イケメン相手にこんな関係になる予定はなかった4

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 ちょっと休憩、と言って立ち上がった相手は玄関へ向かう。少しして、玄関扉が開閉する音が聞こえてきてから、手持ち無沙汰に読んでいた本を閉じて放置された書きかけレポートを手に取った。
 軽く目を通しながら、これなら次の休憩前には書き上がるなと思う。明日の朝イチ講義の提出にはしっかり間に合うどころか、まだ日付を超えてもいないので、睡眠時間だって充分に取れる。泊まりのつもりで来ていたが、一旦帰宅するのだってありかもしれない。
 相変わらず机に向かっていられる時間は1時間程度だけれど、初めて見張ってて欲しいと頼まれた頃に比べたら徐々に休憩を挟むまでの時間は長くなっているし、休憩を終えて戻ってくる時間も短くなっている。
「ただいま」
「ん、おかえり」
 5分と経たずに戻ってきた相手は、真っ直ぐに机に向かうとレポートの続きに取り掛かる。真剣な横顔をジッと見つめてしまっても、集中しているのか気づかれる様子はない。
 彼がようやく二桁年齢になった頃、母親に治療の難しい病気が見つかったそうで、家族全員その対応に追われる数年を過ごした結果、彼自身の学習習慣がほとんど身につかないままここまで来てしまった。というのがどうやら提出物が出せない原因らしい。
 すこぶる頭が良かったせいで、日々の授業を受けるだけで問題なくテストで高得点を得られていたのと中学は家庭事情を考慮されていたのか、高校1年時に未提出課題の多さで留年しかけるまで問題が発覚しなかったというのだから恐ろしい。
 自主的な学習時間なしで大学受験を乗り切るなんてさすがに無理があるだろうと思ったら、高校3年時には塾にも行ったし少しは家でも勉強したとは言ってはいたけれど。その少しは家で、というのも、どうやら家族が協力していたようで、つまりは今時分がしているように、机に向かう彼を家族の誰かしらが見守っていた。
 その頃には母親の容態がかなり落ち着いていたというから、今度は家族全員で彼の大学受験を支えたという話かもしれない。
 彼が実家を離れて大学生活を送れているのも母親の回復があってこそだし、相当大変だったはずなのに、彼が母親の闘病生活含む思い出を語る時はいつも穏やかで幸せそうな顔をしているので、家族の全力サポートが報われたことは本当に良かったのだと思う。
 学習習慣を身につけられなかっただとか、母親が倒れてからは友人と遊んだ記憶もほぼないだとか、自分だったら、大事な学生時代を母親のせいで台無しにされた的なことを思ってしまいそうだから、そんなことは考え付きもしていなそうな彼のことを、かわいそうに思うのはきっと間違っている。学習習慣が身についていればもっとレベルの高い大学を狙えただろうに勿体ない。なんて気持ちだって、自分の価値観での話だということもわかっていた。
 狙った大学への入学も、狙った相手と親しくなることも、たくさんの友人を作ることも、友人たちと遊ぶことも。全部成功している彼に、現状不満は一切ないのだ。高校時代が嘘みたいに、柔らかに笑う顔を毎日のように見ている。
 レポートと向き合う真剣な横顔と、その周りの張り詰めた空気が高校時代を思い出させて、あの無愛想な孤高のイケメンが、今じゃふわふわと笑顔を振りまいているだなんて不思議だよなと思う。決してあの頃に戻って欲しいわけじゃないし、事情を知ったら笑えるようになって良かった以外の感情なんてないはずなのに、それでも時折、あの頃の彼を懐かしく思ってしまうのはなんでだろう。
「おわった〜」
 くるりと体ごと振り向いた相手とばっちり目があってしまったが、思いっきり見つめていた事への言及はなかった。ふにゃんと顔を緩ませ、先程までの硬い雰囲気ごと綺麗サッパリどこかへ押しやってしまった彼は、甘えるみたいに両腕を開いて見せる。
 その腕に誘われてやるのは癪だと思うのに、黙って立ち上がり彼に向かって歩いている自分自身のことがわからない。特別面食いだと思ったことはないし、そもそも男じゃねーかと思っても居るのに、イケメンの緩んだ笑顔にどうにも逆らい難い。
 無愛想イケメンのままなら、ふざけんなの一言で終わらせる自信があるから、もしかしてそれであの頃の彼が懐かしいのだろうか。あの頃のままの彼で居てくれたら、甘える相手を受け入れて、お疲れと言いながら頭を撫でてやるような、どう考えたって男友達相手の対応じゃない真似をせずに済んだだろう。

続きました→

 
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