可愛いが好きで何が悪い26

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 相手が抱いて欲しいという方向で好意を伝えてきたなら、もうちょっと真剣に彼を抱けるか考えたかも知れないが、現状はそうではないので、エロ方面は基本こちらの覚悟が決まるまで相手を待たせていいと思っていたのもある。
 相手も性急にどうこうなりたい感じではなかったから、取り敢えずは恋人という関係になったことで満足できたのだろうと思っていた。正確には、そう思っていたかった。
 応じる覚悟もないままにわざわざ自分から確かめて、相手に期待を持たせたり自分を追い込む趣味はない。しかし、その結果がこれ、というのは予想の斜め上も良いところだ。
 まさか、抱きたい側という発言を勝手に翻して、自己開発に励んでいるだなんて思わなかった。
「俺が完璧プリンセスを披露したから、なんかこう、俺が抱かれる側って思われてるとこあるじゃん?」
「そうだな」
「お前に二人きりになるの避けられるって話したら、当然だって話になってさ。プリンセスに押し倒されたくないとか、女装してたら俺でも抱けそうとか言われて、だからまぁ、俺が抱かれる側になる方がいいかもって。俺が抱かれる側やるからって言ったら、もっと安心して、前みたいに気にせず俺と二人きりになってくれるのかな。とか、エロいこともしていいよって言ってくれるかな、とか」
 抱かれるのは許容できないって言ってたけど、抱くのが有りか無しかは聞かなかったし。と続いて、じゃあ先にそれを聞けよと思う。というか言った。
「先にそれを聞けよ」
「聞きづらかったんだよ!」
 憤りが伝わってくるような勢いとともに、やっと相手と目が合った。
 だって、と続いた言葉によると、もし抱くのも無しでそもそも彼とのエロ方面の接触が嫌だと言われてしまったら詰む、と思ったらしい。
「今は恋人作る気がないって言ってたし、だからその空席を取り敢えず俺にくれただけでしょ。実際に恋人っぽいことする気はないよ、とかも全然有りなんだって気づいたんだよ。浮かれてて、今更気づいたの。だってまさか、付き合ったらお家デートも出来なくなるとか思わないじゃん」
 恨みがましい目でじとりと見つめられてしまったが、こちらの言い分としては、むしろ恋人対応の結果でしかないんだが。
 けれどきっと、応じる覚悟もないままに二人きりになれるかバカ。というこちらの主張を、相手は理解しないだろう。
 恋人としてちゃんと付き合ったことがある彼女が何人居たか知らないが、彼の伸ばす手を拒んだ子は多分きっといない。
 こちらをその気にさせるための努力だなんだと言っていたって、それはこちらの気持ちを育てたり、覚悟を促したりという方向ではないのかも知れないと、こちらも今更、こんな場面で気づいてしまった。
 二人きりを避けられる想定がなかったなら、こちらが強く出れない女装で迫って少しずつ慣らしていけば、いずれ絆されて最後まで受け入れるとでも考えていたんだろう。だから女装を頑張るという発想になるのかと、逆にちょっと納得してしまう部分もある。
 うん、まぁ、結局体から落とそうとしてたな、的な納得でしかないが。
「一応言っておくけど、お前と二人きりになるの避けてたの、お前のこと恋人扱いしてるからだぞ」
「意味わかんない」
「まぁ、そうだよな」
 はぁ、と大きくため息を吐いてしまえば、相手は怪訝な顔をしつつも未だ不満そうだ。
「俺と二人きりにならないのは、俺にチャンスをくれる気がない、ってことじゃなくて?」
「違う。けどお前が納得する説明ができる気がしない」
「俺が抱かれてもいいよ、って言ったら、少しはその気になったりとかは? する?」
「正直に言えばしない」
「そ、っか……」
 しょんぼりとした返事に、これは詰んだと思わせたかと内心少々焦る。そういうのじゃないのだけれど、彼が納得できる説明はやはり思い浮かばなかった。
「本気でお前が俺に抱かれたいって思うなら、考える。けど、そうじゃないんだろ」
 取り敢えずで重ねた言葉がどれだけ彼に通じるかもわからない。
 泣くほど辛い思いしながらやるようなことじゃないと更に言葉を重ねれば、そうだねと肯定したあと。
「俺のこと、バカみたいだって、思ってる?」
 ヘラっと笑って見せる顔が泣きそうで、正直に思ってると答えるのは無理だった。

続きました→

 
 
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