前世の記憶なんてないけど1

 ずっと貴方を捜していました、と言われたのは高校受験を控えた中学三年の冬の塾帰りで、薄暗く人通りのない道の途中で、目の前に立つのはどう考えてもまともな人ではなかった。いや、一応は人のような見た目をしている。ただ、猫っぽい尖った耳とふさふさの尻尾を生やしていただけで。
 正確には猫ではなく狐だったけれど、そんなの中学生男子には見分けがつかない。正直に言えば猫耳カチューシャだと思ったし、そういうコスプレが好きな変質者に声を掛けられたと思ったし、つまり「まともな人ではなかった」というのも、変質者という意味での「まともじゃない」だ。
 おかしな人の相手なんてしてはいけない。というわけで、自慢の足で慌てて逃げ帰った家の自分の部屋の中、なぜかそこに先回りした相手が入り込んでいた。わけがわからず、すぐさま回れ右で逃げ出そうとした自室のドアは開かない。
 パニックになってわーぎゃー叫びながらドアをガチャガチャさせる自分に、相手は最初落ち着いてだとか話を聞いてだとか言って手を伸ばしてきたが、半泣きで腕を振り回し嫌がるこちらにすぐに諦めたらしく、次にはその場に正座し深々と頭を下げた。
 静かにその姿勢を続ける相手に、こちらの気持ちもゆっくりと落ち着いていく。この状況を受け入れ、先に進まないとという気になってくる。だから相手の前に自分も腰を下ろし、何者なの、と声をかけた。
 そこから先は相当眉唾もののファンタジーてんこ盛りで、簡単に言えば、彼が仕えるとある高貴なお方とやらの生まれ変わりが自分なのだと言われた。彼のミスで命を落とし輪廻の輪に還ったとかで、ずっと生まれ変わるのを待っていたんだそうだ。まさか人の世に生まれ変わっているとは、なんて嘆き気味に言われたけれど、そんなことを言われたって困る。
 もちろん前世の記憶なんて欠片もないし、話を聞いただけならやっぱり変質者の思い込みというか作り話にしか思えないのだけれど、ケモノ耳も尻尾も玩具なんかじゃなく彼の体から間違いなく生えていたし、人の家に勝手に入り込んでいるし、結界とか言って鍵のない部屋のドアを開かなくさせるし、狭い家の中であんだけギャーギャー騒いでも母が様子見にも来ないのだ。
 半信半疑ながらも取りあえずは彼の言い分を信じるとして、次に確かめたのは彼の目的だ。目的と言うか、自分が本当に彼の大事な人の生まれ変わりだとして、彼はいったいどうしたいのか。どうなりたいのか。
 聞けば、以前のように仕えたいのだと言われたけれど、その以前が全くわからないのにどうしろというのか。側にいたいにしたって、いくらなんでも彼を自分の部屋に住まわせるわけに行かないだろう。
 一応耳と尻尾は隠せるらしいし、多少は人の記憶も弄れると言うか騙せると言うか別の情報を思い込ませることは可能だとも言われたけれどその場しのぎの一時的なものらしいし、明らかに見た目成人している男性が中高生男子の家に頻繁に出入りするのはオカシイ。やめて欲しい。
 結果、彼はご近所さんになった。彼のアパートと自分の部屋とを繋いで、部屋の中から行き来できるようにしてしまった。むちゃくちゃだなと思いながらも、人の世界の常識から少々外れてしまった生活と彼の存在を受け入れた。
 といっても、仕えてもらうようなことは何もない。せいぜいどれだけ散らかしまくっても、触るな弄るなとでも言っておかない限り、いつの間にかきれいに整理整頓されているくらいだろうか。ちなみに、全く役に立てないとしょんぼりされて、仕方なく散らかしている部分もある。
 彼は前世の記憶を取り戻して欲しそうだけれど、どれだけ話を聞いても今ひとつピンとこないまま、あっという間に出会いから3年以上が経ち、この春、自分は少し遠方に引っ越しをする。遠方の大学に通うため、一人暮らしになるからだ。
 といっても当然相手も付いてくる。アパートの隣の部屋を既に押さえているし、どうせまた中からも部屋を繋いでしまうのだろうから、一人暮らしなんて表向きだけの同棲生活がスタートする。と思っているのはたぶん自分だけなんだけど、相手は今より色々と世話が焼けると、既にウキウキで張り切っている。

続きました→

有坂レイのお話は「ずっと貴方を捜していました」で始まり「銀色の指輪が朝日を反射して眩しかった」で終わります。 shindanmaker.com/804548

 
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