雷が怖いので プレイ3

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 時給分の上乗せ狙いなら何時間でもキスしてやるけど、本気であれの続きが良いのと問う声は、やはり随分と楽しげだ。
「だっ、て……」
 じゃあどう言えば、何を言えば、良かったんだろう。前回されたことを繰り返してと、された内容を自ら詳細に告げてねだる真似は出来なかったのだから、むしろ詳細に思い出そうとした結果、繰り返されるのが怖くなってしまったのだから、自分が選べるのは緩やかに蕩けていくキスを受け入れることじゃないのか。
「俺が誘導したせいで、少し余計なこと考えさせたな。お前が最初に言った、前回みたいにして、って思った『キス』をねだれって言ってんだよ。あのままジリジリとしか気持ち良くなれない優しいキスを、ずっと続けられるのは嫌だって、そう思ったんじゃないの?」
 あの調子のキスをずっと続けられることに恐怖したのは確かだけど、それは少し違うかもしれない。でも、手っ取り早く相手の手で腰を揺すられ達してしまえば終われると思った、なんてことを言っていいかどうか迷ってしまう。
 しかも、詳細を思い出してと言われるまで、泣くほど恐怖した事実を忘れていたのだ。忘れていたというか、考えないようにしていたというか、それ以上に気持ちよかった記憶とか、思いがけず優しくされた記憶の方が、鮮烈に残ってしまっていたというか。
「どうした?」
 告げるかどうかを迷って迷って、でも結局、自覚のある事実を隠すことは出来なかった。だって相手の顔を見つめていたら、下手なごまかしなんてあっさり見破るだろうなって気がしてしまった。
「あの、キスをねだりたかったわけじゃ、なかったから……」
「ん?」
「この前みたいに、キスされながら腰揺すられてイカせて貰ったとしても、今日のバイトは終わりだよねって思って。でも、なるべく詳細にって言われて、この前はこれ以上気持ちよくしないでって泣きながら、むりやりイカされたんだって思い出して、あれをもう一回してって思えなくて」
 ふはっと漏れた息の後、こらえきれないとでも言うようにゲラゲラと笑いだしてしまう。
「あー、お前、ほんっと面白ぇわ」
 どうしていいかわからず戸惑う中、おかしくてたまらないままの顔が近づいた。
「ほんと、可愛いな」
 囁きは優しくて、触れるキスも優しかった。結局さっきのキスの続きになるのかと思いながらゆるく口を開いて待てば、やはり滑り込んできた舌がそっと舌上を舐めていく。
「さっきみたいに、もっと気持ちよくなりたい、って言って?」
 優しいキスの合間、唇に息がかかるくらいの近さで囁かれて、でも、えっ、と漏らす間もなくまた唇が塞がれる。
「優しいキスで焦らさないで、もっと、グチュグチュにかき回して感じさせてって、お願いして」
 合間にまた囁かれた言葉を、唇を塞がれながら後追いでゆっくりと理解していく。
 ああこれ、やっぱり焦らされているんだ、と思った。焦らさないでもっと感じさせてって、言えばよかったのか。
 あんまり意地悪な感じがなかったのと心地よい優しさから、自分で気持ち良くなれるように動けと言う意思を受け取ってしまっていた。自分で腰を落として、相手の腿に勃ちあがったペニスを押し付けて、腰を振って擦り付けて、それで達する姿を晒せと、そう言われているのだと思ってしまった。
 だって、自分で腰を振ってイクのが終了条件の一つだったから。
 もしかしたら、今回課せられたものの難易度を、勝手に自分で上げていたのかもしれない。ただ、こんな風にキスを続けられたら、せっかく求めるべき言葉を教えてもらっても、それを口にだすことが出来ない。
 どうしようと思いながら、持ち上げた両手の平を相手の胸に置いた。でもその腕を突っ張って、相手の身を離そうと試みることはしなかった。というよりも必要がなかった。
 触れていた唇からそっと離れて、相手はそのまま頭を上げていく。見上げた相手の顔から、はっきりとわかる。彼はこちらが言う気になったのをわかっている。それをジッと待っている。
 コクリと喉が上下した。言うべき言葉は既に与えられているのに、それをただ口に出すだけなのに、思いの外緊張しているのかもしれない。
「もっと、気持ち良く、なりたい。焦らさないで、この前みたいに、もっとグチュグチュに、口の中かき回して、感じさせて、欲しい」
 言いながら、そんなキスを与えられることを想像せずにいられなくて、体の熱が上がる気がした。
「いい子だ」
 甘い声と柔らかな笑顔に酷く安堵する中、頬に添えられていた彼の右手の親指が、濡れた唇を拭っていく。微かに濡れた親指が、唇を割って入り込んでくる。
「ぁっ……」
 親指の腹に上顎を擦られて、ヒクリと体が震えた。それは紛れもない期待だ。優しいキスは、あまりそこを舐めてはくれなかったから。
「ここ、気持ちぃな」
 疑問符なんてつかない断定に、黙って頷いてみせる。
「お前が弱いここ、舌でも掻いて擦って、立ってられなくなるくらい苛めて欲しい?」
 しつこくグチュグチュ弄ってドロドロに感じさせてやりたい、なんて言葉を甘やかに吐き出しながら、それを想像させるように指の腹が上顎を掻いてくる。ゾクゾクと快感が走って、肌がブワッと粟立った。
「んぁぁっっ」
「言える?」
 必死で頷いてみせた。
 自分から弱い所をしつこく苛めてと口に出してねだるなんて、と思う気持ちがないわけではなかったけれど、でも言えなければきっと終われない。少なくとも、そんなキスを与えて貰えるまでに、もっともっと時間を掛けられてしまうだろう。素直に言ってしまえば良かったと、こちらが後悔するくらいに。
 それが自分の所有する知識からの誤解か、想像通り本当にそうされてしまうのかはわからない。たとえ言えなくても、仕方がないねと許されて、ドロドロに感じるようなキスをくれるかも知れない。自分にそのイメージが持てないと言うだけで、彼のことなんて、まだまだ知らない事ばかりなのだから。
 口の中から親指が引き抜かれたので、覚悟を決めて口を開いた。開こうと、した。
 開きかけた唇に、自分の唾液ですっかり濡れた親指が、まだだとでも言うように押し当てられる。つまり、キスをねだるための言葉は決められているらしい。

続きました→

 
 
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