ここがオメガバースの世界なら9

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 届いたピザを食べるために一時中断したものの、昼食後も二人揃って自室で読書にふけっている。持ち帰っていいとも言ったが、夏休み中で家には弟がいるから、出来ればここで読みたいと言われたせいだ。
 姉とのお茶会でも似たようなことをしていたから慣れているんだろう。こっちは他人の前での読書にはあまり慣れていないが、気が散るからお前はリビングで読めと追い出すのも躊躇われて受け入れた。
 自分はベッドの上で楽な姿勢を取りつつ読んでいるが、相手は勉強机に向かっているので、こちらから見えるのは背中だけだった。たまにページを捲るかすかな音が聞こえてくるが、意外と気にならないものなんだなとチラリと思ったのは、読み始めた最初の頃だったと思う。
 だんだんとこちらも手元の物語に集中していったし、途中からは相手の立てる僅かな音など、全然耳に届いていなかった。
 その集中が途切れたのは、相手がスッとその場に立ち上がった時だった。思わず顔を上げて何をするのか見てしまったが、どうやら目当ては棚にあるティッシュの箱らしい。
 背中側しか見えていなくとも、一枚引き抜いて顔に押し当てたのがわかる。まさか泣いてるのか、という驚きのまま見つめ続けてしまえば、やがて箱ごと机の上に下ろし、そこから更に一枚引き抜いて顔に押し当てる。
 ティッシュを2枚ほど消費した後またすぐに読書へと戻った彼に、声は掛けられなかった。泣くほど物語に入り込んでいるなら、邪魔はしないほうがいいだろう。それくらいの判断は出来る。
 ただ、自身の手元にある本へ視線を戻しても、先程までのように集中することも出来なかった。常に彼へと意識の半分が向いているような感覚だ。
 やがて彼が本を閉じて深く息を吐いたので、こちらも読み途中だった本を閉じてしまう。
「お前が読んでたの、なんてやつ?」
 泣くほど感動できる本のタイトルが気になって声をかければ、ハッとした様子で相手が振り向いた。目元を赤くしながらも、驚きに大きく目を瞠っている。
「ご、ごめん。なんか机向かって読んでたら、自分の部屋に居るのと勘違い、した」
 驚きの理由はそれか。
「いやべつに、そんなのはいいけど」
「そっちが良くても俺が良くないよ。恥ずかしい」
「顔は見えてなかったから安心しろ」
「でも気づいてるじゃん。それ気づいてたってことじゃん」
 あわあわと同じようなことを繰り返している相手にフハッと笑いをこぼしてから、そんなことはいいからお前が読んでた本を貸せと手を差し出す。怪我がなければささっと自分から取りに行けたのに。
 渋々といった様子で、それでも読み終えたばかりの本を持って相手が寄ってくる。
「そっちが読んでたのは? 面白かった?」
「まだ読み終わってない。途中で投げ出すほどつまらなくはないな」
 差し出された本を受け取った後で、こちらが読んでいた本を相手に差し出してやれば、相手は不思議そうな顔をした。読み終わってない本をなぜ差し出されているかわからないんだろう。
「俺は先にこれ読むから、お前は次こっち読んで」
「なんで?」
「お前がどんな感想もつのか聞いてから読んだほうが面白そうって思ったから。てかこれは何が泣くほど良かったんだよ」
「えー……その、お互い読み終わってから感想言う方が良くない?」
「何渋ってんだよ。せっかく俺が興味持ったんだから、そこはおすすめシーンとか力説してくるとこじゃねぇの?」
 泣くほど感動したんだろと確認するように聞けば、それはそうなんだけどと同意を示しつつも、まだ躊躇っている。何をそんなに躊躇うのか、なんだか余計に興味が増してしまった。
 読み終えてはいないものの、男同士の恋愛話を真面目に読み込んでいたのも良くなかったのかも知れない。
「じゃあもっかいお前も読む?」
「え? それはどういう?」
 ちょっとした悪戯心が湧いて、相手の腕を掴んで思いきり引き寄せた。小柄な体はその勢いのまま体の上に倒れ込んでくるから、怪我した足を庇いつつ相手の体を抱きとめる。

続きました→

 
 
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