雷が怖いので6

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 今日行くはずだったバイトは何時間働く予定だったかと聞かれて、素直に五時間だと答えたら、じゃあ取りあえずで今から五時間お試しするかと提案された。時間の確認はいつも携帯で済ますので、今回もちらりと携帯に目を落とし、それからよろしくお願いしますと伝える。
「じゃ、こっち来て」
 おいでと呼ばれて向かったのは、パーテションで仕切られた部屋の奥だった。
「えっ?」
 部屋の奥が見えたところで足は止まってしまう。だってそこに見えたのは楽器なんかじゃなかった。
 童顔だからって頭のなかまで子供の訳がなく、むしろ見た目が子供に見えてしまう反動というか意地のようなものから、対女性ならエロいことに対する興味は人並みかそれ以上にある。だからこの部屋と、足を止めてしまった自分に、振り返って楽しげに笑ってみせる男のヤバさに鳥肌が立った。
「お試しって言い出したことは評価するけど、エロ無しでどんなことをさせられるのか聞かないあたり、どこまで行ってもお前は迂闊で危機感がないよな。ま、そこがいいんだけど」
 頭でははっきりとこの男はヤバイとわかるのに、なぜか視線は相手の笑顔に釘付けで逸らせない。
「いい顔だ。多分お前はこのバイト、向いてると思うよ」
 そんなことを軽やかに告げられても、もちろん嬉しくはないのだけれど、これってどう考えてもSM用プレイルームですよねってのがあからさまなあれこれを目にしても、やっぱり無理と言って逃げ出さないあたり、相手の指摘も間違っては居ないのかもしれない。というか、なぜ、逃げようという気にならないのか不思議だった。
 時給千五百円と更にこちらの働きに対して上乗せしてくれるらしい提案への魅力だけではない。……はずだ。
 家に連れ込まれた最初から、ずっと相手のペースに飲まれているのはわかる。もちろん自分が迂闊で警戒心が薄いのも事実だろうけれど、警戒心を抱かせない相手の雰囲気もマズイと思う。マズイというかこの状況で一番ヤバいのは多分そこだ。
 わかっているのに逃げ出せない。目の前で楽しそうに笑う男を怖いと思えない事への、漠然とした恐怖だけは胸の中に広がっていく。
「あの、俺、いったいなに、させられるんですか?」
「そうだな。今日はお試しなわけだし、そこの壁にでも立ってて貰おうかな」
 そこの壁と示された場所の一部からは鎖が垂れていて、その鎖の先には黒い何かがつながっている。何かというか、多分、手錠的なもの。だからきっと、そこに繋がれていろということなのだろう。
「五時間、ずっと……?」
「出来るならそれでもいいけど、まぁ無理だろ。だからお前がもう無理って言い出すまで、だな」
「俺がもう無理って言ったら、ちゃんと終わりにして、くれるんですか?」
「お、ちょっと警戒してる?」
「まぁ、さすがにここまであからさまだと……」
「そこは信用して。なんて言う気はないな」
「ないのかよ」
「ないね。もしかしてこのままずっとここに繋がれて、誰にも知られることなく助けもこないまま、結局あれこれエロい開発とかされちゃうのかも。とか思って不安になってくれたら最高だよな」
 なるほど、そういう性癖か。
「でもさっきも言ったけど、俺は自分の性癖と結構うまく付き合えてる紳士だし、今日はちょっとだけのお試しだからさ。繋いだりしないよ」
「は?」
「これ見たらここに張り付けられると考えるのは当然だけど、でも今日はこれは使わない」
 壁から垂れる鎖に触れる。そして男は、お前はただここに立ってるだけでいいんだよと続けた。
「ただ、立ってる、だけ?」
「そう。立ってるだけ。もちろんその間お前を存分に観察するけどな。お前が肉体的に、もしくは精神的に、耐えられなくなったら今日はそこでおしまい。次をどうするかはとりあえずお前がギブアップした後に考えよう」
 時間の経過はわからない方がいいから携帯は出してと言われて、そういや部屋の中に時計はないのだなと気づく。
「携帯弄って時間つぶしなんてのも当然ダメだからな。何もせずにただ立ってるだけってのもかなりキツイと思うけど、ま、時給千五百と思って頑張ってみな。てわけでほら、出して」
 差し出された手の平に携帯を乗せれば、いい子だねと随分と甘やかな声が聞こえてゾクリとした。

続きました→

 
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