兄は疲れ切っている16

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 どんな顔して言ってるのか確かめたかったのに、兄はこちらの手が離れたと同時に俯いてしまったらしく、強引に開放した視界に映ったのは兄の旋毛だった。もう一度頬を包んで上向かせようか迷ってやめる。また目隠しされるイタチごっこを想像してしまったからだ。
「顔、上げてよ」
「いやだ」
 代わりに言葉にして頼んでみたが、あっさり拒否され苦笑する。素直に顔を見せてくれるなんて思ってなかったけど、わかってたけど、あまりに素っ気なさすぎる。
「なんで? 見たい。てか、さっきの本心? それとも俺を満足させるための嘘?」
「本心だから、満足したなら、お前が、終わりにしろよ」
「えっ?」
「もう、いいだろ。それともまだ何か足りない?」
「いやちょっと、えっ? 何? 意味分かんないんだけど」
「何が未練になってんのか言えば多少は協力する。から、こんな関係にこれ以上執着すんなよ。意地で続けても、それに見合うほど善い思いなんかしてないだろ」
 俺が惨めに泣くの見て喜ぶ性癖とかはないみたいだし、なんて言われて、ますます何を言われているのかわからない。というか惨めで泣いてたという言葉にも衝撃を受けていた。
 やっぱり生理的な涙なんかじゃなかったんだ、という納得もなくはないけれど、それよりも、もう嫌だと言われれば止めると言っているのに、なんでこれ幸いとその提案に乗らなかったのか不思議で仕方がない。惨めに泣くようなことを、されていたって事なのに。
「待って。ちょ、ホント、意味わかんないから、待って」
 必死で言い募れば兄がゆっくりと顔を上げる。真っ赤な目が痛々しいと思いながら見つめてしまえば、困ったような苦笑とともに、脳筋、だなんて失礼な単語を小さく零された。本気で言われている意味がわかってないことに気づいたらしい。
 でもそれ以上の言葉が兄の口から漏れることはなかった。待って、という訴えを聞いて黙ってくれているんだろうか。でも黙られたら黙られたで、なんとなく焦る。
 じっくり考えたって、さっきの兄の言葉を理解できそうにないというのもある。だって本当に、何を言われているのかわからなかった。珍しく兄がその胸の内を明かしてくれている、ということだけは、なんとなく伝わっていたけれど。
「てか、結局兄貴は、この関係を止めたい、てことでいい、の?」
「お前の頭、割とポンコツだよな。本心で、お前が好きだって言ったはずなんだけど」
 自分からもう嫌だという気がない理由はわからないが、終わりにしようと言わせたがっているらしいのは、多分、間違っていないだろう。そう思って聞いたのに、兄はやっぱり呆れ気味だった。
「それ、俺が好きだから止める気ない、みたいに聞こえるんだけど」
 とうとう深い溜め息を吐かれてしまう。
「そういう意味で間違ってないけど」
「う、っそだろ」
「今更嘘言ってどうするよ」
「いやだってあんた、しょっちゅう泣いてるくせに。しかも生理的な涙とかやっぱ嘘っぱちで、俺に抱かれるのが惨めで泣くんだろ。なのに止める気ないってどんなマゾだよ」
「そんなの俺の勝手だろ。というか俺はいいの。問題はお前」
「なんでだよ。抱いてる時に泣かれんのも、自分でするっつったくせにフェラ最中に泣かれてたって知るのも、しかも理由が惨めだからとか、俺が、嫌なんだけど」
 俺が、という部分を強調した。兄が良くたって、自分は嫌なんだと訴えた。なのに。
「だから、嫌になったなら、ちゃんと自分で終わりにしろって言ってんだろ。俺はズルいから、だらだら曖昧にしてたらこのまま知らんぷりで付け込むぞ」
 協力してもいいって言ってる内に終わりにしなよと、まるで諭すみたいに言われたけれど、もちろんそうするなんて言えるわけがない。終わりにしたいわけじゃない。

続きました→

 
 
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