秘密の手紙

 朝学校へ行ったら、下駄箱の中の上履きの上に一通の手紙が置かれていた。
 超簡素な茶封筒という不穏な気配しか無いそれの中には、ペラっと一枚のメモが入っていて、そこには「お前の想い人を知っている」と短な一文が印刷されていた。
 ザッと血の気が引く思いをしたのは、脅迫されているのだと察したせいだ。
 いつか誰かに気づかれるかも知れない不安は、自身の中に湧いた恋情を認めた瞬間から常に付きまとっていたが、それが現実になったのだと思った。
 この手紙の差出人は誰だ。相手の要求は何だ。
 そんなことばかりを考えながらなんとかその日の授業を終え、大半の生徒が下校した後に、自身の下駄箱に封筒を置いた。朝受け取った茶封筒からメモを抜き、お前は誰だ、要求は何だ、という短なメモを書き綴ったノートの切れ端を入れている。
 蓋のない下駄箱なので、こんな場所でメモのやり取りをしたいとは到底思えないのだが、相手が誰かもわからない状況ではこうするしかない。
 果たして、翌日の朝にはその封筒は消えていた。
 さらにその翌日、また上履きの上に茶封筒が乗っている。中には、「告白すればいいのに」というメモが入っていて首を傾げる。
 誰だ、という問いに答えがないのは想定内だったが、要求は何だという問いへの答えがこれ、というのが良くわからない。
「何かあった? 一昨日もずっと変な顔してたけど、今日もなんか悩んでるよね?」
 休み時間にそう声をかけてきたのはまさに想い人その人で、さすがに詳細を話せるわけがない。
「あー、まぁ、ちょっと」
 色々あってと濁してみたが、相手はそう簡単に引き下がってはくれなかった。
「俺にも話せないようなこと? それとも教室じゃ無理って話?」
「両方」
 正直に答えてしまったのは多分失敗だった。
「え、マジに俺には話せない何か抱えてんの?」
 余計気になると言われても、話せないものは話せない。追求をどうにか誤魔化して、帰りがけには「無理」の二文字だけ書いたメモを入れた封筒を自身の下駄箱に置いた。
 返信は翌々日ではなく翌朝には届いていて、しかも今回の中身は短な一文ではなく、しっかり手紙と呼べるような長い文章が綴られている。まぁ、コピー用紙への印字に茶封筒、というところは変わらないんだけど。
 いわく、二人は両思いだから早く告白してくっつくべきだとか、相手はこちらの告白を待っているだとか、今どき男同士での恋愛はそこまで禁忌ではないだとか。
 なんだか随分と熱心に、告白するよう促されている。
 なんだこれ。と思うと同時に、さすがに差出人の正体を知りたくなってきた。だって随分と相手の心情に対して断定的だ。
「何? 俺の顔に何かついてる?」
 昼休みに一緒に昼飯を食べながら、想い人の顔をマジマジと見つめまくったら、さすがに居心地が悪そうに聞いてくる。
「昨日、お前には話せないって言った悩みについてちょっと考えてて」
「お、やっぱ俺に相談しようかなって思った?」
「そうだな。近日中には、話せるかもな」
「なにそれ?」
「今すぐは話せないってこと」
「は? 勿体ぶってないでさっさと話せよぉ」
 放課後残ろうかと言うので、今日は早く帰るからと断って、その言葉通りに大半の生徒が下校するのを待ったりせず、けれど返信の茶封筒は上履きの上にしっかり乗せて学校を出た。といっても、そのまま学校をくるっと半周して、裏門からこっそり現場へ戻ったのだけれど。
 自身の下駄箱が見える位置に身を潜めて、封筒を手に取る「誰か」を待つ。今日中に現れなかったら、明日は早朝から張り込みだと意気込んでいたけれど、下駄箱周辺の人気がなくなった途端にその「誰か」はあっさり現れた。
 やっぱりと思いながらも、しっかり封筒を手に取るのを待ってから声をかける。
「やっぱお前だったんだ」
「えっ……なん、で」
「なんでもなにも、お前以外にお前の気持ちそこまで断定できるやつに心当たりがなかった」
 これは、少なくとも共通の友人の中には、という意味でしかなく、こちらの知らない友人に相談していたという可能性はある。頼まれて取りに来ただけと言い逃れることだって可能だろう。でも彼からの反論はなく、どうやらあっさり認めてしまうらしい。
 そっか、と力なく返した相手の手の中で、クシャッと茶封筒が握り込まれている。ちなみに、差出人を捕獲する気満々だったのでその封筒に中身はない。
「両想いだってわかってんなら、こんな回りくどいことしてないで、お前から告白するんでも良かったんじゃねぇの?」
「できるわけ、ないだろ」
「なんで?」
「そんなの、お前が俺を本当にそういう意味で好きなのか、なんて、わかんないし」
「はぁ?」
「だって、お前の言動にもしかして? って思うの、俺がそうだったらいいのにって思うせいかも知れないじゃん」
 最後の方は声が震えていて、なんだか虐めてでも居るみたいだ。というか目には涙も滲んでいて、こんな場面なのになんだかドキドキしてしまう。
「で、どうなの?」
「どうなの、って?」
「俺、……ふられる?」
 視線が合ったのは声をかけた最初だけで、ずっと僅かにそらされていたのだけれど、とうとう逃げるように俯かれてしまった。良い返答が貰える自信がないと言わんばかりだ。
「ぜひお付き合いしたいけど」
「マジで!?」
 バッと勢いよく頭を上げた相手の顔は信じられないと言いたげで、でも、泣きそうだった目だけは希望に満ちてキラキラと輝いている。
 その様子の愛らしさに、思わずプッと吹き出してしまったら、からかわれていると思われたようだ。酷くショックを受けた顔をされ、また俯くように頭を下げかける相手に、慌てて謝罪の言葉を投げた。
「ごめん。からかってない。まじで、付き合いたいって思ってる」
 下げかけた頭をグッと上げた相手は、さすがに疑惑の眼差しだ。
「ほんと。本気。さっき笑ったのは、嬉しそうなお前が可愛かっただけ」
 言い募れば、可愛いに反応してか少し照れくさそうにしながらも、信じるぞと脅すみたいな言い方で告げてくるから、やっぱりまた笑いそうだった。

相手側の話を読む→

ChatGTPに出してもらったお題  ”秘密の手紙” – 1人の主人公がもう1人の主人公に秘密の手紙を送ることから始まる物語。を使用しました。

更新再開します。結局小ネタ期間になりましたので、更新期間は1ヶ月ほどになりますがまたよろしくお願いします。

 
 
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