雷が怖いので24

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 意識が浮上して目を開けたら、そこは彼の腕の中だった。間近で見つめる彼の寝顔に、驚きで息が止まるかと思った。
 息を殺すようにしてひっそりと、深呼吸を繰り返す。
 目を閉じる直前にかけられた、少し眠るか? という言葉は自分ひとりに対するものだと思っていた。声の感じから、一緒に眠ろうというような話ではなかったはずだ。
 目覚めたときにそばに居てくれるこれも、やっぱり目一杯の甘やかしなのだろうか。だとしたら、この甘やかしはいつまで続くんだろう。
 多分きっと、今回の報酬を貰うまでなんだろうと思って、胸の中がシクシクと痛い。
 ベッドに降ろされた最初、お前はこういう方が好きそうだと言っていたし、それは事実だと思う。まるで恋人同士のように甘やかされるとたまらなく嬉しい。でもこれは、好きそうだからそうしてくれているというだけの、初めて抱かれるという場面に際するサービスに過ぎないのだ。
 お前が好きそうだからと前もって口にだすのは、つまりは、勘違いするなと言う釘刺しだったんだろう。そんなことを言われなくたって、元々期待なんて出来る関係にはないのに。でもやっぱり、言って貰っていて良かったのかも知れない。
 だってこんなの、知らないままなら期待しそうになる。目一杯の甘やかしを、ここまで自然にあれこれと重ねられたら、わかっていても誤解したくなる。もしかして、少しくらいは、この想いが報われる可能性があるのかと思いたくなる。
 そんなわけ、ないのに。
 甘えるように、けれど起こしてしまわないように、そっと目の前の男に擦り寄った。んっ、と小さな吐息が一つ漏れた以外は、規則正しい呼吸が続いている。起きてしまったらどうしようという気持ちはやはりあったので、ホッとしながら更に顔を彼の胸元に押し付け、浮かび始めた涙を彼の着るシャツに吸わせてやった。
 期待できるような関係でないことは、このきっちりと着込まれたシャツからだって明らかだ。あなたも脱いで、とは結局言えなかったけれど、相手の肌に包まれるように抱かれたかったなと思う。
 普段からあれこれされまくるばっかりで、彼への奉仕的なことは一切求められたことがない。ペニスだって先程始めて目にしたし、それだってほんの僅かな一瞬だけだったくらい、彼は素肌を晒さない。されるのが好きじゃないと言っていた言葉はきっと本当で、それには肌に直接触れられる事も含まれているのだと思う。
 だから仕方がない。そうは思うのだけれど、もし本当に恋人のような関係なら、こちらから触れることも許されるのだろうかと考えてしまうのを止められない。
 目の前のボタンを一つずつ外して、はだけた胸元から手を伸ばして、その肌に直接触れたい。そんな衝動をどうにかこらえ、ひっついていた体をそっと離して、ゆっくりと、今度は相手の唇に自分の唇を押し付けた。
 自分からキスをするように求められて応じたことはあるけれど、自分の意思で、衝動で、許可もなく彼の唇に触れたことはない。
 寝ているからと好き勝手しすぎている自覚はあって、起きたらもしかして怒られるのかなと思う。それとも、今日のうちは目一杯の甘やかしでこれも許されるだろうか。
 どっちだっていい。だってもうそんなの関係ない。だってもう、無理だから。
 こんな風に甘やかに抱かれて、なのに次回からはプレイの一部として、彼のモノが挿入されるのなんてきっと心が耐えられない。慣らされた体は、そんな事をされたって気持ちよく達してしまうのだろうけど、彼に抱かれることで体が覚える満足感や多幸感は、行為の後まで続かないとはっきりわかってしまった。
 優しく抱いてもらったのを最後に、この人と会うのはもう終わり。それでいいと思った。
 今回のこれを、いつも通りのバイトだなんて思いたくないから、今回は封筒を受け取らずに帰ろう。むしろ、このまま黙って帰ってしまおうか。
 だって目を覚ましたこの人と、会いたくない。話したくない。今は、特に。
 バイトを辞めることは、後日電話で伝えればいいかと考えながら、そっとベッドを抜け出した。

続きました→

 
 
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「雷が怖いので24」への2件のフィードバック

  1. うわぁん!
    焦れ焦れして胸がキュゥって疼きますよう!
    このお話大好きです!!

  2. ぽこさん、コメント&胸キュンありがとうございます〜(^^♪
    お話好きって言って貰えて嬉しいです。
    視点の主がバイト辞める気になった事で、二人の関係もきっと進展できるはず! と思いますので、まだもう少し続きそうですが、どうぞ最後までよろしくお願いします〜

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