正しい。事実、顔を上げて見つめる先では、泣きそうな困惑顔ではなく、真剣な目が心配そうにこちらを見つめていた。
「お前の肌、触ってると、キモチイイ。もし抱いてって言わなかったら、一緒に寝るくらいは、してくれる?」
「構わないが今の体じゃ一緒に寝るどころじゃなく、一晩中悶々と過ごすことになるだけなんじゃないか?」
 返事は思わぬところから飛んできた。いくら世話係の彼が小柄でも、ベッドに腰掛け目の前に立たれたら、その背後は見えない。そんな彼の背中の先、いつの間に入ってきたのか、出入り口のドア付近に食事担当の彼が人の姿で立っていた。
 声がかかった瞬間にビクリと体を跳ねて背後を確認した彼も、多分相当驚いたんだろう。
 しばらく部屋の中を沈黙が満たし、それからようやく発せられたのは、世話係の彼の咆哮だった。それは彼らの言葉であって、自分には吼えているように聞える、というだけだけれど。
「気配消して侵入したのは本当に悪かった。でも思った以上に仲良しなお前たちが見れて良かったよ」
 人の声帯ではやはり吼え返すことは出来ないのか、返事は人の言葉だった。
 そうか、気配を消して侵入したのか。ということは、もしかして結構長々と見られていたんだろうか?
「足りない、もっと。を三回ほど聞いたかな」
 いったいいつから見てたんだという疑問は、どうやら世話係の彼も持ったらしい。とはいっても、返答からそう推測出来るってだけだけど。
「だからゴメンって。お前のことは信用してる。だから彼を任せてる」
 興奮しているのか怒っているのか、もしくはこちらに会話を詳しく聞かせたくないのか、相変わらず世話係の彼は人の言葉を使ってくれない。でも多分前者で、ずっと穏やかで優しい声音が返る内に、咆哮のようだった発語が落ち着いていく。なのに。
「そう。お前のことは信用してるし、お前の判断で一緒に寝てあげればいい。いつか彼を抱く気があるなら、今夜、このまま見学してったって構わないよ。あ、彼が嫌がらなければだけど」
 ぶわっと目の前の彼が持つ気のようなものが膨らんだ気配のあと、もう一声吼えて、彼は珍しくドスドスと荒々しい足取りで部屋を出ていってしまった。
「だいぶ怒らせてしまったようだ」
「最後の、わざとだろ」
「まぁ、そうだね」
 おかしそうに肩を震わせて近づいてくる食事担当に彼に、思わず呆れた目を向けてしまったのはきっと仕方がない。

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