雷が怖いので7

1話戻る→   目次へ→

 結局、二時間持たずにギブアップ宣言をした。ただただ壁際に立っているだけの自分を、気まぐれに観察される状態への肉体的・精神的苦痛が限界だったというよりは、トイレに行きたい生理現象を我慢できなくなったせいだ。
 その場で漏らして見せたら一万上乗せすると言われたけれど、さすがにそれは無理過ぎた。しかし、ただただ立って観察されることは、実のところそこまで苦痛ではなかった。
 じっと動かずに居ろとまでは言われなかったし、適度にその場足踏みや簡単なストレッチで体を動かすことをしても、相手はむしろ面白がってそんな自分を楽しげに見ていた。もちろん会話だってなかったわけじゃない。
 こちらは学生証まで見せてしまったが、相手はいまいち自身のことを話したがらなかったので、会話の内容はどうしたってこの部屋や彼の性癖や今後するかもしれないバイトの詳細だった。
 お試しだから今日は繋がないと言われていたのもあって、お試しが終わったらギチギチに繋がれて身動き取れなくされるのかも聞いてみたが、それじゃあお試しの意味がなにもないだろと呆れた様子で言われたので、ますますこの部屋の本格さ加減が不思議でもあった。相手はすぐにそんなこちらの疑問に気づいたようで、何をするかは相手次第だよと教えてくれた。
 SMというとサディストとマゾヒストの略が一般的かも知れないが、スレイブとマスターという関係性を示す場合もあるらしい。どうやら彼は、エムな相手の要求に最大限応じてやりたいエスだそうだ。
 なのにエムでもない自分相手にこんなバイトを持ちかけているのが心底不思議だったが、彼の目からすると、自分も相当エムな部類の人間らしい。そんな自覚は欠片もなかったが、断言されると否定もしずらい。というか、この部屋から逃げ出してないあたり、否定は出来ない気もした。
「だからな、何をされたいかの自覚もないお前みたいな相手は、ちゃんと性癖探るところから始めるの」
 てわけでと言ってニヤリと笑った相手は、対面の壁に置かれた大型テレビを見るように指示したかと思うと、そこにエッチな動画を流し始めた。どれも短編どころかかなり短く切り取られた行為の一部分で、男女も女女も男男も三人ももっと大勢なのも、キスをしてるだけってものからやっぱり相当ハードなプレイまで盛り沢山だ。
 それら一連の動画の、何に反応するかを見られたのだというのは、言われなくてもわかる。
 そんな動画を見せられた後だったのもあって、トイレに行きたいといった最初は、漏らせではなくここで抜いてと言われた。提示された金額はやっぱり一万だったので、目の前で漏らすのと同レベルというのがいまいち納得行かない。いやでも一万上乗せでオナニーが見せられたかというと、無理だとしか思えないから、結局金額は問題じゃないのかもしれない。
 ギブアップして部屋内設置のトイレに駆け込んだ後は、最初のテーブルに戻って二枚の紙を渡された。
 その紙にはバイトの時給やら契約に関する事が書かれていて、相手の名前やここの住所や電話番号もしっかり書いてあって、なんと判子までも押されている。さすがにバイト内容の詳細は記されていないけれど、口約束じゃ何かと不安だろうからと言った相手の、妙な律儀さをなんだか面白いなと思った。
 そしてバイトする気があるなら、ここに署名捺印して持ってきてと、同じ内容が書かれたもう一枚の紙の下部を指差す。勢いその場で署名をしてしまったが、さすがに判子はない。代わりに、気持ち決まってるなら拇印でもいいけどという言葉に頷いて、拇印を押して彼に渡した。
「契約成立、ってことでいいのかな?」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく。じゃあ、次回の日程を決めて、その後、今日のお試し分の支払いをしようか」
 そう言って手渡された本日のバイト代は、二時間分三千円と、最後に額と鼻の頭と両頬への一回ずつのキスを持ちかけられて断らなかった分の上乗せ二千円の、合計五千円だった。
 オナニー披露やお漏らし披露が一万円で、唇に触れない軽いキスが二千円とか、正直その価格設定がさっぱりわからない。
 つい、なんで二千円なのかと聞いたら、そんなの適当だよとあっけらかんと返されて脱力した。
「でもまぁ、慣れて抵抗感なくなってきたなと思ったら金額は下げていくから、自分を高く売りたいならそのへんも頑張って。うまく俺を騙して」
 そう続いた言葉に、それはちょっと難しそうだと思った。

続きました→

 
萌えたらポチッと応援よろしくお願いします。

1話完結作品/コネタ・短編 続き物/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

  • Pocket
  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コメントを残す




Menu

HOME

TOP