兄は疲れ切っている17

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 終わりになんかしないって言ったら、ああそう、と熱のない声が返されて兄がベッドを降りようとする。じゃあもう知らねって意味なのがすぐにわかって慌ててしまう。
「待って。どこ行くの」
「シャワー」
「やだ。待って」
 咄嗟に兄の腕を掴んでベッドの上に引き戻す。そう乱暴にしたつもりはないが、慌てて力が入りすぎたのか、勢い余って兄を引き倒してしまった。
 痛いと非難の声があがったのでゴメンとは言ったけれど、掴んだ腕は離せない。なのに何を言えばいいのかもわからない。終わりにしたいわけじゃないけど、今まで通りこのままでいい、とも思ってない。
「離せよ」
 黙り込むこちらに焦れたのか、兄の吐き出す声は苛立たしげだ。
「やだって」
「いい年して駄々っ子かよ。お前に終わる気ないなら、これ以上話してても無駄だ」
「無駄じゃない。てか俺が好きで、俺に抱かれて気持ちよくなるのが、なんで泣くほど惨めになるんだよ。そりゃ男同士だから抱かれるのが不本意って気持ちはあるだろうけど、一応毎回めちゃくちゃ大事に抱いてるし、実際気持ちよくなれてるわけだろ」
 何がそんなに惨めなのって聞けば、ほんとバカ、と兄の口から溢れた冷たい声が胸に刺さる。
「お前を好きだからだって、何回言わせりゃ気が済むんだよ」
「だーかーらー、俺を好きなら、丁寧に抱かれて気持ちよくして貰って、何が不満なの? 大事に可愛がられてて、嬉しいじゃなくて惨めだ、になる意味がわかんないんだって」
「だってお前が俺を可愛がって大事にするの、ベッドの中だけじゃねぇか」
「は?」
「お前は昔っからお気に入りの玩具だのは大事に扱うタイプだし、女関係どうだったかは知らないけど、俺の扱い見てたらだいたいわかるよ」
 女の抱き方をお前に仕込んだやつが居るだろと指摘された。力加減とか気の遣い方とか、と続いた言葉に、確かに自分の欲優先で好き勝手動いたら女の子なんてあっという間に離れてく、というのは実体験として知ってはいるなと思う。女の子の体の扱い方を教えてくれた子も、いなくはなかった。
 え、で、それがつまり?
 口には出さなかったものの、そう思ってしまったのが多分伝わってしまったんだろう。はぁああと吐き出される大きな溜息が、こちらまでなんだか苦しくさせる。
「つまり、俺はお前にとっちゃ、辛うじて女代わりになれるお気に入りの玩具、ぐらいの位置付けだろ。好きな相手にそんな扱いされてて、惨めじゃないわけないだろ」
「は? ちょ、なんで?」
「なんでってなんだ。これでわかんないなら、俺の惨めさなんか一生お前にゃわかんねぇよ」
「違っ、てか、辛うじて女代わりになれるお気に入りのオモチャ、って何? 確かに酔い潰して連れ込んでなし崩しに始めたし、最初にちょっと意地悪なことも言ったの覚えてるけど、嫌がらせって言った事は謝ったよな? 兄貴に彼女できそうで焦っただけだって。あんたを俺のものにしたいんだって、言っただろ。ん? あれ? 最初っから俺好きだったってさっき言ってた? よな? てことは、俺好きだったのに彼女作ろうとしてたの?」
 途中で気づいて後半は疑問符だらけになってしまったが、兄はやっぱり呆れた目でこちらを見上げている。
「お前を好きになったから、早めに彼女作らないとマズいって思ったんだよ。お前があれこれ文句言いながらも、俺に雄っぱい揉ませながらヨシヨシ慰めてくれるから、このままだと俺がお前を彼女代わりにしそうだって、早くお前から離れてやらないとって。雄っぱいねだられる生活から開放されて喜ぶだろうと思ったのに、ラブホ連れ込まれて突っ込まれることになるなんて、さすがに思いつけない」
 まぁ自業自得だと思ってるし別にお前を責める気はないけど、と自嘲気味に続いた言葉に思わずまた、なんで、と問いかけてしまった。

続きました→

 
 
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