美味しいなんて思えるはずもない。むしろ久々すぎて不味さが際立つ。それでも口の中に吐き出されたものをどうにか飲み下し、俯いていた頭をゆっくりと上げていく。その間に笑顔を作り、目が合うと同時に、何も残っていないことを示すように口を開けて舌を見せた。
「さすがだな」
照れた様子の困り顔が、少しばかり呆れたような顔になってしまって、多分きっと褒められたのに、ちっとも嬉しくない。気持ちが良かったって満足そうな顔が見たかったし、気持ちが良かったって言って欲しかったし、上手に飲めたねと褒めて欲しかった。
「いたずらされて嫌だったなら、途中で止めさせても良かったのに。俺だって途中で止めてもらったんだし」
期待した反応と違うのは、きっとこれがいたずらだったせいだ。けれどすぐに嫌じゃなかったよと返されたから、じゃあなんでと思ってしまう。
「あんまり上手いから、ちょっと悔しかっただけだよ。気持ちよかったし、いたずらするの楽しそうだったから、それ見てる俺だってちゃんと楽しんでた」
こちらの不満が伝わったらしく、そんな説明とともに手が伸びてきて、ごめんなと言われながら頭をわしゃっと撫でられた。
「俺が上手いと、悔しいの? でも気持ちよかったんだよね?」
下手くそで気持ち良くなれないより、上手くて気持ち良くなれるほうが断然良さそうなのに。
「そうだね。お前が持ってるテクニックを、あれこれ披露して俺を気持ちよくさせようと思ってくれてるのはわかるけど、正直に言えばすごく悔しい」
「えっと、なんで?」
聞いてもすぐには答えが返ってこなかった。
「俺に知られたくないような理由?」
気にはなるけど、言いたくないなら言わなくても別にいい。そう伝えたのに、相手はゆるく首を振って否定する。
「俺が情けないってだけの話だから、あまり言いたくないのは事実だけど」
「情けないの?」
「そう。もしくは不甲斐ない」
そう言って苦笑した後、気持ちよくして欲しいよりも気持ちよくしてやりたいんだと告げられた。
「なんだ、そんなこと。っていうか、童貞じゃないんだよね? 誰かに下手って言われたことでもあるの?」
「そんなはっきり下手って言われたことはないけど、経験が多いわけでも自信があるわけでもないから」
「なら、俺で練習すればちょうどいいじゃん」
名案だと思ったのに、今度こそはっきり呆れられてしまった。
「俺また何かすごく変なこと言ってる?」
「いや。お前の言い分がわからなくないだけにキツイ」
相手はこちらの言い分を理解しているようなのに、相手の言葉がまったく理解できない。首を傾げてしまえば、おいでと呼ばれて相手の腿の上を跨ぐように座らされる。
何をするのかと思ったら、ふわりと抱きしめられた後、相手の額が肩に押し当てられて戸惑うしか無かった。
「ど、どうしたの?」
尋ねる声は上ずっていて、焦っているのがだだ漏れだ。
「お前と俺と、このセックスに対する認識の差を痛感してるだけ」
「認識の差……」
「説明はするから、ちょっとだけ待って」
そう言われたら、こちらは黙って大人しく待つしかない。
なんで、こんなに辛そうなんだろう。やっと高校を卒業して、ようやくセックスが出来るのに。自分だけがこの日を待ち望んでいたわけではないはずなのに。
黙り込んでジッと動かずにいる相手は、そうしている間にも、気持ちを整理して、こちらに説明するための言葉を選んでいるのだろう。待つしか無いのはわかっているが、どうにもジッとしていられなくて、そっと相手の背中に腕を回した。
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