今更嫌いになれないこと知ってるくせに19

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 甥っ子と過ごした楽しい日々と、成り行きで触れてしまった甘い時間。必死で求めてくれたのに、結局逃げて泣かせて、あんな顔で帰してしまった罪悪感。
 甥っ子が居なくなっても、一人の時間に考えるのは甥っ子のことばかりだった。
 彼の想いを受け入れていたら、恋人になろうと言えていたら。そんなもしもを考えては、親のことや姉や義兄の事、世間の目や彼の将来などを理由に、思いとどまったことを正当化しようと試みる。うまく行きっこないし問題は山積みだ。なのに考えても考えても、そこに未練は残っていた。
 嫌いだと言われた。言い聞かすように何度も繰り返された。だからもう遅いという想いと、まだ間に合うのではという想い。
 ではもしも間に合ったとして、彼の元へ行けるのか。行って直接、彼の求める言葉を吐いて、これからも好きでいてくれと請うことが出来るのか。
 そんなこと出来るわけがない。してはいけない。それなのに、そうしてしまえたらと思う気持ちが、日々膨らんでくるような気さえする。
 こんなに気持ちが乱されるのはいったいいつ以来だろう?
 だってやはり彼は特別だった。自身の興味と好奇心とで都合よく関係してきた、今までの相手とは違う。
 そんな風に、甥のことばかり考える日々のなか、姉から1本の電話が入った。
 かわいい息子に一体何をしたのだという怒りの電話に血の気が引いたが、まさかバカ正直に致した内容を伝えられるはずもない。ゴニョゴニョと濁しているうちに、互いにおかしな状況に気づくこととなった。
 進路で揉めていたというのは確からしいが、彼の自宅から通える場所のほか、どうやらここの近辺にある大学も提案していたらしい。たまたま彼の希望する進路に合う学科があったからとのことだが、そういえば、自分の大学時代の生活やらは色々話して聞かせた記憶があるが、甥っ子自身の進路についての話なんてほとんどしなかった。
 むしろなかなか実家に帰らない自分を案じて、甥っ子をここに送り込んでやれという思惑があったようで、それには自分の両親も賛成していたという。どうやらこちらの大学を選ぶなら、両親も多少援助するという話になっていたらしい。代わりに、たまには様子を知らせてほしいとか、出来れば帰省時に一緒に連れ帰ってほしいとか、勝手に夢を膨らませていたようだ。
 いっそ二人で住んだら生活費が節約できて良さそうだなどと、こちらの意向はまるで無視して話が進む中、勝手に話を進めるなと怒った甥が、本人に聞いて確かめると家を飛び出したというのが、彼がここへやってきた経緯なのだと姉は言った。
 もちろんそんな話は初耳だ。
 それでも、こちらの都合も聞かずに勝手に盛り上がる姉と母に怒っていただけで、甥自身もそこまでその話を嫌がってはいなかったはずだと姉は続けた。甥っ子が母から実家の味付けを教わっていた事も、それが自分に振る舞うためだということも、姉ももちろん知っていた。怒って飛び出したのも半分はあんたのとこ押しかけるためのパフォーマンスと言い切った姉に、母親ってのはなんだかんだ子供の行動を見透かしているものなのかなとも思う。
 しかもなんだかんだここにいる間、数回電話で連絡を取り合ってもいたそうだ。
 日中、件の大学に見学へ行っていたなんて話も、もちろん自分はまったく知らなかったが、そこでそれなりに手応えを感じてもいたようだ。前向きにこちらへの大学進学を検討したいと、そこそこ楽しく生活をしてるらしいことが伺える報告に、安心していたのにと言って姉は溜息を吐いた。
 そんな甥が、ここから帰って暫く部屋にこもった後、遠方の国立大学を狙うと言い出したそうだ。学費と下宿に掛かる費用と、祖父母からの援助がない事を考慮しての選択だという事はわかるが、それよりも姉が問題にしているのは、実家からも叔父である自分からも逃げようとしている事らしい。
 あんたの二の舞いにしたくないと言った姉は、ここで遠方への進学を認めたら、自分のように甥っ子が実家へほとんど帰らなくなるだろうと危惧していた。そして多分それは現実になるだろうと自分ですら思う。
 一緒に暮らすのが無理にしても、生活圏が被るのすら嫌なほど、かつてはあんなにも可愛がっていた甥っ子を排除したいのかと問われ、咄嗟にそんなことはないと否定を返す。しかし、ならば一体どんな仕打ちをしたら、何を言ったら、実家からすら逃げ出したいと思うような事になるのだと言われて言葉に詰まる。
 帰宅後こちらでの話を避けて、暗く沈んでいる時間が多いのも気になるのだと言った姉は、あんたのせいだから責任持ってなんとかしろなどと言う。彼が沈む原因も遠方へ逃げたがる原因もわかっているが、責任を持ってなんとかしてしまうのが問題なんだと、姉相手に説明できるわけもない。
 ためらう様子に、姉は再度溜息を吐き出した。
 とにかく一度こっちに帰ってこれないのと言う、伺いの言葉は自分にとってはもはや命令と脅迫に近い。結局、週末に一度実家へ戻ることになってしまった。

続きました→

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