中を洗ってくるくらいだから、自分でそこを弄って拡げる訓練をしていたとしても、なんら不思議はない。ローションを絡めた指をあっさり二本受け入れたそこは、洗って緩んだだけではなく、異物の侵入にやはり多少は慣れているんだろう。
ハフハフと喘ぐような浅くて荒い呼吸が続いているが、指を埋めていく時に、息を詰めて体を強張らせるようなことはなかった。
明かりを絞ったせいももちろんあるが、顔の前に置かれた彼の腕のせいで、顔の半分以上が隠れてしまって表情などはわからない。それでも、痛みを感じる様子や、辛くて仕方がないという様子はなさそうだ。
「ふぁっ、んんっ」
多分前立腺と思われる場所を指の腹が掠めれば、少し高めの声が漏れた。
口は押さえないで。苦しいのも、気持ちいいのも、隠さないで。声を聞かせて。
そう頼み込んだ結果、彼の腕は口ではなく目元部分を隠している。まぁこれは、再開した直後、向かい合って横になったまま相手の股間にローションをまぶした手を突っ込み、相手の顔を見つめながらアナルを解そうとしたせいでもある。
恥ずかしいから止めろ、ライト点けたんだから顔は見るなと結構強めに抵抗されて、結局自分だけ起き上がって先ほどと同じように開かせた足の間に座っていた。ちなみにその前段階で、こちらに背を向けて貰い、背後から慣らすというのも試すには試した。
指を一本埋め込んで、ほんのりと赤く染まるうなじから背中にかけてチュッチュとキスを繰り返し、空いた片手を抱き込むように前に回して胸の先やペニスやら感じやすいだろう場所を同時に弄っていたら、やっぱり後ろからは嫌だと割合すぐに止められてしまった。しかも、何度も可愛いと繰り返し告げていたら、これ以上可愛いと言うなとも言われた。さっきは、可愛いって言われて嬉しい事にビックリするねと、ふにゃりと笑ってみせたくせに。
どうしてですかという問いかけには、どうしてもとしか返らなかったが、ずっとこちらを気遣いアレコレ言い難いような事まで全部教えてくれていた相手が、だって嫌だとむずかる様子が新鮮で、可愛すぎて、理由を聞くことは諦めた。
恥ずかしさが限界を超えたと言ってからの彼は、どんどんと幼さが増していく気がする。元々持ち込めないと言いつつも、なんだかんだで見せ続けていた年上の余裕が、とうとう維持できなくなった状態がこれなのかも知れない。
この人は一体どこまで可愛くなるんだろうと思いながら、指が掠めて声の上がった場所に、意識して柔らかに触れてみる。
「ふあぁっ」
「ここ、どうですか? 前立腺、自分で弄ってみましたか?」
「ぁ、あっ、やぁっ」
「慣れないと違和感しか無いって聞きますけど、キモチイイ、わかります?」
「ゃ、っあ、やだっ、そこっ」
「痛いですか?」
「いた、くないっ、けどっ」
「痛くないけど善くもない、ですかね」
「わ、っかんな、ぃ」
この様子だと、自分で弄っては居なかったのかもしれない。ついそれを口から零したら、なんで自分で弄ってる前提なんだと、途切れ途切れに怒りの滲むような声が届いた。声が途切れ途切れなのは前立腺への刺激を続けているからで、怒っているように聞こえる声は多分本当には怒ってなくて、きっと恥ずかしいんだろう。恥ずかしさから口調がキツく荒れて居るのだと、教えて貰わずともさすがにもうわかっていた。
「そんなの貴方が、俺に抱かれるための準備を色々してくれてるからですよ。どこまで自己開発しちゃったのか、気になるじゃないですか」
「いたい、の、やって、だけ。きもちぃとか、そこまで、ない」
痛いのが嫌で抱かれる準備を自分でしていたのか。乱暴にされたら萎えちゃう系とも言っていたし、実際縛った状態でペニスを弄っても反応しなかった人だから、痛いのが嫌だという言い分はわからなくもない。
脅されたにしろ一度は犯されることを了承してもいるのだけれど、あの時、無理矢理に抱いてしまわなくて、本当に良かった。
「初めて、で、きもちぃとか、夢みすぎ。お前が、無事に突っ込めて、繋がれたら、今日はそれでいい」
指の刺激を止めれば、幾分はっきりとした言葉が聞こえてくる。顔の前の腕もどかされて、まっすぐな瞳がこちらを見つめているのが、小さなライトの明かりでもはっきりわかった。
せっかくグズグズになった年上の余裕が、また少し頭を擡げてしまったようだ。
「まぁ、初めてのセックスに気負いすぎてるのも、期待しすぎてるのも、自覚はありますが、思った以上に成功ハードル低いですね?」
「初エッチ失敗すると、けっこー引きずる。抱く方も、抱かれる方も」
「それは経験則ですか?」
「一般常識」
さすがに嘘だと思ったけれど、恋人の過去の経験をあれこれ聞かないのは一般的なマナーかなと言う気はしたので、互いに小さく笑って終わりにした。
「でも、知識はありますよね?」
また緩く前立腺を刺激しつつ問いかける。
「んぁっ、…ぁ、なに、の?」
「ここで、というか、前立腺で気持ちよくなれるって事の」
だからもう少し弄らせてくださいねと言いながら、少しずつ触れる角度や強さを変えていく。
一度グズグズになった余裕はやはり簡単には戻らないようで、すぐにまた可愛らしい声を上げながら、前立腺ばかり責めることを嫌がられ非難された。けれどそれを宥めてあやしながら、少しでも快楽の声を引き出せないかと探る行為は、楽しくて仕方がなかった。
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