彼女が欲しい幼馴染と恋人ごっこ(卒業1)

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 失敗しちゃったーという連絡が、紹介した女の子から来たのは、三月終わりの日曜の昼ごろだった。何を失敗したのかと、あまり考えずに返信したら、すぐに童貞貰う前に別れちゃったゴメンと返ってきて、焦りのような諦めのような安堵のような、どれともつかない感情がため息になってこぼれ落ちる。
 きっと元々かなり無理のあるお願いだったのだろう。ごっこの間に、想いを育てすぎてしまった。気付いていたのに、気付かないふりで、最初の約束を押し付けて逃げたのは自分だ。
 ありがとうと送ったら、今度は本命さん頑張ってと返ってきたので、さすがに苦笑するしかなかった。
 友人であるその彼女を味方につけたのか。そうしてこちらの退路を断つのか。なのに苛立ちよりも喜びのが大きいのだから、彼とともに育ててしまった想いはなんとも厄介なものだった。
 未練で包んだまま手付かずで置いていた、机の上の可愛いデザイン缶を手にとって、意を決して蓋を開ける。彼の想いを受け入れる覚悟のようなものと共に、中に入っていた飴を一つ、口の中に放り込んだ。
 彼自身からの連絡は何もなかったが、数時間後に鳴った呼び鈴に、直接来たのかと思う。耳をすませば、母親が応対する声が微かに聞こえ、ホワイトデーの時同様に彼を家に上げる。
 そのまま意識を集中し続ければ、階段を上がってくる足音と共に彼の気配が近づくのが、はっきりと感じられる。椅子ごと向きを変えて部屋のドアを見つめて待てば、トンと申し訳程度にドアを叩いた後で彼がドアを押し開いた。
 まさか真正面に向き合うようにして待たれているとは思っていなかっただろう。えっ、という形に開かれた口からは、けれど音は漏れなかった。
「お前が来るの、待ってた」
「……そう」
 入口で固まってしまった彼を、取り敢えず部屋に入れと促しながら、別れたって聞いたと伝える。
「何か、言ってた?」
「童貞貰うの失敗したから本命さん頑張って」
 相手は明け透けなまでに筒抜けだなと苦笑した後、知ってたけどと続ける。
「で、頑張ってくれる気、あるの?」
「それ、童貞卒業させてやる。って約束を果たせって意味だよな?」
「ここまでギリギリだと、もう、次の女の子紹介するのも無理だろ?」
「そうだな」
 静かに肯定を返したら、あからさまにガッカリされたので、こいつはいつからこんなだっけと不思議な驚きに包まれた。抱かせてやるなんて言うわけがないことを、今の短な返答から察したらしい。
 こちらの態度や僅かな言葉を読んで、慎重に対応し始めたのはいつ頃だったろう。
「一つ聞かせて。彼女はいつからお前の味方だった?」
「最初から。待ってって言ったのに帰っちゃうから、ちょっと腹が立ったのもあって、洗いざらい話して協力して貰ってた」
「まぁ、そうだよな。というか、洗いざらい吐かされて、ノリノリで協力されたが正しい気がするけど」
 合ってるだろ? と聞いたら、あの人凄いねと返ってきたから、そうだろと笑ってやった。
「怒ってる?」
「なんで?」
「はめようとしたから?」
「でも失敗してる」
「あー……まぁ、そうだろうなとは思ったけど、やっぱ、ダメ?」
「ダメ」
「約束したろ」
「したね」
「約束守れよ」
「本気でそれ主張し続けるつもりか?」
「だって言い続けたら、折れそうな気がする」
「まぁ、確かにそれは当たってるよ。でも本当にそれで良いのかもう少し考えな。今月が終わるまで、まだ数日あるだろ」
 今日は帰れと言ったら、大きなため息とともにわかったと返される。
「ああそうだ。ホワイトデーの飴、美味かったよ」
 回れ右して部屋のドアノブに手をかける相手の背中に声をかけた。パッと頭だけ振り向いた相手が、何かを探るように見つめてくる。彼女が最初から味方だったなら、きっと飴の意味はこいつもわかっているだろう。
「嬉しかった」
 意識的に柔らかな微笑みを作ってやれば、相手が少し動揺したようだったから、多分想いは伝わったのだろうと思った。

続きました→

 
 
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